27 side雪菜
きりがよかったので2つに分けました。
こちらの話では雪菜視点から入ります。
週末の日曜日、私はいつものように柚子を連れて、橘君のバイト先へと向かった。
橘君が協力してくれたおかげで、文化祭の準備は順調に進んでいる。
このペースなら予定よりも早くダーツ班の準備が終わるかもしれない。
それも全部橘君が私のことを手伝ってくれているからだ。
彼には感謝してもしきれない。
文化祭が終わったら橘君に何かお礼しないといけないな。
「お姉ちゃん、先行くね」
いつものように柚子がお店のドアを勢いよく開くと店内はいつもとは違う光景が広がっていた。
「橘君、いないのかな?」
店内を見回しても、この店のオーナーである店長さんと佐伯さんしかいない。
しかも佐伯さんは何やらたちの悪そうなお客さんに絡まれていた。
その人は髪にメタリックアッシュという最近流行の髪型を取り入れたちょい悪風の男性だった。
「マジか‥‥今日は健一の奴いないのかよ。つまんねぇな~~」
「しょうがないだろう。文化祭の準備なんだから。きっと今頃クラスの女の子と仲良くやってるんだろうな」
「あ~~くそ。この前彼女と別れたばかりなのに‥‥‥‥健一のやつめ見とけよ。次あったらダーツでこてんぱんにしてやるからな‥‥‥‥って誰だよこの女の子は?」
「柚子ちゃん‥‥‥‥ってことは?」
扉の方を振り返る佐伯さんは、私の方凝視している。
その顔はまるで幽霊に出会った時に見せる表情で、いつも驚かす側に周る佐伯さんにしては珍しい表情をしていた。
「雪菜ちゃん、どうしてここにいるの? 今日は健一と文化祭の準備をするんじゃ‥‥」
「今日は文化祭の準備はありませんけど、どうかしましたか?」
佐伯さんは顎に右手をつけ何やら考え込むそぶりを見せ始めた。
「それよりも、佐伯ちゃん。この超可愛い女の子達は佐伯ちゃんの知り合いなの? ぜひとも俺にも紹介してほしいんだけど」
「だぁぁっ、お前は黙ってろ」
佐伯さんは目の前の男性の頭を殴ると、鈍い音が店内に響き、その人はそのまま痛そうに頭を抑えていた。
「悪いね、こいつが迷惑をかけて。実は健一が今日文化祭の準備があるからってシフトを空けたんだよ」
「橘君が‥‥‥‥ですか?」
私も佐伯さんの発言に驚いてしまう。
あのどんな時でもバイト優先の姿勢をとる橘君がシフトを空ける。
今日はこれから天変地異でも起こるんではないだろうか。
「あぁ、あのダーツ馬鹿もようやく改心してクラス行事に取り組むのかと思ったがそうじゃないのか‥‥‥‥どうなってるんだ?」
橘君がダーツのバイトよりも優先すべき事項、それは私も気になる。
彼がダーツ以上に大切にしていることが全く思い浮かばないのだから余計である。
それぐらいダーツ好きなのにもかかわらず休むのはどう考えたっておかしい。
「デートじゃないのか? ほらさっき言ってたクラスメイトの女の子とヨロシクしてるんじゃ‥‥」
「お前はあほか。その張本人が目の前にいるのにデートできるわけがないだろうが」
佐伯さんがすかさず先程の男性の額にグーパンチを入れたため、その人は床にひっくり返ってしまった。
こう見るとこの人が少しかわいそうに見えてくる。
柚子は倒れた人の額を優しくさすっていた。
「あの‥‥‥‥大丈夫ですか?」
「あ~~柚子ちゃんに雪菜ちゃん、そいつのことはほっといていいから。それよりも雪菜ちゃんは何か健一について心当たりがないか? 例えば健一の様子が変だったとか?」
橘君の様子が変‥‥‥‥あっ。
私はそのことで、1つ心辺りがあった。
「1つ心辺りがあります」
「それを聞かせてくれないか?」
私は佐伯さんに先週土曜日に橘君と出かけた時の出来事とクラスであった騒ぎのことを包み隠さず話した。
先週、飛鳥がダーツのプロと名乗る人とお店に入っていくところ。
その友達と教室で口論になったこと。
それから‥‥。
「飛鳥‥‥‥‥私の友人がプロの人の名前を言った時に橘君が怒っている気がしたんです。顔は伏せていたんですけど、いつもの人を小ばかにする感じじゃない、なんか怒ったオーラが見えたというか‥‥」
「怒った‥‥‥‥ちなみにそのプロの人の名前は?」
「確か‥‥‥‥戸田翔太って言っていたと思います」
私がその名前を言うと佐伯さんはカウンターから飛び出し、倒れている男性へと歩み寄った。
そして柚子に私の所に行くように指示すると、マウントポジションを取り殴り始めた。
「ちょっと、佐伯さん、お客さんですよ」
「雪菜ちゃん、止めるな。私はこのバカを改心させないといけないんだ」
「柚子も佐伯さんを止めるの手伝って。この人死んじゃう」
「わかった」
佐伯さんを柚子と2人がかりで倒れた男性からはがすことに何とか成功する。
佐伯さんの今日の怒りっぷりは、いつもお店で橘君達と話している時の佐伯さんとは全然違う。
「どうしたんですか? 今日はそんなに怒って?」
「怒るに決まってるだろ。こいつがその雪菜ちゃんの友達をたぶらかしている張本人なんだからな」
「え~~~~」
ということはこの人が戸田翔太さん?
でも、私が橘君とダーツショップの所で見た人とは違うような‥‥。
「佐伯ちゃん、もう少し手加減してよ。俺が佐伯ちゃん以外をたぶらかすわけないだろう」
「この前彼女と別れて、彼女がほしいと騒いでいた奴はどこのどいつだっけ?」
「すいません」
そういい男性、戸田さんはしゅんとしてしまった。
なんかこの人が不憫に思えてきた。
「あのっ、私が見た人はこの人じゃなくて‥‥その、もっとくせっ毛パーマの人だった気が‥‥」
「くせっ毛パーマ‥‥」
「なるほど、弓長の奴か。だから健一のやつ俺に電話を‥‥」
戸田さんは、何やら心辺りがあるらしい。
時折、「あの野郎‥‥」と呟いているのが非常に怖い。
「お前は何か心辺りがあるのか?」
「ある。その前にそっちの2人の女の子は誰なんだ? 妙に佐伯ちゃんと仲がよさそうだが友達?」
「あぁ、そうか戸田は知らないのか。こっちのふわふわ髪の可愛い子が健一のクラスメイトの遠野雪菜ちゃんで、こっちのちっちゃい子が妹の遠野柚子ちゃん。2人とも健一の友達だよ」
「初めまして。遠野雪菜と申します。橘君とは同じクラスで‥‥柚子も挨拶」
「‥‥‥‥宜しく」
そういって私と柚子は戸田さんに向かって頭を下げる。
私達が頭を上げるとそこには池田のおじいさんと同じような表情を向ける戸田さんがいた。
「本当に健一の友達? ‥‥‥‥あの人格がゆがみきっている奴がこんな可愛くて礼儀正しい子と‥‥うらやまけしからん」
「事実だ。お前も自己紹介しろ」
佐伯さんに言われて、戸田さんもこちらに向きなおった。
ただ、向き直った時の彼の顔はどことなく悔しそうな表情に見える。
「改めて、戸田翔太だ。現役の大学生だがダーツのプロプレイヤーをしている」
「お兄ちゃん、本当にダーツのプロ?」
戸田さんの近くに寄っていくのは柚子である。
その目はキラキラと輝き、戸田さんに向かって尊敬のまなざしを向けていた。
「本当だよ。ほらこの雑誌にも載ってるから見てご覧」
「本当だぁ~~。すご~~い」
柚子は戸田さんの写真と本人の顔を見比べてすごくうれしそうである。
私も雑誌の顔写真を確認したが、佐伯さんの横にいる戸田さんは本物のようだ。
では、私と橘君が見た戸田翔太とは何者だろう。
「そいつは弓長桔平だ。健一がこの前俺に奴の近況を電話で聞いてきたんだよ。あいつ人の名前を語って現役の高校生を手篭めにしやがって‥‥うらやましい」
「本音が出てるぞ。本音が」
佐伯さんは、怒り狂う戸田さんを白い目で見つめていた。
「で、雪菜ちゃんがあいつを見たって場所はどこだ?」
「場所は池田のおじいさんが経営しているダーツショップの隣ですけど‥‥」
「あそこか‥‥ちょっと行ってくるわ」
「おい、ちょっと待て」
急いで出て行こうとする戸田さんを佐伯さんは首の後ろの裾を掴み止めに入る。
私はこのやり取りを見て、戸田さんと佐伯さんがまるで夫婦みたいに見えた。
2人の間には目に見えない絆であるように見えてすごくうらやましい。
私も橘君とそんな関係になれたらいいな。
「私も行くから、ちょっと待ってろ」
「佐伯ちゃんはバイトが‥‥」
「お前の名前が無断で使われているんだぞ。これはお前だけの問題じゃなくて、私達全員の問題でもあるんだ。あの野郎に1発お見舞いしてやらないと気がすまない」
「私も行きます」
「‥‥‥‥柚子も。お兄ちゃんを怒らせた人を許せない」
私も自分の友達を騙した人のことは許せなかった。
大切な友人である飛鳥を騙した人を到底許す気にはなれない。
「わかったから。とりあえず佐伯ちゃんは店長に相談な。雪菜ちゃんと柚子ちゃんはもう少し状況を詳しく説明してくれないか?」
「「はい」」
こうして私は戸田さんに弓長桔平を見たときの状況を詳しく説明した。
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