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「う~~柚子に勝てない」


カウンターに突っ伏し、唸る遠野さんと胸を張って誇らしげに勝利宣言をする柚子ちゃん。

姉妹の反応はそれぞれバラバラである。

あれから12ゲーム行ったが、結果は柚子ちゃんの圧勝で終わった。

基本的に2ラウンドに1回ブルに入るようになった柚子ちゃんに最近やり始めた遠野さんが勝てるわけがない。

あれだけ大見えを切った俺はというと柚子ちゃんに2回だけしか勝てなかった。

原因としては最後の最後で狙いたい所に上手く入らず微妙な点数で終わってしまった所にある。

詰めが甘いのは俺の悪い所なのでこの点はこれから修正していかないと行けない。


「お姉ちゃん、もう一回やろう。」


ニコニコと笑顔で答える柚子ちゃんはなにやらご満悦のようだ。

それもそうだろう。

久しぶりに姉と遊べたのも嬉しかったと思うが、何より姉に勝ったのだ。

喜ぶなという方が無理である。


「ごめん、柚子ちゃん。もう時間だから今日はこれぐらいで良い?」


「え~~」という柚子ちゃんに遠野さんが「こら!!」としかる。

喧嘩するほど仲がいいというが、改めてこの姉妹の仲は凄く良いとはたから見ていて思う。

今まで仲たがいしていたとは思えない。


「そろそろお客さんが結構来るから、邪魔になるかもしれないし。明日も俺はいるからその時また一緒に遊ぼう」


柚子ちゃんは納得していないながらも、1回うなずくとダーツの矢を片付けに行った。

現在の時間は18時になる所でもう少しすると仕事帰りのサラリーマンや遊びに来る大学生のお客さんが大量にくる。

なのでここら辺で切り上げるのが無難だろう。


「ごめんね、橘君。柚子がいつも迷惑かけて。もうこんなことないように注意をするから。」


そういい、遠野さんは鞄をガサゴソとあさりお財布をだした。


「いや、お金は大丈夫だから。柚子ちゃんにもお金はいらないって言ってあるし」


「でも悪いよ。こんなに長居したのに」


「大丈夫だよ」


「でも」


「君達を見てると初デートをしているカップルのように見えるよ」


声が聞こえた方を振り向くとそこには営業スマイルが板についている叔父さんと「にゃはは」と笑っている佐伯さんがいた。

2人の表情は、ニコニコ笑っているように見えるが内心絶対からかってやるという印象を受ける。

この2人にはなるべく隙を見せないようにしなくてはいけない。

余計な所を見せると後で何を言われるかわかったもんじゃないからである。

こっそり横目で遠野さんを見ると、顔を真っ赤にして俯いているためどんな表情をしているかよくわからない。

振り返ってみると今日の遠野さんは学校で見る感じと少し違って見えた気がする。

学校では宮永さんの後ろに隠れた小動物的な印象だったのに対し、今日は妹を守ろうとするお姉ちゃん的な姿が垣間見れた。

遠野さんの違った一面を見れただけでも、今日は3人でダーツをやったかいがあったと思う。


「取り敢えずお金はいいから。その代わり俺がここでバイトしているってことは内緒にしておいてほしいんだけど」


「何で?」


「こんな格好でやってることを知られたくないんだよ。学校で目立ちたくないし……」


そういい、自分の格好を指差す。

今の格好はあくまでダーツのバイト時の格好なので、クラスメイトにこの姿の俺のことを知られたくない。

達也と話している時点で十分目立っていると思うが、これ以上目立つことは絶対に避けたかった。

俺の様子を遠野さんは何やら思案顏で見ていたが、やがて一回頷き「わかった」とだけ答えてくれる。


「それは良かった」


その言葉を聞き、俺はほっとした。

遠野さんにばらされたら確実に俺の学校生活に支障が出るし、達也達がこの店にいりびたるに決まってる。

そんなことになったらもうバイトどころではないので遠野さんが承諾してくれて本当によかった。

バイトの件で安心したら無性にのどが渇いた。

俺はカウンターの奥にあるドリンクサーバでコップにお茶を入れそれを一口飲む。


「2人だけの秘密……ってことでいい?」


「ブハッ……ゲホッ、ゲホッ」


「けんいち~、何をやってるんだよ~そんなにむせて」


俺が慌てて口をふいてると、わざとらしい口調でニヤニヤ笑いをした佐伯さんがこちらを見ていた。

絶対この人はこの状況を面白がっている。

そうとしか思えない。

遠野さんは何やら顔を赤くして俯いているし、非常に居心地が悪い。

なんかムズかゆいというか、かゆい所に手が届かないというかとにかく変な感じだ。

こういうときは話を変えるに限る。


「まぁ……確かにそうかもね。それよりも遠野さんは何か飲みたいものある?」


俺の言葉に一瞬びくっとしたがすぐさま「何でもいい」と言ったので、ウーロン茶を入れて遠野さんの前に出した。

ちなみに柚子ちゃんはいつもメロンソーダを飲んでいるので、もう一つのコップにはメロンソーダを注いである。

遠野さんは俺の入れたウーロン茶を取るとコクコクと可愛らしいしぐさで飲み始める。


「今日ここでダーツやってわかったと思うけど、この店はいかがわしい店ではないでしょ」


「うん。橘君もいるし、そうじゃないこともわかった」


じゃあ俺がいなかったらいかがわしい店ではないのかよ。


「柚子ちゃんがゲームセンターに行ったのもダーツがしたかったからなんだよ。だからさ、柚子ちゃんのことを許してあげてもらえないかな」


遠野さんも今日一日柚子ちゃんを見ていたと思うが、彼女は本当に楽しそうだった。

お姉さんである遠野さんと一緒に遊んだからってのもあると思うけど、ダーツをやっている柚子ちゃんは輝いていたと思う。

今日の柚子ちゃんを見てもらえれば、彼女がどれだけダーツが好きか分かってもらえただろう。

ちょうど片づけを終えてこちらに戻ってきた柚子ちゃんは、俺のズボンの裾を掴みながら姉の方を見上げている。


「柚子、ごめんね。お姉ちゃん勘違いしてた。てっきり柚子が悪い人と一緒にいると思っていて……柚子の話も聞かず勘違いしていてごめんね」


「こっちこそ……ごめん。お姉ちゃんには事情を話せば良かったから」


単なるすれ違いか。

でもこれで2人の間にあったわだかまりは丸く収まるんだろうな。


「それじゃあこれで柚子ちゃんはここに来てもいいよね」


「それは話が別だよ」


「えーーーーーーーーーー」


「『えー』じゃない。」


遠野さんの言葉に不満そうな柚子ちゃんは姉の服の裾を掴み、だだをこねていた。


「心配しなくても大丈夫だよ。俺が責任を持って柚子ちゃんの面倒見るし」


「そうじゃなくてさ……ここにくる時は私も一緒に行くから、そしたら一緒にまたダーツをやろう」


「お姉ちゃん?」


「今までごめんね、柚子。昔みたいに毎日は無理だけど、また一緒に遊ぼう」


「うん」


遠野さんは柚子ちゃんに近づいていき彼女の体を抱きしめる。

姉妹っていいものだな。

2人を見ているとそんな気持ちがわいてくる。

俺も兄弟がいればこんな風に笑っていられたのかな。


「にゃはは、羨ましいと思ったかい」


2人を見ながら感傷に浸っているといつの間にか後ろに佐伯さんがいて、俺の首に手をまわし俺のことを軽く抱きしめていた。


「別に……うらやましくなんか……」


「大丈夫。健一にはお姉さんが付いているから」


そういい、佐伯さんは優しく俺の耳元で囁いた。

こういう所でしっかりフォローを入れ、おいしい所を持っていく佐伯さんはずるいと思う。

いつもはふざけてばかりなのに、こういう所だけはしっかりしている。

全くこの人にはかなわないな。


「あの……橘君」


前を見ると、先程まで柚子ちゃんを抱きしめていた遠野さんが立っていた。

柚子ちゃんはという、姉のスカートの裾を掴んで遠野さんの後ろに隠れるように立っている。


「どうしたの?」


「その……いいづらければ言わなくてもいいんだけど……」


今の遠野さんはなにやらモジモジしていて、顔も微妙に赤い。

トイレにでも行きたいのかな?


「橘君と佐伯さんって……どういう関係なのかなって……」


最後の方はかすかな声になっていたが確かに聞き取れた。

俺と佐伯さんの関係っていえばただのバイト仲間ってだけだけど何でそんなことが聞きたいんだろう?

俺の後ろでは先ほどまでとはうって変わって、何かを企んだギラギラした瞳で遠野さんを見ている佐伯さんがいる。

その顔は妙にニヤついていた。

こういう時の佐伯さんは何か悪いことを企んでる時だ。

俺も過去何度被害があったかわからない。


「俺と佐伯さんは……」


「遠野さん、ちょっとこっちにきな。あっ、健一はくるんじゃないぞ。柚子ちゃんの面倒を頼む」


そういうと佐伯さんは遠野さん腕を掴みを店のバックヤードに連れて行ってしまった。

何か嫌な予感がするが、この件はおいておこう。


「良かったね、柚子ちゃん。今度からはいつきてもいいんだよ」


「うん」


そう頷く柚子ちゃんの笑顔はこの上なく可愛かった。


「そうだ。柚子ちゃんにプレゼントがあったんだ」


「えっ」


驚く柚子ちゃんに俺はカウンターからある箱を取り出した。

本当はこの前の定期テストでいい点数を取ったら渡すつもりだったけど、仲直り記念ってことで渡しても問題はないだろう。


「開けていい?」


「うん。開けてごらん」


柚子ちゃんがわくわくしながら箱を開けると中には一枚のカードが入っていた。


「これって……ライブカード?」


「そうだよ。柚子ちゃん専用のね」


柚子ちゃんは目を輝かせてカードを見ている。

本当はダーツセット一式揃えて渡したかったがどの矢がいいかは人それぞれなので、矢に関係なく使えるライブカードの方をプレゼントすることにした。

カード自体は安いものだが柚子ちゃんの話を聞く所、お金がないようだからこれはきっといい贈り物になるだろうとこれをプレゼントに選んだのだ。

少しヒヤヒヤしたが柚子ちゃんがこんなに喜んでくれてよかった。


「お兄ちゃん、ありがとう、」


そういいながら、俺に抱きついてくる柚子ちゃん。

抱きついてきた柚子ちゃんからは、ほんのりと石鹸のいい香りが漂ってくるし、俺の胸にダイレクトで柚子ちゃんの柔らかいものが押し付けられてくるのでそれらのものを意識しないようにするのに俺は必至である。

こうしていると柚子ちゃんも女性だということを意識してしまう。

とうの本人はそんなことを考えているか全く分からないが。

そうこうしているうちにだんだん頭がクラクラしてきた。

結構これはまずいかもしれない。


「ゆ~~~~ず~~~~!!」


俺と柚子ちゃんが声のする方へ向くとそこには背中から怒気を発する遠野さんと、「修羅場だ修羅場」といいながら笑顔で笑う佐伯さんがいた。

いつの間に2人はバックヤードから出てきたのだろうか。

あまりの怒気に柚子ちゃんは抱きつくのをやめ、俺の後ろに隠れてしまう。


「また橘君に迷惑かけて」


「迷惑はかけてないもん」


「確かに。むしろ俺が得したような」


「柚子!! 橘君!! そこで正座しなさい」


「俺も!!」


そして、お客さんがくるまで俺と柚子ちゃんは何故か遠野さんからお説教を受けることとなる。

背後ではお腹を抱えて笑う佐伯さんと、「青春だな」といい、温かい眼差しを向ける叔父さんが俺達3人を見守っている。

大変だったが、遠野さん達が仲直りできて俺は本当によかったと思う。

やはりこういう日常のほうが楽しくていいのかもしれない。


「橘君、何にやけてるの!! 反省してるの。」


「はい!! すいません!! とくと反省をしています」


いや、やっぱり嫌だな。

こんなお説教は受けたくない。

ちなみにこのやり取りはお客さんが大量にくるまで続けられることとなった。


ご覧いただきありがとうございます。


感想をいただけるとうれしいです。


次話はこの章のエピローグとなります。

なるべく早く上げるようにしますので今しばらくお待ち下さい。

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