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昇降口に入り柚子ちゃんと別れ雪菜と一緒にクラスへと続く階段を登っていく。
俺がナチュラルに柚子ちゃんのクラスに向かおうとしたら、腕を捕まれて俺と雪菜の教室へと無理矢理連れて行かれることになった。
俺は柚子ちゃんのクラスの手伝いがあるんだけどな。
「健一君は私達のクラスでしょ。柚子のクラスじゃなくて自分のクラスの手伝いしてよ」
「はいはい」
雪菜に適当な返事を返すが本当は教室にあまり行きたくない。
理由はただ単純にクラスメイトに会うのが嫌だという理由からだ。
一昨日みんなに犯人だと言われた時は平静を装っていたが、すごく怖かった。
あの時のことを考えると足が震えるし、反射的に手を出してしまう。
もうあんな所には1秒たりともいたくないので、クラスまで行く足が重い。
「健一君? どうしたの?」
雪菜が俺のことを見て心配している。
俺の顔は今どんな風になっているのだろうか。
青ざめている? それとも震えている? それすらも自分では認識できていない。
何かを察したのか彼女は掴んでいた腕を離し俺の手を優しく両手で包み込んでくれた。
雪菜が優しくしてくれるなんて何の冗談なのだろうかわからないが、少し心が軽くなった気がする。
「大丈夫だから。何かあっても私は健一君の見方だよ」
彼女はそういいその場で微笑んでくれていた。
その微笑みは俺が今まで見てきた中で、1番の微笑のように思える。
「別に。俺は1人でも大丈夫だよ」
彼女の言葉に俺は強がることしか出来ない。
強がる俺の方を見て彼女はクスクスと笑っていた。
多分雪菜の方も俺が強がっているのがわかるのだろう。
「じゃあ行くか」
「うん」
俺を見て相変わらず微笑む彼女の手を引き、教室の方へと歩み寄る。
階段を上り終えると俺のクラスはたくさんの人で溢れ返っていた。
「うわっ、人多っ」
「なんかあったのかな?」
2人で人垣の方へより教室の中を見ると驚きの光景が広がっていた。
教室の中央付近で達也が横山君にのしかかって馬乗りの体勢になり、宮永さんが横山君に何やら話しかけている。
その他のクラスメイト達はその3人を遠巻きに見ながら騒いでいてうるさかった。
横山君は何かを叫んでいるが何を言っているのかここからではよく聞き取れない。
ふと後ろを向いて宮永さんと話していた達也と一瞬だが視線があった。
「健一、遅いぞ。せっかく犯人を捕まえたのに」
達也の一声で教室の周りにいた人の視線が一斉に俺に向く。
俺はというと情けないがビクッと震えその場で立ちすくんでしまう。
宮永さんも俺の存在に気づいたようでこちらにずんずんと近づいてくる。
「もう、橘君は当事者なんだからこっちに来なきゃ」
宮永さんは俺の左手を引っ張り教室の中へと強引に引きずり込む。
そうすると必然的に俺の右手を掴んでいた雪菜も一緒に中へと入っていくわけで、俺と雪菜が手をつないでるのが衆人環視の中見られているわけだ。
これはやばいのではないかと俺の頭の中で警報がビンビン発信されている。
気づくと俺達は教室の真ん中へとつれてこられていた。
「そうだ、こいつだ。こいつが今日の朝クラスをめちゃめちゃにしようとしていたのを僕は止めようとして‥‥」
「まだそれを言うのかよ。健一は今までずっと家にいたはずだぞ」
達也が馬乗りしているため身動きがとれない横山君は叫び声を上げて俺が犯人だと訴えているらしい。
ちなみに昨日宮永さんからはメールで横山君が犯人である可能性が高いという話しを聞いていた。
何でも文化祭の2日間共に朝6時40分ぐらいの監視カメラの映像に彼の姿が映っていたらしい。
そのため今日は6時30分に教室に集合し、横山君が犯行をしている所を捕らえようという話になっていた。
それにしてもこの期に及んでも自分が犯人だと認めない辺りこいつは本当に救いようがないな。
クラスの人達もこんなに騒いでいるのはそのことが原因だと思う。
今まで犯人だと思っていた人以外に犯人がいたのだから戸惑うのも仕方がない。
「俺は違う。犯人じゃない」
「嘘だ。橘は嘘をついてる。俺は見たんだ。こいつがやっている所をこの目で。その証拠に昨日なかった橘の鞄がそこにあるだろ? あれはあいつが置いていったものだ」
「俺の鞄そんな所にあったのか」
横山君が指を指している方を見ると3日間放置していた鞄が椅子に置いてあった。
雪菜からは鞄がないことを昨日聞いていたので、どこにあるのか不安だったがどうやら無事だったようである。
俺は鞄の方へ行き中身を確認する。
鞄は2日前持ってきた中身がそのまま入っていて、俺が叔父さんからもらってきた交換用のチップもちゃんと入っていた。
「よかった~~」
叔父さんの所からもらってきたチップがあったことに俺はつい安堵の声を上げてしまう。
余った分は返すようにと厳命されていたので、失くしていなくて本当によかった。
「どうしたの?」
「いや、チップの折れた時の予備用にって叔父さんの所から借りてきたチップがちゃんと入ってたから‥‥‥‥」
「こんな時に健一君らしいね」
雪菜は俺の方を見て何故かあきれていた。
「これ結構重要なんだぞ。ソフトダーツのチップは折れやすいんだから。そういえばチップが折れた時ってどうしてたの?」
「えっと‥‥昨日折れた分は戸田さんからもらってたかな。その他は特には何も‥‥」
「あのね、折れたチップでダーツするのってすごく危険なんだよ。刺さりにくくなるしダーツ盤傷つくし悪いことばかりなんだからね。もうちょっと機材は丁寧に扱いなよ」
「ごめん」
まくし立てるように言うと雪菜はしゅんとして縮こまってしまう。
ちょっと言い過ぎたような気がするが、借り物だしこれぐらい言っても大丈夫かな。
「俺を無視するな~~~~~~~~~~」
「あ~~、2人の世界を壊すようで申し訳ないが、こっちの方にも集中してくれ」
雪菜と共に後ろを振り向くと怒って顔をゆがませる横山君とあきれた表情をする達也が俺等のやり取りを見ていたらしい。
唯一達也の後ろにいる宮永さんだけは雪菜の方を見てなにやら合図を送っている。
「別に2人の世界に入っていたわけじゃないから」
「ちょっと待て」
雪菜は顔を赤くしながらそんな的外れな弁解をしていた。
やめてくれ、クラスのみんなに変な誤解をされると俺が困る。
現に教室にいる人はざわざわと騒がしく話しながらこちらを見ているのでこれ以上目立ちたくない。
「悪かった。で、何だっけ?」
「お前が犯人だってことだよ」
あぁ、そうだ。そういえばそんな話だったな。
「俺は犯人じゃないよ」
「橘は証拠はあるのかい? 僕はお前の犯行を見たんだぞ。7時頃お前がここでクラスを荒らそうとしている所を」
「その時間、健一君は私と一緒にいたよ。学校もここまで一緒に来たんだもん」
横山君の挑発に反発するのは雪菜である。
確かその時間は雪菜達と一緒に俺の家を出た所だった気がするが今はそんな場合ではない。
クラス中は雪菜の発言を聞いて余計に騒がしくなる。
主に『健一君』のワードに過剰反応しているように思えた。
あいつめ、さっきといいクラスでは健一君は言わない約束だろうが。
「それに今日健一君の家で朝ごはんもご馳走になったんだもん。私達ずっと一緒にいたんだから」
雪菜の爆弾発言により教室が先程よりも一層騒がしくなる。
俺はもう恥ずかしくて一瞬だが手で顔覆ってしまう。
ダメだ、もうダメだ、これ以上はやってけない。
横山君は目を丸くし、達也は口を開いたまま呆然としている。
唯一宮永さんだけは指を鳴らしてうれしそうに雪菜のほうを見つめていた。
「橘‥‥‥‥今までクラスのアイドルと一緒にいただと‥‥‥‥」
「‥‥‥‥まぁ、そういうことだから‥‥‥‥一応証言にはなるよね」
口をひくつかせながらも、横山君に反論をした。
この反論で俺のクラスを荒らしたという誤解はなくなった。
誤解は解けたはずなのに俺の心は晴れるどころか一層重くなった気がする。
おかしいな、クラス荒らしの誤解は解けたはずなのにもっと大きい誤解をクラスメイトに与えた気がする。
「そんなはずでは‥‥‥‥そうだ、昨日の夕方だ。夕方見かけたんだ。クラスに来たら橘がいて‥‥‥‥」
「おかしいですね。お兄ちゃんは昨日ずっと私達といたのでそんなことはないはずなんですけど」
再びドアの方に目を向けるとそこにはクリアファイルに何枚かの紙を挟んで持っている羽村さんがいた。
後ろには柚子ちゃんと水谷さんも一緒に引き連れている。
3人は中学生の制服姿ということで非常に‥‥‥‥非常に目立っている。
というか何で3人がここにきてるんだよ。
今日の計画は中学生トリオに一言も話していないはずなんだけど。
「昨日の夕方、お兄ちゃんは私達3人と一緒に帰ったはずなのであなたの証言は間違っていると思うんですけどけど‥‥あなたのその目は節穴だったんじゃないんですか、先輩」
横山君は自分の発言よりも目の前の中学生の発言に驚いているようだ。
てかお兄ちゃんはやめてくれよ。
周りの人達も『お兄ちゃん』という単語に反応しているためなのか辺りがこの上なく騒がしく、俺のことを見る周りの視線が地味に痛い。
やめてくれ、俺のライフはもうゼロだ。
「おっ、お兄ちゃんって‥‥‥‥それは橘のことか?」
横山君が動揺しながらも羽村さんに質問している。
羽村さんは相変わらずその天使の様な微笑を崩そうとしない。
「そうですよ。健一お兄ちゃんのことを言っているんですが何か?」
羽村さんが自信満々に答えると同時に俺はガクッとうなだれた。
周りの野次馬達のボルテージが一層上がるのがわかる。
「橘って遠野さんと付き合ってるのか?」
「それよりもあいつのこと下級生がお兄ちゃんって言ってたぞ」
「あいつって地味なふりをして下級生にそういうプレイを‥‥」
やめろ、それ以上やめてくれ。
それは俺のせいじゃないんだ。みんなが勝手に言っていることなんだ。
俺の思惑とは裏腹に周りのクラスメイトは勝手に盛り上がっていく。
「そうだぞ。あいつはこの2日間私達と一緒にいたんだ」
「ずっと一緒」
柚子ちゃんと水谷さんもすかさず羽村さんに援護射撃を送るが、俺にとっては流れ玉にしかならない。
俺は溜まらず膝と手をを床につきうなだれるしかなかった。
「それにこの写真を見てください。これは昇降口前の監視カメラの映像ですがあなたのことが写っています。それも2日連続同じ時間にです。これが果たして偶然といえるんですか? そもそも‥‥」
その後も羽村さんの話しは続くが俺の耳には入ってこない。
それよりもこれから俺はどうするんだ? どうこの誤解を解けばいいんだ。
そんなうなだれる俺の背を優しく誰かがさすってくれていた。
「どうなんですか?」
「うっ、うぅぅぅ」
しばらくして羽村さんの追及が終わると嗚咽のような涙声が俺の耳に届いてきた。
どうやら横山君は自分がクラスを荒らしたことを認めたらしい。
だが横山君よりも泣きたいのは俺の方である。
この騒がしくなったクラスの収集どうつけるんだよ。
「よかったね、健一君」
完全に俺との約束を忘れた雪菜の声を聞きながら俺は1人頭を抱える事となった。
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