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遅くなってしまい申し訳ありません。

柚子の友人である羽村茜の話です。

「ダーツですか?」


「うん、お兄ちゃんがいいって」


 文化祭が終わって数日後、私と朱里は柚子からお兄ちゃんのバイト先に行かないかと誘われていた。

 後でお礼をするとは言われていたが、バイト先に招待してくれるなんてこの時の私には思っても見なかったことである。

 

「でもなぁ、あいつ信用ならないし」


 先程から柚子の提案に難色を示しているのは朱里である。

 彼女はお兄ちゃんのことを警戒していたのでこのような対応をしてもいたしかたない。

 

「私は是非行ってみたいのですが‥‥‥‥部活の方が忙しいので‥‥‥‥」


 私と朱里は3年生で中学の部活は卒業したが、現在高校の部活動の方に参加をしている。

 私達の学校は大学までエスカレーター式なので、大体の子は中学の部活が終了すると同時に高校の部活動の方に参加をしてしまう。

 私はバレー部で朱里は空手部、毎日それぞれの部活で練習をしているため、お互いに中々時間が取れない。

 

「じゃあ、そのうち?」


「そうですね」


 悲しそうな柚子の顔を見て心苦しく思いながらこの話しは一旦終わった。

 このお兄ちゃんのバイト先に行くという話が進展したのは11月の中旬頃。

 その日は私と朱里のお互いの部活がたまたま休みだったときである。

 

「じゃあ、今度の休みの日に駅前で待ってる」


「わかりました」


 この日も教室で嫌そうな顔をしている朱里を私と柚子で説得し、無事お兄ちゃんのバイト先に行く事となった。

 今から行くことを考えただけでも私はわくわくしてしまう。

 

「それにしてもあいつのバイトしている風景なんか想像つかないんだけど」


「そういえば‥‥‥‥私もです」


 確かにあの風貌のお兄ちゃんがダーツのお店でバイトしている所が思い浮かばない。

 やっていてもコンビニのレジ打ちや食品加工の品出しをしている所ばかり思い浮かべてしまう。

 だから柚子からダーツが出来るお店にいることを聞いたときは驚いた。

 接客業は向かないと思っていたのだが、そうではないらしい。

 

「お兄ちゃん格好いい」


「はいはい、そうだねそうだね」


 朱里が柚子の話を適当に流しこの話は終了した。

 


☆★☆★



 それから数日後の部活が休みの日、私と朱里はお兄ちゃんのバイト先の最寄り駅で柚子を待っていた。

 お兄ちゃんのバイト先までの場所がわからないので柚子が迎えに来てくれる手筈になっている。

 

「それにしても柚子の奴遅いなぁ」


「まだ、待ち合わせ時間まで結構ありますよ」


 せかす朱里を私はたしなめる。

 現在の時刻は14時15分、柚子との待ち合わせが30分なので、まだ時間に余裕がある。

 こうして時間を気にしてるのだから、なんだかんだ言って朱里もこの日を楽しみにしているんだなとこの時思った。

 

「朱里ちゃんに茜ちゃん?」


 声が聞こえた方向を振り向くといつの間にか柚子がこちらを向いて首をひねっていた。

 

「柚子、いつの間にいたんだよ?」


「さっき来た」


 どうやら柚子も丁度到着したらしい。

 このような神出鬼没な所も柚子らしい。

 

「案内する」


「じゃあお願いしますね」


 一言そういうと私達は柚子の後ろについてお兄ちゃんがバイトしているというダーツのお店に向かう。

 駅から歩いて15分ぐらいたった頃、お兄ちゃんのバイト先と思われるお店に到着した。

 道中柚子と朱里と3人でお話をしていたのでここまで来るのにそこまで時間を感じることはなかった。

 

「それにしてもなぁ」


「なんか大人のお店って感じですね」


 朱里と私はお兄ちゃんのバイト先を見て同じことを思ったのだろう。

 私達の眼前にたたずむ建物は、見た目は薄暗い雰囲気のお店で大人の人達が出入りしてそうな所である。

 

「柚子、本当にここがお兄ちゃんのバイト先なんですか?」


「うん」


 私の質問に柚子は自信満々に回答した。

 

「どう考えたってあいつに合わないだろ?」


 朱里のつぶやきに私も思わず心のそこで同意してしまう。

 確かにあのお兄ちゃんの雰囲気には少しそぐわない気がする。

 

「入る」


 柚子がそういうとお店のドアを開け中へと入っていく。

 私と朱里も柚子の後に続いてドアをくぐった。

 ドアを開くと同時に鳴る小気味いいカランコロンという鐘の音が店内に鳴り響く。

 

「いらっしゃいませ。お客様は‥‥‥‥って柚子ちゃんか」


 私達を出迎えてくれる男の人を見て私と朱里は固まった。

 なぜかというとその人が想像以上に格好良かったからだ。

 柔らかめのワックスで整えられたふわふわヘアーが特徴的で見るからに優しそうな男性だった。

 

「友達連れてきた」


「友達‥‥‥‥そっか、今日来るって言ってたもんね」


 そういうと男の人がこちらに目線を向けてくる。

 格好良く見える男の人と目を合わせただけで私は緊張してしまう。

 

「はっ、初めまして。私は柚子の友達の羽村茜と申します」


 緊張して最初に少し噛んでしまった。

 何たる失態。

 

「あぁ、羽村さんか。今日は宜しくね」


「はい」


 男の人が笑った顔が私には一段と格好良く見えた。


「それじゃあ3人は奥のテーブルで待ってて。羽村さんと水谷さんのためにハウスダーツも用意してあるからそれ取ってくるね」


「わかりました。わざわざありがとうございます」


「私も手伝う」


 そういうと苦笑い気味の男の人と柚子はカウンターの方へと向かっていった。

 私と朱里は男の人の言う通り、奥のテーブルの席で2人を待つ。

 

「なんかなぁ~~」


「朱里、どうかしましたか?」


 私の隣には首をかしげて難しい顔をする朱里の顔があった。

 

「なんであいつがわたしのことを知ってるんだ?」


「そういえばそうですね」


 あの男性とは今日初対面のはずである。

 自己紹介をした私はともかく朱里のことは知らないはずだ。


「それに、なんかあの顔見たことある気がするんだよな」


「朱里の勘違いじゃありませんか?」


「いや、あの顔は最近どこかで‥‥」


「お待たせ。ハウスダーツ持ってきたよ」


 そんなことを話しているとさっきの男の人と柚子が私達の方に歩いてきた。

 その手には私達用と思われるハウスダーツを持っている。

 

「まぁ、柚子が紹介したってことも考えられるのでなんともいえませんね」


「そんなもんなのかな?」


 私達はそんな疑問を持ちながら柚子と男の人を迎えた。

 男の人がドリンクを持ってきてくれると言っていたので、あつかましいと思いながらもそれぞれの飲み物を注文した。

 彼は私達のドリンクの注文を取ると再びカウンターの方へと戻っていく。

 よく見てみると先程からカウンターの側にいた柚子のお姉さんが戻ってきた男の人となにやら話しているのが見えた。

 

「柚子のお姉さんとあの男の人、仲がよさそうですね」


「まぁ、お姉さんもよくここに出入りしているっていってたしな。もしかして‥‥‥‥茜はやいてるのか?」


「べっ、別にそんなんじゃないです」


「ほれほれ、正直に言ってみろ」


 私のことをニヤニヤ見ながら朱里はからかってくる。

 

「茜ちゃん、お兄ちゃんのこと好きなの?」


「私はあの人のことなんかなんとも思ってなくて‥‥‥‥お兄ちゃん?」


 柚子が言ったお兄ちゃんといったワードが頭に引っかかった。

 

「柚子、お兄ちゃんって‥‥」


「ごめんごめん、ドリンク持ってきたよ」


 私が柚子に話を聞こうとした所に男の人がやってきた。

 そのため私の質問もお預けだ。

 

「じゃあダーツをやろうか。今日はカウントアップってゲームをやろうと思うんだけどどうかな?」


「カウントアップ?」


 そう言われると私達は首を傾げてしまう。

 特に私と朱里はダーツ初心者なので言われてもそこまでピンとこない。

 

「そういえば2人は初めてだから簡単にカウントアップについて説明をするね」


 そういい、男の人はカウントアップというゲームを説明してくれた。

 彼の言葉を要約すると8ラウンド投げた点数の合計を競うのがカウントアップらしい。

 初心者にはお勧めのもので、練習には丁度いいゲームみたいだ。

 

「それじゃあ始めようか」


 男の人の合図とともにカウントアップのゲームが始まった。

 1番手は柚子だが彼女のダーツの上手さは私達とは次元が違っていた。

 1投目、2投目とブルに入り、3投目も20のシングルに入る。


「柚子ちゃん、ナイロー」


 男の人が柚子をほめる声が聞こえる。

 その声を聞いて柚子もどこか誇らしげにこちらに戻ってくる。

 

「練習通りにちゃんと出来てるね」


「お兄ちゃんの言う通りに投げてるから」


 柚子はそういうと男の人と話している。


「次は私だ。柚子に続くぞ」


 意気揚々と向かっていくのは朱里である。

 ハウスダーツを持ち柚子と入れ替わりにスローイングラインに立つ。

 

「やぁ」


 短い掛け声と同時に投げられた1投目は見事にブルに命中した。

 

「よし」


 私からは朱里が小さくガッツポーズする姿が見えた。


「水谷さんナイワン」


「朱里ちゃん、ナイワン」


 2人もブルを捕らえた朱里のことをほめていた。

 その後は2投目と3投目ともに12のシングル、1のシングルに入り朱里の番は終わる。

 こうして最後に来たのは私の番である。

 

「茜ちゃんかんばって」


 柚子の応援が今の私にとっては逆にプレッシャーになる。

 ここまで2人がブルに矢が当たっているので私もなんとしてもそこに当てないといけない。

 私はスローイングラインに立つがどうしても的までの距離が遠く感じてしまう。

 そう思いながら投げた私の1投目は‥‥。

 

「あっ」


 私もびっくりしたと思うが、後ろの3人はもっとびっくりしただろう。

 1投目はダーツ盤とはあらぬ方向に投げてしまった。

 そのことに動揺しての2投目、3投目もブルを捉えることが出来ない。

 

「ドンマイ。まだ次があるよ」


 落ち込んで戻ってくる私に男の人は励ましの声をかけてくれる。

 それだけが私の救いであった。

 その後も私の調子は一向に上がらない。

 毎回当たり前のようにブルに当たる柚子はもちろんのこと朱里も時々ではあるがブルに矢が当たっている。

 それに比べて自分はまだブルに1回も矢が当たっていない。

 5ラウンド目、落ち込みながらスローイングラインに向かう私。

 投げようとするその手を後ろから誰かにつかまれてしまう。

 

「羽村さんは投げる時に肘が動くから動かないように投げてみな」


 そういう男の人は私の手を取り、簡単に投げ方をレクチャーしてくれた。

 後ろから急に手を捕まれた私はドキドキである。

 顔が真っ赤になっていないか少し心配になった。

 

「それと体に力が入りすぎているから、もう少しリラックスしな」


「リラックス?」


「そうそう、1回う~~んと背伸びをすれば力が抜けるよ」


 私は男の人にの伸びに合わせて、1回伸びをしてみた。

 確かに少しは力が抜けた気がする。

 

「グリーピングは羽村さんできてると思うから、今言ったことを守ってもう1度投げてみて」


「わかりました。ありがとうございます」


 戻ってく男の人にお礼をいい再び的を見る。

 

「肘を下げない‥‥‥‥リラックス」


 私はそのことを自分に言い聞かせ投げた1投目は20のシングルに当たる。

 

「惜しいよ。横のラインはあってるから今の感じで」


 そうアドバイスをもらった2投目は3のシングルにいく。

 そして3投目、私の投げた矢は真っ直ぐ中央に飛んで行き見事にブルに命中した。

 

「「「ナイワン」」」


 当たったという感覚と同時に私は舞い上がってしまう。

 それほどブルに当たったのはうれしかった。

 

「やっ、やりました」


 笑顔で戻る私をみんなが迎えてくれた。

 

「今の感じは結構よかったよ。この調子でこの後も続けてみてね」


「はい」


 そういい、私達はカウントアップを続行する。

 結局1ゲーム目は柚子の圧勝で終わり、2位は朱里で3位の私はダントツのビリであった。

 だが、8ラウンド目もブルに当てることが出来たので、先程よりはコツを掴んだように思える。

 

「じゃあ、もう1回やろうか」


 男の人の声に私達3人は全員頷く。

 今日初めてあったがこの人は本当にいい人に思える。

 

「待って、私もやるから」


 男の人の後ろから出てきたのは、柚子のお姉さんである雪菜さんだ。

 先程までカウンターで学園祭にも来ていた女の人と話していたけどこちらの方にきたらしい。

 

「雪菜か。どうしたの?」


「健一君達ばっかりダーツやってるのずるいよ。私もやる」


「やるっていっても俺達も今始めたばかりなんだけど‥‥」


 そういうと男の人は苦笑いを見せる。

 それよりも先程雪菜さんが発した『健一君』って言葉が私の頭に妙に引っかかった。

 

「あぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 大きな声で男の人に指を指しながら驚いているのは朱里である。

 

「朱里、どうしましたか? そんな大声で?」


「こいつ、どこかで見たと思ったら健一お兄ちゃんだよ。ほら、学園祭に来てた」


「そうですか?」


 よく見てみると確かに面影は健一お兄ちゃんの様な気もするが、どうにも違う気がする。

 雰囲気はともかく見てくれはあの人とは大分違う。

 

「朱里、そんなはずはありませんよ。健一お兄ちゃんは後から来るはずじゃ‥‥」


「いや、俺がその健一だけど‥‥」


「えっ?」


 私は男の人に向かって今どんな表情を見せているのだろう。

 きっととんでもなく驚いた表情を見せていると思う。

 

「いやいや、そんなはずは‥‥」


「茜ちゃん、これお兄ちゃんだよ」


 柚子はどうやらこの人が初めから健一お兄ちゃんだと言うことがわかっていたらしい。

 ということは私は先程からお兄ちゃん相手にあんなことやこんなことを想像していて‥‥。

 そう思っていたら急に恥ずかしくなってきた。

 

「あれ? 俺2人に自己紹介してなかったっけ? 2人共俺のこと知ってるとばかり思ってたんだけど」


 そこでついに私の中の何かが切れてしまった。


「えぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 その叫び声は店内どころか近くのご近所にまで響き渡っていたらしい。

 



☆★☆★




「今日はありがとうございました」


「また、遊びに来るからな」


 私は健一お兄ちゃんに対して深々とお礼を言った。

 あの後、私の混乱が収まり雪菜さんも含めて5人でダーツをした。

 このお店のソフトダーツは4人までしかできないので、お兄ちゃんは私達がやっていることを外から見て色々とアドバイスをしてくれた。

 

「別にいいよ。いつものことだし」


「でも、ダーツの代金大丈夫なんですか? 本当に立て替えてもらっても?」


「それも任せて。俺バイト代結構稼いでいるから」


「そういえば健一君、全然使っていないもんね」


「雪菜はそろそろ自分の料金ぐらい払ってよ。もう高校生なんだから」


「柚子は?」


「柚子ちゃんは全然いいよ」


「何で柚子にはそんなに甘いの?」


 お兄ちゃんの横にいた雪菜さんと健一お兄ちゃんがなにやら口喧嘩を始めてしまった。

 でも、こうしてはたから眺めていると2人共楽しそうである。

 

「それでは私達はこれで帰ります。今日はありがとうございました」


「送らなくて大丈夫?」


「私達は大丈夫です。ここまでの道も覚えましたから」


 私は不安そうな柚子に優しく言った。

 

「じゃあ、また遊びに来てね」


「また一緒に遊ぼうね」


「学校で」


 3者3様の別れの言葉をもらい私と朱里は駅へと向かう。


「本当にいいのか?」


 駅へ向かう途中の道で朱里が私にそう話しかけてきた。

 

「何がですか?」


「あいつのことだよ。始めの方は茜あいつにお熱だっただろ?」


 朱里が気にかけているのはお兄ちゃんのことだろう。

 お兄ちゃんのことに関して私は特に何も思うことはない。

 

「全然です。それよりも柚子とお兄ちゃんすごく仲がよかったですね。私びっくりしました」


「茜‥‥」


 何やら朱里が悲しい表情をうかべているが彼女が気にすることはない。

 これは私の問題であるのだから。

 

「それよりも、今日は楽しかったです。また行きたいですね」


「あぁ、そうだな」


 朱里も何かを察して元通りに戻ってくれたようだ。

 そうしてくれるのが今は非常にありがたい。

 

「茜、帰りは何か食べて帰るか?」


「そうですね。ファーストフードで少しおしゃべりして帰りましょうか」


「それなら地元の駅前にいい店があるんだよ。そこにしない?」


「じゃあそこにしましょうか」


「そうと決まればレッツゴー」


 こうして私と朱里の長い1日は終わりを迎えた。

 色々と感じることが多かった今日この日の出来事を私は生涯忘れることはないだろう。



ご覧いただきありがとうございます。


感想をいただければうれしいです。


色々と忙しくて投稿が大幅に遅れてしまいました。

申し訳ありません。

次回から4章に入りますがなるべく早く投稿の方をしようと思います。

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