消失①
ディーネはココと連れ立って、薄暗く、どこか不気味な雰囲気を醸し出している森へ入っていった。
辺りは静かで、枯れ葉が踏まれたり、カチリと小石やら小枝やらが彼女らの履く靴によって軽く転がされたりする無機質な音しか耳に入らない。
「やはり緑の中は涼しいですね」
「……そうね」
気づまりな雰囲気を払拭しようと会話を試みるが、相手の反応は薄い。見れば、ココの顔色は一層青くなっていた。
(大丈夫かしら。休憩を挟んだ方が良さそうだけれど)
案じたディーネはココに声をかける。
「こちらで少々お休み致しませんか?」
「結構よ。私は元気だわ、……それよりも早く行きましょう」
ココの気迫に圧倒されたディーネが頷けば、そこでは再び足音だけが空虚に響いた。
しばらくした頃、不意にココが言う。
「他の者は、ここで待つようにさせましょう。女官達には私から言うから、あの護衛には貴女が頼んで下さらないかしら? この先には二人だけで進みましょう」
「…………それは――」
ディーネは気乗りしなかったが、ココは口を挟む間を与えない。
「お願いよ、私これからは貴女と本当の意味で仲良くなりたいの。誰の目も無いところで、二人だけの思い出を手始めに作りたいのよ」
「わ……分かりました。光栄でございます。でも決して無理されないで、気分が悪くなったら、すぐ私に仰って下さい」
熱心な口調のココの瞳には抗いにくいものがあり、またディーネは思わず頷いて言った。
(それに……むしろ王軍の為に不調を耐えられているとしたら? 彼女が失恋の痛手によって、自分のあり様を反省して、悔い改めようとしているのだとしたら……、私はココ様の意志を尊重したい)
そう考える間に、ココは女官達を呼び寄せ、命を出しているようだった。
(私もクリスさんに事情を話さないと)
「……クリスさん!」
「――――はい、お嬢様」
声を張り上げれば、クリスは離れた所から返事をしてくれる。彼は、すぐに姿を見せた。
「こんな所へ何をしに来られたのですか」
そして、開口一番に問われる。
(やっぱり、そう思うわよね。私だって彼の立場なら、同じように疑うわ)
彼の、いつもの無表情と沈着冷静な態度の中に少し咎めるような視線と口調を感じて、ディーネは弁解する。
「ココ様が滋養に良い木の芽をご存知ということで取りに来たんです。戦場へ送ってもらいたくて」
「木の芽、でございますか。そんな貴重な物が今まで人に知られることもなく、この森に? 不自然な誘いですね」
「確かに、そうですが。でもココ様の話ですと、希少な物らしいのです。……ああ、もう行かなければ」
クリスと話し合う間もなく、ココに「ディーネさん、早くなさって」と呼ばれた。
「クリスさん。ココ様が『この場に私達二人以外は残そう』と仰るので、ここに残ってもらえますか? 私は気を抜かないようにしますし、いざ何かあれば大声で貴方を呼んで、逃げますので」
「しかし、それは――」
「ディーネさん!!」
また、我慢ならないというようなココの声に会話を遮られる。
「すみません、行かなければ」
「ここで待つというご命令だけは聞けません。ココ様の命に譲歩して、通常の護衛よりも更に距離を大きく取って追います。絶対に油断なさらないで下さい」
「……分かりました」
クリスは痩せた森の奥へと消えていく。ここで待つ女官達からも姿を隠す為だろう。
「随分と長いお喋りでしたわね。あの護衛が何か余分なことでも言ったの?」
「そんなことはございません。ただ彼を心配させないように、この森に来た理由を説明しただけですわ」
「そう。ならば、もういいわ。時間が惜しいもの。さあ参りましょう」
「はい」
了承したディーネは、ぽっかりと開いた毒蛇の口の中へ自ら入っていくような気分だった。




