6
水…水…水…………。水が野みたい。
私達は森に続くであろう林を背に歩き出した。
森に入って遭難でもしたらシャレにならない。
…もう充分シャレになんない事態だし。
これ以上はご免被りたい。
歩き出してから二人とも無言だ。
色々考え過ぎて言葉にならない。
歩き続けて早2時間。喉もカラカラだ。
「宮さん、少し休みません?」
草野さんも同じ気持ちだったのだろう。
こちらを見る顔には『疲れた』と書いてある。
顔を見合わせて乾いた笑いを交わす。
「考えてたんですけど…」
木陰に腰を下ろしながら草野さんが話しだす。
「おかしいと思いませんか?
考えれば考えるほどそう思うんです。
いくら田舎の方に来ていたとはいえ、家や田んぼすらないなんて。
バスに乗ってた時は電柱だって普通にありました。
いくらバスから投げ出されたとはいえ、こんなに何もない所なんてあると思います?」
確かに歩き始めて3時間たったが、見渡す限り木以外何もない草原が広がっているだけだ。
冷静に考えてなんて言ったけど、本当は考えたくなんかない。
おかしい事は分かってる。
でも深く考えるのも怖い。
「宮さん………。
眉間にシワよってますよ?
ない脳味噌をフル回転させてもたかが知れてるので止めなさい。
そんなコワい顔小さい時からしてるから、大きくなってヤンキーになるんですよ。」
…おい!!
「誰がヤンキーやねん!!」
思わずツッコミをいれてしまった……。
ムッとしたフリをしながら上司を見上げる。
上司は
「さすがヤンキーはツッコミも違いますね。
おぉコワ…」
など言いながら笑っている。
「本当に失礼な人ですね…。
腹黒野郎………」
最後の部分は小声だったのに、しっかり聞こえていたようだ。
わざとらしい笑みを浮かべながらジワジワ近づいてくる。
「人が気遣って元気を出させてあげようとしてるのにヒドい扱い…。
悪い言葉を使うお嬢ちゃんにはお仕置きが必要ですねぇ。何がいいかな…?唇で唇をふさい『申し訳御座いませんでしたー』」
コワいよこの人。
斜め上から過ぎる、完全セクハラ発言を大声で遮る。
からかわれてるのは分かっているのだが、いつもこのパターンだ。
いい歳して赤くなる顔が恨めしい…。
上司の顔を見上げると、案の定ニヤついていた。