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あなたと暮らせる日 二

「ロロと申します。今後ともお見知りおきを」

「あ~いえいえ、俺はケイゴです。どうぞよろしく」

「はい」


 困ったことになった。複合商業施設内の喫茶店に入った僕の向かいの席にはキキザト兄妹が座り、窓側にロロさんが座っているのだが…ヤンデレなハンナちゃんの機嫌が一向に治らない。理由はたぶん…おしゃれな服装で姿を見せ、僕に笑顔を投げかけてきたロロさんにあるのだろう。ハンナちゃんの前ではロロさんに「綺麗ですね」とは言えなかった。


「あの~…ムタち、いえ…ムタ君とはどのような関係で?」


 しかも僕らの関係について…一切打ち合わせをしていない。家族なのか知人なのか、こんな早い段階で世間の狭さを思い知るなど想定外だった。故に、こういう時だけ真面目なケイゴの質問にはロロさんも焦りの表情を浮かべた。挙句、僕に視線を送ってくる。


「そうだな………ロロさんは………」


 どの答えが1番正解に近い?考えろ。一緒に暮らしていることもそのうちバレるし、不自然がないように答える必要がある。ただの知人を家に泊めたりしないし、恋人だったら大胆過ぎる…親戚といえば、本当の親戚に遭遇した場合辛い。何がベストだ?


「あれだ、ほら……あの、な?」

「ムタちん?何を言ってるんだ?」


 本当に何言ってんだか。


「ヒズキさん…私に任せてください」


 僕が困っているのを見て、ついにロロさんが兄妹と対峙する。


「私とヒズキさんの関係は、訳ありです。お察しください」


 ………うん?


 ロロさんは笑顔で述べると、僕の方に体を寄せ、頭を僕の肩に乗せてくる。不機嫌なままむっつり黙っていたハンナちゃんはそれに驚き、ぽかんと口を開けた。


「いやえ…ムタちん?」


 変態と自らを豪語するケイゴも、実際はかなりピュアで、少し顔を紅潮させながら僕を見てくる。正直、ロロさんの考えが不明な以上、僕としても笑うことしかできない。


「恋人なんですか?」

「さぁ?どうでしょうか?」

「え〜っと…え?」


 ケイゴは言葉を詰まらせ、ロロさんはただただ微笑んだ。


 まさかとは思うが…訳あり、という言葉だけで押し通すつもりなのか?確かに4人の中で最も歳上な彼女なら大人の余裕を見せつけ、ピュアなケイゴも不機嫌なハンナちゃんも退けられるだろうが…


「お待たせしました。こちらからブラックとカモミール、レモン、オレンジですね」


 場が固まったところに喫茶店の店員さんがそれぞれの飲み物を持ってきた。僕がブラックコーヒーで、ロロさんがカモミール、ケイゴはレモンティー、ハンナちゃんはオレンジジュースだ。ハンナちゃんは自分の前に飲み物が来た瞬間に早速ストローに口をつけていた。それを契機にケイゴと僕が続き、ロロさんはゆっくりと一口だけ…


「ムタちん、俺はお前を尊敬する」

「ケイゴ?…ちょっと落ち着こう」

「まさか上が趣味だったなんてな」

「待って」

「言うな。親友だろ?」


 いらぬ誤解を招いている。これじゃあ恋人と公言した方が気分がいい。でもそれはできない。じゃあ、訳ありで押し通すには………あれしかない。


「ケイゴ、耳を貸せ」


 ふざけた表情に戻ったケイゴに精一杯の真剣な顔を投げる。彼の根は真面目だ。当然彼はテーブルから身を乗り出し、僕に耳を傾けた。僕はハンナちゃんに聞かれないように彼の耳に口を近づける。


「両親の関係で…派遣された人なんだ。後は察しろ…本気で」


 僕の周囲の人間は僕の両親のことを「海外赴任中」と捉えていた。それは両親に冤罪を着せた国家機関のせめてもの情報操作によるものである。というより司法取引のようなものなのかもしれない。両親が僕を社会の目から守るために提案したようだ。その事実を知っているのは何人かの親戚と…目の前にいるケイゴだけだ。なぜなら彼は両親が警察に連行されるところを目撃しているから。


「あ…すまん」


 割と本気なトーンで囁いてみると…真面目な彼は決まりが悪そうに謝り、席に戻るとロロさんに愛想笑いを浮かべるも、単純なほど動きがぎこちなくなる。なお、ロロさんは類稀なる聴力で僕の声を聞き取ったようで、こくりと頷いてくれる。


「ケイ兄?どうしたの?」


 唯一聞き取れていないハンナちゃんは自分の兄のぎこちなさを不思議そうに見る。しかし可哀想なことにケイゴは僕が話したことを伝えることができず、僕とロロさんが焦っていた誤魔化す方法をバトンタッチされる形となってしまった。


「いやぁ~あれだな?親の仕事仲間さんだってさ。まったくロロさ~ん、焦らせないでくださいよ」

「ごめんなさい。皆若いから…ついね」


 よし、嘘をついたことにおいてはケイゴも共犯だ。彼に絶対の信頼を置くハンナちゃんも納得せざるを得ないだろう。


「今は僕の家に下宿しているんだ。彼女の家は遠いし、ちょうど仕事が立て込む時期らしくて。ここで寝起きした方が楽なんだとさ。両親の許可も出てるし」


 嘘に嘘を積み重ね、僕とロロさんの関係が構築されていく。実際の関係は…本当によくわからないが。


「はい。もう4年前から度々使わせてもらっているんです。ただ学生とは生活リズムが合いませんから、2人に会う機会がなかっただけです。今日は久しぶりにのんびりした休暇が手に入ったので、お買い物を手伝ってもらっていました」


 最後にロロさんが補足すると、3人の嘘が完璧な形で完成した。もはやハンナちゃんに付け入る隙を与えさせない完璧な嘘である。


「ヒズ兄…本当?」

「もちろん。ただ、僕が寝ている時間帯に帰ってきて、起きる前には出社するから、こうしてロロさんと顔を合わせる機会もなかなかないんだけどね」


 どうにか乗り越えたかと思うと…肝心なことの解決には繋がっていなかった。それはハンナちゃんが疑っているであろう僕とロロさんの「邪な関係」の有無だ。元々、そういう間柄なのではないかということで彼女の方から声をかけてきたのだ。しかし、嘘で固められた地盤を手に入れたロロさんは単純な答えを導き出した。


「家には旦那も子供もいるから、コンスタントに帰らないといけないんだけどね」


 既婚者、それに子供もいるとなれば…確実にハンナちゃんの疑問を消し去れる力を持っていた。


「なんだ…安心した。てっきりヒズ兄と何か深い間なんじゃないかって思った」

「まさか。私はヒズキさ…君が小さい時から知っています。この子の好きなタイプくらい知ってますから」


 中学3年生のハンナちゃんを騙すためにこれだけ嘘を重ねてしまうとは…なかなかハードだったぞ。


「え、それは是非俺に教えてください!」


 あとはいつもの調子に回復したケイゴがどうにかしてくれる。


「黙れ。ロロさんも余計なことは言わないでくださいよ」

「どうしましょうか」

「ちょっと~」


 僕はロロさんに笑いかけつつ、安心してブラックコーヒーを飲んだのだった。



評価等は大歓迎です。


嘘って大事ですよね。本当に。

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