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「で、健一はダーツ班の集まりは出たのか?」
「出てないです。それに俺は会場設営なんですからダーツ班の集まりなんて参加できるはずがないじゃないですか」
現在はカウンターで佐伯さんと2人で食器類の整理を行っている。
相変わらずこの時間は人が少ないため、こうしてもくもくと雑用をこなす。
ちなみに叔父さんは奥のビリヤードルームで常連さんとビリヤードをしている。
こんなに人がこなくてこの店はつぶれないのだろうか。
「それじゃあ、雪菜ちゃんのためにならないだろうが。まさか‥‥お前は私との約束を破ろうとしているのか?」
「待ってください。俺だってちゃんと考えは伝えていますよ。だからその右手に持っている物騒なものを閉まって下さい」
佐伯さんが右手に持っているダーツを俺はやんわりしまうようにお願いし、今日学校で遠野さんと話したことを佐伯さんにも聞かせた。
「なるほど。そんなに予算が少ないのか‥‥」
「はい。ダーツ盤と矢は最低限揃わないし、景品だって用意しないといけないのでやること山済みなんです。佐伯さんはダーツ盤は持ってないんですか?」
「私は持ってないよ。それにしても意外だな、健一がこんなしっかり考えているのって」
そういうと佐伯さんはいぶかしげな視線をこちらに向ける。
「そんなに俺が学園祭の出し物について考えているのが不思議ですか?」
「当たり前だ。昔のお前なら問答無用で手伝いもせずに店に入り浸っていただろうが」
そういえばそんなこともあったな。
中学1年の時は店に入り浸ってダーツやっていたら、叔父さんが泣いていて佐伯さんはあきれていたっけ。
中学2、3年は別のことで大きな問題になったこともあるがそれはまた別の話か。
「まぁ、健一が丸くなったのも柚子ちゃんと雪菜ちゃんのおかげだろうな」
「ちょっと待ってください。何でそこでその2人が出てくるんですか?」
「つべこべ言わずお前はあの2人に感謝をしろ」
「わけが分からないですよ」
2人がきてから俺が変わったと言うがどこが変わったのだろうか。
今日も会場設営の仕事をボイコットしてこっちに来ているわけだし、別段丸くはなっていないと思う。
あぁ、でも柚子ちゃんを見ていて妹っていいなぁとは最近思うようにはなったかな。
それについては柚子ちゃんに感謝をしないといけない。
確か今日も柚子ちゃん来るって言ってた気がする。
早く柚子ちゃんこないかな。
「しかしダーツ盤か。借りられる所と言ったら‥‥」
「あてがあるとしたら戸田さんぐらいですね。後は自分のを持っていくしか‥‥」
「何の話しているんだ?」
その時、ちょうど常連さんとのビリヤードを終えて戻ってきた叔父さんがこちらに戻ってきた。
常連さんたちの会計は既に済ましたようでカランコロンという音とともにドアの外へと消えていった。
「店長、実は健一が学園祭のクラスの出し物で‥‥」
「健一、お前ついに学園祭に出る気になったか」
叔父さんの顔が一気に明るくなるのが分かる。
どうやら学園祭というワードに感動をしているらしい。
おかしいな、去年と一昨年も学園祭に出た気がするのだが。
「去年と一昨年はクラスの出し物はやらなかったろうが。それよりもついにクラスの輪にとけこんだか。叔父さんはうれしいぞ」
そういう叔父さんはどこか涙ぐんでいる様子である。
2人の様子を見るに、去年までの俺は2人にはどう写っていたのかすごく気になる。
「所で、健一のクラスは何の出し物をするんだ?」
「ダーツ喫茶」
「そうか。ダーツなら健一が気合が入るのも無理はないな」
1人納得する叔父さんの言葉はとりあえず無視しておく。
「まぁ、そんなわけでどうしてもダーツ盤が足りないんだ。叔父さんはどこかあてはない?」
「あてと言われても‥‥ダーツの矢は貸し出してもいいがダーツ盤は‥‥」
叔父さんはそう考え込むしぐさを見せるとふと何かをひらめいたように手を1回叩いた。
「あそこはどうだ? ほらお前も行った事あるだろう。池田の爺さんがやってるダーツショップ」
「あそこか‥‥‥‥でも俺はあの人にあまり言い顔されてないからなぁ」
俺が渋るのは主にあそこの店の店長にある。
店長はダーツの元プロで都内にダーツの専門店を開くぐらいのダーツ好きであった。
俺が小学校の頃そこに行くことがあり、店長とダーツで勝負した結果たまたま勝ってしまい、それから『もう1回勝負じゃ』と会うたびに言われるので俺はあまりあの店に行きたくない。
「いいじゃないか。骨のある対戦相手で」
「でも、あの人しつこいんだよ。何度も何度も勝負を挑んできて。しかも自分が得意なものしかやらないからたちが悪い」
いくらダーツが好きな俺でも、同じゲームを何回もやらされればさすがに飽きる。
あそこに行く際は基本的にはダーツの練習と思っていくしかないので、純粋にはダーツを楽しめないのだ。
「でもダーツ盤があって、尚且つ貸してくれそうなところはあそこしかないだろう?」
「‥‥‥‥仕方ない。背に腹は変えられないし‥‥叔父さん連絡の方をお願いし‥‥」
「こんばんは~」
俺が叔父さんと交渉している時に、カランコロンという鐘の音が店内に鳴り響いた。
ドアを開けた主は天使のような微笑を持つ柚子ちゃんとダーツ班のやり取りで疲弊していると思われる遠野さんである。
いつもより遅い時間なのによく来たと思うが、大方柚子ちゃんがぐずったため、つれてきたのだろう。
「橘君に伝えたいことがあって」
そういい、彼女が俺に手渡すのは1枚の紙切れである。
そこに書かれているのどうやら今日ダーツ班で話した内容らしい。
俺はダーツ班じゃないし、こんな律儀に報告しなくてもいいのに。
こうして話した結果を報告してくる辺り、真面目な遠野さんらしいと思う。
「これだけ決まったよ」
「あっそう。よかったね」
「もう少し興味持ってくれてもいいのに」
そういい、遠野さんの顔がしゅんとしてしまう。
それと同時に後ろから黒いオーラ背中越しに伝わってくる。
これ以上遠野さんが暗い顔をしているとこっちまでとばっちりがくるので何とかしないとまずい。
「後で話を聞くから今はちょっと待って」
「何のお話してたの?」
そうカウンターの下方から首を出すのは柚子ちゃんである。
相変わらず柚子ちゃんはいつ見ても可愛いな。
天使は宮永さんよりも柚子ちゃんの方がいいと思う。
「ちょっと、ダーツ盤のことでね」
「ダーツ盤? そういえばお兄ちゃん達のクラスって学園祭でダーツやるんだっけ?」
「そうだよ。柚子ちゃんもその日来るでしょ?」
「うん、行く。楽しみにしている」
そういう柚子ちゃんはふにゃっとした天使の笑みを浮かべた。
この言葉が聞けただけで当日が楽しみである。
「橘君、ダーツ盤って?」
俺と柚子ちゃんのお楽しみタイムに入ってきたのは遠野さんである。
「あぁ、今叔父さんの知り合いにダーツショップ経営している人がいるから、ダーツ盤をその人から借りられないかって聞いてるんだよ」
「ダーツショップ!!」
その言葉に目を光らせたのは柚子ちゃんだ。
そういえばここはダーツはできるがダーツ関係のものはほとんど売っていないもんな。
ダーツ好きの柚子ちゃんがダーツショップにあこがれるのも無理はないだろう。
「お兄ちゃん、柚子行きたい」
「でも、あそこは遠いし無理じゃないかなぁ?」
苦渋の決断だが、微笑みながらやんわりと柚子ちゃんを傷つけないように断る。
件のダーツショップまで電車で40分ぐらいかかり、さらにその後歩かないといけない。
そんな所まで柚子ちゃんを連れて行くのは気が引けるし、何より池田の爺さんに柚子ちゃんを会わせたくない。
「じゃあ私が柚子連れて行くから一緒に行っちゃだめかな?」
「遠野さんまで」
何故遠野さんも一緒についていこうとするのだろう。
自分のせいでダーツ盤を確保しに行くことに責任を感じているからなのかな。
ただ、申し訳ないがあそこのダーツショップは1人で行きたい。
余計な人を連れて行っても話がこじれ、俺の疲労が増すだけだ。
「そんな無理しなくても別に大丈夫だよ。もしかしたら宅急便で配送してくれるかもしれないし‥‥」
「健一、池田の爺さんが今度取りにきてくれって」
叔父さんこんなタイミングよく俺に伝えなくても。
「じゃあ決まりだね。柚子、今度橘君と一緒に行こうか」
「うん」
そういうと2人は楽しそうな笑顔を俺に向けた。
本当にこの2人にはかなわない。
俺は顔を伏せながら額に手を当てて、何もないことを祈るしかなかった。
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