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遅くなって申し訳ありません。
遅れた理由はあとがきを見て下さい。
学園祭シーズンは俺にとっては地獄である。
出し物を決めるのに放課後の貴重な時間をつぶし、やりたくもないものを作らないと行けない。
一体そんなにがんばって何が楽しいのだろうか。
これならバイト先で仕事をしている方が何万倍も楽しいに決まってる。
俺は誰にも気づかれないようにうらみがましい視線を前にいる委員長に向けた。
黒板の前には眼鏡で三つ編みのいかにも委員長タイプの女の子がクラスを見渡し、頭を悩ませている。
「今年の学園祭の出し物だけど……なんでうちのクラスはこんなにまとまらないのよ」
委員長の苛立たしい声が教壇から聞こえてくる。
俺はそんな委員長を見つめながら心の中で『ご愁傷様』といっておく。
現在俺達のクラスでは11月に行われる文化祭の出し物を決めている最中だ。
文化祭まで1ヶ月をきったため早急に文化祭の準備を進める必要があるらしい。
そのため、この日の帰りのホームルームは急遽クラスの出し物を決めることになった。
しかしこれが中々決まらない。
初めは出し物が満場一致で喫茶店に決まったと思い、帰る準備をしていたのだが喫茶店のコンセプトでもめにもめている。
黒板にはメイド喫茶、執事喫茶、コスプレ喫茶の文字が並んでおり、3つの全てが驚くことに同数で並んでいる。
元々リア充組の男子は可愛い子のメイド姿が見たかったらしくメイド喫茶に票をいれ、それを阻止するために女子が執事喫茶の方に票を入れため話がこじれている。
さらに厄介なことに一部のマニアックな人達が「メイドや執事は古い。今はコスプレ喫茶だ」と発言したことで事態はさらに混迷を極める結果となった。
コンセプトなどどうでもいいから早く決まってほしい。
これではいつになってもバイトに行けない。
ちなみにさっき教室を抜けバイト先に連絡を入れた所、何故か叔父さんが「お前もついにクラス行事に参加する気になったか……叔父さんうれしいぞ」などと涙ぐみながら答えやがった。
お前は息子の成長を喜ぶ母親か。
「おい、健一」
「どうした? いきなり声なんかかけて」
「しっ、声が大きい」
俺に声をかけてきたのは悪友でもある達也である
彼はどうやら周りを気にしているようだ。
さっきから顔を右へ左へ振っているのもそのためであろう。
「お前は早く帰りたくないか?」
「早く帰りたいよ」
「じゃあ……」
「ただ、お前の作戦にのるのは釈然としないから嫌だ」
「なんだよ。お前にとっても有益な話だぞ」
達也のおいしい話には裏があることを俺は知っている。
中学3年生の文化祭の時に散々やらかした挙句、2人そろって先生から怒られたことを俺は忘れない。
あの出来事以来、達也の案は極力乗らないようにしている。
「お前の作戦にのっても俺にはろくなことがないから嫌だ」
「でもな……」
「委員長!!」
大きな声に振り向いてみると、いつの間にか宮永さんが手を上げて立ちあがっていた。
「喫茶店なら執事とかメイドではなく、ダーツ喫茶ってのはどうですか?」
「宮永さん、喫茶店のコンセプトはこの3つで絞られているんだけど……」
委員長は黒板と宮永さんを交互に見ながら目をパチパチさせている。
今更ダーツ喫茶とか出しても遅いと思うんだけど、宮永さんは何を考えているのだろう。
「皆がこだわってるのはコスチュームのことだよね。ダーツ喫茶ならその問題を解決できるよ」
そう言うと、宮永さんは机の中からある雑誌を取り出し、とあるページを開いた。
彼女が開いたページにはダーツバー特有の男性の衣装と女性の衣装がのっている。
男性用の衣装には俺がいつもバイト先で着ているような襟付きのワイシャツに蝶ネクタイをした服装で、女性用の衣装は服にヒラヒラしたフリルがついている実に可愛らしい衣装である。
「これなら可愛い服装だし、メイド喫茶よりはいいかもしれない」
「私も。こういう衣装を男子に着せてみたいかも」
男子と女子の中には徐々にダーツ喫茶にするという声が上がってきている。
こんなものまで用意したとは宮永さんやるな。
ただ、どうせならもっと早く提案してほしかった。
もう少し早ければバイトに遅刻することもなかったのに。
「待ちたまえ、そんな服装じゃ僕たちは認められない」
ここで出しゃばってきたのがコスプレ喫茶派閥の人達である。
黙っていればさっさと帰れたものを。
でも、この人達も抑えないとダーツ喫茶の実現は不可能である。
宮永さんは彼らをどう納得させるのだろうか。
「何が認められないの?」
「ナース、警察、スチュワーデス、 巫女服、テニスウェアー、体操服、ミニスカ制服、チャイナドレス、これらは俺等男のロマンじゃないか。これらの要望を全てかなえることができるのがコスプレ喫茶。普通のウエイトレスの服装では満たせない新しい世界がそこにはある」
ぽっちゃりめの体系の男がいきなり立ち上がり、何やら熱くコスプレについて話し始めた。
その間クラスは先程までの様相とはうって変わって、静かになる。
コスプレ一派の人達が話す言葉はどうにも他の人には理解されていないようだ。
現に宮永さんは彼の話にドン引きである。
俺は好きなんだけどな、チャイナドレス。
「横山君、よく考えてみて。女の子が男用の服装を着たり、男の子に女の子の服装も着せ替えることができるんだよ。普段可愛いあの子の男装姿、普段とは違う姿も見えてお得だと思うんだけどなぁ~? 既存のものを着せるよりはギャップがあっていいと思うし」
その言葉を聞いてコスプレ一派のリーダー(確か横松? だっけ)はひるんだようだ。
「くっ……確かにそれは魅力的……。だが、ダーツ喫茶には反対だ。その案には欠点があるからな」
「欠点?」
「そう、欠点だ。第1にダーツはどこから調達してくるんだ? きっと服飾費と材料費だけで予算を全て使い切ってしまうぞ」
確かにコスプレ一派のリーダー(確か横道?)の言う通りである。
ダーツをそれなりにそろえるのにはお金がかかる。
ダーツに費用をかけたくても、当日の材料費と服飾費でダーツに当てられるお金はほとんど皆無だろう。
その中でどうやってダーツセットを用意できるか疑問が残る。
しかしこんな不利な状況でも、宮永さんにあせりは見られない。
何か秘策でもあるのだろうか。
「大丈夫。知り合いにダーツの円盤と矢を持っている人がいるから。その人から借りればこの問題は解決できる」
「じゃあ、ルールはどうするんだ? ダーツのルールに詳しい人なんてこのクラスにはいないだろう。ダーツのルールも知らないのにやろうとするなんて自殺行為の何者でもない」
言い方はいやらしいが、確かにこれも彼の言う通りである。
ルールを知らなければダーツなどやる意味がない。
例え宮永さん1人が知っていたとしても、彼女が文化祭中ずっと店にいるわけでもないので、他にも知っている人がいないと意味がない。
そういう意味では、勝ち誇った笑みを浮かべるコスプレ派のリーダーの意見は正しい。
ただ彼の誤算は、このクラスにはダーツに精通している人が最低3人いることだ。
その人達がいればその辺は大丈夫だろう。
「そこは大丈夫。私の他にも雪菜や達也君もルール知ってるし。それに雪菜なんかダーツもうまいしルールもすごい詳しいんだから」
「わっ、私?」
宮永さんの前の席の遠野さんが驚いた声を上げた。
「そう、この他にも私達とダーツやってルール覚えた人もいるし、ルールの方も大丈夫だと思うんだけどさ‥‥これでもまだ何か異論があるの?」
「くっ‥‥‥‥分かった。俺等もお前たちに協力しよう」
俺には悔しそうに宮永さんを見つめるコスプレ一派のリーダー(名前は横‥‥忘れた)が印象的だった。
この後何事もなく用意の方が進んでくれればうれしいんだけど実際はどうなるのだろう。
それにしても、ダーツの円盤なんか複数も揃うものなのか。
1つだけだったらダーツをやるお客さんが多くなってきたときに、長蛇の列になりお客さんからクレームがくる。
目玉がダーツなだけにいつでもできる準備をしておかないと大変なことになるだろう。
「それじゃあ、ダーツ喫茶ってことで決定でいいわね。次にそれぞれの役割だけど……」
委員長がみんなが黙ったのを見計らって強引に決定した。
結局俺のクラスの出し物はダーツ喫茶に決まった。
その後は委員長とクラスの出し物のリーダーに選ばれた宮永さんの進行で役割決めが進んでく。
このまま何も起こらずにすんなり進めばいいが‥‥。
俺が一抹の不安を抱きながらも、役割決めが進んでいった。
ご覧いただきありがとうございます。
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長年愛用していたノートPCが最近故障してしまいました。
バックアップを取っていなかったので最初は頭が真っ白になりましたが、何とかHDDは無事。
2日前に予備のPCにデータ移すことができたので事なきを得ました。
本当に危なかった。
次回からは気をつけます。




