2-3・・・楓、覚醒
「「「先生、さようなら~~」」」
「はい、さようなら。
みなさん、気を付けて帰りなさいよ」
先生との挨拶を済ませ、みんな帰り支度をしている。
教室から急ぎ出て行く人、残ってお喋りしている人それぞれ。
私、川田楓は数名のお友達と残って放課後のお喋りに夢中になっている。
私は小学5年生になった。
学校が楽しい年頃で、だいたい異性の話題が一番盛り上がるんだよねぇ。
男の子達には聴かせられない内容ばかりだから更にね。
「楓ちゃん、明日の土曜日の職場見学は何処に行くんだっけ?」
親友の美咲ちゃんが話題を振って来た。
「ん~~っとね、パパの仕事場の許可が下りたからそっちに行くんだ」
「へ~っ、県警でしょ?よく許可が下りたね?」
「大事なところは本当は駄目らしいんだけどさ、勝手な行動しなければってことでOKもらったんだよ。
まぁ、ママも一緒だからってのもあるみたい」
「へぇ、パパ・ママ共に警察関連なんだ?」
このことはみんな初耳だったようで興味津々なようだ。
「うん、ママは引退しているんだけどね、時々パパのお手伝いに行ってるみたい。
何をしているかは判んないんだ、まだ内容が難しくて理解出来なくて・・・・。
みんなもパパの仕事場に行くの?」
それぞれ身内の職場に行くらしく、みんな職種はバラバラみたい。
せっかくの土曜に職場見学だなんて・・・とみんな愚痴ってるけど、楽しみにしているみたい。
みんなサービス業だったようで土曜日も会社は動いているみたい。
学校が用意してくれている会社もあったんだけど、やっぱり身内の会社を見てみたいよね。
「嫌なのは、来週の見学した後の作文だよね・・・」
私の一言で、それを今言わないでよ~~と非難を浴びた。
なんだかんだで放課後の楽しい一時が流れて行った。
「パパ、明日はよろしくね」
「ああ、明日はママやみんなの言うことをよく聴いておとなしくしてるんだぞ?
仕事柄、怖いおじさんもいるんだから」
パパは脅しをかけているみたいだけど、そんなことないでしょ?
そんな見え見えの嘘に引っ掛かるわけないじゃん!と思っていた時もありました。
次の日、ママと一緒にパパの職場に行き見学の挨拶をしようと受付を済ませ、待合室に行こうと廊下を歩いていたら・・・現れました・・・鬼が・・・
一瞬フリーズして立ち止まっていると、鬼から声を掛けられた。
「お嬢ちゃん、どうしたんだい?ここは関係者以外立ち入り・・・」
途中まで言いながら、私の顔を見た瞬間に鬼が固まった。
?????
「お嬢ちゃん、もしかしてサクラさんの?」
「・・・・・?」
「そうよ、私の娘」
後ろから手続きを済ませて遅れて来たママが現れた。
「お久しぶりです、今日はどうしたんです?娘さんを連れて?」
「娘の職場見学の付き添いです」
「あ~~~、なるほど。
それでアイツ朝から落ち着きがなかったんだな・・・」
あいつとはパパのことだね。
それから鬼はにっこり微笑んで、
「それじゃ今日はゆっくり見学して行きなよ?パパの男らしいとこ見れればいいな?」
そう言って去って行った。
「ねぇ、ママ。
さっきの鬼みたいな人は?」
「あの人はね、捜査一課の人よ。
重犯罪の案件を主に捜査してるのよ。
それに、鬼じゃないわよ?ちゃんと遠藤って名前があるんだから。
見た目は怖い人だけど優しい人よ、見た目で判断しちゃダメっていつも言っているでしょ」
「ごめんなさい、昨日パパが怖いこと言うから・・・」
ママは少し苦笑いをしていた。
それから待合室で暫く待つことになった。
「失礼します」
そう言って待合室に入って来たのは若い綺麗な婦警さんだった。
本日のスケジュールと説明を受け、見学開始。
一時間半署内を案内してもらい、メモを取りながら(写真はNGだった)仕事内容を勉強した。
後は帰って作文にまとめるだけかな~と思っていると、署内が慌ただしくなってきた。
何か事件でも起こったのかな?
そう思っていると、なんか偉そうな人が部屋に入って来た。
「サクラさん、すまない、プライベートで来署中に!」
「どうしたんですか?香川班長。
何か事件でも?」
冷静に聴いているけど、顔が真剣になってる。
こんな顔をしているママを初めてみた。
「実は・・・連続暴行魔の該者が絞り込めたんですよ、それで鑑定してもらえな・・・い・・か・・」
横に座っている私が視界に入った途端、声が小さくなっていく・・・
「え~~~っと、失礼しました」
そう言いながら出て行こうとしている班長さん。
そんな班長さんをママは呼び止める。
「いいんですよ、いずれは・・・ね?話さないといけない事ですし」
横に座っている娘を見ながら呟く。
戻って来た班長さんは恐縮しながら戻って来た。
落ち着いた頃、ママが私に話しかけた。
「いい?これからの事は大事な仕事に関係することだから、学校でお友達に言っちゃ駄目だからね?」
なんか真剣な目をしているから、逆らっちゃダメだと思い首肯する。
「うん!良い子ね、ちょっと待っててね」
そう言って5枚ある写真をしばらくジッと見ている。
5分経ったかな?ママは首を横に振ってダメだったようなゼスチャーをした。
「ダメですね、少なくとも24時間以内には・・・」
「そうですか・・・ここまで絞り込めたんですけどね・・・
でも、最低今日の夜は被害者が出ないと言うことでちょっとホッとしています」
問題を先送りにしただけなんで、雰囲気は暗いままだ。
私は一連の会話を黙って聴いていたんだけど、一段落したみたいなので疑問をぶつけてみた。
「ママ?この人が犯人だよね?
あのテレビに回想シーンみたいに流れてるよ?」
「「「えっ?」」」
婦警さんと班長さんとママが驚きの声を上げた。
えっ?何をびっくりしているの?