あなたと出会えた日 四
学校をいつ出たかは記憶にない。ただ、家に到着するころには外が真っ暗になっていた。大雨と閑静な住宅街に救われた。
「そして家には誰もいないと…」
全身濡れた状態で玄関で靴を脱ぐ。6年前に中古物件で購入した6SLDKの割と大きな家の玄関はそれなりに広く、そこからを5歩ほど歩くと階段と廊下に分かれる。びしょ濡れな靴下で階段を上がり、続く廊下を奥まで直進。半開きだったドアを蹴り飛ばし、自室に突入。アンドロイド…試作機6号さんをダイレクトにベットの上に寝かせた。体力が半ば尽きかけたふらつく足取りで…ようやく70㎏から解放された。
「はぁ…はぁ…重い…死ぬ…」
「すみません。ありがとうございます」
「…で、次は何をすれば?」
「水気を落とさないことには…」
仰向けの試作機6号さんは視線で何かを訴えてくる。
「まさか…僕に服を脱がせと?」
僕はベット横のクローゼットからジャージの上下と肌着を取り出し、何も言ってこない試作機6号さんを見下ろす。水も滴る清楚系美女と目が合うも…さてさて理性が維持できるだろうか。
「ちょっと失礼」
まずは自分だ。そそくさと部屋を出て、廊下で高速着替えを実践する。運がいいことに明日は休日。濡れた制服は当分放置。
「僕ら人間は濡れたまま過ごすと風邪ひくからね」
そう言いつつ、部屋に備蓄してあるタオルを7枚用意。1枚は自分の頭を拭く用に肩にかけ、2枚目を試作機6号さんの顔に被せる。
「あの…これは?」
「着替え中に思い付いた作戦。まずは視線を遮る」
「では…次は?」
「次は…服」
右腕は未だリュックサックの中。肩までがっつりと吹っ飛んでいるので、脱がせるのは簡単だ。最初に…左腕を真横に伸ばす。そしてスーツのボタンを外し、袖を失った右腕側を広げ、あとは伸ばした左袖の口を引っ張るだけ。水気を帯びたスーツは軽く引っ張っただけじゃうまく脱げてくれない。それでも諦めずに引っ張るが…諦めた。
「くそ…介護も大変なんだな」
予想では左袖が引っ張られることによって、右袖のないスーツはあっさり脱がせられるものだと…実際は上に乗る試作機6号さんの重みと水気の帯びたスーツのダブルパンチでまったくビクともしなかった。
「背中失礼」
そこで作戦変更。今度は試作機6号さんの背中から自分の腕を通し、広げたスーツの右端を掴む。それを抜いてみる作戦だ。さすれば彼女の背中からスーツが通過できるはず。
「ぬおぉぉおおりゃぁぁぁああ!」
ガクガクと震える足を叱咤し、スーツを背中から引っ張り出すことに成功する。あとは左腕を攻略するだけ。
「スーツを攻略」
次にホルスターを慎重に外し、本物の拳銃を初めて触った。
「さてさて…服の中で最難関」
ワイシャツ…ではなく純白ブラウスの攻略だ。水で濡れ、生地が透けていてわかるのだが…たぶんこの下に控えているのは下着だ。それも黒のスポーツブラ。スポーツブラは…見たことないが、ホック等で「装着する」一般的なブラジャーと違い、Tシャツのように「着る」んだそうだ。もし、純白ブラウスがスーツのように攻略できたとしても…次に控えるスポーツブラと対決する方法が男の僕には存在しない。あの最終奥義を使わない限り。
「ホルスターの解除を確認。ブラウスに取り掛かる」
「お、お願いします」
純白ブラウスは思いの外あっさりと。ただ、背中に腕を通すとき、どうしても顔が試作機6号さんの標高93の山に近づいてしまう。スーツを脱いだ途端に…この山の立体感が浮き彫りとなったのは計算外だ。
「失礼なことを聞いていいですか?」
「はい」
この黒いスポーツブラに覆われたほどほどに主張する胸。男なら聞くべきだ。避けては男じゃない。
「アンダーバストって…」
「73ほどだったかと…それがどうかしましたか?」
顔がタオルで隠された美女は言った。もし、仮に、例えば…本当に73だったとしよう。トップは93だと言った。2つの数字の差は20…Eに相当する値だ。つまり、もし、仮に、例えば…本気で73ならば、僕の目の前にある山はE級なのだ。
「煩悩…煩悩…煩悩…」
「あの…先ほどからどうされたんですか?」
相手は痛覚がないと言った。つまり触覚自体がない可能性もある。つまり…触ってもバレない可能性も…
「くそ…くそ…勇気出せ…男になるんだ…」
動け僕の腕。あの山に…
「ふしゅ~…参ります」
1度息を抜くと落ち着いてくる。そして、落ち着いた僕は右手にタオルを、左手に…………ハサミを装備する。
「服、切断しますね。あとで代わりのものを用意しますから」
前置きを言って、試作機6号さんの胸にタオルを被せる。しっかり隠せるように広げて…見えないように。それからタオルの下にハサミを入れ、スポーツブラを少し引っ張りながら、なるべく早く切断する。前の部分を切断したら、両方の肩紐も切る。最終的にスーツと同じ攻略法で突破した。もちろん…変な気持ちも一切なく、一心不乱に実行した。
「でもこのタオルの下には生の…」
上半身を全て脱がすことに成功する。最後は下半身だが…
「ボディの耐熱性って…いかほど?」
「人間と同じ程度です」
「ならドライヤー使いますね~」
あぁ…悲しいかな。早く漢になりたい…