表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

観察者との対話

観察者との対話

作者: 真澄

 気が付くと上下の感覚もおかしくなるような白い空間にいた。なんだか、雪山でガスにまかれた時のような感覚。あれ、冬山なんて何年も登っていないはずだけれど。ここは寒くもないし、風も吹いていない。

周りを見回していると、ぼんやりと人影のようなものが現れてきた。じーっと目を凝らしていると、その人影は、小さい頃から床の間に飾ってあった儒老樹のような人になった。

その儒老樹のような存在に、恐る恐る声をかけてみた。


「恐れ入りますが、ここはどこであなた様はどちら様でしょうか」

「ここはどこでもない場所じゃで、儂は観察者じゃ」

「観察者ですか、何を観察しているんですか」

「お前たちの世界を観察しておる。お前たちは観察者がいないと、ふわふわとどこかに行ってしまうようだからな」

「どうやって観察を、望遠鏡か何かでですか」

「ここは宇宙空間じゃないぞ。どこでもない場所じゃ。望遠鏡なんぞで観察したら一部しか観察できん。ぼーっとお前たちの居る世界を思い浮かべると、世界全体を感じることが出来るのじゃ」

「あなた様は、神様ではないのですか」

「そう呼びたければ、それでも良いがのう。時々道を求めんとか世の中を救うためにとか、深い瞑想や思考の最中にここに迷い込んで来る者がおる。その者たちに、儂が観察している別の世界の話をしてやることがある。すると意識を戻した時に、神から啓示を受けたとか対話したとか言いふらしている者たちがいるようじゃがな。儂はお前たちが思っているような、全知全能の神とは違うぞ。ただの観察者じゃ」

「私は何でここに来たんでしょうか。瞑想だの深い思考だの身に覚えがないのですけれど」

「お前は、ただの深酒じゃ。飲みすぎて意識が飛んでしまったのじゃろう。昔は、シャーマンとか言われる者が時々ここに来ることもあったのだかがなぁ。最近は、変な薬をやってここに迷い込んでくる者が多くなってのぉ。変な薬をやりすぎて、意識が壊れてしまう者もいてな。ここに来た時のことを思い出して、誰かに監視されているだの、見張られているだのいい出す者もおるのぉ」


「そうなんですか。ところでさっき別の世界も観察しているとおっしゃいましたよねぇ。別の世界でファンタジーのような剣と魔法の世界ってないんですか。1回そんな世界に行ってみたいんですよねぇ。転移してもらえるとか」

「だからさっきから言ってるではないか。儂は観察者でそんな力はない。それに儂が観察いしているに、剣と魔法の世界なんてないぞ。お前の住んでいる世界よりも少し時間が進んでいるか、遅れているかそれくらいだぞ。細かいところは、微妙に違っておるがの」

「微妙に違っているのですか。じゃぁ、これから先どうなるのか教えてくださいよ」

「儂は観察者じゃ。これからお前の住んでいる世界がどうなるかなんて、わからん」


「じゃぁ、ちょっと時間の進んだ世界の話してくださいよ。人工知能の将来なんて気になりますけど」

「人工知能か。動かんかった。」

「はぁ、いきなり結論から言われても何のことやらわからないじゃないです」

「そうじゃのぉ。その世界は複雑になりすぎてな。どこでどう折り合えば目の前の問題が解決できるのか、誰も見当が付かなくなってしまったのじゃ。そこで各国の科学者が集まって、人工知能に世界を治めさせることを考え付いたのじゃ。もちろん、極秘でじゃ。こんなことが世間にばれれば、絶対に反対されるに決まっておる」

「そうでしょうねぇ。電気信号に管理されるなんて嫌ですもんねぇ」

「そこで人工知能をネットにつないで、人間について学習させた。人間の活動を知るためにはネットは便利だからなぁ。世界各国の歴史から文化。経済活動や自然環境、様々な情報を吸収できる環境にした。時々、人工知能に課題を与えたりしながら、1年間学習させた。でも、政治をやらせようとすると動かなかったのじゃ」

「なんか間違っていたのではないのですか」

「そう、1年では学習期間が短かったからではないかという意見もあったし、与えた課題が間違っていたとの意見もあった。学習内容をそのまま残してさら学習期間を伸ばして様子も見た。気象予測やら為替や株の予測はできたのじゃが、人類がこれからどうすればいいのかと聞くと動かんのじゃ」

「漠然とした聞き方ですねぇ」

「具体的な問題には回答を出すのじゃがな、世界全体ではと聞くとだめなのじゃ」

「それでその世界はどうなったのですか」

「今は、さらに人工知能に学習を続けさせておる」

「私たちの世界も、そうなるのですか」

「さーてな、さっきも言った通り各世界は微妙に違ってくのじゃ。お前たちの世界がこの先どうなるかは、これからの話じゃ」

「はぁ」


 そうため息をついたところで、急に周りが暗くなった。

 そして気が付くと、目覚まし時計が鳴っている。頭が痛い。確かに昨日の夜は晩酌が過ぎたようだ。

 この世界を観察している存在がいるなんて、変な夢を見たものだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 寓話というジャンルはないのでよね。となると、やはり、SFでしょうか? 未来の社会の「もしも」を描いているので。 ちなみに、思い出したのは、トルストイです。厭世的でありながら、救いを求める…
[一言]  なんでしょう。不思議なお話です。  ジャンル、うーん。SFかなー。多次元宇宙ものとしてみると。ファンタジー、でもいいかもしれないけど。  人工知能が動かないって面白いですね。  なんとな…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ