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LAZULI  作者: 羽月
63/77

63異質な黒 ~来訪者3~

 賑やかに星が瞬く空に、まるで染みの様に異質な小さい黒い点が見える。と同時に、殺気立った気配を感じる様になった。

「あれ?まさか、空から来るとは思わなかった」

翠が少し意外そうに感想を漏らす。

「そうだな。予想外だった」

エトワスもそう言いながら、剣の刃には触れずに片手でスッと撫でる様な仕草をすると、剣の刃が淡く赤い色に発光し始めた。

「俺は、地底の種族のなれの果てが来るんじゃないかと予想してたんだけど、違ったな」

フレッドは、ディートハルトを狙っている魔物だというので青白い人型の魔物を予想していたのだが、外れていた。

「あいつは、きっと20年前に来たのと同じ奴だよ。話に聞いてる奴と似た姿をしてる。また同じ卵を狙って来たんだ!」

落ち着いている地上の種族達とは対照的に、空の種族として本能的に恐怖を感じているリッシュは震える声でそう言った。

「喰い損ねたから、20年経ってまた戻って来たって事か?」

シヨウが呆れた様に言う。

「すっごい執念だねぇ」

翠は剣を手にしたまま、もう片方の手を顔の前に掲げた。

「やややっぱり、ここは君達に任せて良いかな?」

既にジリジリと後退りしながらリッシュが言う。

「もちろん」

振り返らずに答えたエトワスの言葉を聞くと、すぐにリッシュは「ごめん!よろしく!」と身体を反転させ、魔物が来るのとは逆方向に足をもつれさせながら走り去っていった。


 十数秒後――。


ラズライトの結界など物ともせず、墜落する様な勢いで空から黒い魔物が下りて来た。着地と同時にブワっと起こった強い風は、生臭い嫌な臭いがする。

 それは、蝙蝠の様な黒い翼を持つ、これまでに見た事のない姿をした魔物だった。頭部はトカゲの様な形に似ていたが、その体は粘土か何かで作られた物の様な質感でデコボコした表皮に覆われ、ところどころにウロコの様な物があり、そのウロコが無い表皮には瞳孔が縦長で細い、大きな目が不規則に付いていて、それぞれが独立した動きでギョロギョロと動いている。そして、昆虫の様な形をした鋭い爪とトゲを持つ複数の手足が付いていた。まるで様々な生物を無理に合体させたかのような奇妙な魔物だった。

『こいつ、操れる魔物と同じタイプの奴か……?』

エトワスは眉を顰める。同じ姿の魔物をウルセオリナで見たという事ではないが、何系の魔物なのか分からないという点は同じだった。ウルセオリナに現れた魔物はヘーゼルが放ったもので、ルシフェルの血を与えられて操れるようになった魔物のはずだ。

『まさか、ルシフェルが……』

未だ行方不明のグラウカかルシフェルが、ディートハルトが聖地の卵で休眠したという話をどこかで聞きつけ、ルシフェルの血を与えて魔物を操りこの場に寄越したのだろうか……そう考えていたところ、予想外の事が起こった。

「オオ……、ヤット卵ガ生マレタカ!」

複数の目が一斉にギョロリと動いて卵に注目し、くぐもった声が聞こえる。卵以外は視界に入っていないようだった。

「!?」

通常、魔物が話す事はない。ウルセオリナに現れた操られた魔物達も、話すどころか自分の意思すら持っていなかったはずだ。

「えぇ?アズールの魔物って喋っちゃうんだ?」

ゆっくり歩いて近付いて来る魔物との間合いをはかりながら、翠が言う。

「予想外だったな。見た目からして、ルシフェルの血を与えられた魔物かと思ったんだけど、違うみたいだな」

エトワスはそう言いながら剣を上段に構えた。

「ああ、あいつらも、何なのか分かんねえ姿をしてるもんな」

シヨウが納得した様に頷く。


 ザワザワと足を動かし卵に近付いた魔物は、卵以外の存在を完全に無視して薄く水が張った泉の縁まで侵入すると、卵を掴み取ろうと長い腕を伸ばした。


「グオオオオオ!!!」


卵に魔物の腕が届く前に躊躇いなく斬りかかったエトワスと、間髪入れずにエトワスに続いて剣の刃を叩き込んだ翠の連続した攻撃を受け、魔物は咆哮を上げると初めて気が付いたかのように人間達に複数の視線を向けた。

「我ノ邪魔ヲ スルツモリカ!?」

激怒した様子で、攻撃したばかりの二人に喰らいつこうとするが、その死角からフレッドが剣で斬りかかり、シヨウは頑丈なグローブをはめた拳で殴り掛かった。

再び体が傷付き、魔物が唸り声を上げる。

「何ダ、空ノ種族デスラ無い、喰ラウ価値モナイ地上ノ種族デハナイカ!!!」

酷く苛立った様子で魔物が吠えた。

「こいつは今此処で、しとめるぞ!」

エトワスが魔物に視線を向けたまま、そう3人に声を掛けた。

「了解」

「了解!」

“絶対に此処から逃がすな”、そう言っているエトワスの言葉を正確に理解して、翠とフレッドが同時に答える。

すぐに翠は剣を握っていない方の手を目の前に掲げた。直後に、発生した光球が魔物目掛けて放たれる。同時に、エトワスとフレッドも魔物目掛けて同じ術を放っていた。

「ガアアア!!」

全ての術が命中し、動きを封じられた魔物がその場に留まり暴れ出す。

 術を使う3人の邪魔にならないようにシヨウがひとまず卵の前に移動すると、3人はさらに魔物目掛けて術を放ち続けた。攻撃してダメージを与えるというよりも、魔物を卵から遠ざけるのが目的だった。その狙い通り少しずつではあったが魔物が後退し始め、卵からだんだんと離れていく。


 と、魔物が翼を広げて大きく羽ばたき、宙に浮き上がった。

「それは卑怯じゃねえ?」

そう言って、すぐに翠はハンドガンを取り出し狙いを定めた。I・Kの基本装備ではあるが、射撃は得意という程ではなく滅多に使う事はない。しかし、今回は的が大きいため銃弾は全て命中している様だった。フレッドも同じように銃を使い、さらにエトワスも二人と同じI・Kの基本装備のハンドガンで魔物を撃っている。ディートハルトから預かっていた物を持ってきていたようだ。


「ヤッベ!」

まるで弾切れを待っていたかのように、銃撃が止んだタイミングで魔物が急降下してくる。

「させるか!」

狙われて焦る翠の横で、卵を背にしたエトワスが魔物に向かい術を放った。

「!?」

バチバチと音を立てる光の塊が魔物の頭を直撃し、爆発音と共に弾ける。

宙にいた魔物は勢いよく吹き飛ばされクルクルと回転した。

その時……。

「お前ら、大丈夫か!?」

というセリフと共に現れた先輩I・Kのブランドンを先頭に、I・K達だけでなく学生達が走って来た。

「何だ、あれは?」

「デカッ」

全員、見た事の無い魔物に驚き頭上を見上げている。

「卵は無事なんだな?」

無傷の卵に視線をやり、リカルドがホッとした様子で息を吐いた。

「あれあれぇ?リカルド君ってば、ディー君を心配してんだ?」

「卵が無事でなければ、俺達が駆けつけた意味がないだろう?」

リカルドがキッと翠を睨みつける。

「あいつを打ち落とす。協力してくれ!」

エトワスの言葉に、すぐにI・Kと学生達は一斉に銃を構えたり術を放つために手を掲げたりして魔物に狙いを定めた。

空中で体勢を立て直した魔物が、真っ直ぐこちらに向かい再び舞い戻って来る。

「翼を狙え!」

全員が一斉に術や銃弾を放った。同時に、魔物が急降下する。

「マトメテ喰ラッテヤル!」

そう吠えて、魔物は鋭利な歯の並ぶ大きな口を開けて迫って来るが、止む事のない攻撃に翼の一部を破壊されて穴が開き、地面に落ちる様に着地した。すぐさま近くにいた学生に喰らいつこうとするが、逆に剣で斬りつけられる。

「この野郎!学生だからってナメんな!」

「騎士科の学生を甘く見んなよ!」

等と言いながら、他の学生達も上手く魔物の攻撃をかわしつつ応戦している。I・K達もそれぞれ剣で斬りかかっていて、人数が多いため攻撃が止む事はなく、魔物の方は狙いを定める事が出来ずかなり苛ついているようだった。

「ウルサイ虫共メ!」

ガアァッと吠え、魔物の目が再び卵の方を向いた。元々の目的を果たし、さっさとこの場を退散しようと考えたからだ。しかし、卵の前にも数名の地上の種族達がいて、近付こうとすると反撃する。

「オノレ……!!」

地団太を踏むように魔物は大きく暴れまわり周囲の地上人たちを蹴散らすと、直後に翼を大きく広げた。

 一枚の翼は大きく損傷しあちこちに穴が開いているが、メキメキという何かが大きく軋むような音と共に、損傷した翼の根本から新たな翼が生えて来た。

「羽が生えた!?」

「マジか!?」

地上人達が驚きの声を上げる中、魔物は大きく羽ばたくと宙に飛び立つ。不意に強い風が起こり泉の底に薄く張った水が波立った。

「逃がすか!」

エトワスが術を放つのに合わせ、予めそれを予想していた翠も術を放つ。少し遅れて、I・Kや学生達も次々に同じ術を放った。

ドンッドンッドンッと、まるで打ち上げ花火の様な音がして、魔物にぶつかった光球が弾ける。


グオオオオ!!


煩わしさに悶えて低い咆哮を上げた魔物は地面に落下したかの様にも見えたが、着地する寸前で大きく羽ばたいて急上昇すると、今度は卵の方へ舞い戻る事なく背を向けて全速力で遠ざかって行った。


「クソッ!」

エトワスが悔しそうに吐き捨て、小さくなっていく魔物の姿を睨みつけている。

「どこに向かうか、確認します」

そう言ってI・Kのブランドンとクレイが魔物の後を追ってすぐに駆け出し、リカルドとロイもその後に続く。その他のメンバーは、卵を守るためにもその場に残った。

「卵にかなり執着してるみたいだったから、あの様子じゃ出直して来るよ。その時片を付けよう」

翠がそう言うと、エトワスは小さく溜息を吐いた。


「……学生の中に、怪我人はいないか?」

すぐ近くにいた学生――オースティンに気付き、エトワスが尋ねる。

「はい、全員無傷です!」

エトワスの言葉を聞き学生達は互いに声を掛け合い確認していたが、オースティンがすぐにそう報告した。

「そうか、良かった。……皆、よくやった。ありがとう。此処の見張りの方は、あいつに備えてまた人数を調整するかもしれないけど、ひとまず、これ迄通り変更なしで頼む。今夜はもうあの魔物は襲ってこないだろうから、全員城に戻って休んでくれ」

エトワスがそう言うと学生達は一斉に敬礼した。そして解散し、たった今経験したばかりの戦闘について興奮した様子でワイワイと話しながら城へと戻って行く。


「それにしても。こんなにラズライトの結界があるのに、あんな魔物が狙ってくるなんてねぇ」

翠が頭上のラズライトを見上げて言う。魔物がぶつかったのか、それとも術や銃弾が当たったのか、等間隔に並んでいたラズライトの位置は移動していたが、壊れたものは一つもなく青い光を放っていた。

「それだけ、卵が魅力的な獲物なんだろうな」

そう言いながらエトワスは卵に近付き、傷ついていないか丁寧に調べた。魔物は卵には近付けなかったので直接攻撃を受けてはいないはずだが、何かの拍子に、例えば飛んできた小石や木の枝などで傷ついたり、流れ弾が当たったりした可能性がないとは言えない。

「……」

周囲を回り一通り確認するが、どうやら傷ついてはいない様だった。すぐ近くで大勢の人間と魔物が派手に動き回ったので泉の水が飛び散り、その飛沫が飛んだのか少し濡れていたが、ぼんやりと発光した滑らかな卵の表面に被害は無かった。

「どう?大丈夫そう?」

エトワスの背後から翠が声を掛ける。卵の事が気になりフレッドとシヨウもエトワスの様子を見ているが、自分達は近付こうとしないのは卵に攻撃されるのではないかと警戒しているからだ。

「ああ。傷一つ付いてない」

濡れた卵を手で拭いながら、エトワスが笑みを浮かべて答える。

「デカイ魔物だったしヤバイかもって思ったけど、無事で良かったよ」

フレッドがホッとした様に言った。

「ああ。まだ安心はできないけどな」

そっと労わる様に卵の殻に触れ、エトワスが言う。

「ディー君が早く出てきてくれたら良いんだけどね。ちょっと、呼びかけるか、ノックでもしてみたら?」

「傷付いた体を回復させるために休んでるのを、無理に起こす訳にはいかない」

「まあ、そうだけど」

大切そうに卵に触れ視線を向けているエトワスの姿に、翠は少し笑ってしまった。

「何かそうやってると、親鳥みたいっつーか、お前がこの卵を産んだみたいだな」

「確かに」

フレッドとシヨウも笑っている。

 木の枝葉や泥などで少し散らかり汚れてしまっていたが、聖地は再び静けさを取り戻していた。



 それからしばらくして、魔物の後を追った先輩I・K二人とリカルド、ロイに加え、空の種族二人が聖地に姿を現した。一緒に卵の見張りをしていたリッシュと、もう一人はレミエルだ。

「魔物は、南東へ姿を消しました。何処へ下りたかまでは確認できませんでしたが、彼の話では、南東には、この聖地や城下町に一番近い森があるそうです」

真っ先にブランドンがエトワスに報告すると、レミエルが頷いて補足で付け加えた。

「ああ、そうだ。この聖地の森を南東に抜けると平原が広がっていて、身を隠せそうな場所はない。魔物が向かうとするなら、その先にある森の中だろうな」

そこは、ランタナの遺跡から最初にアズールへ移動した森とは繋がっていない別の森で、城下町のすぐ近くにあった。

「あいつ、あれだけダメージを与えたのに、しっかり飛んでいたぞ。またすぐに戻ってくるつもりなのかもな」

リカルドがそう言って眉間に皺を寄せる

「そうだろうな。今回現れた魔物が20年前の奴と同じなら、ただの地底の種族に属する“魔物”じゃなくて、“地底の種族”だろうから諦める事はないだろう」

サラリとそう話すレミエルに、リッシュも含めた全員が驚いて注目する。

「色んな魔物が混ざったような姿をしていたから、最初はルシフェルの血を摂取した魔物で彼が操っているんじゃないかって思ってたけど、人の言葉を話していたからな。やっぱり違ったのか」

と、エトワスが言うと、シヨウが頷いた。

「ああ、俺もそうじゃないかって、同じ事を考えてたな」

シヨウはテストバトルでランクAの血を与えられた魔物と過去に戦った事があり、その姿も見た事があった。

「地上にはそんな魔物もいるのか?……だとしたら、それは地底の種族の血の影響を受けてその様な姿になったんだろうな」

レミエルが眉を顰める。

「って事は、今回卵を狙ってきたのは、元々人の姿をしてた地底の種族が、何か喰って“進化”した状態って事?」

翠の問いにレミエルが「多分な」と返す。

「本来なら、大抵の地底の種族はセレステの血の力とラズライトで退けられるはずなんだが……」

レミエルは、目の前の卵を掌でペチペチペチペチ叩きながら話している。

「今までに地底の種族には属さない多くの魔物を吸収し進化して、本人も魔物化しているお陰で、耐性がついたのかもしれないな」

「でも、あれが進化の成功例なのか?失敗例の“地底の種族のなれのはて”と比べても、どっちもどっちって気がするけど……」

どちらもグロテスクだ。そう考えて話すフレッドの言葉に、エトワスが苦笑いする。

「そうだな。目的の力を自分のものに出来ていて、知能を失くしていないって意味では進化に成功したのかもしれないけど、あの姿じゃな……」

他の者達も同じ意見だったようで頷いている。

「この卵を狙ってる奴は、見た目は関係なく能力を得る事だけを目的に食ってるんだろう。だから、属性の力が強いこの卵に執着してるんだろうな。既に孵化したセレステ達と違って、移動しない卵は狙いやすいという事もあるだろうが」

レミエルがそう言うと、シヨウが薄く笑った。

「力を得る事だけを目的にして執着してるって、グラウカさんと気が合いそうだな」

「あー、でもさ、今回もしディー君を喰えたら、サラサラの金髪が生えてきて、あの目全部に長いまつ毛も生えたりしちゃって、可愛く進化すんのかな?」

「……」

「……」

「冗談だって」

エトワスだけでなくリカルドにまで眉を顰めた何か言いたげな表情をされて冷たい視線を注がれ、翠が苦笑いする。

「卵を狙う魔物は、近くの森に居る可能性が高いんだよな?町の住人や城の他のセレステ達も、狙われる可能性があるんじゃないか?」

エトワスが言うと、レミエルは首を横に振った。

「これまでに、町はもちろん城にも簡単に侵入できたはずだが、それらしい魔物は現れていない。あくまで卵狙いだろう」

レミエルは再び卵の表面をペチペチ叩きながら地上の住人達に言った。

「僕達空の種族は、魔物の対処は結界に頼ってきたからな。お前達の様に戦える者はいない。引き続きこの卵の事はよろしく頼む」



* * * * * * *


 隣の部屋で物音がした。

多分、足音だろう。バタバタと忙しなく歩き回っている様子だったが、程なく部屋の扉が小さくノックされた。

「ルシフェルさん、起きてます?」

遠慮がちに声が掛けられ小さく扉が開いた。その隙間からヒョコッと顔を覗かせているのは、空の種族のアリアだ。長い髪は緩く編まれ両サイドに垂らされている。

「ああ、起きてるよ」

そう答え、ルシフェルはベッドの上に身を起こした。

「良かった。あの、何か外で変な音がしませんでしたか?」

アリアは、そう少し不安げに言う。

「地響きみたいな音と、鳥か何かが騒ぐような音がしたね」

「ええ、それです。何だったんでしょう?」

ルシフェルはベッドを下りると、窓から外を見た。花の咲く花壇のある小さな庭のさらに向こう側、遠くに真夜中の黒く暗い森が広がっている。

「分からない。あっちの、森の方だったと思うけど」

「わたし、ちょっと行って調べてきます」

「えっ?」

ルシフェルは驚いてアリアの方を振り返った。薄暗くて色までは分からないが、花が刺繍されたゆったりとした寝間着にショールを羽織ったアリアは、既にランタンを手にしていてキリっと口を引き結んでいる。

「何が起こっているのか分からないのに、わざわざ出掛けていくのかい?」

「何が起こっているのか分からないから、調べに行くんです」

物好きな女だな……そう呆気に取られるルシフェルに、アリアは力強く頷いて見せた。

「だって、気になったままじゃ安心して眠れないです。行ってきますね」

そう言ってアリアは、踵を返し部屋を出た。

「ちょっと待って!僕も行くよ」

ルシフェルが思わずそう言ってアリアの後を追うと、早くも外に出ようとしていたアリアはクルリと振り返り、嬉しそうに笑顔を見せた。

「わたしを心配してくれてるんですか?」

「え?……まあ、僕も気になるから」

どうして付いて来てしまったのだろう?

ルシフェルはぼんやり考えながらそう答えていた。変な物音が気になったのか、アリアの事が気になったのか、自分でもよく分からなかった。

「それじゃあ、もう一つランタンを取って来ますね!」

アリアは張り切った様子で家の中に駆け戻り、すぐにもう一つのランタンとショールを手に戻って来た。

「寒いので、ルシフェルさんもこれを使ってください」

と、チューリップの様な花柄のショールを手渡されるが、特に断る理由もなかったのでアリアを真似て肩に羽織った。

「何だか探検に出掛けるみたいで、ワクワクしますね!」

本気で楽しそうにしている様子のアリアに、ルシフェルは面食らってしまう。

「何が楽しいのか、僕にはよく分からないけど……」

正直、胸騒ぎしかしなかったが、それでもアリアの言う通り、自分も何だか少し楽しいような気もしている。

「まあ、行こうか」

ルシフェルはそう言って扉を開いた。そして、アズールに来て初めて、外の世界へと足を踏み出した。



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