25
後編になります
3人でワンタンラーメンを食べた後、件のダーツショップへと向かった。
ラーメン屋からダーツショップまでここから歩いて10分ぐらいの距離がある。
近くもないがそんなに遠いって距離でもない。
「そういえば、そのダーツショップってどんな所なの?」
「ダーツショップは普通のダーツショップだけど‥‥」
「普通のダーツショップが分からないから聞いてるんだけど」
そのように言う遠野さんは頬を膨らませて怒っているようだ。
そのしぐさは可愛いがそれを言ったらなんか負けた気がするので彼女には言わないでおく。
「そっか、そういえば一緒に行ったことなかったよね」
つとめて冷静な口調で遠野さんに話しかける。
少しでも挙動不審な行動を取ると遠野さんの思うつぼになってしまうから気をつけなくてはならない。
「今回行くダーツショップは、ダーツのショップとダーツバーが一体となっている所だよ」
「一体?」
「そう。お店の半分がダーツショップで、もう半分がダーツバー。入るところが別になってるからダーツバーの方は見れないと思うけど」
「柚子、ダーツバーの方も見てみたい」
「柚子ちゃんにはまだ早いかな。もう少し大きくなったら連れて行ってあげるよ」
「本当!!」
「うん。お兄ちゃんとの約束」
そういい、柚子ちゃんと俺の小指を絡ませあい約束をした。
こうして笑う柚子ちゃんは非常に可愛い。
こんな妹が俺にもいればいいんだけどな。
「橘君、私は?」
「遠野さんは‥‥そのうち?」
「うぅ」
これはさっきわかったことだが遠野さんはこうしていじると結構面白い反応を見せてくれる。
よく宮永さんが遠野さんをいじって遊んでいるが今ならその気持ちがよく分かる。
今時の高校生でこんなに表情が豊かな人はそうはいないだろう。
「大丈夫。もし今後、達也達と遊ぶことがあったらつれてくから‥‥っと、ついたよ。ここが目的のダーツショップ」
俺達が見上げるダーツショップは大きい施設のような建物だ。
概観はお店の半分が赤色で、もう半分が白色で塗られており、赤の方には大きな看板に『ダーツショップ池田』と書かれている。
また入り口も赤と白の所にそれぞれ1つずつ自動ドアがあり、白の方をくぐるとダーツバーに入れるようになっている。
「橘君‥‥本当にここでいいの? なんかこのお店異様な雰囲気だけど‥‥」
「それは本人には言わないでよ。禁句だから。とにかく入ろうか」
遠野さんが不安がる中、俺達は赤の方の自動ドアをくぐった。
「わぁ~~」
中に入った瞬間、感嘆の声を上げるのは柚子ちゃんである。
柚子ちゃんが声をあげるのも無理はない。
中には様々なダーツ製品が置いてあるからだ。
店内にはバイト先にも置いてある2つのダーツの筺体がお店の端に鎮座しており、その試遊台を使ってダーツの試し投げができるようになっている。
他にもスペースごとにフライトやシャフト等の製品が置かれており、店内はきちんと整頓されていた。
「お兄ちゃん、これ、これ」
特に柚子ちゃんが強い興味を示しているのはショーケースに飾られたダーツセットだ。
ガラスケースの中にはいくつものダーツの矢が飾られている。
お値段は結構するが、いいダーツセットが揃っているのは店主が厳選したものを選んできているからだろう。
「こら、柚子。今日は目的が違うでしょ」
「お姉ちゃんのけち」
「ストップ。後で試投できるように交渉するから、今は喧嘩はやめよう。それよりも池田の爺さんは‥‥」
「ここにいるわ」
声のするほうを振り向くと赤い帽子の鍔を後ろ向きに被り、つるのような細い眼鏡をかけた60代ぐらいの男性がこちらを見ていた。
「全く。うるさいと思ったらお前か健一。すっかりみない間に格好つけて女子をはべらすようになりやがって。お前なんか爆発すればいいんだ」
「相変わらずひねくれた爺さんだな」
「お前に言われたかないわい」
「あの‥‥橘君が言っていた池田のじ‥‥池田さんですか?」
「そうだ。わしがこの店の店主、池田だ」
隣からおずおず返事をする遠野さんに、池田の爺さんも興味を持ったようだ。
まぁ、ここに来るのは俺とか佐伯さんが殆どなので、こんなおしゃれをした子はあまり見ないのだろう。
「私、橘君と同じクラスの遠野雪菜って言います。今日はダーツ盤を貸していただきありがとうございます。ほら柚子も挨拶しなさい」
「‥‥‥‥‥‥‥‥遠野柚子、宜しく」
遠野さん達が頭を下げてる所を池田の爺さんは唖然としてみている。
その顔は何か珍しいものでも見ている風に取れる。
「はぁ~~~~、ここまで礼儀正しい子が来たのは初めてだ。本当に健一の友達なのか?」
「うるさい。正真正銘俺のクラスメイトだ」
友達かどうか分からないのでとりあえずクラスメイトといってぼかしておく。
「お前の知り合いはろくな奴がいないからな。お嬢さん達もこの馬鹿に毒されないようにな」
「誰が馬鹿だ。誰が」
この爺さんはいつも一言余計である。
特に俺のことはいつも辛辣に語るのだ。
この爺さんは俺に恨みでもあるのだろうか。
「ねぇ、おじいちゃんはここのダーツショップの人?」
「あぁ、ここのダーツショップの店長だが‥‥」
「じゃあ、あのダーツ投げてみたい」
柚子ちゃんが指をさすのは先程のショーケースの中のダーツの矢である。
あそこのは試投はできるがこの頭の固い爺さんが果たして投げさせてくれるのだろうか。
本当は俺が頼み込んで1回だけ投げさせてもらえるよう交渉するつもりだったが、柚子ちゃんのお願いは果たして届くのか。
「そうだな‥‥どうしようか‥‥」
「だめ‥‥?」
ここで柚子ちゃん得意の上目遣いが炸裂した。
本人はその気はないと思うのだが、柚子ちゃんが上目遣いで話すとどうしても断れなくなってしまう。
それはどうやら池田の爺さんも例外ではないらしい。
現に頬を掻きながら、困った顔をしていた。
「よかろう。どれを投げたいんだ?」
「これ」
柚子ちゃんが選んだのはストレート形の溝がきっちりあるダーツであった。
彼女はダーツを投げる際よく手が滑りあらぬ方向に飛んで行くことがあるが、このダーツなら溝に指がかかるので手が滑ることもなくなるだろう。
ストレートダーツは狙った場所に正確に投げられる柚子ちゃんにはぴったりのダーツである。
池田の爺さんはガラスケースの鍵を開けると、ダーツの矢を1本取り柚子ちゃんに渡した。
「そっちの女子はどうする?」
「私ですか?」
「そうだ。せっかく来たんだから投げてみなさい」
そう言われ、遠野さんはショーケースのダーツを見て真剣に選んでいるようだった。
ただ、少し困り顔でダーツの矢を見ている。
まるでどれを選べばいいか分からないといった表情だ。
「う~~ん、色々種類があってどれがいいか分からないよ」
「とりあえずこれがいいんじゃないの?」
そういい、俺は握るところが短く太い形状の矢を遠野さんに渡す。
「遠野さんは飛び方が安定しないからこの砲弾型がいいと思うな。他のに比べて比較的にバランスが取りやすいし遠野さんにはぴったりだと思う」
「でも、柚子はこっちの持っていったよ」
遠野さんが指をさしているのはストレート型のダーツである。
これはまだ、遠野さんには早いと思う。
「こっちのダーツはストレート型のものだよ。王道だけどストレートダーツはしっかり投げないとフラフラ飛んで下に行くことが多いから今の遠野さんにはあまりお勧めできない。それに持ってみて」
そういい、ストレートダーツを遠野さんに渡す。
「意外と重心が取りずらい」
「うん。お店のダーツと違って中心の方を持つからちょっと勝手が違うんだ。それならお店のダーツと似ている砲弾型のほうがいいと思う」
「わかった。投げてみる」
そういい、遠野さんも試遊台の方へ向かっていった。
現在ショーケースの前には俺と池田の爺さんだけが取り残されている。
「健一、あの子達は佐伯の言ってた子か?」
「佐伯さんここに来たんですか?」
「あぁ、戸田と2人でぎゃあぎゃあ騒ぎながら来てたよ。佐伯の方は店のお使いだったらしいが、それに戸田がついてきたらしくてな」
「戸田さんストーカーじゃないですか」
あの人はそのうち犯罪でもやらかすのではないだろうか。
一応俺の兄貴分だがら心配だけはしておこう。
捕まった時は『この人は絶対やる人だと思っていました』というインタビュー後のコメントも考えてあげる俺はどれだけできた後輩なのだろう。
「ちなみに佐伯は健一にもったいないぐらい可愛い子達といっていたが、どうやら本当のようだな」
「俺にもったいないは余計です」
「それもそうだな。お前は今日みたいにちゃんとした格好をすれば見栄えだけはいいんだからな」
「見栄えだけは余計です」
そういうと池田の爺さんは豪快に笑った。
そこまで言うことないだろう、この爺さん。
失礼にも程があるぞ
「それよりも柚子ちゃんだったか。あの子は左で投げるのか」
「そうだよ。それがどうした?」
「まるで昔のお前を見ているようだ。あのフォームで確か負けたんだったな」
「そうだったっけ?」
柚子ちゃんの方を見る池田の爺さんは彼女のフォームに感心しているようだ。
「あの時のことは忘れもしないぞ。それより健一、今日もダーツをするぞ」
「残念ながら今日はダーツを持って来ていません」
「なんと、けしからん」
池田の爺さんにそういわれるのを見越して俺は自分のダーツを持ってこなかった。
いくら池田の爺さんがダーツが好きでもこれならできないだろう。
「ええい、店の好きなダーツを使っていいから勝負じゃ」
「しつこいわ。今度来るからその時にな」
そんな軽いやり取りをしながら2人の方に目線を移す。
ダーツをやっている柚子ちゃんと遠野さんは、俺が見る前よりも明らかに上達していた。
フォームはしっかり固まっており、グルーピングもできている。
変な癖もつかず、俺が教えた通りにフォームが固まっているので、2人の成長を俺はうれしく思う。
「あの2人、特に柚子ちゃんは筋がいいな。きれいなフォームをしている」
「あぁ、俺が教えたからな。特に柚子ちゃんはすごい上達してるよ。遠野さんも始めて1ヶ月でこれだけうまくなれば上出来だろう」
「ほうほう、そうか。健一が教えたのか」
今一瞬池田の爺さんの目が光った気がした。
やな予感がする。
「おい、そこの‥‥確か、柚子ちゃんと言ったな」
「うん、何?」
ダーツを投げる手を止めて柚子ちゃんがこっちに来る。
遠野さんも柚子ちゃんがやめたからかダーツの手を止めこちらに向かって来た。
「柚子ちゃん、そのダーツの使い心地はどうだい?」
「最高。おじいちゃんの所のダーツってすごいね」
「ほうほう、本当に昔の健一にそっくりだな」
柚子ちゃんを見る池田の爺さんは昔のことを懐かしく思っているみたいだ。
しかし俺は昔もっとひねくれてたし、柚子ちゃんみたいにこんなに素直ではなかった気がする。
この爺さんついにボケたか。
「そうか、そうか‥‥それよりもそのダーツはほしくはないか?」
このじじい、柚子ちゃんを物で釣って1ゲーム勝負する気だな。
最低なじじいだ。
「もらっていいの?」
「いいぞ。今ならチップもつけよう」
池田の爺さんの提案に柚子ちゃんも乗り気のようだ。
チップとはダーツの矢の先端の部品のことを指す。
その先端の部分をチップといい、チップが折れた時にいつでも取りかえれるようになっている。
現在のチップは色も豊富にあり黒以外にも、赤や青といった種類の様々なチップが置いてある。
「申し訳ないですが、こんな高価なもの受け取れません」
「え~~」
「『え~~』じゃない」
柚子ちゃんは残念そうにしているが遠野さんナイスアシスト。
この爺さん絶対によからぬことを考えてるぞ。
「君は雪菜ちゃん‥‥だったな。君のダーツも無償で提供しよう」
「それでもだめです。こういうのはちゃんと自分で買わないと」
遠野さんの言っていることは至極正しいが、何やらこの爺さんの術中にはまっている気がするのは俺だけか。
とにかくここまでの遠野さんのセリフもこのじじいの中ではテンプレなのではないかと思う。
「じゃあ1つ条件をつけさせてくれ」
「「条件?」」
「そう、1月に1度でいいから3人でこの店に来てくれないか? 健一は中学に上がってから殆どこの店にきてないから雪菜ちゃん達につれてきてほしいんだ」
「いや、それはだめに「わかりました」 遠野さん!!」
「それでいい。ダーツはものによって上達の速度が変わるからな。君達のような腕の人ならきっとそのダーツも喜ぶだろう」
池田の爺さんは2人に笑顔を向けるが、この爺さんの真の目的は実際に違うことを俺は知っている。
この爺さんの狙いは確実に俺だろう。
「健一、お前さっき言ったよな。今度は絶対にダーツをやると」
「あぁ、言った」
「これでお前にリベンジを果たせる機会が増えたな、覚悟しておれよ」
あぁ、やっぱりそういうことか。
絶対この爺さん、俺が遠野さんと柚子ちゃんに頭が上がらないことを佐伯さんから聞いているな。
そうでなくちゃこんなことを言うはずがない。
そのために自分の店のダーツセットを犠牲にまでするとはこの爺さんの考えがよく分からん。
池田の爺さんが笑っているのを横目で見ながら俺は嘆息する。
嘆息した時に自動ドアの外に見慣れた顔が通った気がした。
その顔をもう1度見ようと俺は自動ドアの方に迫り急いで扉を開けた。
「こら、何をやってる」
池田の爺さんが制止をするがそんなの知るか。
俺が自動ドアを開き外を覗き込むと確かにそこには見慣れた顔があった。
ただ、相手はまだこちらに気づいてないように見える。
「橘君、どうしたの?」
遠野さんも外を覗きこみ、ダーツバーに入る人物を見て絶句した。
俺達が見た人物は腰まで伸びる黒髪のモデルのような美貌を持つ少女。
「宮永さん‥‥」
彼女が隣のダーツバーに入っていくところだった。
それだけなら驚かないが、今日の彼女はいつもとは違っていた。
「隣に男の人もいる‥‥」
宮永さんが同伴している男性。
背は俺よりも少し高く、黒髪だが髪にパーマをかけている男の人である。
その男性も俺の見たことがある人だが、このことは遠野さんには内緒にすることにした。
ご覧いただきありがとうございます。
感想をいただければうれしいです。
今回も分量がいつもに比べて多くなっています。
前編と後編合わせて1万文字前後‥‥いつもの私の文章からすれば多いです。
次回はもう少し短くて分かりやすい文章がかけるようにがんばります。




