#10 チャラ男の片思いのお相手は……。
「ごきげんよう、愛梨様。」
「ごきげんよう。」
「それで、どうでした?」
「どうって何が?」
「やだもう、決まってるじゃないですか。ねえ?」
「そうですよ〜。」
「いや、本当にわからないのだけれど……。」
「隼様とのお話のことです。」
ああ、それでみんなソワソワしてたのか。
そんなこともあったなぁ。
お兄様と話をしたから忘れてたわー。
隼との話はー、なんで逃げたかって聞かれて、
答えたら笑われて、なんか終わったんだよなー。
そうだあの野郎勇気を出して正直に答えたのにめちゃくちゃ笑いやがったんだ!
ほんっとムカつくー!
「あのー、愛梨様?」
はっ。
「いえ、なんでもないの。少し思い出していただけ。」
「それで?どうだったんですか?」
なんて言おう。まあ、ぼかして話せばいけるか。
「えっと、どうして先に行ってしまったのかと聞かれて私がお答えしたら
わかった、もういいぞ、とおっしゃられたからそのまま帰宅したわ。」
「えー!それだけー?つまんないのー。」
「ほ、他に、他に何かお話なさらなかったのですか?」
「ええ、それだけよ。」
「そうですか……。」
なんだかあからさまにみんながっかりしていて可哀想だったから
笑われたこともちょーっとだけ言い方を変えて話してみた。
「あ、でも、とても笑ってらっしゃったわ。」
「え、隼様が?」
「あのクールな隼様が?」
「さすが愛梨様だわ!」
うん?なんか思ってたのと反応が違った。
隼は普段クールなのか。
やっぱり"隼様"として振舞ってるのかな?
「やっぱり、愛梨様と隼様はお似合いよね!」
「隼様にとっても愛梨様は特別なんだわ!」
あー、また恋バナに……。
婚約者なんだからいいのかもしれないけど、私は好きじゃない
からなんかなー。なんか、違うわっ!って言いたくなる。
でも、はっきり言うのも婚約者なのに変だよね。
ぼかしとこ。
「そんなことないわ。ただお友達になりたいなーと思っているの。
婚約者と言ってもまだ遠い先のことだし。」
そんなぁみたいな声が聞こえるが面倒だから切り上げることにした。
「ほら、そろそろ席に着きましょう?」
「「「は〜い。」」」
あ、幼稚園の教育実習生になった気分かも。
そんな感じで過ごしていたら、あっという間に週末になってしまっていた。
「お父様、明日お友達のお家に遊びに行ってきます。」
「そうか。誰のところに行くんだ?」
「野瀬 光様のお家ですわ。」
「……まあ、まだいいか。礼儀正しくな。石塚に送り迎えをするように言っておく。」
「はい。ありがとうございます。」
ちょっと迷ったのは、多分男子の家だからだよね。
そういう関係じゃないから安心してパパ!
さて、私だって何もせずにこの数日過ごした訳じゃない。
清野 遥について思い出してまとめてみた。
清野 遥についての設定は、
コウの幼馴染で片思い相手である事。
コウと同じように音楽一家の令嬢の彼女はバイオリニストであり、
4歳になってドイツに留学し6歳でデビューした超天才バイオリニストである事。
しかし、幼少期から演奏のし過ぎで左手が動かなくなり
16歳で引退し、栄華学園に高等部から入ってきて、コウと再会する事。
この時、「野瀬 光ルート」を選んでいなければ二人は結ばれる。
と、こんな。
コウと会ったのは3歳なってすぐぐらいで、4歳で留学してるから
えっと2人が一緒にいたのは、一年ならないくらいか。
え、短くね?よくその短期間で何年も忘れられないほどの恋ができたよね。
何があったんだ、2人の間で……。
まあそれは置いといて。
留学してるしもうデビューもしてる頃だから連絡なんて取れないよなぁ。
コウになんて言えばいいんだ。
あ、そうか。
留学してる云々を聞いた話って事にして話してみればいいんだ。
よっしゃこれでコウに話す事はオッケー。
あとは、明日コウの家行けばいいだけ。
ーーーていうか、私、なにげ男子の家初めてじゃね?ーーー