2:いくまで
それから一か月後――――。
「今日も良いお日柄くま…………。って、アーク様ッ!! いつになったら、人間どもに悪い事をしにいくのですか!?」
ぽかぽかした昼下がり。
二人はアークの城の中庭で、午後のティータイムを過ごしていた。
魔界への門を後にして一か月の間、アークは領地の城から一歩も外には出ていない。
朝は起きたいときに起き、昼まで読み物にふけ。昼食のあとは、執事とフェンシングをして軽く汗を流す。
そして、夜は来客と食事やダンスなど……。思いのままに時を過ごしていた。
もちろん、人と会うときは悪魔であることがバレないように人に化けて。
「クマ子は人間というものを分かってはおらぬな」
「誤魔化さないで欲しいのです! アーク様は何一つ悪い事をしてないのです」
「そこが浅いと言っているのだクマ子」
「――――ッ!」
もの静かに話すアークに、言い返す言葉が見つからないアクーは頬を膨らませた。
そこに、執事が数十枚の紙を持ってやってくる。
「旦那様、今月分の結果が出ましたので、ご確認を」
「うむ」
「アクー様、お茶のおかわりを」
「ありがとうくま……そうだ! アルフレッドからも言って欲しいのです! アーク様にもっと働けって」
「これはこれは、アクー様は手厳しい」
笑いを堪えるようにアルフレッドは、握った手で口元を隠した。
「聞こえているぞ、ふたりとも。そもそも、俺は労働が嫌いだから領主をしている。クマ子もここでの生活で分らぬか? 税収が人間を苦しめる手堅い方法だと」
「ん――――ッ!!!」
持った紙をパチパチ手で打ち鳴らすアークに、言い返す言葉が見つからないアクーは再び、頬を膨らませた。
アークが手にしていたのは、毎月の徴税報告書。
問題がない限り、税はお金や食料などで領主であるアークに支払われる……問題がない限りは。
アルフレッドは膨れるアクーの助け船に耳打ちした。
「私もアーク様には、たまに城から出て欲しいと思っていますよ」
「……アルフレッド」
最後の一枚を手にしたアークのこめかみにピクリと一瞬、力が入る。
アークは立ち上がり――。
「アル、出かける準備をしろ。あと、クマ子の分もだ」
「――仰せのままに」
それを聞いたアクーも、ついにアークの悪魔としての悪い事が見れるのかと――。
目を輝かせ、立ち上がり聞く。
「――――それって、もしかして」
「領民の農地が魔獣に荒らされてる。来年度のワインが危うい! いくぞ」
「はいッ! ……えっ?!」
アークもまた……自分のしようとしていることが、人助けになるとは思っていないのであった。




