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「お兄ちゃん今日はありがとう。すごく楽しかった。」
「俺の方こそ今日はありがとう。俺も柚子ちゃんとダーツできて楽しかったよ。」
あれから俺と柚子ちゃんは5ゲームほど2人でダーツ対決行って、今は柚子ちゃんをお店の前で見送っている途中だ。
柚子ちゃんとの対戦結果ですか?
結果としては5ゲームやって3勝2敗でギリギリ勝ち越しましたよ。
いや~危なかった。彼女にグリーピングの意味とやり方を教えたら、点数を取るわ取るわで俺大慌て。
トリプルエリアを狙って格好よく勝とうと思っていたがそんな余裕は微塵もなく、しまいには柚子ちゃんに「大人げない」とまで言われてしまいました。
その言葉に俺がどれくらいへこんだか
今度からは気をつけよう。
でも本当にのみこみのスピードが柚子ちゃんは早いんだよな。
そこには俺も感心してしまう。
「どうする?家まで送って行こうか?」
「別に大丈夫だよ。家は近いから1人で帰れるよ。」
今の柚子ちゃんの雰囲気は会った時とは全く違っている。
会った時はすごく暗く落ち込んでいるようだったが、今ではすごく明るく眩しいほどの笑顔を俺達に見せてくれる。
これだけでも今日柚子ちゃんをここに連れてきたかいがある。
「わかった。じゃあ今日お兄さんとした約束は守れるよね。」
「うん。」
俺が今日柚子ちゃんとのダーツが終わった後、いくつかここでやるダーツの制約をした。
1 俺がいる時のみダーツ台を好きに使用しても良い。ただし俺がいないときは勝手にダーツ台を使わない。
2 お客さんが多くなってきたらダーツ台を譲る。
この2点を約束した。
まぁ、ここにきてからの一連の行動を見ていたけど礼儀正しいし、ちゃんと俺とした約束も守るだろう。
ゲームセンターでのことが嘘のようだ。
「お兄ちゃんって明日もいる?」
「うん。俺は明日もいるから遠慮しないできていいよ。」
俺の言葉を聞いて、柚子ちゃんの表情は笑顔になる。
こうして柚子ちゃんを見ると確かに可愛いな。
やっぱりこの子は暗い顔よりも笑顔が似合うと思う。
出会った時みたいなふくれっ面も良かったけど、やっぱり笑顔が彼女には1番だと個人的には思う。
その笑顔が見れただけでも今日誘った甲斐があったな。
「じゃあね、お兄ちゃん。また明日遊ぼうね。」
「うん。俺も明日は楽しみに待ってるから。」
笑顔で手を振りながら遠ざかって行く柚子ちゃんを眺め、俺は店内に戻った。
「健一にしては珍しいじゃないか。人をここに連れてくるなんて。」
「たんなる気まぐれだよ。たまたまゲームセンターに行ったときに目に入ったから連れてきただけだ。それ以上でも以下でもない。」
「それにしてはずいぶん仲がよかったじゃんか。ナンパ成功ってことか?」
「なっ、ナンパ?」
「どう考えたってそうだろう?ゲームセンターで女の子に声かけて一緒に遊んで。今日の行いがナンパ以外の何になるって言うんだ?」
成る程。第3者視点から見ると俺の行いがそんな風に見えるのか。
やばい、考えただけでも顔が熱くなってきた。
俺は今日何をやっているんだ。
熱くなってくる顔を抑え、佐伯さんの方を横目で見ると彼女はお腹を抱えて笑っていた。
この人は絶対俺で遊んでいるだろう。
「それにしても、あの子すごかったな。この店に来た時あんなに投げれると思わなかったよ。」
しみじみと言う叔父さんはどこか感慨深げな表情をしている。
俺も柚子ちゃんがここまでうまくなるとは全く思わなかったから今日の柚子ちゃんには驚きっぱなしだ。
「このまま投げ続ければ、あいつらにも勝てるんじゃないのか?」
「無理ですよ。もうあの人達はプロですよ。まずここに来ることがないでしょう。」
「いや、呼べば来るんじゃないのか?佐伯ならあいつらの電話番号知ってるだろう。」
そう話を向けられた佐伯さんは非常に嫌そうな顔をしていた。
さっきまでお腹を抱えて笑っていたのにいつの間にそんな顔になったのだろう。
この人も意外と喜怒哀楽が激しい人だな。
「なんで私があいつらに連絡を取らないと行けないんだ。私は絶対に取らないから。それにあいつらだって忙しいから電話しても迷惑なだけだろう。」
「でも連絡すれば戸田さんならすぐに来ると思いますけど……戸田さんって佐伯さんのこと好きなんだし。」
「あいつの名前は死んでも私の前に出すな。」
俺が戸田さんの名前を出すと佐伯さんは危機迫る顔で俺の方に迫ってきた。
そんなに戸田さんのことが嫌いなんだろうか。
俺が見てた限りではそんな風には見えなかったけど。
「まぁ、あいつは佐伯にべた惚れだったからな。」
「どうだか。戸田のことなんだからどうせその辺の子にでも同じことを言ってるに決まってる。」
楽しそうに笑う叔父さんとは対照的に、ぶっきらぼうな態度を取る佐伯さん。
でも、佐伯さんと戸田さんってそんな仲が悪くはなかったはずだけどな。
一体どうして佐伯さんは戸田さんのことをそんなに嫌悪しているのだろう?
佐伯さんを見ながらふとそんな疑問を俺は思っていた。
「そういえば健一、今日の柚子ちゃんのゲーム代お前の給料から引いておくからな。」
「わかってます。大丈夫です。」
どうでもいいことだけど、やっぱりこのことは忘れていなかったのね。
できれば忘れててほしかったな。
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