貴方の手を取るかどうか
マルクは程なく、見知らぬ女性を連れて戻ってきた。
「貴女の着替えを手伝う、口が堅くて信頼のおける女官です。さあ、そちらの隣室を使って着替えて下さい」
彼は隣室に続く扉を開け、手にしていた箱を置いた。ディーネは、どうしようもないので、マルクの言う通りにする。
扉が閉められてディーネと二人きりになると、女官が話しかけてきた。
「災難でございましたね。城の部屋を借りて劇慰問の練習をしていたら、ドレスが盗まれてしまうだなんて」
「……はい」
ディーネには女性が何の話をしているのか、さっぱり分からないが、話を合わせておく。
「孤児院の子ども達の為に劇をなさるのですね。とても見上げた御心ですわ」
「……そんなことはありません」
「まあ、ご謙遜を。……このドレスですが、あり合わせの物しかございませんでしたので。お嬢様の寸法に多少合わない点もございましょうが、お許し下さいませ。こちらのドレスは返却不要でございます」
「こちらで充分です。助かります」
それから女官は言葉数が減った。手早く着付けてくれ、ディーネが思うに最短時間で終了した気がした。
「何か気になる点はございませんか?」
「いいえ。ありがとうございました」
再び扉が開かれ、マルクと対面する。
「将軍、いかかでしょう」
女官がマルクにディーネの出来を確かめている。
「うん、可愛らしい。少しの間、そちらのドレスで我慢して下さいね。後で沢山もっと豪奢な物を贈りますから」
「やめて下さい。こちらだけで結構です」
「馬車を用意させてあるので、参りましょう」
マルクはディーネの訴えをかわして、外へと誘導した。