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この章のエピローグとなります

あの姉妹との出会いからはや2週間。

その間、俺の生活は全く変わっていない。

いつものようにつまらない学校生活を送り、バイトに行く。

そんな日常である。

いや、全く変わっていないというのは少し語弊があるかもしれない。

あの姉妹との出会いは確実に俺の平穏な学生生活を蝕み始めたのだから。


「行ってきまーす」


いつものように自転車にまたがり片道30分の道のりを自転車でこいでいく。

なんだかんだ俺にはこの学校までの道のりが地味に辛い。

上り坂や下り坂が山ほどある道を自転車をこいで学校まで向かわないと行けないのだから、普段運動などしない俺にとっては苦痛でしかない。

ちなみに今日も学校が終わればいつものようにバイトが入っている。

そういえば今日は柚子ちゃん達が来る日だったはずだ。

今から放課後が楽しみである。

そんなことを思いながらやっとの思いで学校につき、校門をくぐる。

疲れた顔で昇降口の扉をくぐり、靴を上履きに履き替えていると見知った顔を見かけた。


「よう、健一。何しけたつらしてるんだよ」


「なんだ、達也か……」


「『なんだ、達也か……』ってなんだよ。お前はおはようも言えないのか!!」


達也は今日も元気そうである。

こいつだけは何があっても変わらないんだな。

変わらないものがあることがこんなにありがたいとは思わなかったよ。


「ありがとう」


「何なんだ、お前? 気持ち悪い」


俺の言葉に怪訝な顔を向けてくる達也と共に教室に向かう。


「そういえば聞いてくれよ、健一。昨日宮永さん達とダーツやりに行ったんだけどすごかったんだよ」


「何がすごかったって?」


「遠野さん」


そう言えば一昨日遠野さんが達也達とダーツしに行くって話してたっけ。


「5ゲームやったんだけど俺達1回も遠野さんに勝てなくてさ、みんな唖然としてたよ。前は遠野さんは最下位とかだったのに……どうやったらあんなに上手くなるんだ?」


そりゃ遠野さんが負けるはずがないよ。

あれからよく俺のバイト先に来て柚子ちゃんとダーツをしているのだから。

それに柚子ちゃんと遠野さんに俺がダーツの投げ方を細かく教えているんだから、達也達に負けるわけがないだろう。

むしろ負けたら説教をしてるわ。


「それは残念だったな。きっとお前らに負けるのが悔しくて練習でもしたんじゃないのか?」


「俺もそう思うんだよ。最近遠野さん、放課後俺達の約束を断ってこそこそどこかに行ってるみたいだし」


その行先は多分俺のバイト先だろう。

そんなことを達也には死んでも言わないが。


「そこでなんだけどさ、このまま女の子に負けたままじゃ俺の面目が丸つぶれなわけよ。だから、また俺にダーツ教えてほしいんだけど……」


「却下だ。ダーツなんか投げないと上手くならないだろ。自分で練習しろ」


そう達也を冷たくあしらい、俺は達也よりも早く教室に入った。

教室に入ると周りの人から「おはよう」という声が上がる。

ここで騙されて「おはよう」と言ってはいけない。

この『おはよう』は俺に対して皆が挨拶をしているわけではなく、後ろから来る達也に向けての挨拶である。

ここで調子に乗って「おはよう」とかいってしまったが最後、皆から冷たい目で見られたり俺のことを気持ち悪いって思うだろう。

地味な少年と思われるには目立つことをしないのが1番。

現に達也は他のクラスメイトから声をかけられて「おはよう」とその声にこたえているので、俺の言っていることは正しいと思う。


「おはよう」


俺の席に座ると横からまた1人達也に向かって挨拶をする奴が現れる。

達也は本当に人気だな。

あれだけ他の人に愛想よく接していて疲れないのだろうか。


「おはよう」


また同じような声が俺の隣から聞こえる。

達也よ、何度も言ってあげてるんだから答えろよ。

お前はどれだけ薄情なのだ。


「~~ッ……お・は・よ・う・た・ち・ば・な・君」


いつもよりやや大きめのボリュームで俺の名前を呼ばれたのでつい横を向いてしまった。

横を振り向くとニコニコしながら隣の席に座る遠野さんがいる。

ちなみに彼女が笑顔だからって彼女のご機嫌がいいとは限らない。

彼女の顔をよく見てみよう。

遠野さんは笑顔だが眉間に青筋を浮かべている。

あれは絶対怒っている時の表情だ。

それぐらい最近遠野さんと一緒にいることが多いのでこれ位の変化は分かる。


「達也に挨拶してたんじゃないの?」


「違うよ。私は橘君に挨拶していたんだよ」


俺の生活で変わったことの1つは、こうして遠野さんがよく学校で俺に話しかけるようになったことだ。

よく朝ギリギリに来ると達也と宮永さんのほかに遠野さんがいたり、2人がいないときは俺が席に座ると近くに寄ってきたりする。

ただでさえ目立たないようにしているのにどうしてこんなに目立つ人が寄ってくるのだろう。

おかげで俺はクラスの連中から怪訝な目で見られる。

たまに陰口をたたいてくるやつもいるので、こうして近づいてくるのはやめてほしい。

遠野さんも遠野さんだと思う。

これで彼女のクラス内での地位が下がったらどうするつもりなんだろうか。


「昨日さ、達也君達とダーツやったんだけど……」


「知ってる。圧勝したって達也から聞いた」


圧勝したといっても周りが下手すぎただけだろう。

前に達也達にダーツしている時の話を聞いたが、ブルはめったなことでは入らないみたいなこと言っていたし、こんなことで増長してもらったら困る。


「確かによくやってると思う。ただ、グルーピングがまだ上手く出来てなかったり、リリースが速かったりして、安定してブルに入らないから、もう少し精進する必要があるから……」


俺の言葉を聞いて遠野さんはなぜかうれしそうな表情を見せる。

何故彼女がそんな表情をするのかいまいち俺には分からない。


「だって、橘君がほめることって私そんな聞いたこと無いから……もしかしたらデレたのかなって」


「デレたって……俺は客観的にみた意見を言っているだけでそんな風に思っているわけじゃないぞ」


「知ってる。橘君って優しいもんね」


笑顔でいう遠野さんの言葉に俺は赤面するしかない。

最近遠野さんと柚子ちゃんの2人と関わっているからか遠野さんがこのようにからかってくることが多くなった。

素で話しているのかどうか知らないが、本人を目の前にしてよくそんなことが言えるな。


「それより今日は柚子も連れて行くからね」


「わかってる。ちゃんと準備をして待ってるから」


「柚子も昨日すごく楽しみにしてたし、私も楽しみ」


最近遠野さんと柚子ちゃんは、週4日というかなりのハイペースでうちの店にきてダーツをやっている。

特に土日なんか開店時からきてずっとやっているので、もはやうちの店の常連だ。

ちなみに2人の場台はいまだに俺の給料から天引きなのでそろそろやめてほしい。。

叔父さん天引き止めてくれないかな。

というか1日働いても収支がほぼゼロってどんなブラック企業だよ。

これは真剣に叔父さんに相談した方がいいな。


「雪菜、今日もまたダーツ行かない? みんな雪菜にダーツ教えてほしいって言ってるんだよね」


突然遠野さんの後ろから現れたのは宮永さんだった。

今日も明るく元気な様子で何よりである。


「ごめん、飛鳥。今日ちょっと用事があって……」


「え~~っ、この前も雪菜用事があるって言ってたよね。何々彼氏でもできたからデートでもこっそりしてるの?」


「そっ、そういうのじゃないよ。ちょっと柚子と出かけるだけで……」


そう言いながら宮永さんの前で遠野さんは手をふり必死に否定している。

心なしか遠野さんがこちらを見ているのは気のせいだろうか。


「じゃあさ、橘君はどう? ダーツ上手いってよく聞くし、たまには私達と一緒に投げない?」


「悪い。今日もバイトに入ってるからそっちに行くのは無理だ」


俺は宮永さんのお願いをすげなく却下した。

宮永さんは俺達を交互に見て、難しい顔をしている。

ちょっと待て、俺は一切嘘は言っていないぞ。

ただ遠野さん達が勝手に俺のバイト先に来るだけで、俺は特に何かをしたってわけではない。

だからそんな目で見ないで。


「違うよ。私は柚子とお出かけするだけで、橘君とは何も……」


ばかやろう。

そこで赤くなるな、はっきりと答えろ。

俺等がデートしているみたいになるだろうが。


「ごめん、飛鳥。明日は……明日ははちゃんと行くから。それでいい?」


「いいよ。じゃあ明日絶対一緒にダーツやろうね。橘君は……」


「俺は明日もバイトだ」


宮永さんが何か言おうとした所でちょうどチャイムが鳴り、先生がきた。

宮永さんがこちらをジトッとした目線で見てくるが俺はその視線を無視することにする。

面倒なことには関わらないようにするに限る。


「雪菜、いこっ」


「うん」


どうやら嵐は過ぎたようだ。

朝からあの2人と話しているとどっと疲れる。

ただ、これは今まで感じていたどっと体が重くなる疲れではなく、心地のいい疲れである。

何故そんな風に思ったのか不思議に思いながらも、2人が自分の席に戻って行くのを遠目で見ていた。




学校が終わり昇降口を出ると正門付近に見なれた女の子を発見した。


「あれは……」


そこにはおかっぱヘアーで目が少しつりあがっているふくれっ面の少女、遠野さんの妹である柚子ちゃんが正門付近に待ち構えていた。

確か柚子ちゃんもここの中等部に通っているのでここにいること自体はおかしくも何もないのだが、身長が低く中等部の制服を着ている柚子ちゃんはやたら目立つ。

あまり目立ちたくない俺としてはここは遠野さんを待っていてくれることを祈るが……。


「お兄ちゃん!!」


どうやら柚子ちゃんは俺を待っていてくれたようである。

俺を発見した瞬間に笑顔でこちらに寄ってくるのでむげにも出来ない。


「柚子ちゃん、待っててくれたの?」


「うん。お兄ちゃんを待ってた」


俺としてはできればお姉ちゃんを待っていてほしかったんだがな。

ちなみに俺がこうして柚子ちゃんと話していると周りからは「あいつ、誰? 小さい女の子と話して」「やだ、ロリコン? 誘拐しようとしてない」「110番しないと」と言った声が聞こえる。

一刻も早くこの場を去らなければ、俺は社会的に抹殺されてしまう。


「うれしいんだけど、できれば学校にはきてほしくないんだよなぁ~」


「何で?」


柚子ちゃんははた目から見れば可愛いから目立っちゃうんだよ。

でもそんなことをこの子の前では言えない。


「柚子!! どうしてここにいるの?」


そこにちょうど昇降口から出てきた遠野さんとはち合わせた。

ちょうどいい、これは柚子ちゃんを遠野さんに押しつけて先に帰るか。


「お兄ちゃんと一緒に帰ろうと思って……」


「そうなんだ。じゃあ橘君、一緒に帰ろう」


そういい、遠野さんと柚子ちゃんは俺の腕を掴み強引に引っ張っていく。


「待った、俺は自転車でだしさ……それよりも目立つから……」


「大丈夫だよ。私も後で誤解を解くから」


「お兄ちゃん、早く行こう」


そう2人から言いくるめられ、俺は強引に引っ張られていく。

遠野さんや柚子ちゃんと出会ったことで俺の生活は変わった。

正直俺があそこで柚子ちゃんに出会わなかったら、遠野さんの相談にのらなかったら、多分このような生活はなかったかもしれない。この2人とはこれからも長い付き合いになりそうだ。

そんなことを思いながら俺は2人の少女とと一緒に校門を出て、バイト先へと向かった。


ご覧いただきありがとうございます。


感想をいただけるとうれしいです。


これで1章終了となります。

このお話はまだ続いていきますのでこれからも宜しくお願いします

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