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令嬢化計画①

「ではマルク、任せたぞ」

「はい。本日は下がらせていただきます」

「好きにしろ」


 レオールはディーネから興味が失せた表情をして、踵を返した。彼は待機していた兵を半数以上連れて、城らしき大きな建物が見えるほうへ去っていく。



「では『女神』、参りましょうか」

 ここにきて唐突な呼びかけに、ディーネは思わず身を固くした。すんでのところで、「なぜ分かったのですか」という言葉を飲み込む。



「…………いったい何を仰っているのでしょう。私、そういう浮ついた言葉は苦手です」



(落ち着かなきゃ。こんなに早く私の正体が見破られるはずないじゃないの!)



 案の定、マルクは目を細めて笑うだけだった。



「気に障ったなら申し訳ありません。美しいものは褒める主義なので。本当に貴女は女神のように美しく、私の心を捕えて離さない」


「……恵まれた容姿をお持ちの貴方がおっしゃると、嫌味にしか聞こえませんね」

「それは残念です。私は本気なのですが」



(よ、良かった。取り合わなくて)

 危うく引っかかるところだった。今度から『女神』と言われても、過敏に反応しないようにしなければと心に誓う。



「申し訳ありませんが、もう少し歩きましょう。向こうに私の馬車がありますので、それに乗って帰ります」

「分かりました」


 それからは確かに少し歩くことになった。その間に彼女は物珍しさから、周囲に目をやる。

 


(それにしても……人間達の王城って、こんなに殺風景なものなのかしら)


 花は植わっていたが数が少ないので、より一層寂しさが際立ってしまっているのだ。しかも草が生え放題、枯れ放題なままの場所もある。



けれど、

(まあ、私には関係ないわね……)

 と、それよりも自分のことを心配すべきだとディーネは思い直すのだった。






 うまやに着き、馬車が引き出されると、ディーネはマルクの手を借りながら一緒に乗り込む。

 彼と顔を突合せながら座ることになり、また気が休まらない時間が始まりそうだった。

 ディーネが警戒しているうちに馬車は発進し、目の前のマルクが提案してくる。



「家に帰る前に服飾店に寄りたいと思います。どうか新しいドレスを贈る栄誉を私に与えて下さい」


「いいえ、もうドレスは結構です」

(出来るだけ早く神界へ逃げるつもりだし、これ以上いらないわ)

 


 慌てて断ったが、マルクは彼女を説得しようとする。

「家の者の目もありますし、お聞き届け下さい。特に母は敏感に反応しますので。なるべく私が守りますが」


 そうまで言われると、自分が着ている衣装が急に心許ない物に思えてくる。

「あの、じゃあ一着だけ」

「駄目です。貴女には遠慮せずにいくつでも注文してもらわなければ。これから恐らく長くなりますよ」



(長くなるなんて、不吉なことを言わないで欲しい……。ただでさえ、ありそうで怖いのに)

「本当に結構です」

 ディーネは断ろうと、少しきつめな口調にする。



「いいえ、屋敷では母も目を光らせているので、どうかお願いします」


 マルクは詳しく説明を続けた。


「私の母は貴族としての矜持があるので、滅多な格好をしていては貴女が咎められる。これから貴女には『然る貴族のご令嬢』として振舞っていただきますから」



 ディーネは釈然としなかったが、その場は大人しく従うことにした。


(着る物はその場で断って済ませればいいわよね。近くにお針子がいれば、この人もそう強要はしてこないでしょう)

 






**

 

 その後、馬車の中は心地良い沈黙が支配していた。

(喋らないと、ボロが出にくくて楽かも。今は何故か彼も質問をしてこないし)



 ディーネは開けられた窓から、流れていく景色を眺めた。

 初めは車体の近くを囲んで馬に乗り走る五人の兵から。次は遠くへ視線を移す。

 


(家以外ほとんど何も無いし、活気がないところね。ここは本当に王の膝元なのかしら。神界では、最高神のおわす所は光に満ちていたけれど)



 王城の庭も似た具合だったなと思い出す。

 そして何かが頭の中で引っかかり始めて、妙な気持ちになった。

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