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あなたと出会えた日 五

 この際、電気代は気にしない。ドライヤーをフル稼働して下半身を乾かし、上半身は…


「すごい…これが人工皮膚…シリコンじゃ再現できない」


 タオルで拭いた。胸は拭いていないが、もともと修理をするために水気を落としているのだから、胸のパーツは問題ない。


「人肌レベルの体温も…アラン博士はすごい人なんですね」

「マスターは天才でした」

「あ、ちなみに皮膚の感覚は」

「ないです」

「じゃあすみませんが…」


 全部を完了させると、僕は試作機6号さんの胸を隠しているタオルの四隅をガムテープでしっかり止める。ブラジャーを扱うなんて…僕にはできないので応急処置だ。


「さてと…水気は可能な限り。次は何をすれば?」


 ここまでに様々な感情の起伏があった。ただ、忘れてはいけないのが…目の前のアンドロイドは我が国の軍隊の所有物であること。マジで危ないから、本気で指示に従った方がいい。


 そう思って、試作機6号さんの顔に被せてあったタオルを取る。すると…やはり軍人なのか、床に並べて置いたホルスターと拳銃の確認を最初に行った。きっと、僕が盗んでいた場合は何か危険なことになっていたのだろう。


「修理ですね」

「ここでできますか?」


 工業高校に通ってはいるが、ロボット工学は知らない。僕の専門分野は電子回路や基盤といったところで…家には一般家庭にある程度の工具しかない。それで修理ができるとは思えん。


 とりあえず、その旨を伝え、リュックサックに回収したものを拳銃の横に並べる。


「ではヒズキさん。眼球の裏側に差し込み口があると思いますので、私の方にある端子と接続してもらっていいですか?」

「ちょっと待ってください…あ~はいはい」


 目は簡単だった。一応、泥の中に使っていたので洗ったものの、目玉が入ると、試作機6号さんは涙を流した。どうやら涙は洗浄機能に使われているらしい。


「接続を確認。動作に異常なし」


 試作機6号さんの両方の瞳がきょろきょろ動く。両目があるっていうのはずいぶんと印象を変えるものがある。いやまぁ…美女であることには変わりないのだが、なんかこう…うん、悪くない。


 僕が1人で満足していると、また何か視線を感じた。それもただ感じただけではない。物凄く言いづらそうな視線だった。


「どうしましたか?」

「難しい修理は自分でやります。そのために予備動力に電源を入れたいのですが…」


 ーー衝撃が走る!--とはまさにこのこと。そりゃ、予想をしていなかったわけではない。けども実際に言われると…不安がこみ上げてくる。なぜなら、拳銃所持のアンドロイドだったから。軍隊が絡んでいるアンドロイドだから。ひょっとしたら殺されるかもしれない。


「起動するにはある装置を取らないといけないんです」


 その装置を取ったっが最後、口封じをされてしまうのか?


「首の後ろに小型装置がついていまして、それを取ってほしいのです」


 ドックン…ドックン…ドックン…


「ああ、じゃあ首を持ち上げますね」


 でもここでそれをやらないと…敵だと見做されてしまうかもしれない。ロボットの思考は人間のそれよりはるかに優れている。一瞬の判断で敵対行動をされたり…ダメだ。怖い。試作機6号さんが落ちてきたとき、全力で逃げればよかった。


 黒い髪の中に手を突っ込み、首の後ろを撫でると、不自然な突起物に触った。なんか…粘着タイプらしく、爪でいじったらなんとなく取れそうな気がした。


「取りますね」


 さりげなく試作機6号さんの視界から拳銃を隠す。いざってときは…あれを奪われないようにしないと。


 ペリ…

 

 取れた。取れてしまった。


「取れましたか?」


 取れた突起物をそっと出す。そしてそれを確認すると…


「取れましたが…」


 言い終える前に突起物を持っていた僕の右手が強い力で握られる。


「うわ…!やめ…!」


 へたれ。どうして瞼を閉じた。相手が見えないだろう。


 反射的にぎゅっと目を閉じてしまった。何も見えない。右手は未だに強い力で拘束されている。身体も硬直し、暗闇の中で脳だけが正常に動く。正常どころか…いつもより冷静だ。


「あ…」


 しかしながら…何かしなくちゃと焦る僕の耳に入ってきたのは、試作機6号さんの間の抜けた声だった。おまけにスッと右手の拘束が解かれる。腰が抜けた僕はそのまんま床に尻餅をついた。


「いつ…てて」

「すみません!」


 ゆっくり目を開けると…上体を起こした試作機6号さんがベットの上で申し訳なさそうにこちらを見ている。というか…謝罪まで口にした。


「いきなり失礼しました」

「えあま…はいぃ」


 小パニック。さっきまで警戒し、そしてヤバいとまで思った相手が…目の前で謝罪している。なんというか、パニックだ。


「あの…私はヒズキさんに危害を加えるつもりなんてこれっぽっちも」


 まるで人間のように試作機6号さんもあたふたした様子で言葉を並べる。でも、安心させたところで…って可能性も否定できない。


「信じていいですか?」

「もちろんです」


 ………でも、素人の僕が抵抗しても無意味じゃないか。ここは少しでも友好的な関係を作るべきじゃないのか?だって、さっきの右手を掴まれた時の試作機6号さんの反応速度と握力に敵うはずがない。


 よし……諦めるか。諦めることに関しては慣れているんだ。


「…あ、あとはご自分でやられるんですよね?」


 震える声で尋ねる。すると物凄い勢いで何度も頷いてきた。


「…用意して欲しいものは言ってください。可能な限り善処します」

「ありがとうございます」


 全面的に受け入れるべきだ。ただ、ある一点のみが引っ掛かる。


『起動するにはある装置を取らないといけないんです』


「じゃあ、用意しますね」

「お願いします」


 自室を出て、ドアを静かに閉める。そして、知らぬ間に取られた小型装置とやらを握っていた右手に視線を落とす。


「あれ…GPSだったよな…取る必要あったのか?」


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