あなたと出会えた日 二
遠いところに転がった右腕
あらぬ方向に曲がった左脚
飛び出た目玉
これらの形はすべて人間と同じだったが、幸いにも人間ではなかった。それがわかる理由として挙げられるのは右腕の断面図。
バチバチ…ジィー
青白い火花が散り、白い煙を上げている。そして、配線類が見えるあたりでも確信を得る。こいつはロボットだ。もっと言うなら、人型ロボット———ヒューマロイドの可能性が高い。ただ…
「今の技術で…こんな精巧に作れるもんなのか?」
火花が消えたところで、警戒しながら近づく。周りには人影もなく、本当にこんなものがどこから来たのか、まったく見当がつかない。
「たす…けて」
「話しているのはこのアンドロイドだったのか。でもどっから?」
堤防の地面に引きずった跡は見られない。つまり落下し、着地したということか?それだったらさっきの衝撃も頷けるけど…
「おい、しっかりしろ」
突っ伏した頭の近くにあった左手の甲を突いてみる。感電の気配なし。触っても大丈夫そうだな。
「おい!」
髪は長い。さっきまでに聞こえた声なんかも参照にすると女性タイプなのだろうか。手足は細く、身体つきも華奢だ。黒いスーツを着ている。うつ伏せだったので、まずはひっくり返してみる。白シャツの胸部の盛り上がりを見て確信した。にしてもせっかくのアンドロイドに黒のスーツを着せるなんて、しかもスカートじゃなくて、ぴっちりパンツスーツ。何かの商品展示用だったのか?
「あ…の…」
胸ばかり凝視していると、向こうから声をかけてきた。意識あり、というか電源に故障はなし?
「やや!これを失礼」
がっつり折れた左脚に注意しつつひっくり返したところで、アンドロイドの頭を自分の膝上に乗せる。こんな雨の中で傘もささずロボットに膝枕とは…ひどい絵面だ。
「視界の確保をお願いしても…」
顔には意識が向いていなかったため、アンドロイドの顔が黒髪に隠れていることなど気づかなかった。慌てて濡れた髪を分けてあげると…その下からは左目を瞑った美女の顔が出てきた。どうやら僕の後方にある目玉は左目のものらしい。
「大丈夫なわけないよな…どうしよう」
肌や髪を触って気づいたが、人間と同じ質感を持つアンドロイドだ。とどめに…
「申し訳ありません」
こっちの言葉を理解しているらしい。人工知能までついているのか?火花を散らした腕の断面図を見なきゃ…ロボットだと信じられなかったぞ。
「痛覚ってあるんですか?」
「痛覚は存在しません。ただ、現在…頭部ユニット以外は行動が停止されています。どうぞ、協力のほどを」
こういう時用に頭部は他の部位と違って強い衝撃にも強いのかな?てか、外見はほぼ人間で人工知能もついたアンドロイドなんて…どんな天才が作ったんだ?
「協力はできる限りするけど…誰に連絡したらいい?持ち主は?」
「死にました」
「んじゃ、研究所とかあったんだろ?そっちの連絡先なら」
「…すみません。あそこにだけは連絡しないでください」
「どういう…」
偶然、そう…偶然目に入った。入ってしまった。このアンドロイドのスーツの襟に付けられたバッチに…それが自国の軍隊のものであることに。そして、スーツの下に着用していたホルスターの中には拳銃が入っていたことに。
「どういうことだ?」
おいおい、自分だったら絶対に近づかないな…