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閑話

 ウルデリックの研修が始まってから一か月が過ぎようとしていた。


 初めの方こそ不安と緊張でどうにかなってしまいそうであったが、慣れてしまえばなんてことはない。言い渡された村、あるいはエリアを決められた時間内まで巡回し、村人と言葉を交わしたり、時折見つかる悪魔を倒したりすれば任務は完了である。今のところ戦った悪魔はアルバールだけなので、苦戦したり危険を感じたりするものでもない。一週間もすれば単純な仕事と割り切れるようになっていたし、ひと月もすれば余裕が生まれていた。


 ウルデリックはそんな気の緩み始めた頃合いに、とある任務を承ることとなった。

 呼び出しをかけられ、ジュディゴールの待つ執務室へと赴くと、そこにはダズとジルミアースも待っていた。

 研修には慣れてきたウルデリックだったが、他の魔術師、魔法使いたちと接する機会が少なく、また自分から交流を図ろうともしないので、ガンボール以外とはあまり親しくなれていなかった。


「部屋は合ってるわよ」


 扉を開けたまま、中へ入ることを少しだけ躊躇い、しり込みしたところをジュディに見透かされ、遠回しに「早く来い」とお叱りを受けた。ウルデリックは観念して部屋の中へと入り、パタンと扉の閉まる音を背に聞く。

 ジュディと机を挟んで、三人は横一列に並んだ。


「ウルちゃんはもう巡回任務に慣れたかしら?」

「一応、問題なくこなせるようになってきたと思います」

「ふふっ、謙虚ね。村に住む方々からは良い評判をたくさん聞くわよ」

「むしろお世話されている気が……」

「そりゃこんなに可愛くて真面目な子が来たら、誰だって構ってあげたくなっちゃうもの」

「どう対応したらいいのか、ちょっと、困ってます」

「拒否権なんてないわよ。可愛がられておきなさい。これもあなたの任務です」


 にこやかなジュディとは対称的に、ウルデリックは居心地の悪さでいっぱいだった。というのも、他二人のじろじろとした視線が自分に突き刺さっており、「俺たちより遅く来やがって新入りのくせに」や「早く本題に入ってくれないかな」といった風に思われているのではないかという、自己肯定感の低さからくる妄想に苛まれていたからだ。


 このままではいずれ、どこか別世界のネットの中にしか居場所のない自称被害者たちのように、ありもしない妄想で認知を歪ませ憤り、他者へと責任を転嫁しては、頭の悪いことに匿名という名の盾を防御ではなく攻撃に使用し出す、余裕という悪魔に憑りつかれた化け物になってしまう可能性があったりなかったりするのだが、そこは教え導き共に歩く人々に任せるしかない話。つまりまあ、余談である。


「あ、あの、それで任務というのは」

「そうね。じゃあ全員集まったことだし本題に入りましょうか」


 ウルデリックは内心で「ごめんなさい」と謝りつつ、話題を無理やり切り返した。別に気にした様子のまるでないジュディは、任務について詳細を語り始める。

 内容は次の通りであった。


 エリア二十六と二十九の境界付近で、大きな黒い靄のようなものが発見されたという報告が村人から相次いでいる。

 一部の証言では、その黒い靄は大量のアルバールではないかとのこと。

 これらの実態を調査し、アルバールの群れであるなら討伐を、対処が困難と判断した場合は撤退し報告をする、というのが任務の内容であった。


「今のところ目立った被害の報告も出ていないし、元々人のあまり近寄らない場所ではあるけど、さっさと解決するに越したことはないからね。でも無理はしないように、特にダズ」

「お、俺かよ」

「支部長の真似して屋上から飛び降りたり、ヴェルゴの頭に落書きしたりする悪ガキにその手の信用はないのよ」

「任務じゃふざけねぇっての」

「ジル、ちゃんと見張ってね」

「お守りをするにはちょっと荷が重いというか……」

「ウルは初めての依頼任務よね。変に気を張らずに頑張って」

「は、はい」


「それじゃあ改めて。ダズデトラクト、ジルミアース、ウルデリックメイベルの三名に任務を言い渡します。当該エリアの調査及び敵性個体の討伐、状況に応じて撤退、後にその報告を行いなさい。その場の裁量はダズデトラクトに一任します。それじゃあ、行ってらっしゃい」

「「「はい!」」」


 声を揃えて返事をした三人は、準備もそこそこに、調査対象のエリアへと向かうのだった。



 魔法協会支部の屋内からエリア二十六に転移してきたダズは、日差しの眩しさに目を細めた。


「雲一つない任務日和だな」


 空には一片の浮かぶ雲はなく、草原には陽に煌めく青々とした草花たちの間を清涼な風が駆け抜けていく。

 そんな心地の良い空気に、ダズの気分は最高潮を記録し、ついつい声もでかくなってしまう。


「よし、俺についてこい!」

「あ、あの、そっちは逆方向ですよ」


 ダズは一緒に転移してきた二人に言って、意気揚々と歩き出した。しかし、ダズの行く先は村のある方向であり、調査を行う場所とは反対方向である。それに気が付いたウルデリックは、自信たっぷりの陽気な背中に水を差した。

 ウルデリックの言葉にぴたりと足を止め、数秒、顔を覆いたくなるような気恥ずかしい空気が流れた後、耳まで真っ赤にしたダズが振り向いた。


「いや分かってるし。試しただけだから」

「え、あ、ごめんなさい」


 咄嗟に出たした苦し紛れの言い訳も、真面目に拾い返してしまうウルデリックに逃げ場を塞がれたダズは、バツの悪そうな表情をして「いいから行くぞ!」と声を張り上げた。


「は、はい」

 一転して不機嫌そうな雰囲気になったダズを見て、何かしてしまったのだろうかと気を揉むウルデリックはその背に続く。


「……快晴なのに雲行きが怪しいわね」

 独り言ちてため息を吐いたジルミアースも歩き出し、ウルデリックの隣に並んでぽんと肩に手を置いた。


「気にしなくていいわよ。いつものことだから」

「そうなんですか?」

「先輩風を吹かせたいのよ」

「先輩風ですか」

「そっ。その風向かい風ですよって教えてあげたいくらいだわ」

「えっと、その、言ってきましょうか?」

「冗談よ。言うならそうね、方向音痴だと風向きも読めないんですね、とかそれくらいにしときなさい」

「全部聞こえてんだよ!」


 数歩前を行くダズは振り向き、恥ずかしさを隠そうとする心情に、憤慨している風を装って声を荒げた。


「怒ってる風だけど、あれ緊張してるだけだから真に受けないでね」

「でも、緊張してるようにはとても」

「そりゃ男の子のプライドがあんのよ。まあ、あなたもいるし、裁量権を持たされて責任を感じるなってのも無理な話なんだけど」

「緊張なんかしてねぇよ」

「そう気負う必要はないわよ。今日の私は荷物持ちだから」

「うるせぇっ」


 言って拗ねたダズは前を向く。だが、足取りは変わらず、歩くペースは一定を保っている。その様子を見てか、ジルミアースは「ふふっ」と小さく笑った。


「仲いいんですね」

「私はあなたともそうなりたいと思ってるけど?」

「えっ、私なんかと、ですか」

「あなたって、ガンボールさんの弟子なのに意外と卑屈で臆病なのね」

「す、すみません……」


 相槌のように謝罪を口にしながら、ウルデリックは俯いた。師を引き合いに出されたこともそうだが、あまり面識のない他者から面と向かって自身の欠点を告げられ、またそれを受け止められるほど、ウルデリックの心はまだそんなに強くない。


「じゃあ今から」

 しかし、ジルミアースは悪びれる様子も謝るようなこともせず、ただ淡々と本音を口にするだけであった。


「はい?」

「今から私たちは友達ね」

「え、っと、友達ですか?」

「嫌なの?」

「いえ、ぜんぜん、嫌とかではないです」

「そう、なら決まりね。私のことはジルって呼んでいいから、あなたのことはウルって呼んでもいい?」

「問題ないです」

「まだ固いわね。あ、それとあそこで会話に混ざりたそうにしているやつもダズって呼んでいいわよ」

「さんを付けろさんを」

「気にしないで、空耳よ。それに私が許可するから」

「わ、分かりました」


 そんな風にして、ジルミアースはほとんど一方的に話してはいるものの、会話を弾ませていった。

 口下手なウルデリックにしてみれば、それはとてもありがたいことであった。また何より、今の今まで友人と呼べる間柄の人間が誰一人としていなかったため、どう接したらいいのかと距離感を計りかねていたウルデリックには、会話の主導権を握ってもらい、多少強引に話してもうらくらいがちょうどよかった。


 少し張り詰めていた場も緩み温まってきたところを見計らってか、ダズは自身がずっと気になっていたことをウルデリックに尋ねた。


「なあ。ガンボールさんって、どんな人なんだ?」

「どんな、というのは?」

「いや、性格とか、弟子になってみてどうかとか。まあ、あれだ、印象的な」


 ウルデリックは「うーん」と唸って、少し間を置いて考えてみたが、どうにもまだ質問の意図を読み切れておらず、答えに詰まった。


「ダズさんは師匠にどんな印象を持っているんですか?」

「俺は、……本人には言うなよ?」

「気を付けます」

「色々と噂もあって、正直なとこ怖そうな人って感じだな。出来ることなら近づきたくない」

「……まあ、怖そうというのは同意ですが。噂というのは?」

「あー、知らないなら別に」

「そこまで言ったら逆に気になるでしょ。それに、噂じゃなくて事実だし、ウルにだって知る権利があるわ」


 それまで黙って聞いていたジルミアースが割って入った。ダズは歯切れの悪そうにもごもごと口を動かしていたが、観念したのか口を開いた。


「五年くらい前に、ガンボールさんはベロニカ様を殺したんだよ」

「えっ、」

「いや俺も詳細は知らねーんだけどさ。どうしてとか、どうやってとか、怖くて本人から聞けるわけねぇし。それに、当時はそんな余裕もなかったから、他の人もよく知らないらしいんだよ。それで、ウルなら何か知ってんじゃないかと思ってよ」

「す、すみません。私もよく知らないというか、その、初めて聞きました」

「そ、そうだよな。わりぃ、変なこと訊いて」


 捲し立てるように喋るダズに、とりあえずの謝罪を口にしたウルデリックだったが、その実、「まあ師匠ならそのくらいやるかも」とどこか達観していた。

 そんなことよりも、とダズの話の中で気になったことをウルデリックは尋ねていた。


「五年前って、何かあったんですか?」

「異界からの侵攻が再開されたのよ」


 所在なさげなダズに代わって、ジルミアースが質問に答えた。

 現在、人類が生存している大陸は魔王の魔法と悪魔の軍勢から逃れるために移住した場所であるが、それだけで侵攻を防げるのかと問われれば答えは否である。何もしなければ必然、他の大陸や国々がそうであったように、異界に呑み込まれて終わっていたことだろう。


 それを防いでいるのが世界そのものを創り出すベロニカの魔法なのだ。つまるところ、結界の張られているある海域までは、元の世界と全く異なる別世界であり、悪魔たちも魔王の魔法でさえも、海の向こうからやってくることはできないというわけだ。


 しかし、安寧が未来永劫続く、などということは決してない。というのも、ベロニカが死んでしまえば魔法が解け、外からの侵攻を再び許す形となってしまうためである。


 また、神に劣らぬ力を有しているベロニカであっても、その入れ物は人間なのだ。強すぎる力は体に毒であり、そう長くは保たない。せいぜいが百年くらいで寿命を迎え、死に至ってしまう。

 そのため、百年に一度の周期で人類は絶滅の危機に瀕してきた。一応、死期が近いことは本人の申告によって判明するので、その度に総出で迎撃準備を行い、多くの魔術師や魔法使い、そして性能では劣るものの、ベロニカの代わりに結界を張るリンデルの力によって、どうにか難を逃れてきた。


 事前準備ありきでもたくさんの死人や家屋等への甚大な被害が出るというのに、それが突然訪れたらどうなるだろうか。答えは簡単だ。さらにやばいことになる。本当にもう、そうとしか表現できないほどに、五年前の異界侵攻は過去のものと比べて群を抜いた凄惨を極めていた。


 まず、数十人いた一級魔法使いが三年の間に四名まで減った。二級魔法使いも三分の二を失い、以下の等級の魔法使い、魔術師たち、また非戦闘員などを含めれば、数えきれないほど亡くなった。

 地形に関しても、西には巨大な山脈ができ、南は緑地の見る影もない砂漠へと変貌した。


 これは余談だが、ベロニカを殺害したガンボールが、師匠の方のベロニカに研修と称して西区の山で悪魔狩りをさせられていたのが、ちょうど侵攻の最盛期である。自業自得、というか罰にしては生温いのだが、一人の罪を追及したところで現状は変わらないし、何より、そんなことをしている余裕はどこにもなかった。


 そんなこんながありつつ、ベロニカが転生するまでの三年間、絶大な被害を出しつつもなんとか耐え凌ぎ、今に至るというわけであった。


「そんなことが……」


 ウルデリックは自身が考えていた以上に師匠のやらかしたことが深刻で、事の重大さに眩暈がしそうだったが、「でもね」とジルミアースは続ける。


「同時にガンボールさんは功績もあげたの」


 ガンボールの功績は先述の通り、大量の悪魔狩りをしていたから、というだけではない。それは約二年前の出来事に遡る。


 二年前、すなわち転生を果たして、最低限の魔法が使える体になったことで記憶を取り戻した、まだ弱く幼いベロニカを殺そうとした集団がいた。それが魔教徒である。

 魔教徒はどうやってか悪魔を使役し、また魔術や魔法も駆使して、村や協会支部や本部のある街を襲撃した。


 攻勢は有利になりつつあってなお、日々悪魔と激闘を繰り広げていた者たちにとってしてみれば、魔教徒による襲撃は背後から奇襲を受けた形であり、また対処に当たる余力もなく、されるがままを受け入れるしかなかった。この襲撃によって、また多くの死者を出したことは言うに及ばないだろう。


 特に魔教徒が勢力を集中させたのが協会本部であった。というのも、この気に乗じてベロニカもろもとリンデルを抹殺しようと企んでいたからである。


 協会側は大陸の四方に戦力を割いていたため、本部には非戦闘員や四級以下の魔術師たちのみしか残っていなかった。


 いくらリンデルがいるからと言っても、当人はまだ本領を発揮できないベロニカと共に、結界の維持をするのに手いっぱいでどうしようもない。

 それらを知ってか、やってきたのは十数名の魔教徒と数百を超える中級以下の悪魔、三体の上級悪魔である。中級以下であれば四級魔術師たちでも戦えないこともなく、また非戦闘員とはいえ元は魔術師として戦ってきた者たちがほとんどなわけで、そこに魔教徒が加わってもどうにかできた可能性はあった。だが、上級悪魔がいるとなれば話が違う。


 上級悪魔と言ってもピンキリで、広大な大地を一瞬で砂漠に変えたり、三千メートルを超える山を空から降らせたりするものもいれば、中級悪魔に毛が生えた程度のものもいる。では、現れたのはどの程度の実力をもった悪魔だったのかと聞かれれば、その中間くらいと答えるのが妥当なところだろうか。


 しかし上位ではないとはいえ腐っても上級悪魔、その実力は伊達でない。そこらの四級魔術師が束になってかかろうとも、埃を吹いて飛ばすように殺せてしまうだけの力量差があり、本来であれば戦闘の体を為すはずもなかった。


 そう、ガンボールという化け物がいなければ。


 壮絶な悪魔狩りを行っていたガンボールはもはや四級魔術師の域などとうに越えており、中級程度では相手にならなかった。というかベロニカのせいで百節ある魔術を一晩で体験し覚えさせられたため、ガンボールの実力は魔術師となった時点で三級相当となっていたので、中級悪魔が相手にならないのは当然である。しかしまたそれが原因でベロニカ殺害に至るわけだが、これはまた別の話。


 斯くして上級悪魔三体を相手にガンボールは一人で戦い、その際に魔法も覚え、辛くも見事討伐を果たした。そればかりか、戦闘後すぐに、魔教徒たちや他の悪魔たちとの戦闘にも加わり、結果的にガンボールは英雄視されることになる。


 要するに、ガンボールがいなければ、人類は滅んでいたといっても過言ではなく、ベロニカ殺害という大罪を犯してなお誰も非難の声を表立ってあげない成果がそこにはあった。


「はぁ~」


 ジルミアースの話を聞き終えたウルデリックは感嘆として言葉も出ず呆けていた。

 自分の師が他の魔術師や魔法使いと比べても、そうそう比肩する者のいない人物であるとは認識していたが、聞きしに及ぶその実力を前に、「そりゃ私なんかが勝てるわけなかったんだ」とウルデリックは自虐的に過去の自分を慰めた。この場合、比べる相手が悪いのだが、他に経験の少ないウルデリックには栓無き事である。


 その後もガンボールのやらかした、もとい数々の功罪をジルミアースから聞き、話に花を咲かせていたウルデリックたちに、「止まれ」ダズが神妙な面持ちで命令を下す。それまでガールズトークさながらの華やかさだった空気が一変して、仕事の雰囲気へと思考が切り替わる。


「見えるか、あれ」


 ダズの指を差した方向に、煙のように黒くゆらめく何かがうっすらと視認される。「外法 獣装(じゅうそう)」ウルデリックは視力を上げるために魔術を発動させた。


「ひっ」

 何かを見止めたウルデリックが短く悲鳴を上げた。


「何が見えたの?」

「あ、アルバールの群れです。あれ全部、何体いるのか分かりません……」


 指先ほどの大きさから手のひら大まで、大小様々なアルバールの数は、ぱっと見ただけでも百はくだらない。下手をしなくとも、数百、あるいは千を超えるのではなかろうか。それほどの大群が一か所に集まり蠢いている様子を見たウルデリックは、頬を引きつらせていた。


「大丈夫だ」


 そんなウルデリックの背をぽんと叩いてダズが鼓舞した。ダズの表情を見たウルデリックは、それが決して強がりではないことを知った。


「あの数をなんとかできるんですか?」

「数が多くても所詮は知恵も魔法も持たないアルバールよ。倒す、より逃がさない方が難しいわね」


 ウルデリックの疑問に素早く返答したジルミアースは、すでにアルバールをどうやって処理するか、その手段を模索しているようであった。


「ウル、お前魔術はどこまで使えるんだ?」

 思案を続けるジルミアースをよそに、何か思いついたらしいダズがウルデリックに尋ねる。


「すみません。まだ、十二節までで」

「うーん、そうか」

「すみません……」

「そういや、さっきの外法は?」

「獣装のことですか?」

「そうそれ。どんな能力なんだ?」

「えっと、私と非生物に獣の形と特性を与える、といった感じだと思います。その、こんな風に」


 ウルデリックは地面に手を付いて、魔術を発動させた。地面がもこもこと隆起して、頭、胴体、前足に後ろ足、尻尾と徐々に形を成していき、ただの土が狼の姿へと変貌する。


「この形が一番作りやすいです」

「汎用性高いんだな。大きさってどのくらいまでいけんだ」

「どのくらい、」

「悪い質問を変える。あの群れを閉じ込めるくらいの大きさにできるか?」

「多分、できると思います」

「なるほど、じゃあ作戦は決まりだ」


 ウルデリックの魔術に納得したダズは自信満々に言って、「ジル」と声をかける。


「俺とお前でブルーグリルを使う。んで、俺が指示するタイミングでウルが魔術を使う。作戦は以上!」

「それだけですか?」

「シンプルでいいだろ」

「大丈夫よウル。失敗してもアルバールなんだし、そんなに気負う必要ないから」

「そ、そうなんですね」


 まだ疑義の残る煮え切らない感情と不安に迷うウルデリックだったが、別の作戦案も出せない上に、ジルミアースが賛成を示しているのと決定権を持っているダズが言うのだから、と自身を無理矢理納得させた。

 三人はその群れへと近付き、全員が目視で確認できるくらいまでの距離に立って、作戦を実行した。


「「『カロナヴァトスの篝火(かがりび)が異邦の兵を焼く』ブルーグリル」」


 二人の声が重なり、立てた二本の指が同時に虚空を斬る。


「今だ!」

「外法 獣装」


 迷いを脇にどけ、ダズの指示に唯々諾々と従うウルデリックは、地面に手を付き魔術を発動させた。

 先に発動させたダズとジルミアースの魔術がアルバールの群れへと着弾し、青い炎が大火の産声を挙げる。

 その直後、地面から顔を出した土塊の狼が、青く燃えるその灯をぱくりと一口で呑み込んだ。


「ウル、口をちょっと開けろ」

「え、はい」

「違う! 狼の方!」

「あ、はい!」


 とんちんかんでどこか微笑ましくも可愛いやりとりを経て、土塊の狼は口をすぼませて炎の逃げ道を作った。

 瞬間、その開いた口から火炎放射の勢いで青い炎が吹き上がり、天へと駆ける噴水のようにきらめいた。


 徐々にその噴水は高度を下げていき、十数秒もすると、ちろちろと短く舌を出し入れする蛇のように、下火となった炎が漏れ出るばかりで、とうとうわずかに漏れ出ていた熱も光も見えなくなった。


「よし、ウル、あれ解除しろ」

「はい」


 ガラガラと音と煙を上げて崩れる土塊の狼のその中には、黒々と焼けた地面と、熱に揺らめく空気で立ち昇る陽炎だけが残されていた。


「うっし、取りこぼしもなさそうだな」

「そうみたいね」


 遠目にアルバールが残っていないことを確認したダズとジルミアースは、気を緩ませ得意気に言って背を向け帰路に立つ。ウルデリックはどこか胸に残る不安の種を取り除けないまま、二人の背を追った。


「つーかウルの魔術、獣装だっけ、すげーんだな」

「そ、そうでしょうか」

「そうよ。っていうか、外法が使えるってだけですごいことなんだから」

「なあ、ウルの外法ってどっちなんだ?」

「どっちというのは?」


「外法には大きく分けて二つあるの。一つは魔術を覚える過程で、ベロニカ様の本来の歴史から外れた結果発現する場合。もう一つはその人の人生、歴史そのものが魔術として発現する場合」

「人生が、魔術に?」

「そうよ。だって考えてもみなさいよ。ベロニカ様の人生が魔術になるっていうなら、私たちの人生もそうならない道理ってないでしょ」

「そ、そういうものですか?」

「そういうものよ。で、あなたのは?」

「おそらく、後者だと思いまっ」


 言いかけてウルデリックは後ろを振り返った。草原に流れる風向きが変わり、熱風が肌に張り付く。心に埋まった不安の種が芽吹き根を張り一気に開花して、危険だ、と直感が頭の中で最大限の警告を出していた。


「『我が身と隔つ』リグレラゴール」


 ウルデリックは反射的に魔力で作られた壁を張った。だがそれではまるで足りないと自覚して、「外法 獣装」と三人をそれぞれ土塊の狼が呑み込んだのと、揺蕩う陽炎がぎゅっと収束したのも束の間、周囲一帯を熱と光と爆発音が包んだのとはほとんど同時であった。


 衝撃に吹き飛び、熱に肌を焼かれ、光に目を眩ませたが、ウルデリックの機転と爆発からの距離があったことで、なんとか無事全員が起き上がった。


「くそっ、なんなんだ」


 悪態をつくダズと、咳き込むジルミアース、呼吸を荒くするウルデリックと三者一様に戸惑いを見せる中、爆発の中心地には、炎を人の形にくゆらせる悪魔が佇んでいた。


 目、と言っていいのか分からない。人の形をしているとはいえ、それはただ輪郭を模しているだけであり、子細を見れば炎のささくれが火花を散らし、顔には目も鼻も口も耳も何もない、のっぺらぼうのまさしく異形である。それにも関わらず、ウルデリックたち三人は、その悪魔と目が合ったと、こちらを見ているのだと、本能的に理解した。


「ダズ!」

「分かってる、逃げるぞ!」


 ジルミアースに請われ、ダズは恐怖に負けそうな心を鼓舞し、声を張り上げ短く指示を飛ばす。否応なく、全員が一斉に後ろを振り向き駆け出そうとした直後、ぼっ、と音を立てて、絶望に火が灯る。


 目の前に突然現れた火の玉に、ウルデリックたちは足を止めざるおえなかった。

 動けば死ぬ、と恐怖が足に絡みつく。

 火の玉は膨れ上がり、先ほどの悪魔と同じ人の形を成した。


「あ、あづ、ああづ、あづづづ、あづ」


 うわ言のような呟きと皺枯れた声が聞こえた。表情なんてないのに、その悪魔が不思議そうにしているのが分かった。

 悪魔の胸の辺りで爆発の始まりたる光が、ガラス玉に透かした太陽のように瞬いた。


 ウルデリックはその光景を前に、考えるよりも早く体が動き、三重の魔力の壁と土塊の狼を出していた。


 先ほどとは比べようもないほどの焦熱が身を焦がす。熱をめいっぱいはらんだ空気は吸い込むだけで肺を焼き、肌は痛みを感じないほどに火傷が深く根ざし、伏している地面は灰燼と化して早く立てと急かしてくる。


 これを地獄と呼ばずに何と表せばいいのだろうか。


 ウルデリックは恐怖に竦み震える体を抱いて起き上がった。少し離れたところでは、ダズとジルミアースが怪我をして倒れたままではあるものの、咳き込む声は聞こえるし、意識もあるようだった。

 二人を守らなければ、ただその一点がこの絶望に抗う術であると、ウルデリックは勇気を振り絞った。

 しかして絶望とは、かくもそのように生易しいものではないのだ。


「あ、あづ? づづ、づ?」


 三人の前に再び火が灯る。悪魔は心底不思議である、といった声をしていた。足の裏で蟻を潰しても、隙間からすり抜け逃げてしまうとでも言いたげな様子だ。


 ゆえに、もう一度。

 疑義の前に二の足を踏む気など毛頭ない。

 三度(みたび)と繰り返される熱の収束と解放。

 訪れたるは、死出(しで)の淵。


 なんてことはない。この悪魔にとってしてみれば、それは攻撃などではなかったのだ。初歩の初歩たる自身の魔法で遊んでいるだけである。そして、ウルデリックたちは遊び相手にもならなかった。


 ウルデリックは知らず知らずのうちに、寒くもないのにガチガチと歯を鳴らしていた。涙は流れる前に蒸発して消えていく。この恐怖も一緒に消えてなくなってくれればどれだけいいだろうか。抗う意志も砕けてしまうほどに、彼我の実力差をはっきりと感じ取っていた。


 ウルデリックは一人でなら逃げられるのだ。今ならまだ間に合うのだ。他の二人と違い、魔術の節をリグレラゴールから先に進めていないので、自分だけは転移することが可能なのだ。

 そう、動けない二人を見捨てる。ただそれだけで、自分は助かることができる。


 この悪魔のことを皆に知らせなければならない。情報を持ち帰り、準備を整え、討伐へと赴かなければならない。自分がここで死んでしまえば、それは無意味であり無価値であり、より多くの被害を出すことに繋がってしまう。


 二人ならきっと分かってくれるだろう。

 それまで生きたこと、ここで無念にも散ること、その死に意味を持たせてあげられるのは自分だけなのだ。大義のために、より多くを助けるために、犠牲になることなど、あの二人はきっと厭わない。私なんかとは違って、卑屈でもなければ臆病でもないのだから。……


「できない」


 心の奥底に沈みこませた本音が、海面に向かって手を伸ばし、気付けばウルデリックはその手を取って、言葉を声にしていた。喉は震えてしゃくり上げ、涙はとめどなく溢れて視界を滲ませる。


 助けたい。守りたい。失いたくない。

 本音が堰を切ったように次々と胸の内を満たしていく。

 初めてできた友達だった。


 生まれてこの方、主従関係以外に人と関り合うこともなく、目にする人々は皆自身より先を歩き、隣に並んで共に歩もうとしてくれる人などいなかった。寂しかった。羨ましかった。私にもそんな関係が築けたなら、と妄想した。


 それを二人は叶えてくれた。現実にしてくれた。嬉しかった。楽しかった。心地よかった。

 憧憬のように焦がれて、手を伸ばして掴んでもらったのに、その手を自ら放すなんてそんなこと、できるわけがなかった。


 きっと、ここで逃げても二人は許してくれるのだろう。

 でも、それじゃあ、恥をのんで今日の私が生き延びたとしても、きっと、明日の私は死にたくなる。

 そんな思いを抱えて生き続けるくらいなら、……共に。


 ウルデリックはよろよろと立ち上がる。霞ぼやけた眼に暗い光を灯し、悪魔をはっきりと見据え、一矢報いる覚悟を宿す。

 このままでは終われない。

 魂が、現状維持からの脱却を掲げ、力を手に取り我が意を叫べと背中を押した。


「バーニア」


 ウルデリックは心のままに言葉を放つ。

 そんな彼女の意思などまるで意に介することもなく、悪魔は魔法を発動させて、先ほどよりも桁違いの規模と威力を伴った爆発を巻き起こした。


 光と熱と衝撃に身を委ね、吹き飛ばされた先で、ウルデリックたちはなおもまだ奇跡的に生きていた。

 しかし、瀕死の状態に変わりはない。辛うじて死んでいないというだけの、まさしく虫の息。それでもまだ、生きていた。


 朦朧とする意識の中で、ウルデリックは少しの満足感を得ていた。なんとか二人を自分の手で守った。逃げずに立ち向かった。あの悪魔の思い通りにはさせなかった。ふふっ、と小さな笑みがこぼれる。


 ぼっ、と瞳の先に炎が灯った。人の形を成した悪魔は、その惨状を見渡し、さも愉快気に笑っていた。まるで子供が路傍の石を蹴飛ばして遊ぶような、暇つぶしで始めたことに案外興が乗って楽しくなってきたとでも言うような、そんな笑みだった。


 そうして再び、魔法を発動する。

 今度こそ、きちんと灰にして見せよう。そんな明確な意思すら感じさせる光だった。


「ごめんなさい。師匠、ごめんなさい。ごめんなさい」


 呪詛のようにぶつぶつと、しかし声にもならなず、ただぱくぱくと口を動かすウルデリックは目を閉じ、最後の時を待つ。


 ふっ、と辺りが暗くなったのが分かった。

 ウルデリックはうっすらと目を開ける。


 空の青は見たこともないほど真っ黒な雲に覆われて、夜でも引き連れてきたのかと見紛う静寂が、一筋の雷鳴によって切り裂かれた。

 落雷の直撃を受けた悪魔は、離れたところで火を灯し、人の形を成す。

 落雷の煙るその中からは、よくよく見知った二人が立っていた。


「し、しょ」


 擦れる声でその背の主を呼ぶ。


「悪い、遅れた」


 その声がどれほどの安心感を伴っているのか、ウルデリックには表しようもない。だが、もうこれで大丈夫だと、全てを委ね任せられることだけは確かであった。

 少し、眠ろう。


「まだ寝るな。ちゃんと見てろ」

 ウルデリックが意識を手放そうとした瞬間、ガンボールが額を小突く。


「へっ?」

 驚きで間の抜けた声をしたウルデリックに、ガンボールは再び背を向けた。


「で、どうしますあれ」

「空に飛ばせ」

「兄貴はすぐ美味しいとこ持ってこうとしますね」

「お前がやったら大変なことになるだろ」

「兄貴にだけは言われたくねぇ」


 飄々と、それでいて表面上は気兼ねのない軽いやりとりなのだが、そこには明確な怒りが滲んでいた。そして、その怒りを魔術でもって、ガンボールは体現する。


「『アウトローバの槍の穂が鉄砂の壁を撃つ』

 『高く 空を頂く 虚飾(きょしょく)擾乱(じょうらん) バリナライルズの鉄の棘が竜の影に(くびき)を穿ち巨人の足蹠(そくせき)に朱海が満ちる』」


 ガンボールは右手を横に広げて手を開き、大気を掴んで空に狙いを定めた。


「ランサドール エルメトロアスキイエルダ」


 圧縮された空気の塊が、巨大な人の腕を模る。

 刹那の真空を埋めるようにこぞって突風が吹き荒れ、燃え盛る炎も熱も煙も全てを洗い流した。

 ガンボールは目の前の虚空を右手で掴んだ。連動する大気の腕が、その先にいる悪魔を羽虫のように容易く握りつぶした。


 悪魔は状況についていけず、また訳も分からないままであったが、抵抗しようともがき、幾度と見せた爆発を巻き起こした。しかし、その光も熱も衝撃も、全ては手の平の中に納まり、また魔術から逃れるどころか大気の表面を焦がすので精一杯であった。


「そーっれ」


 ガンボールは右腕を振りかぶり、勢いよく空へと悪魔を投げ飛ばす。一切の抵抗を許さず、悪魔は勢いそのままに真黒な雲海へと沈んでいった。


「リッケンバッカー」

 兄貴こと魔法協会第三支部の支部長たるリッケンバッカーが、詠唱と共に魔法を発動させた。


 黒々として晴天を穢す雲海は、まるで一匹の生き物のように蠢き、悪魔を中心に球体へと形を変えた。

 ゴロゴロと雷の嘶く声が耳を劈き、それに端を発して、光と音が暗黒の球体の中で鳴動する。

 球体はその体積を少しずつ中心に向かって小さくしていき、反比例するように、雷鳴が威力を増した。

 最後は、豆粒のように小さくなったその雲が、バチン、とあっけなくも虚しい音を立てて掻き消える。

 そこには空を汚した雲など見る影もなく、はじめからそうであったと言わんばかりに輝く晴天が、澄んだ青一色を湛えていた。


「ばけもの」

 ウルデリックは乾いた笑みを浮かべ、誰に向けて言ったのかも分からない言葉を自身にだけ聞こえるくらいの声量で言葉を漏らし、意識を手放した。



 悪魔と壮絶な戦闘を行ったその夜のことである。

 他の二人と違ってすぐに意識を取り戻したウルデリックは、絶対安静と言われつつもじっとしていられず、協会支部の屋上へと上った。

 ウルデリックは屋上の扉を開けると、夜闇の中に師の背を見た。


「師匠!」


 煙草の煙をふかし、壁に肘をついて遠くの砂漠を見つめるガンボールにウルデリックが駆け寄り、隣に並んだ。


「あの、今日はありがとうございました」

「ん、ああ。気にすんな」

 ガンボールはウルデリックの方を見ることなく、ぶっきらぼうにそう答えた。


「ダズさんとジルさんは意識が戻ってないんですけど、命に別状はないそうです」

「そっか。そりゃよかったな」

「はい」

「つーか、お前も絶対安静だろ。こんなとこで何してんだ」

「その、寝れなくって」

 ウルデリックは砂粒の混じった風に目を細め、まだ沁みる火傷の痛みに顔をしかめた。


「師匠」

「あん?」

「私たちの戦った悪魔って、どのくらいの強さでしたか」

「さぁな、正確なことは分からねーよ」

「師匠の基準でいいので」

「……上級、まあ下の中がいいところか」

「あれで下の方なんですか。工夫すれば、私たちにも倒せたのでしょうか」

「知らねーよ」

「師匠と同じ魔術が使えれば、戦えたのでしょうか」

「どうだかな」

「最後に使った魔術って、私にもできますか」

「頑張ればな」

「二つ同時に使うのもですか?」

「そっちは多分無理」

「……どうしても?」

「お前、物語の一ページ目と百ページ目を繋げて一つの話にできるか? 俺がやってんのはそういうことだよ」


 ガンボールの言葉にウルデリックは黙り込み、会話が途切れた。

 帳の降りたような沈黙が夜闇に紛れ、溶けあい、星々の明かりだけが時間を刻む。


「師匠」

 静寂を切って声を上げたのはウルデリックだった。


「私は、強くなりたいです。ダズさんもジルさんも、師匠も、みんなを守れるくらい強くなりたいんです。私は、弱いままじゃ嫌なんです。お願いします。私を、一番にしてください」


 言ってウルデリックは頭を下げた。

 状況が状況なら愛の告白とも受け取られかねない表現だったが、生まれて二年と経っていないウルデリックにはそんな情緒は育っていない。ただその代わりに、嘘偽りなく無垢な本心を言葉にする誠実さは、世を渡り薄汚れた人間には出せない輝きを有していた。


 ガンボールは溜め息と共に煙を吐き出し、「顔上げろ」ウルデリックと正面から対峙する。


「まずは体を治せ。話はそれからだ」

「は、はい……」


 見るからに消沈して尻すぼむウルデリックの頭に、ぽんとガンボールの手のひらが乗る。


「治ったら、これまで以上に厳しくするから覚悟しろ」

「はい!」


 ガンボールは、一転してぱっと花が咲いたみたいに表情を明るくするウルデリックに苦笑しつつ、その頭をぽんぽんと二、三回と叩き、煙草の火を消した。


「俺はもう少しここにいるから、お前はもう寝ろ」

「はい、あの、おやすみなさい」


 ウルデリックは言ってもう一度頭を下げ、足早に屋上の出口へと駆けて行った。

 ガンボールはその後ろ姿を目で追いながら、もう一本の煙草を取り出し火をつけ、口に含んで煙を吐き出す。


「不甲斐ねぇ」


 上を目指して揺蕩う煙と共に空を見上げたガンボールの呟きは、月と共に朝日に沈んだ。

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