3帝都ファセリア ~紅の夢~
きな臭くなって来ていますが、戦争メインのお話という訳ではありません。
エトワスがウルセオリナに戻ってから一週間が過ぎた。ウルセオリナが今どういった状況にあるのか等、その後の知らせはディートハルトたちの耳には全く入っていない。
「翠って、料理上手いよな」
帰郷していないため、未だに寮に住み着いているディートハルトと翠は遅い朝食中だった。予定では、翠はI・Kの任命式までの間、北ファセリアの祖父母の家に帰る予定だったのだが、残るはずだったエトワスが卒業式当日にウルセオリナに戻ってしまったため、ディートハルトが一人になってしまうことを気遣い、北ファセリアに行くことは取りやめそのまま寮に残っていた。ただ、ディートハルトにその事実を話すと、“余計な事はしなくていい。祖父母の家に行け”と言われる事は分かっていたため、話さずにただ気が変わったとだけ伝えていた。
「美味い」
少し半熟の甘い卵焼きをパンにはさみ、ディートハルトは美味しそうに頬張っている。朝食といっても既に太陽は高く昇っていた。このところ、昼近くに起床したディートハルトが翠手作りの料理を食べるというパターンが日常化していた。
「そうでしょう、そうでしょう。ディー君用に甘い味付けにしてあるからね」
翠が食後の一服をしながらニヤリと笑う。エトワスが帰ってから目に見えて元気のなかったディートハルトも、最近ようやく元に戻りつつあった。
「さあて、今日はどこに遊びに行こうか?在学生も今日はお休みだし、フェリシアちゃんに会いに女子寮にでも行く?」
翠の言葉に、ディートハルトは一瞬、卵サンドを食べる手をとめたものの、無表情に言った。
「馬鹿じゃねえの?エトワスの妹って事は、公爵家の令嬢だぞ。ちゃんとした用事もなく……っつーか、女子寮に入れるわけねーじゃん」
「う~ん。オレは入れる自信あるけどねぇ」
「……やめとけよ。職失くすぜ」
ディートハルトは、翠なら侵入しそうだと思った。
「酷いな。ちゃんと正式な手続き踏んでいくつもりなんだけど……」
「あ、いたいた!良かった!」
突然、ノックと共にドアが開き、さらに同時に見慣れぬ男が入ってきた。
「スイ・キサラギさんと、ディートハルト・フレイクさんですね?」
翠のフルネームは、如月・メイベル・翠といって、如月は父の姓、メイベルは母の姓だったが、ファセリア帝国でミドルネームを持つのは貴族のみであるため、父親の姓のみを名乗りスイ・キサラギと名乗っていた。そして、ディートハルトの姓は、学院の入学試験を受ける際に自分で適当に付けた偽名だった。
「そうッスけど?」
翠が答え、ディートハルトは視線だけ男に向けた。
「すぐに、ファセリア城へ行って下さい!」
突如現れた男は、町中でもよく目にするファセリア帝国の紋章の入った城の兵士の鎧を身につけていた。軽鎧なので、普段は町中の警備に就いている兵だろう。
「城?」
「I.Kに召集がかかっているんです」
男の言葉に、翠とディートハルトは顔を見合わせた。
「任命式はまだ済ませていないでしょうが、緊急事態です!」
せき立てられるまま二人が城に行ってみると、城の一室に通され、今度はそこにいた事務職員らしき人物に押しつけられるようにI.Kの制服を手渡された。しかもすぐ着替えろという。予め本人用に用意してあったものらしく、制服の入った紙袋には殴り書きで二人のフルネームと、恐らくI・Kの個人の認識番号が書かれていた。同じく紙袋に入っていた名前の刻まれた認識票を首に掛け、それぞれに丁度ぴったり合ったサイズの黒い制服に袖を通し案内された部屋に行ってみると、彼らだけではなく他のI.Kたちもそこへ集まっていた。
「すげー人数だな」
「I・Kって、こんなに沢山いたんだね」
帝国精鋭部隊と謳われる者たちが一堂に会しているのを見れば、普通であれば多少なりは気後れするのが当然だろうが、マイペースな二人のことである。驚いたのは集まっている人数に対してだけだった。
「よお、お前らもいたのか」
振り返ると、見慣れた学生の制服姿ではなくI・Kの制服姿のジェス・カースルという名の同級生が立っていた。少し癖のある茶色の髪と赤みの強い茶色の目をした青年で、彼も同じく今年の新I・Kの一人だった。
「お前らも、っつーか、逆に同期はオレらしかいないの?」
翠が言う通り、同級生でI・Kとなった者はまだいるはずだが、翠とディートハルト、そしてジェスの姿しか見当たらなかった。
「だって、みんな帰省中だろ。だけど、もう一人……ああ、ほら、あそこ。クレイグもいるぞ」
ジェスが指し示した方向に、クレイグ・レイナーという名の黒髪の同級生の姿があり、三人分の視線に気付いたのか、軽く片手を上げすぐに近付いて来た。
「キサラギ、フレイク、いたのか。何か緊張すんな」
言葉通り緊張しているのか、少し動きがぎこちない。
「何が始まろうとしてんの?」
「分からない。寮の部屋にいたら、いきなり兵が現れて、城に来いって言われただけだから」
翠の問いにジェスが答える。
「ああ、オレらと同じだわ」
ジェスとクレイグは寮で同室のはずなので、翠達と同じ事が起こったようだった。
「でも、先輩I・Kだけじゃなくて、任命式前の俺達まで呼ばれてるって事は、絶対ただ事じゃないだろ」
クレイグが眉を顰めて言う。その言葉通り、しばらくするとこの国の皇帝、ヴィクトールまで姿を現しI・K達を見渡した。一瞬で、ざわざわしていた会場が静まり返る。
「既に聞いている者もいるだろうが……」
I・K達を前に、ヴィクトールが良く通る声で話し出す。
「一週間程前、ウルセオリナ地方に正体不明の武装集団が侵入した」
流石のディートハルトと翠の二人も、ようやく本当にただ事ではないと感じ始めることになったのだが、皇帝の話によれば、エトワスが帰郷する理由になった例の武装集団の元へウルセオリナ公爵が使者を送ったものの、相手からの返事はなく、それどころか使者を攻撃してきたため、やむを得ずウルセオリナの軍と交戦する事になったのだが、最初に確認された武装集団に加え新たな武装集団が現れ、さらに2日前、今度は帝国北西部のロンサール地方へも新手の正体不明の武装集団が攻め込んできたということだった。
「現在、南部のウルセオリナではE・Kとウルセオリナ兵が、北西部のロンサールではロンサールとギリアの兵が敵と交戦中なのだが、I・Kを三つのグループに分け、それぞれウルセオリナに援護に向かう者、ロンサールに援護に向かう者、帝都の守りを固める者として、任務に就いて貰う」
皇帝の言葉に、I・K達がざわめき始めた。ウルセオリナ地方は広く、最初に武装集団が現れた場所は帝都は元よりウルセオリナ城のある場所からも遠く離れているが、ロンサール地方は帝都からそう離れておらず、狭い地方であるためその交戦中の地は目と鼻の先だった。
「帝都の守りを固める事を最優先とするため、ウルセオリナに援軍に向かう人数は少なくなっている。報告では、敵はただの武装集団ではなく、魔物と、また魔物とは別に妙な生き物を多数連れているらしい。その存在のせいで帝国側の兵が苦戦しているという事だから、いずれの任務に就く者も敵は未知のものとして警戒を怠らないようくれぐれも注意してくれ」
ディートハルトは眉を顰めた。帝国側の兵――ウルセオリナ軍が苦戦しているという言葉が気になったからだ。E・Kの指揮官はエトワスのはずなので心配だった。
「どの任に就くかについては、今から伝える」
I.Kは通常2人組で行動することになっている。翠とディートハルトは共にウルセオリナに援軍として向かい、ジェスとクレイグはロンサールに向かうよう告げられた。
「新I.Kはこれだけか?少ないな」
最後に、形だけでもと任命式を行うことになったのだが、集まった新I.Kはやはり4人だけだった。
「それが、他の者は帰郷しておりまして、まだ連絡が取れないのです」
ヴィクトールの言葉に、ディートハルト達を寮まで呼びにきた兵が困った様に答えた。
「卒業したばかりで休暇中だからな。仕方あるまい」
新I・Kとなるディートハルトら4人は、名前を呼ばれると皇帝の前で一人ずつ拝命する事を宣言し、I.Kの証である帝国の紋章入りの長剣と短剣、そして銃を授けられた。たったそれだけで参列者もなく式辞等もない簡単な任命式は終わった。
「お前が、ディートハルト・フレイクだな」
任命式が終わると、ディートハルトは皇帝にそう声を掛けられた。
「はい」
「なるほどな。これはまた……写真では確認していたが、実物は大した美人だな。いろいろと噂は聞いているぞ。学生達の間で評判だったようだな」
いろいろ、という部分に力を込めた言い方をして皇帝が悪戯っぽく笑う。長めの黒髪で、瞳の色はフェリシアと同じ紫だが、笑顔が親しみやすく懐っこい印象を受け、どことなく雰囲気がエトワスに似ているような気がした。ディートハルトが返答に困っているのも構わず、皇帝は一人で話し続けている。
「アンジェラがな、エトワスはいつも金髪碧眼の美青年と一緒らしいと言って機嫌が悪くてな」
「……」
一体どういう風に聞いているのだろう。それ以前に、そんな事まで皇女や皇帝の耳に入っているのだろうか、と、ディートハルトは少々面食らいながらも、とりあえず謝った方がいいだろうかと思ったが、ディートハルトが口を開くよりも先に皇帝の方が話を続けた。
「私が言うのもなんだが、妹に恨まれ目を付けられたら恐ろしいからな。気を付けた方がいいぞ」
「え、あ……いえ」
曖昧な返事をするディートハルトに、皇帝は「まあ、頑張れよ」と笑顔で言い残すとそのまま去っていった。
「皇女様は、エトワス君に夢中らしいもんね」
皇帝と謁見した部屋を後にして城の廊下を歩きながら、翠が苦笑いして言う。皇帝の妹のアンジェラ皇女は同年代で、幼い頃から面識があり再従姉弟である公爵家の跡継ぎ、エトワス・ジェイド・ラグルスに対し露骨に好意を表す言動を取っているため、城内から噂が広がり、皇女が次期公爵に夢中だという事は、今や国中の者達が知っていた。それと同時に、きっと皇女と次期公爵は婚約する事になるのだろうと囁かれてもいる。しかし、当事者のエトワスは、周囲に対し『皇女に好意を告げられた事はない』『ただの噂だ』と言って完全否定していて、兄である皇帝は、同じく妹の口から直接聞いた話ではないため肯定も否定もせず、皇女の方は、明言はしていないが婚約を望んでいた。ただ、皇女側からその話を切り出すのではなく、公爵家側から申し込まれたいと考えていた。これは、皇帝家の誇りがあるからといった類のものではなく、単に乙女心として意中の次期公爵に求婚されたいからだった。
「これは流石に、フレイクに落ち度がある訳じゃないから、災難としか言いようがないな」
後ろを歩くジェスが気の毒そうに言うとクレイグも苦笑いした。
「でも、本当に、おれの事なのかな?」
「エトワスといつも一緒にいる金髪に青い目の同級生って言ったら、ディー君しかいないんじゃない?なあ?」
翠が同級生二人に同意を求めると、二人とも頷いた。
「金髪碧眼の同級生は他にもいるけど、いつも一緒といったらな」
「だよな」
「……」
ディートハルトは複雑な心境のまま城を後にした。皇女の恨みをかうような事をした覚えは全く無いのだが、城の中にいる間中誰かに見られているような気がしていた。それが皇女アンジェラのものなのか、それともアンジェラ配下のものなのか、ただの気のせいなのか分からなかったが、ちょっとした悪寒のようなものを感じた事だけは確かだった。
ディートハルトたち新I.Kは、次の日の夜明け近くに、それぞれの任務先に向けて出発する事になった。
「俺達は新人だからな。無理しない様にお互い頑張ろう。あと、エトワスに会ったらよろしく」
ジェスの言葉に、翠がニッと笑う。
「了解。二人も気を付けてね」
援軍として派遣されるにあたって、I・K達は8名ずつの小グループに分かれて移動する事になっていたが、ディートハルトらのグループの中には、連絡が取れて昨夜のうちに駆けつけていた同じく同級生のリカルドとロイの姿もあった。目的地のウルセオリナ城までの道のりは長く暇をもてあましたのか、例のごとくリカルドとロイが何かにつけてディートハルトに絡んでいたが、珍しくディートハルトは何を言われても全く悪態をつかなかった。
「おい、フレイク。交戦する事になったら俺の近くにはいるなよ。お前は弱そうに見えるから、敵に集中して狙われかねないからな」
「近付かねえよ」
今日はひどく機嫌がいいようだ。理由は単純だ。ウルセオリナに行くということは、エトワスに会えるという事だからだ。
「あ?ああ、そうしてくれ」
予想外の反応に、リカルドは意表を突かれてポカンとした顔をしている。ロイもまた、不審げにディートハルトを見ていた。
こうして翌日の日暮れ近く、先輩I・K4人と共に総勢8人で無事ウルセオリナ地方領主シュヴァルツ・R・ラグルスの居城へと到着した。シュヴァルツはエトワスと同じようにかつてはE・Kの技を扱い魔物との戦闘等へも参加していたのだが、齢74の現在は、膝の古傷のせいもあり若い頃の様に体を動かせないため戦いに出る事はない。卒業式の日に聞いていた通り、今前線では孫であり次期ウルセオリナ領主であるエトワスが公爵に代わりE・Kを含む兵達の指揮をとっているとのことだった。
遥か昔、ファセリア王国を建国した初代の女王レウィシアと、ウルセオリナ王国を建国した王アルベリックは双子の姉弟だった。そのため、二国間は長い間友好関係にあったのだが、数百年前、若く未婚だったウルセオリナの国王が事故で重傷を負い床に臥せる事となった。治る見込みもなく年の離れた弟が一人いたもののまだほんの子供だったため、国王の座をすぐに任せられる者がなく、周囲の血縁者達の間で熾烈な権力争いが始まった。幼い弟も巻き込み親戚同士で醜く争っている事態を憂えたウルセオリナの国王は、歳は離れていたが実の兄弟の様に親しくしていた当時のファセリアの国王にウルセオリナを託す事を決意し、やがてウルセオリナの国王が亡くなると二国は一つにまとまりファセリア帝国が建国された。その際、ウルセオリナ国王の生前に争っていた者達が抵抗するかと思われたのだが、ウルセオリナ国王とファセリア国王は互いに信頼が厚かったためか何事もなく杞憂に終わり、ファセリアの国王は、元ウルセオリナ王国の全土を帝国の一つの地方、ウルセオリナ地方とし、亡くなったウルセオリナ国王の弟をその領主とした。そのため、今でもウルセオリナの領地は当時の王国のままと広大で、ウルセオリナ城はファセリア城と同等に古い歴史を感じさせる荘厳な佇まいをしていた。帝都のファセリア皇帝の居城と同じく、蒼い水を湛える堀と高い城壁に囲まれた堅固な造りで、広い中庭に見事な薔薇の庭園があるのは、エトワスの祖母にあたるウルセオリナ公爵の妻クローディアの趣味である。その様なエトワスが生まれ育った城の一室で、ディートハルトたちは改めてエトワスが公爵家の令息であるということを実感していた。
「エトワス君ったら、やっぱ次期公爵様なんだよなぁ。アハハ何か笑える」
二人部屋にしてはやけに広い室内を見回しながら翠が笑う。援軍のI・Kという事で迎えられた一行は、食事を出された後宿泊する事になる部屋へと通されていた。あくまで援軍の一兵士という事で来ているため客室ではないのだろうが、それでも充分豪華な部屋だった。二つ並んだベッドは大きく、部屋に置かれた調度品も装飾の施された質の良いもので、カーテンや絨毯、ソファに置かれたクッション等も落ち着いた色で纏められた明らかに高級品で品の良いものだった。
「これが、兵士の部屋とかねえ?あれかな?一応、皇帝陛下直属のI・Kだからいい部屋に通されたのかな?それとも、エトワス君のお友達だから?」
翠もディートハルトも学生時代、長期休暇中にエトワスに招待され何度かこの城を訪れたことはあったのだが、自分達が生まれ育った環境とはあまりにも違いすぎるため、そして、エトワスがあまりにも身近な人物であるため、いまいち彼が公爵家のご子息で且つこの城で生活しているという事実が現実と結びつかなかった。
「あいつが、最近までオレらと同じ狭い一部屋で生活してたとか信じらんねえよな?っつーか、あんな狭いとこから一気にこんなゴージャスな部屋に変わったんだから、本人が一番違和感があるかもな」
「?」
話しかけたのに返事が返ってこないのは珍しくない事なのだが、やけに静かだったため、翠が不思議に思ってディートハルトの方を見てみると、彼は何やら苦しそうに床に蹲っていた。
「おい、どうした?」
ディートハルトに掛け寄って、その顔を覗き込む。
「……」
ディートハルトは何も言わずに、ただ首を振った。砂漠を歩いていたときと同じだった。急に体が重くなったように感じた後、今度は胸が苦しくなったのだ。呼吸をすることもままならず、体中が引き裂かれるように痛くてただ苦しくて蹲ることしかできなかった。
「待ってな、誰か呼んできてやるから!」
そう言って、駆け出そうとする翠の服の裾をディートハルトが掴む。
「待っ……大……じょ……だか、ら……」
「あのな~、見れば大丈夫かそうでないかぐらい分かんだよ」
呻く様に切れ切れに言い、額にうっすらと汗まで浮かべている様子に、翠は呆れてしまった。
「……もう、平気……だ……」
まだ少し苦しいが、呼吸はできるようになった。
「なワケないだろ。ンな血の気の引いた顔して」
ディートハルトは、疑っている翠を説得して人を呼ばないように頼み込んだ。
「おれ、I.Kになるための健康診断も身体検査もパスしてんだぜ……どこも悪くねえよ」
そう言えばそうだが……。翠は眉を顰める。
「いや、でもさ」
「初めての戦場だから、緊張してるせいかも。I・Kって何か責任重大な立場だし、疲れとストレスが原因かな」
「緊張?」
「そんな事、あるだろ?」
「そりゃ……」
翠は思案したが、本人が今はケロリとしていて“平気だ、なんともない”と言うのだから、そうなのだろうかと考えた。
「少し休む」
ディートハルトはそう言って制服を脱ぐと、すぐにベッドに潜り込んだ。本人がそう言った通り、かなり疲れていたのかすぐに静かな寝息を立て始める。翠はしばらくの間ディートハルトの容態が気になり様子を窺っていたが、特に苦しそうな様子を見せることもなかったので、自分も少し早いが眠ることにした。
翠が眠りについた頃、ディートハルトは青空の夢を見ていた。夢の中で、いつもの言葉にならない声が語りかける。
しかし、目覚めた時には、やはり全てを忘れているのだった。