125 運命は巡り・・・
あれから50年近くが経過していた。
私、川田は病に伏せて半年、もって1〜2日と言われていた。
死の淵に立ち、何故か頭の中はスッキリして今までの人生を余裕で振り返られるくらい澄んでいる。
私は50年近く前の事を走馬灯のように思い出していた。
クリスと初めて出会った時の事
初めて異能力を使用した時の事
クリスから好きだと言われて戸惑った時の事
それから愛してると言われて疑った時の事
自分に素直になってもいいのか?と葛藤した時
仲間と出会い交流した時の事
レベルアップしてボーナスに何をもらおうかと楽しんだ事
監査官やって人の欲に対して怒りを覚えた時の事
ユウヤ・サクラと出会った時の事
その他いっぱいあった事を懐かしく、昨日の事のように鮮明に頭を駆け巡っている。
「あなた?起きてる?」
声を掛けてきたのはクリスだ。
あれから50年近くずっと寄り添って来てくれた。
「ああ、昔のことを思い出して懐かしんでいたよ。
君と出会ってからの事を」
「そう、懐かしいわね。
あれからもう半世紀近く経つのね」
「ああ、50歳くらいで結婚しても、30年くらい生きれれば
いいと思っていたんだが、思ったより長く生きれたな。
君と一緒に生きれて幸せだったよ、ありがとう」
「まだまだ大丈夫よ、そんだけ頭がしっかりしてるんだから。
そうそう、午後から剣真とユウヤ達が孫を連れて来てくれるからね」
「そうか、それは楽しみだ」
クリス達が人間になってからすぐに結婚。
3年後に子供が一人出来、その息子が16歳になった頃にまた実験体のオファーがあり受諾。
そのまま10年程でまたレベル10到達。
その時のパートナーであるNo107と交際し結婚。
しばらくして孫が出来、現在17歳、男だ。
ユウヤ達も同時期に結婚、女児を授かる。
母親であるサクラの特異能力をそのまま引き継ぎ、娘も公安の特殊部署に就職。
同僚と結婚し非常勤として活躍し引退。
その娘にも孫が一人、娘がいて現在17歳。
サクラの能力を引き継ぎ更に強力になっている。
午後の面会時に6人と逢い、楽しく過ごせた。
多分これが最後の交流と思い、特に孫たちには最後のお節介というか生き様を語って聴かせた。
どこまで通じたか分からないけれど、もう思い残すことは何もないと思えた。
その日はクリスも何か感じたのか、病院に泊まっていくことになり夜遅くまで夫婦の会話を楽しんだ。
「なあクリス、君は人間になって幸せだったかい。
俺みたいな初老の男と一緒になってよかったかい?」
「何を今さら、あなたと出会って幸せでしたよ、ユウヤ達も同じ思いですよ?
みんな感謝しきれないくらい」
「そうか、今ならもう時効だと思うから言うけれど、実はクリス達がアンドロイドじゃなく地球古来の妖精ってのは知ってたよ。
出会ってから1年後くらいにはね。
確信が持てたのはサクラ達を引き取った辺りだ」
クリスは驚いた様子もなく黙って聴いている。
顔の表情からそうだろうなと思っていたようだ。
「なぜ判ったの?」
「なぜかな、判んないけれどなんとなくかな。
でもな、妖精だろうがアンドロイドだろうがクリスと一緒だったから、楽しかったんであまり気にしなかったな、そのうちどうでも良くなってたよ。
だから今更ってやつだ」
「ふふふ、あなたらしいわね・・・」
「そうか?はははっ・・・」
それから二人ともそのまま寝てしまい、朝朝食を食べて昼頃容態が悪化。
最後の言葉を振り絞って告げた言葉が
「ありがとう、君と出会って幸せな人生だった。
孫たちを頼む・・・そしてまた来世も君と・・・・・・」
1時間ほどして臨終を迎えた、99歳の大往生であった。
死に顔はとても安らかであった。
後から駆けつけてきた子供達も、その顔を見て微笑んでいた。
それから葬式が終了し、10日が過ぎようとしていた。