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5話からの続きになります。
おまたせしました。
「成る程。それでこの女の子を誘拐したわけか、このロリコン野郎!!」
「健一。俺はお前をこんな風に育てた覚えはないぞ。どうせ誘拐するなら、もっと大学生ぐらいのおっぱいが大きいお姉さまを誘拐しろ。」
「俺は誘拐も何もしてないって言ってるでしょ。ここにただダーツやりたい女の子を連れてきただけだ。それと叔父さん、自分の欲望をさりげなくまぜないで。」
「健一!!これは欲望ではない。人間が子孫を繁栄させるために必要な本能そのものだ!!」
「そんな本能があるならどっかに捨てて行け。この変態がぁぁぁぁぁ~~~。」
店に来て早々魂の慟哭のような叫びを上げて俺は大きなため息をついた。
あれから柚子ちゃんを俺の叔父さんが経営しているダーツ&ビリヤード店に連れてきたが、この状況に到るまで本当に大変だった。
何が大変だったかってさ……まず入った瞬間ダーツの矢が飛んできて俺の左目数センチという所に刺さるんだよ。
もう右に数センチずれていたら眼球というブルに直撃だったよ。
これは、俺に軽いトラウマをあたえる恐怖体験だった。
ちなみにダーツの矢は人に当たると危ないからよい子の皆も悪いこの皆も絶対にまねをしないでね。
誰が投げたのかって辺りを見ると、カウンターの方で佐伯さんが舌打ちして「あと数センチ右なら……」と聞こえたのは俺の気のせいだろう。
その後出入り禁止の俺に対して、佐伯さんに散々怒られた。
どれくらい怒られたかだって?
多分Mの人が言葉攻めだけで、身震いするぐらい気持ちよくなるぐらいの罵声を浴びたと俺は自負している。
ちなみに俺はMというわけではないので、全く気持ち良くなかった。
そんなMの人大歓喜の状況も後ろからひょっこり出てきた柚子ちゃんを佐伯さんが見たことで状況が一変した。
何が変わったって?
佐伯さんはまず柚子ちゃんをを自分の所へ引き寄せ、俺をロリコンだの性犯罪者だの罵り始めた。
さっきよりは口撃の威力は弱まっているが、完全にドン引いているのが聞いているこちらにも伝わってくる。
それはもう、さっきの怒っているのとは違い、本当に犯罪者を説得しているような口上だったから俺は余計にそう思ってしまう。
誤解を解こう一歩近づくと一歩離れるし。
どれだけ俺は信用がないのだろう。
そして、ゆっくりと店の電話に手をかけて1…1…0…ってこの人何警察呼ぼうとしてるんですか!!
それを慌てて俺が止めるが、俺が柚子ちゃんと出会った経緯や事情を話そうにも、ロリコンや性犯罪者等無実の罪を着せられているため聞く耳を持ってくれない。
騒ぎを聞きつけた叔父さんがきたと思ったら、「お前はそんなの趣味だったのか。俺はお前には失望したぞ。」と意味もなく悲しんだりしていた。
本当ここの店の店員にはまともなやつはいないと思う。
もちろん俺以外はね。
……お前もまともじゃないという意見は絶対に受け付けないんだからね。
ちなみに佐伯さん達には俺が誤解だとか、ダーツ友達だ、と言っても全く聞き入れてくれないのでどう説明しようか本当に悩んだ。
そして先ほどやっと柚子ちゃん本人が事情を説明してくれて、俺の誤解が解けた。
「健一にそんな趣味があったとは……お姉さんは失望したよ。」
その後にこの発言である。
これだけ俺が説明を行っているのにいまだに俺をロリコンだと思っている。
全く持ってこの人達が何を思っているのかわからない。
「で、ロリコンさん。彼女はダーツやりたいといってるがお金はあるの?見た所学生さんみたいだけど??」
「いや、お金は無いみたいですよ。だからお金なら俺が出します。後、そのロリコンさんはやめてくれます?俺が年下大好きだと思われるので。」
「あのどけちで有名なロリコンさんがお金を出すとは……お姉さん開いた口が塞がらないよ。休日のバイトの時お金を使いたくないからって家からカップラーメンを持ってきてまで、お昼をケチっているのに。」
「悪かったですね。お昼にカップラーメンを持ってきて食べてて。」
後、お昼をケチっていたわけじゃなくて節約してたんだよ。節約。
後関係ないけど、ケチって言うとすごく悪いイメージだけど、節約っていうとすごくいい響きだね。
何で同じような意味なのにこんなに違うんだろう?
不思議だな。
「後、そのロリコンさんってやめて貰えませんか?俺がいつロリコンになりました?」
そして重要なので同じことを2度言った。
俺の尊厳にかかわることなので2度言った。
後悔はしていない。
「正真証明今現在進行中でなっているけど……何か問題はある?」
佐伯さんの冷たい目線が俺の方へ向けられる。
何で何も悪いことをしていないのに、俺が怒られなくてはならない。
こういうときはささやかながらの反論をするべきだろう。
この人たちは柚子ちゃんの実際の年齢を知らないからロリコン呼ばわりするのだ。
彼女の実際の年齢を聞けば、きっと俺のことをロリコンと呼ばなくなるはずだ。
そうに違いない。
「佐伯さん達は知らないようだけど……柚子ちゃんは中学3年生らしいですよ。この事実を聞いてもあなたはまだロリコンと言えますか?」
決定的な事実を佐伯さんに突き付けた俺は多分その時ドヤ顔だっただろう。
自分で言うのもなんだがしてやった感はあった。
「成る程。合法ロリということか……健一も法をかいくぐる術を身につけたんだな……私、尚更軽蔑をしたよ。」
佐伯さんの冷たい視線がさらに強くなる。
一体俺は何をしたんだろう。
何故か余計な地雷を踏んでしまった気がしてならない。
俺が何か弁解の言葉を言おうとする前に、先程までダーツを投げていた柚子ちゃんがこちらに戻ってきた。
ちなみに柚子ちゃんは冗談でなく本当に中学3年生らしい。
俺もびっくりした。
始めは制服着ているし中学1年生ぐらいだと思っていたわ。
まぁ、小さいし子供っぽいしそういう風に言うのも無理はないと思う。
しかも話によると俺が通う高校の附属ということも判明している。
いやぁ~世間ってせまいですね、本当に。
俺が通う高校は、中高大の一貫性の高校である。
基本的に皆高校から入学をしてくるため、高校では外部受験組とエスカレーター組の2つに分類されている。
その割にクラス編成は、外部組とエスカレーター組関係なくクラス編成されるため、友達のいない外部組にとっては友達を作るのに結構苦労を強いられる。
ちなみに俺も達也も外部組である。
そのため現在でも友達が達也ぐらいしかいない。
達也は友達がいっぱいいるのに俺は1人しかいないって世の中って本当に不公平だな。
まぁでも達也がいなかったら俺はぼっち確定だっただろうから奴には感謝をしているが……。
えっ、もうすでにボッチだろうって?
いやいや、俺の周りには空気や窒素や二酸化炭素が周りにあるから1人じゃないよ。
すいません。調子に乗りました。
「お兄ちゃん、ここにある台って全部LIVE2なの?」
「そうだよ。叔父さんが新しい台にこだわっていてね。最近新作台が揃ったんだよ。」
そういうと、柚子ちゃんは目を輝かせながら台の方を見た。
幸い現在お客さんは皆無に近い。ビリヤードやってる人はいるが、ダーツは全くといっていいほどいない。
「あそこの1番右の台が投げ放題でお金を入れなくても投げられるからやってきな。」
「うん。ありがとう。お兄ちゃん。」
そういい、満面の笑みで柚子ちゃんは台の方に向かった。
「それにしてもどの様な風の吹きまわしだ?健一が友達を、しかも年下の女の子を連れてくるなんて。」
ボタンを操作し、楽しそうにダーツの矢を持っている柚子ちゃんを見ながら佐伯さんはいう。
「何の話ですか?」
「とぼけんな。人と関わり合いを一切もとうとしない、ボッチの健一君が友人を、しかも可愛い年下の女の子を連れてくるとは天変地位でも起こっても不思議じゃないよ。明日の天気予報はあられのちのち雷雨って言っても私は信じるよ。」
「どれだけ珍しいんですか。ダーツがやりたいって言ったから連れてきたまでです。それ以上でもそれ以下でもないですよ。」
いぶかしげな表情をこちらに向けてくる佐伯さんを無視しながら俺は柚子ちゃんの第1投目を見る。
どうやらさっきまで表情をしていた佐伯さんも柚子ちゃんの1投目を見て驚いているようだ。
それはそうだろう。俺もゲームセンターで彼女を見た時は内心驚いたからね。
「彼女は左利きなのか?」
「そうです。柚子ちゃんは左で投げるんですよ。」
基本的にダーツを投げる人の中で左利きの人はそう多くはいない。
基本は右手で投げる人の方が圧倒的に多いからだ。
これは野球で左投手が重宝されるのと同じことで、利き手が右ききの人が多いためこうなってしまう。
やはり、左利きと言うのはどこに行っても重宝されている。
「成る程。ただのナンパでないことがわかったよ、ロリコンさん。」
「ナンパじゃないし、俺はロリコンでもありません。」
どうしてここの人はみんな俺がロリコンっていうのだろう。
全く誤解にも程がある。
某バスケット小説で「やっぱり小学生は最高だぜ。」と言っていたが柚子ちゃんは中学生だし当てはまらないと思う。
まぁ柚子ちゃんの今の姿を見ていると「やっぱり中学生は最高だぜ。」と心の中で思ってしまった自分がいるがな。
いかんいかん。犯罪の匂いがしてきたから、少し自重しよう。
「簡単に言うと、ほっとけなかったわけなんだな。柚子ちゃんは健一に似ているし。」
「似てないから。あんな可愛い女の子と俺の何所が似ているんですか。」
「本人は気づかないだけで周りは気づいているよ。叔父さんとか特にそうじゃないのか?」
そういう叔父さんも柚子ちゃんの投げっぷりを見ていて、何かを思っているようだった。
はたから見る何か感慨深く柚子ちゃんを見ているが何でだろう。
「でもこれで健一がロリコンにはしる理由がわかったよ。」
「だから、俺はロリコンじゃないって。」
こんなやり取りをしていると、1ゲーム目を終えた柚子ちゃんがこちらに戻ってきた。
「1ゲーム終わったよ。お兄ちゃんどうだった?ちゃんと言われたこと意識してやったんだけど。」
「うん。ちゃんと見てたけどよく出来てると思うよ。柚子ちゃんって結構うまいね。もう少しさっき言ったことを意識して投げれば前よりも思った所に投げられると思うよ。」
「うん。お兄ちゃんもっと色々教えて。柚子いっぱいうまくなりたいんだ。」
そう、満面の笑みで答える柚子ちゃんをみて俺は微笑ましくおもっていた。
『------もっと教えて。絶対うまくなるからさ。』
ふと、自分の昔を思い出しクスクスと笑ってしまう。
昔の俺も、こんな風だったんだなと思う。
ただ純粋にダーツがうまくなりたかったんだなと。
「お兄ちゃんなに笑ってんの?」
「いや、なんでもないよ。ちょっと考え事をしていただけだから。」
じとっとした目で見る柚子ちゃんを見てて慌てて笑いを抑える俺であった。
「お兄ちゃんは一緒にやんないの?」
「今日はいいかなって思って。柚子ちゃんの投げてる所が見られればいいかなって思ってる。」
俺がそういうと、落胆した顔を見せる柚子ちゃん。
まだ出会ってまもないが、こうしてころころ表情を変える柚子ちゃんがとても可愛らしい。
その感情は恋愛というよりは、父が我が子を見るような愛情に似ている。
「わかった。じゃあ少しだけならいいよ。」
「本当!!じゃあ早くやろう!!」
そういうと、柚子ちゃんはダーツの台の方に向かい、2人プレー用の操作を始めた。
「いいのか?。」
「別に何か問題でもあるんですか?」
「いや、別に。くれぐれも本気は出さない様に。お前が本気でやったら、誰も勝てないんだから。」
「わかってるよ。」
「お兄ちゃん、早く。もうやるよ。」
「わかったから。今いくからちょっと待ってて。」
そういうと俺は、カウンターにおいてあるダーツの矢を右手で持ち、柚子ちゃんの方へ向かった。
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