6 side 柚子
今回は柚子視点のお話です。
「お小遣い今月から無しってどういうこと!!」
母の無情なる言葉に私は言葉を荒げた。
今までは月3000円のお小遣いと家のお手伝いで手に入れた、わずかながらのお金でダーツを楽しんでたのにお小遣いが貰えないとはどういうことなのだろうか。
母の口からいきなりこんなことを言われるなんて思わなかった。
バイトのできない私にとって月のお小遣いがどれだけ大切なのか、母は全くわかっていない。
「お姉ちゃんは貰ってるのに何で柚子はもらえないの。そんなのずるいよ。えこひいきだよ。」
姉はちゃっかりと母からお小遣いを貰っていることにあたしは理不尽さしか感じられない。
しかも姉は母の手伝いもしていないのに毎月5000円ももらっている。
姉はバイトも出来る年齢なのに、お小遣いまでもらえて、その上あたしよりもお小遣いの額が高いとかどう考えても贔屓なのではないだろうか。
「柚子、お姉ちゃんは今バイトを探してるんだからそれまでの間だけよ。ちゃんとバイトし始めたら、お小遣い分は家に入れてもらうから。」
母の言葉を聞きこっちを見ていた姉が驚いた顔をする。
その顔を見るにたぶん、これからもバイトをする気はなんだろうな。
姉のことだから高校にいる間は絶対にバイトなんかしないだろう。
「じゃあ、柚子バイトする。バイトしてお金も家に入れるから。」
「だめよ、柚子はまだ中学生でしょ。バイトはまだまだ先よ。それより柚子、あなた最近ゲームセンターに毎日いってるらしいじゃない。」
母の言葉にあたしはドキリとしてしまう。
確かにあたしは、ここ数ヶ月は暇な時はゲームセンターでダーツをやっている。
誰にもばれないようにして通っていたのになぜ母が知っていたのだろう。
「でも……それは友達とプリクラを取るから行ってるだけで……。」
「嘘おっしゃい。宮永さん家のお母さんが、柚子が1人で入って行くとこを見たって言ってたわよ。」
しまった。お母さんのママ友に見られていたのか。
まさか、あそこに入るのを見られているとは思わなかった。
「確かにたまに複数人で行くならありえるからお母さん何も言わないけど、1人で毎日行ってるって話し聞いたら非行にはしってるとしか思えないわ。」
正直かなりの誤解なのだか、1人で行っているので、言い訳はできない。
ゲームセンターは昔と違い、不良の溜まり場というイメージから払拭されつつある。
昔は暗い店内にたばこの煙がもくもくと出ていて汚いイメージだが、現在は店内は明るく内装はオシャレできれいな清潔感のある空間になってきているので、別に女の子が1人で行っていても特におかしいところはない。
だが、母親にとっては昔のイメージが強いのだろう。それなら女の子が1人で入るのはおかしいと思われてもしょうがないかもしれない。
「だから、暫くお小遣いはなし。少しは反省しなさい。」
母の言葉にあたしはむくれてしまう。これでしばらくはまともにダーツを楽しむことができなくなってしまう。
私は俯いたまま、二階の自室に向かう。
自室の扉を開けると私は自分の布団にダイブし、布団にもぐりこんだ。
今年に入ってから、あたしは良いことが一つもない。
姉は高校に入学してから、全く遊んでくれなくなりつまらないし、母のせいで趣味でやり始めたダーツも出来ない。
こんな辛いことってあるのだろうか。大好きなはずの姉は一切構ってくれず、母には怒られ散々だ。
「柚子いる?お姉ちゃんだよ。ドアを開けてくれないかな?」
「開いてるよ。」
ガチャッという音とともにドアが開き、姉が部屋に入ってきた。
姉はあたしにとっては自慢の姉だ。
ふわふわな髪の優しい目をしていて、誰に対しても優しい性格。
釣り目でいつもつっけんどんとしているあたしとは対照的だった。
姉は頭がよく、勉強もできるし、いつも一生懸命でがんばりやさん。
運動が苦手なことが弱点だが、それすらも姉の魅力だと思う。
「柚子、こっち向いてくれないかな?」
「わかった。」
姉の方を振り向くと、姉は可愛いうさぎの上下おそろいのパジャマを着ていた。
可愛い姉にはぴったりの寝巻だと思う。いつもジャージ姿のあたしとは対照的だ。
「柚子ってさ、毎日ゲームセンターで何やってるの?」
「なにしてたっていいじゃん。それは柚子の勝手でしょ。」
「柚子!!」
姉の顔を見るとどこか少し怒っているように見える。
こんな顔をした姉を見るのは初めてかもしれない。
「ゲームセンターは怖い人達がいっぱいいるんだから、1人でいったらだめでしょ。」
「お姉ちゃんだって、よくゲームセンターに行くじゃん。」
「私は、友達とみんなで行ってるから大丈夫なの。」
何故か姉の話を聞いていてあたしは腹が立っていた。
昔はよく色々な所に連れて行ってくれたのに、今はどこにも連れて行ってくれない。
その割には自分は好きな所に遊びに行って、友達と楽しんでいる。
それがあたしには何故か腹立たしかった。
「だったらお姉ちゃんが連れて行ってくれればいいじゃん。友達とばっかり遊びに行かないでたまには柚子と遊んでよ。」
「だったら柚子だって友達と遊びに行けばいいじゃない。」
あたしだって友達はいる。友達と遊ぶことだって時々ある。
でも、放課後になると皆部活動に行ってしまって遊ぶところではない。
あたしの学校は中学高校大学と一貫性の所に通っているのでよっぽどの人ではないと受験というものがない。
そのため、普通は7月の大会で部活は終わってしまうが、そのまま部活を続ける人が多数である。
そのため、あたしはほとんど友達とどこかに遊びに行ったことがない。
「皆部活で忙しいんだよ。お姉ちゃんこそ最近男の人とよく遊びに行ってるじゃん。」
お姉ちゃんが最近飛鳥さんと同じ高校の男の人とよく遊んでいることは知っている。
4人で一緒に帰っているところをあたしは目撃しているのだから間違いはない。
「どうせ高校に入って彼氏でもできて柚子とは遊べないんでしょ。幸せそうでいいよね、お姉ちゃんは。」
その言葉を言うと同時にあたしの頬に強い衝撃がはしった。
どうやら姉に殴られたらしい。
「わかってない。わかってないよ。柚子は。私が……どんな気持ちで……。」
「出てって。この部屋から出てってよ。もう柚子にかまわないで。お姉ちゃんづらしないでよ。」
いまだに居座って何かを話そうとする姉を無理やり部屋の外へ押し出し、部屋に鍵をかける。
外からは姉の「柚子、柚子」と言う声が聞こえるがあたしは無視をした。
何もかもうまくいかない。
大好きな姉にも今日のことで嫌われてしまった。
もう嫌だ。何も考えたくない。
自分の中でわだかまりをを抱えたまま、私はベッドで目をつぶった。
ご覧頂きありがとうございます。
宜しければ感想の方を頂ければうれしいです。
柚子編は2話構成で作成をしましたので次回も続きます。
今回出てこなかったあの人も登場しますのでご期待下さい。