二人のバート
産まれた時から一緒だったアルバートとギルバート。
イタズラして怒られるのも、家庭教師に褒められるのも、剣術を習い馬の扱いを習うのも・・
いつも一緒だった。
学園にも一緒に通ったが先生たちが区別が付かないからと、初めて別々の教室、部屋になった。
この時産まれて初めて 比べられない生活 を知った。
何をするにも一緒だったが性格までは一緒では無かった。
アルバートは何を始めるにも先に行き、どちらかと言えば座学よりも剣術のが好きな好奇心旺盛な子。
一方ギルバートは慎重派で、剣術よりも座学を得意とした。
だからと言って片方が劣る事はなく、座学にしても剣術にしても成績は同じだった。
容姿端麗、成績優秀の二人。おまけに人当たりも良いため常に二人の周りには人が集まった。
男子でも女子でも・・
「お前たちこれだけモテるのに何で彼女を作らないんだ?学生の間に相手を見つけないとダメだろう」
と良く言われたが、アルバートは王宮騎士団へ入る事を目標としていたし、ギルバートは子爵位を継いで相手は親が連れてくるだろうと思っていた。
だがそんな二人も時々イタズラをした。
ワザと入れ替わり周りの反応を見て楽しんでいたのだ。これが不思議と誰も気付かなくて、いつ気付く人が現れるか楽しみにしていた。
「俺たちを見分けられる女性が現れた時が、結婚する時なんだろうな!」
ある日アルバートが言った。
それもそうだ、伴侶が見分けられないのでは困ってしまう。実際に両親と屋敷の執事長と侍女長は自分たちを見分けている。
「なぜ僕たちを見分けられるの?」
と聞いた事がある。
返ってきた言葉は皆同じ言葉だった。
「愛しているから分かること」だった。
自分たちを見分ける女性。いつしか二人にとっては憧れの女性となった。いつ現れるのか、その瞬間は来るのだろうか・・と。
先に現れたのはギルバートだった。
両親の知り合いの伯爵令嬢、フランシスだ。
その瞬間を目の前で見たアルバートは信じられない気持ちと、羨ましい気持ちが混ざった。
「今度のお茶会では俺がエスコートするよ」
「えっ?なぜ?」
「確かめたいんだ。本当に俺とギルを見分けられているのか・・」
ギルバートは納得していなかったが庭までの間だけ!と約束をした。ギルバートには庭で待っててもらい当日、アルバートは玄関でフランシスを出迎えた。
「今日は気候が良いから庭に準備したんだ」
笑顔でフランシスを見る。誰にも見破られなかった笑顔だ。
でも彼女は違った。
少しずつアルバートと距離を置き始めたのだ。
「アルバート様、ですよね?」
彼女の口から出た名前に正直驚いた。
今までは必ず名前の最後に?が付いたから。なのにフランシスはハッキリと言い切ったのだ。
(やばい、ギルに現れた!彼女は間違いなく俺とギルを見分けている)
自分の事では無いのに何故か嬉しくて仕方なかった。
(ギルバートに現れたんだ!きっと自分にも・・)
その夜両親に伝え、彼女のデビュタントが終わったら正式にギルと婚約する事となった。
二人はその間も距離を縮めて行った。
アルバートはそんな二人見ても、羨ましがったが妬みはなかった。
アルバートも騎士団試験に何度も挑戦していて、皆には言わなかったが試験には合格していた。
合格を言わない理由は一つ、アルバートの目標が近衛騎士だったから。
近衛騎士は王族を守る騎士で、エリート集団だ。
その為密かに挑戦していたのだ。
問題が起きたのはフランシスのデビュタントの日。
事もあろうか王太子殿下がギルバートに専属騎士に任命してしまった。
王太子専属騎士・・独身者しか付くことが出来ない役職で婚約を結ぼうとしていた二人にとっては暗闇に突き落とされる出来事だった。
そして、いつかは領地に戻ると宣言していたギルバートを繋ぎ止める為、王太子はアルバートとフランシスの結婚を提案してきたのだ。
昔からお互いの区別が出来る女性を伴侶にする
この誓いは二人だけのものだった。
さっそく行動に移したのはアルバートだった。
「仮で婚約を結ぶ。でないとフランシスを他の子息に奪われる可能性があるからな。俺はギルを裏切らない、だから気に入らないとは思うけど話を受け入れてくれ」
アルバートの言う事を理解したギルバートは、泣く泣く納得した。
「可哀そうだがフランシスには黙っておこう。バレたら王家を騙した共犯にされてしまう」
こうして二人の計画は実行された。
時々アルバートは領地から王宮へ来ては、ギルバートと入れ替わる。
昔から二人を見分けられるのは身内だけ。
そのかいあって王宮へ入り込むのも簡単だった。
ただ時々、王太子が
「お前は本当にギルバートなのか?」
と聞いてきたが、なぜかギルバートの時に聞いてくるものだからバレてはいなかった。
「僕も領地へ帰りたい。帰ってフランに会いたい」
「気持ちはわかるが・・それはダメだ。フランシス嬢は見分けが付くからバレてしまう」
この時ほど見分けられる事がこんな障害になるとは思わなかった二人。
アルバートは必死にギルバートを慰めた。
(自分だけを見てくれる女性なんて、本当に現れるのかなぁ。俺とギルの何が違うんだろう)
練習場に集まってくる令嬢たちは、揃いも揃って
「ギルバートさまぁ〜」
と叫んでいる。
彼女たちは問題外だな!と思いながらギルバートと交代して訓練を受けていたある日の夜。
グスッ、グスッ
どこからか鼻を啜り泣く声?音?がしている。
アルバートは音?のする方へ足を向ける。
「どうして誰も来ないの?グスッ、私このまま死ぬのかしら・・グスッグスッ」
女性がどこかで泣いている?
アルバートは意を決して声をかけた。
その人こそがアルバートが探し求めていた女性、キャサリン・ドロイ侯爵令嬢だった。
彼女は気付いていなかったかも知れないが、アルバートが彼女の側へ寄った時一瞬だけ月明かりが彼女を照らした。
その美しさに目を奪われたアルバートは、自身の上着をそっと彼女の肩に掛けると何も聞かずに抱き上げた。
ドロイ侯爵家の馬車に乗せると従者に伝え、そっとその場を離れた。
自分は今、ギルバートだから。彼女に名を告げる事も出来ないと苦しさを隠すように・・
ギルバートにはこの事を伝えなかった。
なぜかわからないが、伝える気にならなかった。
ずっと王都にいる訳にもいかない為、一旦は領地に戻るがアルバートの頭の中には常にドロイ侯爵令嬢の顔が浮かんでいた。
(何なんだこの気持ちは・・彼女の顔を思い出すだけで胸が苦しくなる)
アルバートの気持ちを知らない屋敷の人たちは、口を揃えて
怠け者
と言った。
婚約者であるフランシスとの交流もせず、領主である父からも仕事を教わらず、気付けば王都へ行ってしまう怠け者・・と。
ある日珍しくギルバートから連絡が来た。
[聞きたい事があるから来てくれ!無理なら僕がそっちへ行く!]
慌てて馬を走らせギルバートの元へと向かったアルバートは、鬼の形相で迎え入れてくれたギルバートに冷や汗をかいた。
ギルバートからの話は
身に覚えのないドロイ侯爵や令嬢からお礼を言われ、困っている。
だった。
アルバートはあの日の夜に起きた事をギルバートに話た。
そしてその夜からドロイ侯爵令嬢を思うと何も手に付かず、胸が苦しくなることも話た。
ギルバートはそんな話をするアルバートに
「彼女が僕たちを見分けてくれると良いね」
とだけ答えた。
次の日は邪念を払うが如く練習に打ち込んだ。相変わらずアルバートを間違えて叫ぶ令嬢ばかりだったが、そんな中侯爵令嬢を見つけたアルバートは自然と微笑んでいた。
その頃にはキャサリンも本当のギルバートには近付いておらず、むしろ練習場にいる時のアルバートにばかり会いに来ていた。
「そろそろ温めていた事を実現しようか」
痺れを切らしたギルバートが言い出した。
二人がこの一年温めてきた事・・それは二人を入れ替える事だ。
この一年で王宮の人たちは誰も気付かなかった。
正直剣の腕も、頭の回転も差のない二人。
上手くいけば完全に入れ替わる事が出来るはず・・
「まずはフランシスで試そう。この一年、俺もギルもまともに会って無いだろう?彼女には悪いけど・・」
ギルバートも納得し、さっそく休みの希望を入れた。一足先に帰ったアルバートは、フランシスへ手紙を書いた。
[一度会って話がしたい] と・・
久しぶりに会ったフランシスは特に変わらない態度だったが、弟のクリスは明らかに敵対心丸出しだった。
それもそうだ、王家からの提案とは言え姉を蔑ろにしている男を気持ち良く迎え入れる事など出来るはずもない。
俺は心の中で二人に謝る。今はそれしか出来ないのだから・・
ギルバートと話し合って決めた待合場所は、ルージャ領の外れに立つ教会だった。
以前二人で馬掛けをした際に見つけた教会だった。
始めアルバートがフランシスを出迎えるつもりでいたが、ギルバートの我慢も限界に近付いていたしフランシスが見分けられるか確かめるのにもちょうど良いと決まった。
馬車の音が近づき教会の前で停まるのを確かめるとアルバートは椅子の上に寝転び、ギルバートは入り口へと向かった。
「お待たせ致しました、アルバート様」
淑女の礼を取りながらフランシスは挨拶をする。
「いや、僕も今来たところだ」
ギルバートは自分の気持ちを一生懸命に抑えながらフランシスに声を掛けている。
「昨日の答えを聞かせて欲しい」
ギルバートは真っ直ぐフランシスの瞳を見つめる。
フランシスも同じようにギルバートの瞳を真っ直ぐに見つめ、
「私の答えを伝える前に、一つお伺いしても宜しいでしょうか?」
ギルバートは頷いた。
「失礼を承知で伺います。ギル様・・ですよね?」
結果としてやはりフランシスに嘘は通用しないと言う事がわかった。
こうもハッキリと見分けられると気持ちが良い。
フランシスには二人の計画を話した。
始めこそ
「危険です!」とか「間違って当たったらどうするのですか!」と反対されたが、もうこれしか方法がない事を伝えるとしぶしぶ納得してくれた。
俺たちは大雨が近づく時を狙って、ワザと剣を腰に差し神妙な顔付きで屋敷を出た。
案の定、執事長が俺たちに声をかけてきた。
「お二人ともどこへ?強い雨が降ってきますよ?」
「明日にもギルは王都へと帰るから、少し手合わせをしに行ってくる。なに、直ぐに戻るから」
そうして二人、馬に跨ると駆け出した。
目的地は良く雷が落ちる数本の大木の下、一歩間違えば低いが崖があり落ちてしまう。
「さあギル、最後の仕上げと行こうか」
「アル、今まで辛い役目をさせて悪かった。お互いの幸せのために始めよう」
二人は腰から剣を抜くと打ち合った。
キンキンッッ!と剣がぶつかり合う音が響くが、二人とも止めるつもりは無かった。
その内雨が降り出し、遠くでゴロゴロと雷が鳴りだす。
「もう少しだ・・」
お互いの体力も限界に近づいた頃、近くの大木の一本に雷が落ちた。
その衝撃は二人が想像していたよりも遥かに強く、二人は崖の下へと落ちて行った・・
最初に目を覚ましたのはギルバートだった。
屋敷へ運ばれてから五日間、夜中に目覚めた直後はボーッとしていたが直ぐに我に返りアルバートを見た。
アルバートがまだ目を覚まさない理由は、落ちた時アルバートの方が先に落ちたから・・
「アル、目を覚ませ。まだ最後の仕上げが残ってるんだぞ・・僕一人では無理なんだよ・・」
ギルバートはアルバートの手を握りながら祈った。
翌朝、ギルバートの願いが天に届いたのか?ゆっくりと瞼を上げた。
「アル、良かった目を覚ましてくれて。今から僕がアルバートだ」
「ああ、そうだったな・・俺がギルバートだ」
「もう少ししたらフランシスが来る。そうしたら・・」
フランシスはあらかじめ執事長と侍女長に話を通していた。それから、キャスター子爵夫妻にも・・
四人は私たちの気持ちを汲んで、この事は墓場まで持っていくと誓ってくれた。
執事長と侍女長は泣いていたが
「名前が変わるだけ、お二人がお二人である事に変わりはありません」
「ええ、もともとお二人は良く入れ替わっておりましたので」
と笑いながら言ってくれた。
子爵夫妻も
「正直親でも見分けが付かない時がある。名前が変わるくらい、どうって事ないな。」
「そうよ、あの二人なら騙し通せるわ!」
二人の見分けが付く四人の協力を得たフランシスはホッと胸を下ろした。そして二人の寝室へと向かうと、ベッドに座る二人に驚きそして嬉し泣きしながらギルバートへと抱きついた。
「ギル様!ギル様!」
そう何度も何度もギルバートの名を呼びながら。
フランシスの声に気付いたメイドが寝室を覗き、二人の姿を見るとこれまた大泣きしながらも両親を呼びに走って行った。
「フランシス様、お客様がお見えになられています」
侍女長が呼びに来る。
ドロイ侯爵令嬢が今日も来てくれたのだと言った。実は昨日到着してお見舞いに来てくれたのだが二人がまだ目を覚ましていなかった為、近くの宿に宿泊して貰ったのだとフランシスから聞いた。
「彼女は俺に会いに来たのだろうか・・それとも・・」
「それは・・わからない。僕たちを見てどう反応するか正直怖いな」
「ああ・・」
フランシスに連れられて来たキャサリンはベッドに座る二人を見てとても驚いていた。が、間違える事なくギルバート(アル)の元へ行き
「あの時、私を助けてくださった方のギルバート様ですよね?」
「えっ?」
「ずっと、ずっとお礼が言いたかったのです。それよりも、良かった・・目を開けてくださって、本当によかった・・」
ポロポロと涙を流すキャサリンに、どう対応して良いかわからずオロオロしていたが
「俺もずっと、ずっと貴女に会いたかった。キャサリン、会いに来てくれてありがとう」
その後の二人の回復力は並以上で、三日後にはベットから起き上がっていた。
医者からも
「特に異常も見られませんので、あと二〜三日もしたら王宮へ戻れますよ」
と言われた。
キャサリン嬢は昨日帰って行った。
さすがに命の恩人とは言えまだ未婚の令嬢が、長い時間一人の男性と一緒にいるのは良くないと、侯爵様より手紙が届いたのだ。
ギル(アル)と別れる際、
「あの、王都で待っています。」
顔を真っ赤にしながら言ったキャサリンに、ギルバート(アル)はギュッと抱きしめながら
「待っててください。直ぐに帰りますから」
こうしてキャサリンは王都の屋敷へと帰って行った。
ギルバート(アル)が王都へと出立する前日、アルバート(ギル)は王太子殿下への注意事項を話た。
王太子殿下だけあって人を見る目は鋭い。
「ああ気をつけるよ。俺も・・僕も何度かジッと見られた事があるから、気をつけるよ」
「おそらくドロイ侯爵家から正式に婚姻の話が来るとは思うから、それまで頑張ってくれ!」
アルバート(ギル)は笑いながらも真剣に話てくれた。
王都へ行ったギルバート(アル)からの手紙によれば、王太子殿下は時々疑いの目で見て来たがアルバート(ギル)の言う通りドロイ侯爵からの正式な縁談が持ち上がると、王太子殿下はそれを阻止する方に気を取られギルバート(アル)の事は忘れてしまったようだった。
結局は陛下の一言で二人の婚姻が認められ、近々護衛騎士の任を降ろされるだろう。と、手紙には書いてあった。
「アル様?どうされたのですか?そんなに笑って・・」
「ああフランこっちにおいで」
アルバート(ギル)はフランシスの手を取ると自身の膝の上に座らせる。
もう何度も膝の上に座らせているのにフランシスは慣れないのか今も顔を真っ赤にしている。
「ふふ、フラン可愛い」
「もう!それよりお手紙には何と?」
「うん、王太子殿下は今だに彼を手放したくないみたいで、あの手この手を使っては阻止しようとしてるみたい。」
「まぁ!陛下がお認めになった事ですのに!」
フランシスは顔を赤くしながら怒っている。
「大丈夫、陛下の許可が降りてドロイ侯爵家へ引っ越すと書いてあったから。ドロイ侯爵もキャサリン嬢の気持ちを知っているし、何と言っても王宮内では婿にしたいNo. 1だったからね、僕!侯爵も手放さないと思うよ」
そう言いながらフランシスへキスをする。
「やっと一緒になれるね」
「はい、やっとアル様のお嫁さんになれます」
アルバート(ギル)は顔を赤くしながらも自分への気持ちは伝えてくれたフランシスに、抑えられない気持ちが溢れてしまい・・
その夜、「絶対に責任を取るし、早くフランを僕のものにしたい」と懇願されたフランシスは・・
甘い甘い夜を過ごす事になった。
一方ギルバート(アル)も侯爵の勧めで一足早く侯爵邸へ入る事となった。
その事に一番喜んだのは侯爵夫人で、
「キャサリンの嬉しそうな顔が見れてわたくしも心から嬉しいわ!それ以上に優秀な貴方が婿に来てくれて・・鼻が高いわ!!」
一日も早くお式を挙げましょう!!
と、婚約式を飛ばす勢いだった。
一方侯爵は
「もちろん君のような優秀な人が来てくれて嬉しい。本当に嬉しく思う。が、娘との距離は間違えないように。間違っても結婚前に・・」
「あら!お腹が目立たなければ良いではないですか!」
の発言に驚いた侯爵は・・
ギルバート(アル)の部屋をキャサリンから遠ざけてしまったのだった。
社交会で仲睦まじい二人を見た人たちは、
「あの騎士の本命はドロイ侯爵令嬢だったんだな」
と言われる程に常に二人で行動を共にしていた。
先に式を挙げたのはアルバート(ギル)とフランシスだった。
婚前交渉がバレてしまい怒った(?)クリスが大騒ぎしたからだ。
「姉上をさんざんほっといて、結婚前に手を付けるなんて!!!姉上が許しても僕は許さない!早く、一日でも早く姉上を妻にしろー」
義弟の可愛い提案にアルバート(ギル)は大喜びで準備を進めてしまい、本来なら半年〜一年後を予定していた式を三ヶ月も縮めてしまった。
ウェディングドレスは入れ替わる事を決めた時、誓いの意味も込めて王都の有名な[マダムステラー]に依頼をしていた。
(ちなみにギルバート(アル)も予約している)
式当日は王都からギルバート(アル)と婚約者のキャサリンも参列した。次期侯爵とその夫の参列に子爵家は大騒ぎとなったが、
「来年には家族になりますから」
と、優しくキャサリンに言われ更に大賑わいとなった。
「どう?向こうでは上手くやってる?」
「?!花婿が準備もせずにこんな所に来て良いのか?」
ギルの存在に気付いたアルは給仕からワイングラスを二つ受け取ると、一つをギルに渡した。
「僕の準備なんてしれてるよ」
そう言いながらワインを一気に飲み干す。
「そんなに勢いよく飲むと失敗するぞ」
アルが笑いながら言えば
「・・何度もしてるけど失敗はしていない」
「えっ?おまえ!!!」
「それでクリスに怒られた・・」
なんてこった!!と言いながらも大笑いしたアル。
最後には
「でも良かった。幸せになれ、ギル!」
と、祝いの言葉を言った。
その後直ぐに侍女長がギルを呼びに来て屋敷へと入って行ったギルの後ろ姿を、アルはワインを飲みながら見送っていた。
「ギル様!こちらにおいででしたか」
「キャス、一人にしてごめんよ」
キャサリンは頭を横に振ると、
「お義母様に色々と楽しいお話を聞いて参りました」
ギル様の!と、可愛く言われた。
その瞬間ギルバート(アル)は、ギルの気持ちが痛い程わかったのである・・
「次はそちらだな」
「ああ、近いうちに招待状を送るから」
横を見ればお互いのパートナーが笑いながら話ている。その姿を見て二人ともが同じ顔をしていた様で
「義兄さんも、ギルバート様も顔がニヤけ過ぎてますよ。」
と、クリスに突っ込まれた。
二人の願いはただ一つ。
自分自身を見分けてくれる伴侶と出会えること。 その願いを叶えられた二人は、名前を入れ替わる事を選んだが後悔はしていない。
時々子爵夫妻が間違えて名前を呼ぶが
「ここまで似ていたら間違えても仕方ない。むしろ夫人方が間違えないのが不思議です」
と。
そんな伴侶に恵まれた二人は、自身のパートナーだけを大切にし生涯ただ一人を愛し続けた。
これにて完です。
双子、特に一卵性の双子さんって不思議がいっぱい詰まってる!