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専業主夫のウインク

 

 そんなことがあった1週間後、帰宅すると、いつものように「お帰り」と居間から母の声がしたが、部屋に入ると、父の姿はなかった。


「お父さんは?」


 母の視線を追うと、父は台所に立っていた。


「美久、お帰り」


 なんと、エプロン姿だった。


「似合うだろ」


 なんか楽しそうだった。


「風呂場温めておいたから、シャワー浴びておいで。あったか~い特製鍋が待ってるよ」


「特製鍋って、何?」


「それはあとのお楽しみ!」


 母にも促されてシャワーを浴びに行った。


        *


 居間に戻ると、食事の準備ができていた。


「じゃじゃ~ん」


 ファンファーレと共に父が蓋を開けると、湯気と共になんとも美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐった。


「あっ、トマト鍋!」


「チッチッチ! ただのトマト鍋ではないよ。特製だよ。いろんな具材が入っているから乞うご期待!」


 自慢げな表情の父に促されて具材を一つずつ皿に入れていった。


「キャベツでしょう、ニンジンでしょう、それからシメジ。あっ、大きな肉の塊が出てきた。牛肉?」


「そう。オージービーフの赤身ステーキ。今日安かったから3枚丸ごと煮込んだんだ」


「わ~、嬉しい」


 箸を入れると、牛肉がスッと切れた。


「柔らか~い」


「だろ。昼前からコトコト煮込んでいたからね」


 父はまた自慢気に鼻を上に向けた。


「あら、これは何?」


 母がスプーンですくった肉を見分けようとしていた。


「鶏と豚?」


「ピンポン! オムライス用の細切れ鶏肉とカレー用の細切れ豚肉。野菜と合うと思うよ。鶏肉とキャベツ、豚肉とトマトを合わせてごらん」


「あっ、本当だ、おいしい。あっさりした鶏肉とキャベツの自然な甘さが最高。あっ、脂の甘みが出た豚肉とトマトの酸味が合う。すご~い」


 母が少女のような口調になると、わたしもそれにつられてしまった。


「やったー、ウインナー、ゲット!」


 鍋の底の方から大きなウインナーがゴロゴロ出てきた。


「最後の最後に入れて一煮立ちさせたからプリプリだぞ」


「本当。皮がプリッとしてる。わっ、それにジューシー。肉汁半端ない」


 思わず頬が緩むと、見ていた父の目が優しく笑った。

 すると一気に部屋が幸せ色に染まったように感じた。


 そんな中で食事を終えたせいか、気持ちが大きくなった。

 後片付けをすべて引き受けると、両親が目を合わせた。

 めったにないことが起こって驚いているのがおかしかった。


 居間に戻ると、父が母の肩をもんでいた。

 目が合うと、「これからお母さんの休みの日は私が夕食作るから」とちょっと照れ臭そうに笑った。


「休みの日はゆっくりのんびりしたらいいって、お父さんが」


 母も嬉しそうに笑みを浮かべた。

 すると、「明日はトマト鍋の残りを使ってリゾットにするから、乞うご期待!」と専業主夫がバチッと音がするくらいのウインクを投げた。



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