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LAZULI  作者: 羽月
16/77

16がらくたの街 ~接触3~

 「……うぁ?」

間抜けな声と共に半開きの目をしょぼつかせながら、翠はもう一度目の前に立つ人物の姿をよく観察した。

「……あれぇ?お前、目ぇ悪かった?」

ベッドの上にあぐらをかき、眠い目を擦りながら尋ねる。

「いや、いいよ」

そう答えたエトワスは、ヴィドールで一般的なゆるっとしたシルエットのシンプルな衣服を着ていて、見慣れない眼鏡をかけていた。

「そんなことより、早く準備しろ」

「ああ、はい、了解」

枕元に置いていた腕時計で時刻を確認し、翠はのっそりリベッドから這い出した。初日はジャンケンで負けたが、その後は三人で順番に交代でベッドを使っていた。

「フレッドも起きろ」

エトワスは、隣のベッドのフレッドも起こそうとしている。

「早朝訓練でもあんのか……?」

フレッドも、モヤっとした顔でのそりと体を起こした。

「採用試験があるだろ」

エトワスの言葉にハッとして、フレッドも翠と同じように自分の腕時計を確認した。今日はセンタービルに潜入するために受ける、ファイターと研究員の採用試験の日だった。どちらの職種も募集している部署が同じだからか、試験の開始時刻は、同じ日の同じ時間が指定されていた。ただし、試験会場は異なる。

「あれ?視力が落ちたのか?」

翠と同じ事を思ったようで、フレッドが眼鏡をかけているエトワスに気付いて尋ねた。

「いや、レンズは矯正の機能のないただの硝子で変装してるだけだよ。センタービルにはヘーゼルが出入りしてるって言ってただろ?俺はヘーゼルに顔を覚えられてるから、ライザが変装して行けってうるさいんだ」

「そういや、船で会った時『あの時のファセリア兵』って言われてたもんな。でも、あんまり変装になってないような?」

フレッドの感想に翠も頷く。

「眼鏡のフレームが細めだしね。せめて髪の色が違うとか、いっその事、めっちゃ髪長くてヒゲボーボーとかにしたら分かんねぇかもだけど」

そう言いながら、二人もヴィドール人の普段着に着替える。3人の衣服もエトワスの眼鏡もサンヨウとサラが用意してくれたものだった。どちらも教会に寄付されていたものらしい。

「それじゃ、逆に注意を引くし目立つだろ」

エトワスが苦笑いする。

「まあ、俺達はエトワスだって分かるけど、ちょっと顔を知ってるってくらいのレベルじゃ、その程度の変装でも分かんないんか」

改めて頭のてっぺんから足先まで観察していたフレッドがそう言うと、翠も頷いた。

「あっちは、ファセリア兵って思ってるだろうからね。まさかこんなところにいるなんて思わないだろうし、着てる服も現地のものだし平気かも?」

三人それぞれ支度を終え礼拝堂に行くと、同じ様にヴィドールの服装をしたE・KやI・K達全員が揃っていた。彼らも今日からビルへ潜入するための準備を始める事になる。


「アクアの事、すまないがよろしく頼む」

朝食を終えると、エトワス、翠、フレッドは、いよいよセンタービルに向かう事になった。

「ああ、分かった」

少し申し訳なさそうに言うブルネットに、エトワスが笑顔で答える。

「お気を付けて。我々も近日中に合流します」

そう、E・K達がエトワスに敬礼する傍らで、I・K達も翠とフレッドに声を掛けていた。

「お前らも気を付けろよ」

「無茶な事はすんなよ」

「ヘマすんなよ」

「皆、頑張ってね。いってらっしゃ~い」

と、最後にサラがにこやかに手を振った。今日は赤紫のアイシャドウとマニキュアを付けているサラの手の動きに合わせ、沢山の細い金色のブレスレットがシャラシャラと軽やかな音を立てる。その音と仲間に見送られ三人は教会を後にした。


 ラビシュに着いてからの数週間、手分けして町の中を歩き回り、センタービル迄の道のりを中心に何処に何があるのか等も含め町の中の様子を調べ、だいぶラビシュの事も分かって来ていたが、道だけは未だに覚える事が出来ていなかった。細い道が入り組んでいるだけでなく建物も同じ造りで同じようなサイズの物が並んでいるからだ。地元の人に道を尋ねる等の助けなしでは、地図を見ながら進んでいても迷子になりそうだった。

「皆どうやって現在地を把握してんだろうね?気に入った店とかあっても、二度と行けない気がするけど……」

「一応、標識はあるけど、分っかんねえにも程があるよな」

翠の言葉に同意したフレッドが眉を顰めている。大陸間公用語で記されてはいるのだが、ファセリア帝国で見慣れている物とは全く違って字体が独特で、よく見て文字同士の境界を一つずつ確認しなければ読む事が出来なかった。

「サンヨウさんが言ってたな。外敵の侵入を防ぐために、わざと道を複雑にしたり建物を密集させたりして要塞化してるんだって。文字のデザインも含めて敢えて狙ってやってるんだろうな」

エトワスが言うと、翠が笑った。

「その効果は間違いなく出てるって、実証されてるね」

「でもこれじゃ、ヴィドール人だって、ちょっと気を抜いたり考え事をしたりして歩いてたら、自分が何処にいるか分かんなくなりそうじゃないか?」

周囲と町の地図を見比べていたフレッドが言う。

「センタービルがなきゃ、町中で遭難者が続出かもな」

エトワスが言う通り、町の中央に大きく高いビルがあるお陰で方角だけは見失わずに済んでいた。そのビルは、直線距離では遥か彼方にあるという程でもないのだが、目標の建物が大きいせいか、単純に道が曲がりくねってるせいか、なかなか近付けない。

「やっぱ、マルコロで来たら良かったね」

翠が言う。サラには勧められていたのだが、フレッドが『歩いた方が道を覚えるんで!』と、引き攣った笑顔で強く拒否したため、こうして徒歩で向かっている。

「普通の馬なら大歓迎だったんだけどな。あんな虫……!」

フレッドは嫌そうに首を振る。

「あの“馬”が原因で、フレッドの具合が悪くなって試験に失敗したら困るから、徒歩で良かったと思うよ」

エトワスが笑うと翠も頷いた。

「ま、そだね。準備運動にもなるからいいか」

三人は目的地を目指しノンビリ話しをしながら歩いていった。



* * * * * * *


 数時間後――。


ラビシュの中心、センタービル二階の非常階段に出て腰を下ろし、翠とフレッドの二人は別の試験場へ行ったエトワスを待っていた。

「楽な試験で良かったねぇ」

煙草を銜えた翠がノンビリと言うと、フレッドが笑った。

「だな」

朝、教会を出て、予定の時間通りにこのビルに到着すると、翠とフレッドはエトワスとは別れ、センタービル内の“闘技場”と呼ばれる広い部屋で他の受験者の男たちと共にファイターの試験を受けた。そこで、試験として用意されていた戦う相手は、魔物ではなく人の形をした物だった。

『(まあ、ちょっと予想はしてたけど……)』

目の前の対戦相手は、翠にとっては見覚えのある物だった。

『これは、聞いた事があるだろうが、我が国が誇る戦闘人形、ドールだ』

現職のファイターと研究員が連れて来たのは、ファセリア帝国でVゴーストと呼ばれているものだった。しかし、翠が帝都でディートハルトと一緒に戦った物とは少し違い、色が赤ではなく白に近い灰色をしていた。

『(え?これって……)』

一方、翠やエトワスに話は聞いていて教科書でも見た事はあったが、実際に目にするのは初めてというフレッドは驚いていた。思わず翠の顔を見ると、翠が小さく頷いて返す。他の受験者たちも、話には聞いていたが目にするのは初めてだったらしく、『こいつが噂の……』等とざわついていた。


 灰色のドールは受験者の数と同じだけ連れて来られていて、一人ずつ順番に一対一で対戦するというのが試験内容だった。ファセリアに現れた赤いVゴーストは、動きが早く術の様な物も使っていたのだが、試験用の灰色のドールは、ただ飛び掛かって滅茶苦茶に殴りかかってくるという攻撃スタイルで、赤い物より跳躍力とパワーはあるようだったが少し動きが鈍かった。とにかく目標を倒しさえすればいいとの事で倒す手段などは指定されていなかったのだが、ビルに潜入するにあたってファセリア帝国の物は一切持ち込まない様にしていたため、もちろん剣等の武器も所持しておらず、二人とも格闘術のみで戦った。

試験が始まり15分もすると受験者の半数は脱落し、最終的に翠とフレッドと他5名が残っていた。脱落した他の者も魔物との戦闘経験はあったようだが、ドールは頑丈でしぶとくなかなか倒れなかったため体力の限界となったようだ。

ドールを倒す事に成功した翠とフレッドを含む7名は、その場で採用を言い渡される事となり、すぐにそのまま、ファイター達専用の数フロアに渡る活動エリアを案内されたのだが、彼らが戦ったばかりの“闘技場”は、ドールや魔物と戦うための専用の部屋で、その下の2階分のフロアはファイター達が寝泊りする事になる部屋が並ぶ生活スペース、さらにその下は、ファイター専用の食堂や訓練施設のあるフロアとなっていた。現在二人がいるのは、そのすぐ下の階……ビルの二階の、売店と医務室、そして、ビル内で働く者達の休憩スペースのあるフロアの非常階段だった。


 「でも、いくらなんでも、こんなに簡単に採用されるとは思わなかったね」

翠が言う。あっさりと雇用の通知書と契約書を渡されたが、即日採用とは考えていなかったので少々拍子抜けしていた。

「戦闘能力よりも体力で採用された感じだけどな」

しかし、とりあえず潜入成功という事で、現在二人は祝杯をあげていた。と言っても、手にしたカップの中身は食堂の温いお茶だった。その食堂は並んだ料理の中から好きな物を選ぶ形式の食堂で、ファイターなら無料で自由に飲食出来るとの事だったので、二人はお茶だけ貰って来ていた。ちなみに、混まない時間であればメニューの中から注文も受け付けてくれるらしい。

「あの試験の奴はVゴーストだったんだよな?“ドール”って呼ばれてたけど」

「多分ね。オレらが戦った奴は同じ形だったけど赤で、動きももっと早かったし術みたいなものも使ってたから何種類かいるのかもな。で、ここでの正式な名前は、ドールっていうんだろうね」

翠が言う。

「じゃあ、今日の奴は、採用試験のための専用の奴なのかな。あいつを一体持って帰れたら、“向こう”にいた奴もヴィドールのものだったて証拠になるのになぁ」

フレッドが残念そうに言う。

「だよねぇ。可能なら、こっちも一体攫っていきたいよな。でも、マジでVゴーストをこの国から運んでたんだな」

予想はしていたが、実際にヴィドール国がファセリア帝国にVゴーストを運んでいて、ファセリア兵と戦いヴィクトールを狙ったのだと分かると、現在いる国に対しての怒りが沸々と湧いて来た。

「って事は、やっぱ、それなりに見返りみたいなもんがあったって事になるよな。エトワスにも報告しねえと。って、エトワスは遅いな。予定変更して休憩時間なしで試験をやってるとかじゃないよな?」

お茶を最後の1滴まで喉に流し込んだフレッドが、サラに用意してもらった腕時計の時刻を確認すると、時計の針は13時を5分程過ぎた位置を指していた。

受験を申し込んだ際に告知された予定では、ファイターの試験は戦闘が終わり次第終了だったが、研究員の方は夕方近くまで試験や面接があるため、12時から13時の間は休み時間となっていた。そこで、昼食を取る前にこの二階の非常階段で会い、一度情報交換をしようと約束していたのだが、エトワスは未だに姿を現さない。

「それはないでしょ。出られない事情があったんじゃねえの?試験会場から出るの禁止で、食事は会場に用意されちゃったとか?」

2本目の煙草の吸い殻を携帯灰皿に入れ、翠は立ち上がった。

「1時過ぎたし、メシ食いに行かねえ?」

「おお、いいな!賛成!腹減りすぎて倒れそうだったんだ」

二人は、エトワスと待ち合わせの約束をしていた非常階段を離れ、一つ上の階にある食堂へ向かう事にした。


 昼の混みあう時間を過ぎ少し落ち着いてはいたが、食堂には多くのファイター達がいて、現役の、二人にとっては先輩となる者達だけではなく、翠達と一緒に試験を受けた男達の姿もあった。

「マジで腹減ったな」

翠は空いていた席に腰を下ろし、トレーに乗せた皿の料理を早速食べようとフォークを突き立てた。

「あ……」

名前の分からない野菜を口に入れようとした瞬間、横に座ったフレッドが、ガシッと腕を掴んだ。一瞬、口に運んだ物に何か異物でも混ざっていたのかと思ったのだが、別におかしいところはない。

「何だよ?」

未だ口まであと数センチというところでフォークを止めたまま、すぐにフレッドに目をやった翠は、神妙な顔をした彼が目で指し示した方へ視線を移した。

「あ!?」

5つ程向こうのテーブルに、無表情に何かを食べているファイターの姿があった。他のファイター達が身に着けているものと同じカーキ色の上着を着たその金髪のファイターは、嫌いな食べ物でもあるのか時折スプーンで皿の端へ何かを寄せている。

「エトワスの時と、同じパターンだな……」

同じ人物に目をやったままのフレッドが、少し声を落として言う。

「今回も、本人だよな?」

「そうでしかないだろ。メッチャラッキーじゃん!」

そう言いながら、翠はまだ口に入れていない野菜を突き刺したままのフォークを皿に投げ出すように置き、勢いよく椅子から立ち上がった。そして、ガシッとトレーを掴み上げると真っ直ぐその人物がいる席まで向かった。フレッドも自分のトレーを持ち慌てて後から付いて行く。

「どーも!ここ、空いてる?」

にっこり笑って翠がそう尋ねると、金髪の青年は彼の顔を一度だけ見上げた後無言で頷いた。

『あれ?今のリアクションは……』

『え?まさかの人違いか?嘘だろ?』

翠だけでなくフレッドも内心首を傾げつつ、二人並んで金髪のファイターのすぐ向かい側の席に腰を下ろし、その疑わしい人物をジロジロと観察した。


チェックポイント1顔立ち……クリア。

チェックポイント2左利き……クリア。

チェックポイント3左耳にピアス……4つとも記憶の物と一致。ただし追加でイヤーカフ?

チェックポイント4食べ物の好き嫌いあり……クリア。

チェックポイント5珍しい色の青目(お目目パッチリ+ちょっぴりタレ目がち)……クリア。


どう見てもディートハルトだった。

「……な、何?」

二人分の、あからさまに観察しています、という無遠慮な視線に居心地が悪くなったのか、彼は困ったような表情で尋ねた。しかし、すぐに何かに気付いたらしく慌てて俯いた。

「こ、これは!別に嫌いだから残してるんじゃなくて……。今から食べるとこだし」

無言で責められているとでも思ったのか、彼はピラフの様なものから丁寧により分けていた人参とグリーンピースの細切れをスプーンですくって口に運んだ。無理をして食べているようだった。

『声もディー君だよな?』

『うーん。声もフレイクっぽいよなぁ』

「あんたら、見ない顔だな」

彼のすぐ隣に座っていた体格のいい赤茶色の髪と目をしたファイターが、二人に話し掛けてきた。

「ああ、今日、というかさっき採用されたばかりなんで。ここに来るのも初めてなんだ。オレは、スイ。で、こっちがフレッド。どうぞよろしく」

翠は名乗る時ディートハルトらしき人物にチラリと視線をやったのだが、彼は全くの無反応だった。

「そうか。俺はシヨウだ。こっちは、ラファエル」

名前を聞いた翠とフレッドは顔を見合わせた。

『ディー君じゃないのか?』

『フレイクじゃないのか?』

「ごちそうさま」

すっかり皿を空にしたラファエルは、逃げるようにそそくさと椅子から立ち上がった。

「ああっ。ちょっと待った!」

慌ててフレッドが呼び止める。

「何?」

「あ、もう少し話したいなーって思って。俺達、新人だし、君に色々案内とかして貰えたら嬉しいし。なあ?」

同意を求めるフレッドに、翠も頷いた。

「そうそう。是非!」

「でも、僕……部屋に戻らなきゃならないんだ。兄さんが来るから」

困惑しているのか、軽く眉を顰めてラファエルが言う。

「部屋ってどこ?」

「兄さんって?」

明らかに引き留めようとしている二人に、ラファエルは戸惑っているようだった。

「案内して欲しいなら、俺がしてやるよ」

クイっと自分を親指で指しニヤリと笑い、思いがけずシヨウが全くありがたくない申し出をしてくれたため、ラファエルはすぐにそのまま立ち去ってしまった。

「お前ら、ラファエルに気があるのか?」

彼がいなくなった途端、真剣な表情でシヨウがそう尋ねてきた。

ブッ

フレッドは飲みかけていたお茶を吹き出し掛けて咳き込んだ。翠も、薄笑いして首を振っている。

「関心があるって意味では間違っちゃいないけど」

先程の二人の行動は、シヨウに勘違いさせたらしかった。

「何だ。ナンパしてたんじゃないのか?」

「知り合いに、そっくりな奴がいたからさ。つい」

そう翠が答えると、シヨウは何かに納得したように「なるほどな」と頷いた。

「あいつの耳に付いてた奴、気付かなかったか?”RANK-X”って文字が書いてある」

「ああ、見た見た。あれ何?」

聞いてもないのに教えてくれるの?ありがとう!、そう思いながら翠が言う。

「アクセサリーじゃないのか?」

翠とフレッドの言葉に、シヨウは先を続けた。

「ファイターだけど、実験体なんだよ、あいつ。ああ、実験体って分かるか?」

「全然」

何となく予想してはいたが、翠は首を振る。

「研究員達が研究対象にしてる奴らだよ。魔物だったりヒトだったり、ランクが色々あるんだけどな」

「ええと。何の研究対象?」

「俺は研究員じゃないから詳しくは知らねえけど、滅んだ三種族の研究だよ。その研究対象なんだ、あいつも。そのために研究員に何処からか連れて来られたんだ。一応研究員のリーダーのグラウカの弟って事になってるけどな。信じてる奴なんていねえよ。さっき”兄さん”って言ってたのはそいつの事だ」

「それで、本人は、何て言ってんの?」

何処からか連れて来られたという事なら、やはりディートハルトで、グラウカという人物の弟を演じているのだろうか?そう思いながら翠が尋ねる。何か理由があって、敢えて違う人物を演じていて、翠達に対してもわざと知らない振りをしているのかもしれない。

「ラファエルか?あいつは、自分がグラウカの弟だって信じてる。何か、事故で母親をなくして一人になったところを、ラビシュにいる兄貴のグラウカに引き取られたって説明されたらしい。ラファエルも事故で記憶を失くしたとかで、それまでどこに住んでいたかとか全く覚えていないって言ってたぜ。で、たまたま、絶滅した三種族の血を少し引いてるかもしれねえって事が分かったとかで、グラウカたちの研究に協力してやってるんだ」

シヨウの話に、翠とフレッドは顔を見合わせた。

「それが嘘かホントか知らねえが、どっちにしろあんましいい気はしねえよな。あんな気弱なガキをおもちゃにしてんだぜ」

と、シヨウは2人に同意を求める様に視線を向けた。

「あ~。確かに、気の弱そうなコだったもんね」

翠が、ディートハルトならその真逆なのだが……と思いつつ複雑な表情で言うと、フレッドも眉を顰めた。

「事故で記憶を失くした……って」

「ああ。本当かどうかは分かんねえぞ」

そう言って、シヨウは二人の皿に視線を向けた。

「ま、食えよ。食い終わったら案内してやるから」

シヨウに促され、ひとまずここはシヨウにビル内を案内して貰おうと、二人は料理を急いでかき込んだ。


 しばらくして、空になった皿の乗ったトレーを手に立ち上がった二人は、先に席を立ったシヨウの後ろ姿を見ながら同じ事を考えていた。

シヨウという名のこの男、良い奴かもしれない。何かあった時は、仲間に引き込めそうだ……と。


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