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LAZULI  作者: 羽月
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61異質な黒 ~来訪者1~

 エトワス達がアズールの王スーヴニールとの謁見を終えたのは、2時間以上の時間が過ぎた頃だった。ファセリア人やファセリア帝国が、空の種族やアズールにとって敵ではないと認識し警戒を解いた王が、地上についての様々な話を聞きたがったからだ。


「もうこんな時間か。お前達も腹が減っただろう?食事を用意してあるはずだから2階に下りよう」

王の部屋を訪れた時と同じく先頭を歩いていたレミエルが、クルリと振り返ってそのまま後ろ向きに歩きながら話す。

「お前達地上人が滞在する部屋近くに食堂を作ったらしい。アズールの料理が口に合うかは分からないが、この城の料理人の腕は確かだから是非食べてみてくれ」

と、自国の紹介をするのが嬉しい様子でどこか得意げな笑みを見せる。


 レミエルの案内で2階へ下りてみると、広いバルコニーのある部屋に複数のテーブルと椅子が置かれ、レストランの様になっていた。壁際に設置された長いテーブルに様々な料理が並び空の種族達が複数人控えている。そして、城下から戻って来ていた先輩I・K2人と学生達が、それぞれテーブルに着いて和気あいあいと食事をしていた。よく見ると、先輩I・Kのテーブルには遺跡を訪れていたヴィドール人のファイター4人もいる。

 控えていた給仕係の空の種族がすぐに近付いて来てトレーを手渡し、好きな料理を選んでくださいと笑顔で告げた。そこへ、エトワス達の姿に気が付いたI・Kのブランドンが近付いて来た。

「グラウカとルシフェルの二名は未だ行方不明ですが、それ以外のヴィドール人4名は捕えました」

そうエトワスに報告する。グラウカ達を捕らえるというのは元々I・Kの任務だが、遺跡に入った全員が集まっているこの場ではエトワスが一番階級が上だからだ。

「え、もう!?」

フレッドが声を上げる。

「ああ。ブラッシュさん達が見付けてくれてたんだ」

ブランドンの説明によると、研究員のピングスとロサ、その助手のラックとウィンは、やはりランタナの遺跡から移動した直後の森の中にいたらしい。自分が死んだと思い込み動揺して走り去ったウィンの後を追い、追いついた後もしばらくは森を彷徨っていたようだが、何処に向かえばいいのか、何をしたらいいのか分からず、途方に暮れて座り込んでいたらしい。すっかり意気消沈していて、ブランドン達が姿を見せても逃げようとしなかったという。

「4人とも、グラウカが何処に行ったのかは分からないと話しています。ルシフェルの方は、一度も姿を見ていないと」

扉が開き道が使われた事と、それを利用した人数は分かるという事なので、ルシフェルもアズールに来ている事は間違いないらしいのだが、何処にいるのかは全く分からない状態だった。

「念のため空の種族の方達が、二人を危険人物として城下町に告知していて、それらしい人物を見掛けたら通報して貰えるよう手配済みです。それから、既に捕らえた研究員と助手の合計4名は、この城内の1階にある部屋にいます」

そこは牢ではなく普通の部屋で、ブランドン達が食事をする間、ブラッシュ達空の種族が見張りとして付いてくれているとの事だった。


 食事を終えると、エトワスとI・K、シヨウは、ヴィドール人達の部屋を訪れた。グラウカとルシフェルを改めて捜しに行く予定だったが、その前にもう一度、グラウカの居場所について知らないか確かめるためだ。そして、今回グラウカを捕らえる事を命じられた最大の目的である、ヴィドール国とアーヴィングの間で行われた取引の内容についても聞いてみるつもりだった。ピングスとロサはグラウカと同じチームであるため、もしかしたら知っている可能性もあると考えたからだ。もし、知っていた場合、このままグラウカを捕らえそこなったとしても、心配はいらないという事になる。


「ホント助かりました。ファセリアに戻るまでの間は、オレらが責任を持って交代で見張りをしますんで」

部屋の前に立っていたブラッシュと別のもう一人の空の種族に向かい、翠が笑顔で礼を言う。

「ええ。それでは、後はお願いします。行方の分からない他の二名についても、お手伝いできる事があればお知らせくださいね」

そう言い残し、ブラッシュともう一人の空の種族は立ち去った。


「また来た……」

部屋に入ると、ソファに寝そべる様に座った研究員のピングスがうんざりした顔でそうぼやいた。

「絶対逃げないように見張るにしても、ちょっと人数が多すぎるんじゃない?ここって、空の都なんでしょ?僕らはグラウカさんとは違うから正直興味ないしさ、こんな完全に未知の土地で逃げる気なんてないよ。逆に、地上に連れ帰ってくれるならありがたい。もうヴィドールに戻りたいんだ」

ピングスは不満げに訴える。

「ファセリア帝国は寒いし食べ物にも飽きてたとこだし、早く妻と子の待ってる家に帰りたいよ」

目の下には隈ができ、やつれていて本当に疲れ果てて見えた。

「ええ。遺跡でも話したけど、抵抗する気なんてないし、この国にもファセリア帝国にも迷惑を掛ける気なんてないわ。出て行けって言うなら喜んでヴィドールに帰らせて貰うわよ」

一人掛けのソファに座っていたピングスの同僚ロサも、訴える様にそう言った。

「改めて言いますけど、僕達二人は今回のファセリアでの遺跡調査のために短期で雇われた雑用係のアルバイトです。何も知りませんし悪い事もしてませんよ」

開いた窓の縁に座っていたラックという助手の青年も、ふてくされた様に言う。

「……」

ラックの近くに置かれた椅子に座っていたウィンは、怯えた様子でただコクコクと頷いていた。

「ファイターはどうしたんです?捕まえたんですか?あいつらも同罪ですよね?」

「向こうでメシ食ってたよ。君と同じように、自分達はただの傭兵で聖域で研究員がやってる事とは無関係だし味方をする気も無いって、無罪を主張してる」

翠が言うと、ラックは眉を顰めた。

「メシって……。流石、ファイターは神経が図太いな。あいつらが自由に行動できるんなら、僕とウィンだってここから解放してくださいよ」

「別に自由にできる訳じゃないよ。彼らも俺達に同行して貰う事に変わりはない」

敵意剥き出しに要求するラックに、エトワスは少し呆れながらそう話した。

「君さぁ、ジェイド君だよね?僕らの事まさか忘れてないだろ?君もうちにいたんだからさぁ、僕らもただグラウカさんに従って仕事してるだけだって事知ってるよね?」

眼鏡を掛けて潜入していたはずだが全く意味はなかったようで、エトワスの顔を見たピングスはそう言ってやけに親し気に笑い掛けた。

「ええ。グラウカさんに従っていて、ラファエルの事はグラウカさんの“弟”だと言われても追及する事もなかったし、レイシの話では、ピングスさんはラファエルをロベリア王国で拉致した時、その場に居たんですよね?それなら、同罪じゃありませんか?“ランクX”を人として扱っていませんでしたし」

冷めた視線で淡々と言われ、ピングスが少し焦った様子を見せた。

「そ、それは、だって上司だよ?逆らえないでしょ。従わなくて解雇されたら困るし。人として扱ってなかったなんて事はないよ?誤解だよ。ランクXは普通に個室も持ってただろ?君はビル内のスタッフ用の部屋を使ってたよね?そっちの方がランクXの部屋より狭いし酷かっただろ?もちろん、君の部屋だけがあんな粗末だった訳じゃない。あのビルにはあんな部屋しかないんだよ。だから、レイシ達独身者もビルの外に部屋を借りて住んでるんだ。ランクAとBを特別扱いしてたのは認めるけどさ。ランクXだけを虐げてたって事はないよ。ランクAやBと違ってファイターって立場だったし、彼らと自由に食事にも出掛けたりビル内も好きに歩き回ったりしてたじゃないか。協力をお願いしてただけで待遇は悪くなかったはずだよ」

ピングスは一生懸命に訴える。

「協力?薬を飲ませた上に嘘の記憶を植え付けて、さらに脅したり暴力を振るったりしていて?」

エトワスの口調は荒い物ではなかったが、その視線は冷たい怒りを湛えたままだった。

「彼はラファエル君と滅茶苦茶仲がいいから、あんまり怒らせない方がいいっスよ」

と、腕組みした翠が薄く笑って言う。

「あ~、なるほど!そういう事だったのか!」

ピングスが眉を下げ、パシッと額に手を当てた。

「上手いこと言って誤魔化してたけど、聖域で出会ってから彼と仲良くなったんじゃなくて元々知り合いで親しかったって事か……!」

「ついでに、ファセリア帝国の貴族でナントカキョウって呼ばれてる偉い身分のヤツだから、下手に逆らうと多分ヤバイ」

壁際に立っていたシヨウがそう言うと、ピングスは初めて彼の姿に気が付いた様子で眉を顰めた。ファセリア人達に協力してRANK-XとBを逃がした裏切り者のファイターがいたという話を聞いていたからだ。

「ウルセオリナ卿は、色んな権限を持ってるからねぇ」

真面目な顔を作り、翠も脅す様な事を言う。

「……いやいや、逆らうなんてそんな!」

ギョッとした様子でピングスは愛想笑いを浮かべた。

「それなら、知っている事を教えてください」

次期領主の身じゃそんな権限なんてないんだけどな。と思いつつ、エトワスは言う。

「グラウカさんの居場所なら、本当に知らないんだよ。別のファセリア人にももう話したけど、森でウィンが走り去った後ラックとロサが追いかけてったからさ、“逃げるチャンスだ”って思って僕は3人を追いかけてっただけで、グラウカさんがその時どうしてたかなんて気にも留めてなかったからねぇ」

ピングスがそう言うと、ロサも頷いた。

「私は、この子達二人が森の奥に迷い込んだら危ないって思って追いかけたから、他の人の事なんて知らないわ」

「もちろん僕とウィンも、知らない!」

ラックが強い口調で言う。

「それじゃ、ウルセオリナ卿、別件の方も……」

翠に促され、エトワスは改めてピングスに視線を向けた。

「……」

ピングスは何を聞かれるのかと、少し緊張しているように見える。

「ヴィドール国は、アーヴィング殿下からファセリア帝国内での遺跡調査の許可を得たと聞いていますが、その見返りは……アーヴィング殿下は、代わりにヴィドール国に何を要求したのか、知っていますか?」

エトワスがそう話すとピングスは目を瞬かせ、一度同僚のロサの方を見た。

「え?ランクXの件じゃなくて?なら……」

と、改めてロサに顔を向ける。

「質問に答える前に、ランクXとBを逃がした上に何の説明もなく無断欠勤したっきりの新人研究員の貴方が、実はどういったお偉い方なのか正式に教えて頂けますかしら?私達の身の安全を保障出来るというのなら、お話しますわ」

ロサは、新人研究員として見知っていたエトワスの姿を値踏みするかの様に見ている。

「辞表を準備して来たらよかったですね。……俺の名前は、エトワス・ジェイド・ラグルス。公爵家の者で、ファセリア帝国ウルセオリナ地方の現領主シュヴァルツ・R・ラグルスは祖父にあたりますが、父は他界し母は領主となる事を既に辞退していますので、俺は次期領主の立場にあります。そして、あなた方に同行をお願いした黒い制服を着たメンバーと、ヴィドール国が拉致しランクXやラファエルと呼んでいたディートハルト・フレイクは、ファセリア帝国皇帝ヴィクトール陛下直属の兵、インペリアル・ナイトです。俺達が報告した事は、そのまま直接、上の最終的な決定に影響します。もちろんそれは、あなた方への今後の対応の仕方についても含まれています」

内心、それ程影響力は強くないんだけどな……と思いながらエトワスは話していた。

「ちょっと、待って。“上”って、皇帝はアーヴィングじゃないの?」

エトワスの言葉に、ロサは焦っている様だった。

「オレらは、アーヴィング“殿下”の命令じゃ動かないんで」

「あぁ?ちょっと待て。君もどっかで見た事あると思ったら、確か聖域に居たよな?ファイターだったよな?」

ピングスが眉間に皺を刻み、翠を指さす。

「オレだけじゃなくて、今ここにいるファセリア人全員、ビル内に“就職”してましたよ。忍び込んだんじゃなくて、ちゃんと試験をパスして採用されて」

「何だって!?」

ピングスは、大きく目を見開いた。

「うちがユルイのか、ファセリア人が優秀なのか……。それにしても、他国の身内同士の争いに巻き込まれた挙句、僕達がどうなるかは君達次第って事か」

ピングスは自棄になっているのか、ハッハッハと可笑しそうに笑う。

「敢えて首を突っ込んで加担したのは、ヴィドール国では?貴方たちは国やグラウカさんがやった事と無関係だと言うのなら、知っている情報を提供してください」

もう一度エトワスに言われ、ロサが少し血の気の引いた顔で話し出した。


「私がお話します。ファセリア帝国の方と交渉したのはグラウカですが、その際に私も同席しておりましたので」

グラウカが交渉したという事実が分かり、さらにその内容を知っているだけでなく同席していたというロサの言葉に、ファセリア人達は「マジか!?」「やった!」等と内心喜んでいたが、全員態度には出さずに黙ってロサに注目していた。

「交渉でお会いしたのは、アーヴィング陛下……いえ、殿下ではなく、使者の方でした」

エトワスに対するロサの口調が非常に丁寧なものに変わったのは、“偉い身分の奴”と言ったシヨウ達の脅しが効いた事と、彼は自分達の運命を左右する力を持っている立場だと理解したからだった。

「お名前は確か、ザカリー・パットさんという方だったかと。ヴィドール国が、自由に遺跡を調査しその発掘品を持ち帰る代わりに、ファセリア帝国は、ドール及び操れる魔物の供与を求めました。ヴィドール側は、それらの使用目的までは聞いておりませんが、どの様にしてドールや魔物を操るか、その方法は伝えています。また、ファセリア帝国もヴィドールが遺跡を調査する目的は聞かないという事で合意しておりまして、署名された公文書はヴィドール国にあります」

ロサの言葉に、I・K達は顔を見合わせた。もし最悪グラウカが見付からなくても、ロサが居れば問題ない事になるためホッとしていた。

「その話を、地上に戻ってからファセリアでもう一度して貰えますか?」

「私達の身の安全を保障してくださるのなら、もちろんいたします」

視線で訴えるロサに、エトワスは頷いて見せた。

「分かりました。話して貰えるなら、今ここにいる貴女方ヴィドール人全員の、ファセリア帝国内での身の安全を保障します」

エトワスの言葉に、ロサとピングスは胸を撫で下ろしていた。



* * * * * * *


夕刻――。


空の種族が用意してくれた食事を再び2階のバルコニーで取った後、エトワスと翠とフレッドは案内された部屋で休んでいた。アズールの城は一部屋が非常に広いため、2~3人で一部屋を借りる事になっていた。空き室が多いので遠慮せず1人一部屋で良いと言われたのだが、連絡を取り合うのに数人ずつ固まっていた方が都合がよいためそれは遠慮した。

 空いている部屋が多いのは、レミエルが話していた様にディートハルトがシャーリーンと共に聖地を去ってからは新しい卵が発生する事がなく、本来この城で生活するはずのセレステの人数が少ない状態が続いているからだという。

「俺達、本当に生きてアズールにいるんだよな?俺だけ死んじゃってるとか、夢を見てるとかじゃないよな?」

フレッドが窓の外に広がる広大な森の方を眺めながらそう話す。アズールだからなのか、日が沈んだばかりで普通は真っ暗になっていそうな森が、何故かライトアップされているかの様に全体的にぼんやり発光して見えていた。今日一日で様々な事があり、まだ完全には頭の中で状況が整理できていない状態だった。

「確かに。今までもファセリアを出て色んなとこに行ったり不思議な現象に遭遇したりしてきたけど、ここは完全に異世界って気がするもんね。ディー君も卵に入っちゃったしさ、夢だって言われた方が納得できるっつーか」

と、窓から空を見上げた翠が笑う。地上で見る空よりも星が多く煌めいて見えていた。

「そうだな。確かに、現実離れしてる」

フレッドの隣で外に視線を投げていたエトワスも同意する。彼は地上を眺めていたが、使用人らしき空の種族が荷物を抱えてフワフワ飛んでいる姿が見えていた。

「すげぇな……。階段を使わなくていいって便利かもな」

エトワスの視線の先に気付き、フレッドが呆れた様に笑っている。その空の種族は、地上から飛び立ちそのまま3階のバルコニーへと降り立っていた。

「この城って、やけに出入口と窓が大きいし、部屋の中もガランとしてるなって思ってたんだけど、ここの人達には翼があるからなんだろうな」

フレッドが話す通り、アズールの城は建物自体も大きいのだが、全ての出入口や部屋が広く、置かれた家具も1つ1つがかなり離れて配置されていた。最初は単純にそういった様式なのだと考えていたが、城内で生活している空の種族たちを見ていると、翼が邪魔になるからだという事が分かった。翼が折りたたまれていても、大きなものを背中に背負っている状態なので、広くなければ、引っかかったり置かれた物をなぎ倒したりしがちなのだろう。

「そう言えば、背もたれの無い椅子も多いし、ベッドのサイズも大きいよな」

エトワスが部屋の中に視線を向ける。今いる部屋に置かれた椅子は背もたれがなく、置かれたベッドはどれもダブルサイズだった。全て、有翼である事を考え設計されているのだろう。

「でも、昼間行った城下町の人達はハネが無かったし、建物の作りとかもそんな広い感じでも無かったよね?」

窓際に置かれた背もたれの無い長椅子に座り、翠が言う。

 捕らえたピングス達ヴィドール人と話した後、改めて城下町に出てグラウカとルシフェルの姿がないか捜したのだが、翠の言う通り、城下で暮らす空の種族達は有翼の姿の者はほとんど無く、立ち並ぶ建物も地上で見慣れた物と変わりない、その出入口や窓も特に大きいとは感じられないサイズのものだった。

「コスト削減のためとかかな?」

「それと、単純に羽を収納した姿で生活した方が動きやすくて都合がいいから、とか?」

フレッドが言うと、エトワスが付け加えた。ブラッシュの説明によると、空の種族達は自由に有翼の姿になったり逆に無い姿になったりする事が可能らしい。『どういう仕組み?』と翠が尋ねると、『翼は身体とは違って、自身の持つ光や風の力が目に見える形で粒子となり、さらにまとまって物質化したものなんです』という答えが返って来た。それに対して、翠も他の地上人達も『はぁ』とか『あ~……』とか曖昧な言葉を返している。

「お陰で、ハネの無いオレらが町中を歩いてても目立たなかった訳だけど、って事はグラウカ達も溶け込めてるって事だね」

有翼である事を除いても、セレステ達は印象的な青い瞳を持っている事に加えその外見も非常に整っていて、纏う雰囲気そのものが人間とは違うと思わせるような部分があるのだが、一般的な空の種族達は地上の人間と変わらない外見で、その瞳も少し見た程度ではオッドアイと分からない者も多かった。

「でも、グラウカを見付けるのは大変だけど、もしルシフェルが城下町に来てるなら、あいつなら羽が無くても目立ちそうだしすぐに見付かりそうな気がするよな」

地底の種族の血を引いているためこの地では間違いなく異質である事に加え、長身で、腰まで届く漆黒の長髪に血の様な赤い瞳をしているため、人混みの中を普通に歩いていても目に付きそうだと、エトワスは思っていた。

「だね。ああ、そう言えば。ここは空の種族の世界だから、具合が悪くなってどっかで動けなくなってんじゃねえの?だから、アズールに来た時、近くに見当たらなかったのかも。もしかしたら意外と近くに倒れてたんじゃね?」

ヴィドールでシフェルがディートハルトに言った言葉を思い出して翠が言う。

「空の種族と地底の種族は天敵同士だから、自分といると気分が悪くなるだろって、ディー君に言ってたし」

「それなら、この国の人達に危害を加える可能性は低くなるし、好都合だけどな」

エトワスがあっさりと言う。ディートハルトの敵であるルシフェルに同情する気などないらしい。


「じゃあ、俺は、今から卵のところに行って来る」

卵には空の種族達が付いているが、彼らを信用していない訳ではなく、ただディートハルトの近くに居たいためエトワスは彼らと共に見張りに就くつもりだった。

「一応聞くけど、ずっと張り付いとくつもり?」

「ああ。ディートハルトが目を覚ますまではな」

予想通りの答えに、翠は小さく笑った。

「じゃ、オレも行こうかな。ってか、空の種族の誰かに聖地に入る了解を取らなきゃだけど、どうせみんな暇で人数もいっぱいいるんだから、全員に声を掛けようよ。で、交代で見張りに就こう。エトワスとI・Kと学生、あとシヨウで合計18人いるからさ、2人一組の9グループで見張りに就けば……1グループ160分だから2時間40分ずつの交代でいけるじゃん」

翠の提案にフレッドが頷く。

「よし、それで行こう。やっぱ無事に卵から出て来るまではさ、見守って待っててやんないと」

「ああ、そうだな」

二人の言葉に、エトワスは笑顔を返した。以前のディートハルトは、周囲に敵ばかり作っていて孤独で生き辛そうにしていたが、いつの間にかこんな風に言ってくれる仲間が増えている。エトワスはそれが自分の事の様にとても嬉しかった。


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