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6.5

キャシー視点です◎


貴族の娘として生まれたからには、家と領地にとって最も良い結婚をするのは当然のことだと思っていました。

それが貴族の義務、青い血を持つものの責務なのです。


けれども。


「やっぱりリリーと離れたくありませんわ…」


小さく溜息をついて、抱きしめたのはお気に入りのクッション。

些細なプレゼントだけれど、とリリーが刺繍を入れてくれたカバーがかけてあるそれに顔を埋めると、仄かにリリーの残り香が感じられる気がしました。


最初は確かに「香り」が目当てでした。

だって!だって!あんなにも柔らかく、かつ鼻腔をくすぐる妖艶さを持ちながらも清楚で清らかな甘く優しい香り、リリーだけですもの!


けれども、香りが素晴らしいことを差し引いても私はリリーに惹かれたと思います。

香りは人を表すとはよく言ったもので、時折触れるリリーの内面も優しく甘く清らかなのです。


リリーの傍でリリーの香りを深く吸い込みながら過ごす時間は、張り詰めた私の気持ちを和らげ、穏やかな気持ちにさせてくれるのです。


家と領地にとって最良の結婚をするのは青い血を持つものの責務。


そうはわかっていても、なぜ、よりによって王家なのでしょうか!


暗殺やスパイを避けるために、王家には侍女を連れて行くことはできません。

流石に王家の花嫁としてある程度のことは自由にはなりますが、あくまで王宮内だけの話。

好きな時に好きなだけリリーに会えるわけではありません。

その上、王宮に入ってから1年間は許可なくしては家族とすら会うこともできなくなるのです。


これは、正しく王家の血を残すために1年間花嫁を外界と隔離して過ごさせる、という国には必要なシステムではあるのですが、1年間リリーと会えないなんて考えただけで震えます。絶対に嫌ですわ!


そんななか、渋々迎えたクリストフ王子にも「家族と会えないのは辛いので王家に嫁ぎたくありません」とオブラートに包んで伝えたところ、彼はこう言ったのです。


「僕以外の男性と二人きりにしない、と言うだけで僕と一緒なら1年目でも家族とは逢えますよ。同性であれば二人以上の侍女を同席させれば良いことになっています。流石に毎日は難しいですが、できる限りなら協力しますよ?」


小首を傾げるその姿は悔しいけれどもそこらの令嬢よりも愛くるしく見えました。


「なぜ、私にそこまで言ってくださるのです?お気付きかと思いますが、私は今回のお話を反故にして頂ければ良いと思って、父に我儘を言って返答を先送りして来ましたわ。ひと月前に王都での顔合わせを断った時の病も仮病でしたの。それでも、私を助け、伴侶にしたいとお思いですの?」


「そこまでハッキリ言われると少し傷付きますが…。」


美しい顔を悲しそうに歪め、小さく吐息を零したあと、王子はまっすぐに私を見つめました。



「…貴女は、王家との婚姻が怖いのですか?それとも、婚姻自体が怖いのですか?」



すーっと、頭の中が冷える心地でした。



「セイル領は順当に行けばユリウス殿が治めることになるでしょう。そうなれば、貴女はどこかに嫁ぐことになる。恐らく幼い頃から貴女にはその覚悟があったはずです。けれども、覚悟があっても簡単に割り切れるものではありません。貴女は家を出ることを恐れているのではありませんか?慣れ親しんだセイル領を離れて、フラウ家から出ることを。」


ひとこと一言が胸を抉るようです。気が付けば幼い子どものようにドレスを握りしめて、流れそうになる涙を耐えていました。


「貴女が嫌がっているのが王家との婚姻であるのならば、事情によっては僕も身を引く選択肢を視野に入れましたが、誰が相手の婚姻でも嫌だと言うのなら話は別です。」


マナーを守って保たれていた距離を少しずつ詰めながら、クリストフ様は続けます。


「僕は貴女を諦めません。」


ドレスを握っていた拳を解かれ、包み込まれました。


「僕なら貴女を大切にしてあげられます。王子とは言え継承順位は低いので、そこらの貴族に嫁ぐよりもゆるやかに過ごせると思いますよ?」


「…貴女、私のことを幸せにすると誓えますの?」


「幸せにします。だから、僕と婚約しましょう?」



あんまりにも自信を持って宣言するので、静かに零れた涙を拭って、私は頷いたのです。



「…お約束してくださいましたわよね?1年絶たずとも家族や友人を招いても構わないと。」


「はい、約束しますよ。」


「…私のお部屋には広いバスルームを付けて頂きたいですわ!」


「大きな化粧台も揃えましょう」



こうして、私は王家に嫁ぐことになったのです。



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