追記④ ・・・剣真・楓、誕生編
結婚して2年が過ぎた頃、クリスから話があると真面目な顔で言ってきた。
あちゃ~、これは倦怠期ってやつか?もしかして別れとか?
俺ももう52過ぎるからな、若手には勝てないしな。
そう思いながら今までの楽しかった出来事を回想していた。
「あの、川さん・・・デキたんだけど・・・」
「・・・・・」
「だから・・・デキたんだけど!」
「・・・・・」
「ちょっと聴いてる?!」
「・・・えっ?・・・そうか・・・他に好きな奴が出来たのか?」
言葉を曲解し少し投げやりに答えた。
「はぁ?何言ってんの?
もう一度言うわよ?子供がデ・キ・た・ん・だ・け・ど!!」
「へえ、そうか・・・・
んっ!もう一度言ってくれ!?」
なんか聴き慣れない言葉が出てきたような気がしたので再度問う。
「だから!川さんの子供が出来たって!」
「マジか?ほんとにおれの・・・」
言葉を言い終わる前に腹に衝撃が走った・・・グーで殴られていた・・・
「当り前じゃないの!他に誰がいるのよ!」
「!!ああ、すまない、あまりの衝撃に思考回路が吹っ飛んだよ。
なんて言ったらいいのか・・・あの・・・産んでくれるのか?」
「なに言ってんの?産むに決まってんじゃない!?
それとも、堕胎すると思った?」
その言葉に俺はいつの間にか涙を流していたようだ。
気づいたら手が濡れていたため、何かと思って顔に手を当ててみると頬に涙が。
ああ、やはり生物の本能なのだろうか、諦めていた筈なのにデキたと判った瞬間これか。
感動?ためらい?何とも言えない感情があふれ出てきているのが解った。
回路がぶっ飛びながらも、しっかり次の言葉を発していた。
「クリス、産んでくれ!それから・・・ありがとう・・・」
「もう一つ報告があるんだけど、いいかな」
「いいこと?悪いこと?」
「いいことだと思うけど」
へえ、なんだろうか。
「何かあったのか?」
「サクラちゃんも妊娠したんだよ、今日一緒に病院に行ったんだ」
それで今日二人で出かけてたのか。
「そうなのか?それはおめでたいな。
それで二人とも何か月だ?」
「二人とも3ヵ月だよ、似たような時期に出産になると思う」
そうか、だとすると9~10月くらいになるのかな。
「秋ごろ出産かな、そうか・・・なんか楽しみだな。
俺もとうとう・・・か」
「川さん、顔に出てるよ、ニヤケ面が」
いかん、顔に出てたか、気を引き締めとかないといかんけど今日一日はいいだろ。
さて、クリスが妊娠したとなると会社は退職かな。
デスクワークが主と言ってもなぁ、同僚に迷惑掛かるし潮時でしょう。
俺の給料だけで生活出来るしな。
「なあ、クリス、仕事は・・・その・・・」
「うん、そうだね、ギリまで働いて引退だね。
子供の世話もあるし、多分両立出来ないでしょ。
じいちゃん・ばあちゃんと呼べる人も居ないしさ」
「すまないな、せっかく友達も出来たのにな」
「いいよ、子育てのほうが大事だし」
前向きだな、こういうところは見習わないといけないな。
ゴールデンウィーク辺りには性別は判ると思うから、そのあたりで
必要なものを買いそろえるか。
その前に・・・
「クリス、服とか大きいサイズ必要になるだろ?」
「うん、今はいいけどあと数か月後は買わないとダメになるかな~~?」
うん、判んないよな、ごめん。
「とにかく、ユウヤ達とも連絡取り合って準備するか。
次の休みにでも」
そう言いながらメールをするのだった。
そして次の休み。
4人でショッピングモールで待ち合わせし買い物へ。
まだまだ二人ともお腹は目立っていない。
大きな買い物は今の内に済ましていたほうがいいのかも。
とりあえずフードコートの椅子に座った。
「二人共久しぶりだな、そしておめでとう」
「ありがとうございます、そちらも懐妊おめでとうです」
挨拶を交わしながらこれからのことを話し合う。
「そっちは仕事は大丈夫か?続けられるのか?」
「可能なところまで仕事してそれから産休に入るつもり。
退職しようとしたけど、留められちゃった、もったいないからって」
そりゃそうだ、あの能力を手放すのは相当な痛手だろう。
たとえ産休中の給料を全額払っても留めさせておきたいだろうし。
「産休入って出産までどうするんだ?」
「家でゆっくり準備して臨もうかと」
あれ?クリスと病院一緒じゃなかったかな。
「産婦人科はどこに?」
恥ずかしながら病院聴いてなかった。
「古賀市内の産婦人科だよ、言わなかったっけ?」
言われてないと思うけど、こっちからも聴いてなかったからどっちもどっちか。
「病院が一緒なら、サクラも里帰りして一緒に住めば?
なぁ、クリス」
「そうだよ!二人ならユウヤも安心だよね?」
ナイスアイデアって顔で同調して来た。
「そっちの方が安心だろう?二人共。
お互い親が居ないから頼れる人も居ないしな、助け合いだよ」
ユウヤとサクラは顔を見合わせて頷き合って、
「それは助かります、俺らは川田邸が実家みたいなものなんで、宜しくお願いします」
二人で立ち上がって頭を下げた。
「二人共俺の子供みたいなものだからな、気にすんなよ」
「これで安心だね、産休入ったらどうしようかと思ってたんだよね」
なんか安心した顔をしている。
「お腹大きくなって産休に入ったらお世話になります。
ユウヤ君、出産までの約2ヶ月と、赤ちゃんをちゃんと世話出来るようになるまで帰らないから、それまで家の中の事よろしくね。
その間、浮気しちゃダメだよ?!」
「するわけないだろ?ちゃんとしとくから心配すんなよ。
それに休みの日は様子見に行くから」
これからの行動がある程度スケジュール化出来たところで、買い物を再開することにした。
「服とかまだ買わなくていいかな?」
「えっ?まだどっちか判らないのに?」
・・・・ああそうか。
「違う違う、クリス達の服だよ。
マタニティ用の服とかまだいいのかなって思ってさ」
二人顔を見合わせて何か相談している。
「いや、まだいいよ。
大きくなってからサイズ合わせて買うから」
サクラも頷いている、そんなものなのだろう。
「じゃあ、今日は家具とか必須品の下見とかにしとくか。
もしかしたら双子だったとかになると買い足しとかになっちゃうからな。
どのくらい掛かるか予算的な目でも見ておこうか、あと3ヵ月もすれば性別とか判るだろうし」
そんなわけで本日の買いものは家具・育児グッズの下見となったのであった。
こういう時は親がいてくれたら、と思ってしまうな。
それから3ヵ月が経ち、性別が判明した。
クリスが男児、サクラが女児らしく、お互いに1人みたいで双生児ではなかった。
それから1か月ちょいで、慌ただしくベッドとか準備するものを買い揃えた。
しばらく経った後、サクラが産休に入ったので迎え入れる為の準備もやった。
そして受け入れの日。
「お帰りだな、2年ちょいぶりの里帰りになるのかな?
あの頃が懐かしいよ」
休みの日にユウヤと二人で家を訪ねて来た。
これから2か月近く出産の準備して産むときに病院へ、退院後しばらくは居てもらう予定だから3ヵ月くらい滞在って事になるのかな?
「しばらくお世話になります」
うん、随分と大人になったなぁ。
サクラなんてすっかり母親の顔になってる。
「荷物置いて来なよ、部屋は片付けてあるから」
「うん、ちょっと置いてくるね」
二人で駆け上がっていった。
気をつけろよ。
2階へ上がって部屋に入ると、ほとんど当時のままの配置だった。
あの日あの時二人に会えなかったら、サクラは野良で彷徨っていただろうし、俺は実験体の監視員を続けていたかクビになっていたかどちらかだ。
今は人間になって好きな人と一緒になり、仕事にも恵まれて更に子供まで。
今は幸せだ、バチが当たるんじゃないかなって思うぐらい。
サクラも同様だったようで、二人で思い出にしばらくふけっていた。
思い出に充分浸ったところで1階へ。
4人でテーブルを囲むのも久しぶりだ。
違うのはパートナーが嫁さんになった事と、新しい命を宿している事だ。
あと数か月が待ち遠しい。
順調に月日が経ち、お腹も大きくなっていた。
もう産まれるだろうという頃になると、みんなソワソワしだしていた。
この年になっての子供だからな、ちゃんと育てられるか判らんしまだまだ現役で仕事しないと、教育費等払えなくなるな。
そんなこと考えていると二人が苦しみだした。
「どうした?二人とも」
「一緒に産気づいたみたい、病院へ連れてって」
「判った、ちょっと待ってろ」
そういいながら車の準備をし、二人を乗せて産婦人科へ
途中、ユウヤに連絡したから仕事終わって来るだろう。
病院に着いてそのまま分娩室へ。
ちょうど破水したようなのでタイミング的には良かったのかも。
ここからは男は何の役にも立たないため、待つしかない。
しばらくするとユウヤがやってきた。
「今、どうなってる?」
「分娩室へ入って1時間だ、まだ産まれてない」
それからしばらく二人でボーっと待合室で待っていたが、立ち合いを希望し入らせてもらった。
二人とも似たようなタイミングで力んでたから、同時に産むつもりかよって突っ込みたかったけど自重した。
そのうち力む間隔が短くなり、そろそろ出てくるだろうという頃に手を握って声掛けをしていると、産まれてきた。
頭が見えたら早かった・・・そのままスポッと産まれ産声を上げたとき、なぜか知らないけど涙が流れてきた。
俺にもまだこんな感動する心があったんだなって思いながら、クリスに声を掛けていた。
「クリス、ありがとう、元気な男の子だよ。
本当にありがとう・・・」
最後のほうは涙声になっていたため聴こえ辛かったと思うけど。
「川さん、私たちの子供だよ・・・愛してる・・・」
感動で泣き声になっていて聴こえ辛かったけど、二人を優しく頷きながら抱きしめていた。
サクラも同じタイミングで産んだようで、ユウヤが泣きながら何か言っていた。
男ってこんな時は単調な行動になるんだな・・・率直な感想だった。
それから一週間、退院の日。
すでに名前も命名し、今から未知の子育てだ。
俺の息子は剣真と名付け、ユウヤの娘は楓と名付けた。
まだまだ赤ん坊を抱っことか風呂とか覚束ないけど一つ一つクリアするつもりだ。
俺もまだまだ隠居出来ないなと思いながら、子供の将来のことを考えていた。