2-5・・・楓、覚醒③
あれから事件が起こる3日後まで捜査は続けられた。
何も情報等無く、更に警戒をしているのか何も動きが無かった。
何事も起きないのが一番だけど、犯人が捕まっていないので根本的な解決ではない。
楓の言っている事が間違っていないと思う反面、外れてくれと願っている自分がいる。
そんな葛藤を続けて当日の夜となった。
事件が起こる3時間前。
ミーティングの為捜査員が会議室に集合した。
「みんな、今回の事件は3時間後に解決する予定だ」
周りがざわつく。
一人の捜査員が手を挙げて質問をする。
「班長、それはいつものあれですか?」
そのいつもの質問に、香川はしばらく考えてから答えた。
もしかしたら1秒ほどだったのかもしれない。
「ああ、そうだ。
だから確実に確保しろ、これ以上被害者を出すな!」
その発破に全員が返事をする。
「それでは各自持ち場につけ、以上解散!」
各捜査員は持ち場に着く為、準備を始めた。
準備と言っても犯人は特定されているのと、時間も判っている為持ち場の最終確認をグループ単位で行うだけだが。
そんな中、重要な位置で犯人確保を指名された捜査員達は今回の予知に疑問を抱いていた。
「なあ、今回の件なんだが、班長の気合入り過ぎてないか?」
宮本が松下・田中に問いかける。
「そう思うか?サクラさんの予知外れた事無いんだから、俺たちがチョンボしない限り大丈夫だと思うんだけどな」
そう答えたのは3人の中で一番のベテランである松下である。
「私もそう思いました。
何か特別な懸念があるのでしょうか」
紅一点の田中も疑問に思っているようだ。
松下が50過ぎのベテラン捜査員、宮本が40前、田中が今年刑事課に配属された新人・・・と言っても25歳である。
この3人は歳が離れているが相性が良く、連携も取れている為、一緒に捜査する仲である。
班長の信頼も厚く、ある程度のシークレットな情報も開示されていた。
その中にはサクラの事も入っていた。
「もしかして、サクラさん情報じゃ無いのかもよ?今回の案件」
その宮本の言葉に松下が問う。
「何故そう思う?」
「だって確か数日前に解っていた情報でしょ?
サクラさんの能力なら24時間以内だったはず、レベルアップしたって言われたら・・・そうですかってなりますが」
その言葉に満足したのか、松下はニヤリとした。
「合格だ、良く観察してるな。
実は俺も同じ意見だ。
今回の案件、必ず起きると思っている、だから必ず確保するぞ」
二人共頷いているが田中の表情はちょっと暗い。
「なんでそんなことまで判るんですか~~・・・
すごい悔しいです」
「お前も違和感あっただろ?もう少し突っ込んだら答えにたどり着いたと思うぞ?
腐るな若人よ」
少し笑いながら宮本がフォローする。
「ぶぅ~~~、他人事だと思って!
いつかギャフンと言わせますからね?!」
「その時を楽しみにしてるよ」
「二人共その辺にしておけ、あと1時間程で約束の時間だ」
時計を見ると意外と時間が経過していた為、気合を入れなおす。
「必ず確保して・・・班長を吊るし上げるぞ?」
その松下の言葉に2人は悪い笑みを浮かべた。
日付変わって00:10分になろうとした時、大きな通りから女性が公園に入って来た。
多分この中を通った方が早いのだろう、早歩きでこちらの方に歩いて来ている。
数分前から公園を囲むように捜査網を敷いているため、今現在、害者・被害者と我々しかいないはず。
特徴から多分この人が被害者と思われるが、今出て行くと犯人は逃げるし現行犯ではない為に逮捕も出来ない。
後ろめたさを感じながらその時を待つ。
すると、女性の前にあの写真の男が現れた。
いきなり襲い掛かったと思うと、バックに目もくれず手にもっていた棒のようなもので殴りかかった。
「確保するぞ!」
そう言いながら四方から一斉にダッシュ。
少し遠めから監視していた為、接触するのに5秒ほど時間を要した。
その間、女性は3回程殴打され、恐怖で声も出ない状態。
宮本は舌打ちをしながら犯人に対して一番槍を食らわすべく拳を振り上げ、殴りかかる寸前・・・
別の手が先に横から出て来て相手を吹っ飛ばしてしまった。
「あっ・・・」
横を見ると・・・田中だった。
体力的にはコイツには敵わないな、さすが元アスリート・・・
更に追撃を仕掛けようとする同僚を後ろから羽交い締めにし、落ち着かせる。
「このくらいでいいだろう?お前の気持ちは解るが落ち着け!」
「でも・・・許せません!」
「お前は刑事だろう!法の下に従え!
それに恐怖に震えている女性を落ち着かせてやれ!」
その言葉に冷静になれたのか被害女性の方に近づき声を掛けていた。
これでとりあえず大丈夫だろう。
「あいつは敵に回したくないな、まともに戦ったらタダじゃ済まないだろう」
すでに押さえ込まれている犯人を見ながら、
「森本だな?傷害罪の容疑で逮捕する。
00:15分確保」
そう言いながら手錠を掛けた。
さあ、この後は班長に事の顛末を聴きに行こうか。
3人共に心の中で決意していた。