表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

あなたと出会えた日 六

 試作機6号さんの指示したものを集め、僕は自室を出る。修理工程は気になるが、あまり見ていいものでもないだろう。そういうわけで1階のリビングに行き、ソファに座って、適当にテレビを点ける。時刻は深夜だったため、まともな番組はなかった。普段なら見ているアニメも見る気になれず、それとなくニュース番組を探す。なかった。仕方ないので親父の仕事用のノートパソコンを持ってきて、改めてソファに座り、膝上でパソコンを操作する。開いたのはインターネット。検索欄は…


 アラン・カラン博士 1月18日


 この検索結果、あるサイトにある記事が載っていた。


『20XX年1月18日午後5時頃、○○で空軍の輸送機KU-97が墜落する事故が発生。搭乗していたのは△△大学工学部の客員教授だったアラン・カラン氏(57)と操縦士フェッポス・ミルトン(39)を含めた7名。全員の死亡は確認されている。事故の原因等は不明。専門家の見解では悪天候の中での操縦が問題だったのでは、とのこと。


 アラン・カラン氏といえば、昨年に人工皮膚を用いたアンドロイドの開発に意欲を見せ、人間そっくりなアンドロイドを作るためにクロウ・ショーン氏(34)とアーベラル・カム氏(44)とで共同開発に乗り出したと話題になった…』


 つまり…その輸送機の中に裏切者がいて、試作機6号さんを逃がすのに尽力した博士が死んだ?


 そんなことを考えていると…寝てしまった。


 そして翌朝、


「おはようございます」


 身体が痛い。筋肉痛だ。瞼が重い。疲労溜まりすぎ。


 …って、おはようございます?


「う…ううぅ…」


 無理やり体を起こし、瞼を擦りながら目を開ける。すると、座ったまま寝ていたはずの僕に布団が掛けられ、ソファに寝かせられていた事実に気付く。おかしい。戸締りは状況が状況だけに完璧だったはず。そしてどこからかいい匂いが…


「…お腹減った」

「もうすぐできますから」


 ああなるほど。試作機6号さんがキッチンで朝食を~…は?


「ちょっと待った!」

「はい?」


 慌ててキッチンに駆け込むと…サイズの合った親父の服を着て、お袋のエプロンまでして目玉焼きを作っている試作機6号さんがいた。お袋が着たらババ臭かった服装が…やっぱり着る人によって違ってくるものなのか。


「結婚してください」

「え…はい?」

「…あ、じゃなくて!えっと…何しているんですか?」


 試作機6号さんは持っていたフライパンを上げて「朝食」とだけ口にした。それも吹っ飛んでいた右手でフライパンを…


「私は機械なので食べませんが、ヒズキさんは何も食べていないでしょうし」

「それはありがとうございます…」


 邪魔にならないように遠目から様子を伺う。黒髪を後ろで1本にまとめ、親父の白シャツと黒のボトムを履いているだけだのに、ちょっと…いいや、かなり色っぽいというか…年上の色気って半端ねぇ。あの時は雨だったし、たぶん今の状態が試作機6号さんの基本スタイルなのだろう。なんか…いいな。キッチンの窓から差し込む日光に照らされ、フライパンで目玉焼きを作る清楚系美女…写メに撮って待ち受けにしたい。


「料理できるんですね?」

「ええまぁ。基本的には脳内でインターネットに繋ぎ、レシピを紹介したサイトを参照していますが、栄養価等を考慮して、減塩等を行っています」

「うわ…すごい情報量」

「とはいえ、今回は目玉焼きとパン、野菜、コーンスープなんですがね」


 目玉焼きがフライパンから皿に移される頃、チンとトースターから食パンが飛び出す。それを目玉焼きとサラダの皿に乗せた。


「運ぶのは自分でやるよ」

「あ、でも…」

「僕の家だし」

「あ…勝手してすみません」

「おいしそうだから文句は言いませんよ」


 すでにできていたコーンスープはカップに入れられていて、僕はお盆の上に皿とカップを乗せてリビングに行く。こんなまともな朝食…1年ぶりじゃないか?


「修理って意外と早いんですね。電子回路1つ作るのにあたふたする僕とは大違いだ」

「2時間ほどで。こういうのは慣れていますから」


 食卓につくと、試作機6号さんは向かいに座った。


「いただきます」


 うわ、この言葉を口にしたのも1年ぶりじゃないか?1年前は食卓に両親がいたから。


「目玉焼きは醬油派ですか?」

「いや、何もしない派だけど」

「サラダは—」

「何もしない派だけど」

「いやあの…どっちも味付けを特にしたわけじゃ…」

「普通においしいよ?」


 言えない。調味料を買うお金がもったいなくて…あえて何もかけずに食べているなんて…!


「そうなんですか…学習しておきます」

「ところで、修理もされたことですし、研究所か軍隊に連絡しました?」


 ここまで相手ペースだが、そもそも彼女がここにいる目的は何だ?僕を殺さなかったのは良いこととして、修理が終わったなら、そそくさとドロンすればよかったのに。お礼をするためにわざわざ?それとも迎えの手配が終わっているのか?


 憶測が浮上し続ける中、ここで思わぬ答えが返ってくる。


「まだ何も。連絡はしたくないんです」


 これはもう…とんでもない事件に足を突っ込んだ感が半端じゃない。


「それでこの後の予定は?」

「いえ…」


 昨日のGPSの件と言い、裏切者の登場と博士の死亡と言い、軍隊が関係しているあたりも…嫌な予感しかしない。もしかして…


「軍隊と何かあったんですか?」

「え?…はい」


 ダメだこりゃ。今度は僕から足を突っ込んでしまった。


「はぁ…これも何かの縁だと信じたいけど」


 サラダを口の中にかき入れ、コーンスープを流し、水分がなくなる前にパリパリのトーストを頬張る。最後に目玉焼きを平らげて、キッチンに行き、水道水を飲む。


「僕に話してくれないかな?たぶん…後戻りできない気がするし」


 食卓に戻ると、口数の減った試作機6号さんに告げた。


「本当にすみません」


 彼女はただただ謝るばかり。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ