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あなたの夢

これはほとんど序章みたいなもんなので、さらっと読むだけでも大丈夫です。主人公の数少ない青春の一幕?

 将来の夢はサッカー選手!


「って…もう諦めてますよ!」


 振り抜いた右足に押し出されるようにして飛んでいくボール。それを視線でしか追えない人々と必死な形相で横に飛んだゴールキーパー。その2つを見るだけで僕は確信を得る。


「よっしゃ!」


 誰も触ることができなかったボールを最後に受け止めてくれるのはゴールのネット。そこにボールは勢いよく飛び込んで、ネットを揺らす。


「ナイスゴールだ!ムタちん!」


 フィールドに訪れる一瞬の静寂。ブワッと湧き上がる歓声。芝が震え、仲間たちが駆け寄ってくる。僕は彼らとハイタッチをして、ベンチで見守ってくれていた他の仲間や美人と話題なマネージャー、強面の監督に笑顔とガッツポーズを送る。


「すげぇぞムタ!ハットトリックだ!」


 ベンチの後ろのスタンドからは親友が身を乗り出して僕を祝福する。誰も彼もが興奮の渦中にあった。普段は感情を表に出さないマネージャーも目から涙を流し、絵画にしてしまいたいほど綺麗な顔で笑っている。


「気を抜かないでいこう!もう1点取るよ!」


 左腕に巻かれたチームのキャプテンである証はギュッと握り、仲間の背中を叩いて気合いを入れ直す。


「「おぉ!」」


 試合時間は残り1分。得点は4対2とこちらが2点リード。そのうち、僕が決めた点は3点。文句なしの活躍だと自負したいが…1分もあれば、相手に奇跡が舞い降りるかもしれない。絶対に負けるわけにはいかないんだ。


「諦めるな!攻めるぞ!」


 相手も必死だ。3対2と緊迫した空気の中で、僕が点差を引き離す追加点を入れたのだから。私立高校でスポーツの名門校。大きな大会での優勝経験もある雲の上の存在だった。そんな彼らと僕たちは全国大会の決勝で相見えた。ただの公立工業高校の僕らが、サッカー部ができて10年も経たず、実績もなかった僕らが…高校サッカーで1番大きな大会の決勝で強豪校に2点もリードしている。


「止めろ!マーク外すなよ!」

「パスだ!」

「サイド警戒!」

「打てぇぇぇぇえええ!」


 激闘の末、終了のホイッスルが審判によって吹かれると、僕らは天を仰ぎ、彼らは地に伏す。強豪校のために大勢駆けつけたギャラリーたちは目の前で起きた信じられない光景に絶句し、僕らのギャラリーは先ほどより大きな声で勝利を祝福してくれる。試合には出られなかったベンチの仲間たちがフィールドに飛び出してきて、皆が泣いて笑って、監督を無理矢理胴上げする。


「ムタ!全部お前のおかげだ!」


 今年で卒業の先輩たちは2年生の僕に抱きついてくる。


「いい思い出をサンキュな」

「先輩たちのおかげですよ」

「ちきしょ~、最後までかっこつけやがって!」


 猛練習と猛研究を重ねて、やっと辿り着いた頂点。天才肌でもない僕らが勝てたのは頭のいい監督がいたからだ。僕らはこの人に頂点の景色を見せたかった。


「お前らぁ~ありがとう…ありがとう…!」


 だからもう…ヒズキ・ムタの将来の夢という夢物語に興味はないんだ。



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