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「君って、ダーツ好きなの?」


俺は気づいたらふくれっ面をした少女に声をかけていた。


近くで彼女の顔を見ると、少しつり上がったつり目が特徴の女の子だった。

髪はおかっぱで前髪もしっかり均等に切りそろえられている。

例えををいうと、髪の短い日本人形だろう。

背丈は150cm前後と小柄な体躯をしていて、小学生ぐらいに見える。



少女はこちらを向くと、何度かコクコクと小さい顔を縦に動かした。

こう、首を縦に振っているのを見ると本当にお人形のように見える。


「中学生だよね。えっと、お金ないの?」


再び質問をすると、少女は首を縦に振った。


何で喋らないのかがよくわからないが、彼女の今のセリフから察するに、ダーツは好きだがお金がないため空投げしかできないらしい。


「お小遣いとかはもらってないのかい。」


「前は貰ってたけど、ここにいることがばれちゃったからもらえなくなった。」


うぉっ、しゃべった。

さっきまで首しか振っていなかったから、全くしゃべらない子だと思った。


「あはは……そうなんだ。お母さんと喧嘩したの?」


「違う。お姉ちゃん。ゲームセンターに1人で行くなんて悪い子だとか言うんだもん。お姉ちゃんもよく言ってるのに。」


「お姉ちゃんって今いくつなのかな?」


「16歳。去年までは一緒に遊んでくれていたのに、友達と遊ぶのが忙しいって言ってて遊んでくれない。」


16歳ってことは高校1年生か。てか俺と同い歳じゃん。

確かに女子なら環境が変わって友人との交遊も増えるだろうなぁ~。

えっ、男子も高校に行けば、交流増えて色々な所に行くって?

そんなもの漫画やゲームの中だけだろう。

少なくとも俺はそう思っている。


でも中学生の女の子がが毎日ゲームセンターに入り浸っているともなれば流石に怒るだろうなぁ。

お姉さんが怒っているということは妹のことをよっぽど大事に思っているのだろう。

普通はお姉さんはそこまで関与しないと思うし。

これがシスコンというやつか。


「お姉ちゃんも、高校に入ったらぜんぜん遊んでくれないし。」


どうやらこの子はとても寂しいのだろう。

今まで遊んでくれていたお姉さんが急に遊んでくれなくなるのは、確かに辛い。

自分を避けているのかと思ってしまう


「で、ダーツを初めたというわけか。でも何でダーツなんかやってるの?女の子ならプリクラとかそっちに行かないかい?」


「写真なんか撮っても面白くないよ。昔お姉ちゃんとここ来た時に、ダーツやっている人がいたんだけど、凄く格好良かったんだ。

ただ、ダーツの矢を投げるだけなのにフォームとか投げるモーションが凄く格好良かった。だから私もやって見たいと思ったんだ。」


「実際やってみてすごくおもしろかったし。」と彼女は付け加えた。

こんな小さいのにダーツの魅力を分かっているのって聞いていてすごいうれしいものがある。

なんか俺ダーツやっていて良かった。


「でダーツをここで始めたと。」


「うん。」


さっきまで膨れっ面だった少女の顔がいつのまにかキラキラと輝いていた。


参ったなぁ。ここまで純粋な目をされると……。


この子を見ていると昔の自分を思い出してしまう。

初めてダーツをやっている人を見た時、凄くカッコ良いと思ってダーツを始めた自分に。

それから叔父さんの所に入り浸り、ひたすらダーツをやっていた自分。

この子に昔の自分を重ねてしまう。


この子も昔の自分と同じ様だ。


ただ真っ直ぐ、ダーツを楽しみたいと思っていた自分と。

お金がないからダーツができないか。そんなの寂しすぎるな。


俺は今、ある一つの決心を固めた。

そんなに大した決心でもないが……後で叔父さんに適当に言い訳をするか。


「そんなにダーツやりたい?」


「うん。すごくやりたい。」


すごくか。これは並大抵な想いじゃないな。


「じゃあさ、俺がバイトしている店にくるかい?ちっちゃい店だけどダーツができるし、ダーツの上手な人がいっぱいいるから教えてもらえると思うよ。」


「でも、お金がないから。」


「お金のことは気にしないで。そこはお兄さんに任せておけば大丈夫だよ。」


「でも……」


「大丈夫。何もしないから。お兄さんについてきな。」


おっと、これじゃあ犯罪者の向上だな。

この子も引いちゃうよな。


「大丈夫。もし、僕が君に変なことをしたら迷わず、警察に電話をすればいい。で、今から案内する所で他の人が何かしてこようものならお兄さんが守って上げるから。」


そういうと、俺は自分の携帯に、110と打って、少女に渡す。


なぜか目の前の少女がポカーンと口を空けてこちらを見る。

あれ?俺って何かまずいことを言ったか?


「これでいつでも通報は出来るから。俺が何かよからぬことをした場合は通報すればいい。君の名前は?」


あっけに取られていた少女は我を取り戻したのか自分の名前を話した。


「柚子。」


「柚子ちゃんか。よし、じゃあお兄さんについて来て。」


「お兄ちゃん、待って。」


「うん?どうしたんだい?柚子ちゃん?」


「お兄ちゃんの名前……柚子、まだ聞いてない。」


あぁ~そういえばまだ名乗ってなかったな。

ダーツのことしか考えていなくて忘れてたわ。


「俺のことは"けん"って読んでくれればいいから。じゃあ、行こうか。柚子ちゃん。」


「うん。」


嬉しそうに笑う柚子ちゃんを見ながら、俺はゲームセンターの外に向かって歩き始める。


この柚子ちゃんとの出会いが俺の高校生活を180度変えることになろうとは、この時の俺には夢にも思わなかった。


ご覧頂きありがとうございます。


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