表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森口家の六つ子は、神様の後始末係です —龍神さまからのご指名—  作者: 織村蜜柑


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/51

第四十一話「水を運ぶ道」

【前書き】

前回まで:

信玄たちは、古い水分けのそばに「第一の杭」を置いた。

それは大きな堰を築くためではなく、土地に残る小さな水の痕を知るための印だった。


水はまだ細い。

けれど、名を呼べば返る。

その音は、次の場所を示し始めていた。

第一の杭を置いた翌朝、勘助は兵を二手に分けた。


一方には、石列の周りの土を見させた。

もう一方には、村へ下る道を歩かせた。


「水を見るのではないのですか」

若い兵が尋ねると、勘助は地図から目を離さずに答えた。

「水だけ見ても、暮らしは読めぬ」


樹玄は、石列のそばで耳を澄ませていた。

ぽつり。

ぽつり。


昨日よりも、水の音は近い。

だが、それは石の下だけではなかった。


「下にもある」

樹玄が呟く。

「水か」

信玄が問う。

「水の音じゃない。水を運んだ音」

その言葉に、四糸乃の筆が止まった。

「水を、運んだ音……?」


樹玄は山道の方を見た。

「桶が揺れる音。木の樋を置く音。濡れた足で土を踏む音。水そのものじゃなくて、人が水を動かしていた音だと思う」


勘助の目が細くなる。

「つまり、水筋の先には、人の道がある」

信玄はすぐに立ち上がった。

「行くぞ」


村の上手から下る道は、細く曲がっていた。

馬で進むには不便だが、人が桶を担いで歩くには、ぎりぎり通れる幅がある。


道の脇には、ところどころ石が置かれていた。


目印にしては低い。

石垣にしては短い。


四糸乃が膝をつき、草に埋もれた石を見た。

「これ、同じ高さで並んでいます」

勘助がその先を見た。

石は畑の端から、村へ向かって途切れ途切れに続いていた。

「桶を置いた跡か」

「休む場所、ですか」

「水を運ぶなら、途中で置く場所が要る」


信玄は石に手を置いた。


「大きな水路がなくとも、人は水を運んでいた」

その声は静かだった。

「水が足りぬ土地なら、なおさらだ」

少し下ったところで、老婆が待っていた。


昨日、石の下の水音を語った老人の妻だという。

老婆は、古びた木の樋を一本抱えていた。

「これを、昔は使っておりました」


勘助が受け取る。

短く、割れ、軽い。

大きな流れを通すものではない。


「どこで使った」

「雨のあと、山から落ちる水を少しだけ畑へ寄せるのです。長くは持ちませぬ。朝のうちだけです」


樹玄が木樋に触れる。

「……まだ、水の匂いが残ってる」


四糸乃はすぐに書き留めた。

山道の石。

桶を置く場所。

短い木樋。

朝のうちだけ使う水。


老婆は、四糸乃の筆先をじっと見ていた。

「そんな小さなことまで、残すのですか」

四糸乃は顔を上げた。

「小さいから、消えてしまうので」


老婆はしばらく黙った。


やがて、山の方を指した。


「ならば、もう一つあります。朝だけ水が落ちる窪みです。昔は、朝の雫と呼んでおりました」


樹玄が小さく息を呑む。


その名を聞いた瞬間、遠くで水が鳴った。

ぽつり。

今度は、はっきりと。


信玄は龍地へ向かう道を見た。


水があった場所。

水を運んだ道。

人が休んだ石。


それらは、ひとつの線になり始めている。


「勘助」

「は」

「この道を追え。水の道だけではない。人が水を運んだ道もだ」


勘助は頷いた。

「竜地へ向かう道筋と重なりますな」

信玄の目が、わずかに鋭くなる。

「ならば、なおさら見ねばならぬ」


四糸乃の筆が紙を走った。

朝の雫。

水を運ぶ道。

竜地へ向かう線。


樹玄は耳を澄ませる。


水はまだ細い。

けれど、もう石の下だけで迷ってはいなかった。


人の足音に寄り添うように、次の場所へ流れ始めていた。


挿絵(By みてみん)

【後書き】

今回のまとめ:

・石列の先に、水そのものではなく「水を運んだ人の道」が見つかる

・村人は桶や木樋を使い、朝だけ落ちる小さな水を暮らしに使っていた

・その道筋が、竜地へ向かう線と重なり始める


作者ノート:

今回は、水路ではなく「水を運ぶ道」を見つける回です。


戦国時代の旧双葉町周辺では、大きな堰ではなく、谷水や雨後の水、木樋や桶など、小さな水の利用が中心だったと考えています。

水そのものだけでなく、それを運んだ人の足跡も、土地の記憶として残っている。


次は、この道が龍地へどう繋がるのかを見ていきます。


キーワード:

水を運ぶ道/木樋/桶/朝の雫/竜地/武田信玄/山本勘助/森口樹玄/四糸乃

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ