令嬢化計画③
マルクによって勝手に購入された品を店側がまとめてくれている間。買ったうちの一つに着替えるようにと、彼に言われた。
だが彼女の内心は、当然それどころではない。恨めしげにマルクを見やるが、向こうは澄ました顔だ。
「この白のドレスが良いでしょう」
そうやって彼は選び、他のドレスは片付けさせて、部屋を出て行く。
店の者達が親身に脱ぐのを手伝ってくれて、全く着方の不明なドレスも身につけさせてくれる。
さあ白色の長い靴下と同じく白い短靴を履いて終了ねと思ったら、まだらしい。
「少しお化粧を。御髪もいじらせて下さい」
椅子に座らせられ、顔に液体を塗られた後、おしろいと頬紅が乗せられ、薄い色の口紅を引かれた。
「綺麗なお肌ですね……」
化粧中に嘆息するような賞賛をされて、それが唯一の自分の取り柄なのだと思う。
化粧の次は髪だった。
(このくせっ毛を一体どうしようというのかしら)
「清楚な雰囲気は残して……」
「あまり技巧に過ぎると、わざとらしいわ」
髪の係らしき二人が頭上で声を抑えながらも、言い合っている。
(痛っ!)
何度も髪を強く引っ張られて、複雑に編み込まれ、何箇所もピンで纏め上げられる。鏡が無いので、どうなっていくのかは分からない。出来上がると首筋が露わになって、すうっとした。
「はい。こちらを着けていただいて終わりです」
燦然と輝く楕円の大きな緑石を中央に戴いた金鎖の首飾りと、石は小ぶりだが同じ型の指輪を見せられる。先程、マルクが馬鹿みたいに買っていた物の一つである。綺麗だから、価値があるのだろうと察する。
ディーネは抵抗するのに疲れきっていた。素直に指輪をはめ、首飾りを後ろで留めてもらう。
最後に全身を映す姿見を持ってこられたが、覗き込んでも、奇異な格好をした自分が見返してくるのみ。
「ではフィラルリエット将軍を呼んで参りますね!」
(あの男は将軍だったのね……)
もはや、ディーネは何も考えたくない状態になっている。
足音がしたので、マルクがやって来たのだと知れた。扉のほうを眺めていると、彼が入ってくる。
こちらを見て、マルクは入り口で足を止めた。直後、頬が少し赤くなり、顔を背けた。口元は片手で隠し、何事か一人で呟く。
「参った。………………これはレオール様には見せたくないな」
(赤くなって忍び笑いをするほど酷いのかしら……。この格好をさせたのは自分のくせに!)
店員は何故か満面の笑みを浮かべ見守っているが、当事者のディーネはとても不愉快だった。
***
店員総出で見送られた後、ディーネは帰りの馬車の中で上機嫌のマルクに質問をした。
「お屋敷で、これから貴方をどうお呼びすればいいのですか。『将軍』ですか?」
「ああ、やはり聡い方だ。そうですね、私達が結婚したら『マルク』でいいのですが」
「真面目に答えて下さい。私は真剣に聞いています」
くくく、と笑い終えるとマルクは言う、
「『マルク様』でお願いします。私も貴女のことは『ディーネ嬢』と呼びます」