第5話『応援』
新学期が始まって1週間が経った。
新しい友達、昔からの友達、それぞれ入り混じって仲良しグループができていく。
私はもちろん、アイリとミユと一緒。
休み時間はたわいもない会話をして、ときにボケて、ときに突っ込んで、そして笑い合って。
コミュ障なわけじゃないけれど、やっぱりこの二人といるのが一番落ち着くな。
そんなことを思ってたら……。
「なぁ、ちょっといい?」
レンの前の席に座る、タレ目がちの彼に声をかけられた。
この前、
「お前らって付き合ってんの?」
って聞いてきた男子生徒だ。
名前は金村 悠斗。
明るくて、誰とでも分け隔てなく話す人で。
ゆるめのパーマの髪型が、そのキャラにとても似合っていると思う。
「どうしたの?」
「えーと、ここじゃなんだから、3人ともちょっとこっちへ……」
そう言って彼は廊下に向かって歩き出す。
私たちは顔を見合わせ首を捻るも、素直にその誘いに従って廊下へと向かった。
「で、私たちに何の用?」
廊下に出たところでアイリが尋ねる。
彼はチラリと教室に目を向けると、小声で口を開いた。
「月島のことなんだけどさ」
レンのこと!?
「アイツ、まだクラスに馴染めてない気がするんだよね」
「それっ! それ、私も思ってたっ!」
クラスの誰が話しかけてもそっけない態度で、それどころか話しかけるなオーラが出てるとさえ思う。
休み時間の今も、賑やかな教室で一人で席に座って、ボーッと外を眺めてる。
「だろー? だからさ、なんとかしてやれねーかなって」
「ほわぁ、金村くんっていい人なんだねー。ユッたんって呼んでいーい?」
「お、おう?」
頬に両手を当てて感心するミユ。
いきなり変なニックネームをつける距離の詰め方は、彼女ならではだと思う。
だけど、アイリは腕を組んだまま。
疑いの眼差しを向けているのがわかる。
比較的、楽観主義な私とミユに対し、慎重なアイリ。
私たちといるからそうなったのか、元々そういう性格なのかはわからないけど、うちらグループってバランスが取れているなーと思う。
「ねえ金村くん、一つ聞かせて」
アイリが口を開いた。
「なんで月島くんのこと、なんとかしてあげたいと思ったの?」
「え、なんでって……。同じクラスなんだし、みんなで仲良くした方が楽しいじゃん?」
うん、そうだよね。
ってか、それ以外に何があるの?
「本当は?」
「え、本当はって……」
「本当の理由は?」
追及の手を緩めないアイリ。
ジッと彼の目を見つめ続ける。
「ちょっと、やめなよアイリ。金村くん、困ってんじゃん」
「そーだよー、アイリん。これは、ユッたんがとーっても優しいからだよー」
ちょっと可哀想になって、二人の間に割って入る私。
ミユもそれに続く。
「ね?」
と、二人で彼に笑顔を送ると……。
え、ちょっと待って!
めっちゃ目が泳いでるんですけどっ!
そこには、尋常じゃないくらいにドギマギしている彼がいた。
やがて、アイリの追求と私たちからの信頼に良心が耐えられなくなったのだろうか。
「ごめん! 本当は俺、月島のプレッシャーに耐えられないんだ!!」
そう言って謝ってきた。
「アイツ、授業中はもちろん、休み時間も視線の厚が強くて……。俺、そういうのに敏感だから背中越しでも感じてて……とても辛いの!」
そう言って、よよよ……と泣き崩れるマネをする。
でもまぁ、気持ちはわかる。
レンの目力って凄いから。
あのクールなオーラは、人を近寄らせない雰囲気をひしひしと放ってるもんね。
それにしても、相変わらずアイリの人を見抜く力は凄い。
それはミユも思っていたみたいで。
「アイリん、やっぱすごいねー!」
と、小声でそっと言ってきた。
アイリは腕組みを解くと、アゴに手を当てる。
「なるほどね、あなたの気持ちは分かったわ」
「姐さん……」
「誰が姐さんよ!」
金村くんのすがるような声に厳しいツッコミを入れるアイリ。
「ったく……」
と、ため息をつくと、言葉を続ける。
「私も同じことを思っていたから。月島くん、このままじゃ孤立するよ」
「えー? それー、可哀想だよー! どうしようー」
「……じゃあさ、うちらでいっぱい話しかけるのはどうかなっ?」
「あー、それいいかもな! 無理やりこの俺たちのグループに引き込んじゃおうぜ!」
「……ちょっと、あなたはいつの間に私たちのグループに混ざってるのよ」
アイリの厳しいツッコミその2に、金村くんは唇を尖らせる。
「えー、俺も入れてよー。席も近い仲間同士じゃーん」
その言い方が面白くて、思わず私たちは笑ってしまった。
金村くんって、話しやすいんだな。
「あ、でもさ。さっき俺が言った、みんなで仲良くした方が楽しいじゃん? っていうのも本心だよ? 俺、昔は太っててイジメられたこともあったから、もう誰にも俺みたいな気持ちは味わってほしくないっていう……」
――キーンコーンカーンコーン♪
彼の言葉を遮って校内に予鈴が響く。
「チャイムなったし、教室戻ろうか」
「ちょっと、まだ俺、喋ってる途中!」
アイリと金村くんの掛け合いに、私たちはお腹を抱えて笑う。
でも、そうだよね。
高2って今しかないんだし、レンとだってこうやってみんなで笑い合えた方がいいに決まってる。
「行こうか」
アイリと金村くんが教室へと歩き出す。
その背中を追って私も歩こうとしたら——。
――ぐいっ。
と、上着の裾を引っ張られた。
振り返ると、それはミユだった。
「どうしたの? 授業、始まっちゃうから行こっ?」
首を傾げた私に、ミユがそっと耳打ちする。
「あ、あのね……ユッたんって、素敵な人だなーって、思っちゃった……」
そう言うミユの頬は少し赤く染まっていて。
少し俯きながら、髪の毛をくるくると指でいじっている。
いつも可愛いミユが、なぜかいつも以上に女の子に見えた。
「えっ、ミユ?」
思わず聞き返した私に、
「わ、私、もぅ行くね」
恥ずかしそうにそう言うと、パタパタと二人の背中を小走りで追いかけていく。
「えっ? えっ? えっ?」
取り残された私は、その意味がわからず呆然と立ち尽くしていたけれど……。
次第に考えがまとまってきて……。
私の頭は1つの答えを導き出した。
ミユは……。
——金村くんに恋をした!?
「えーーーーーっ!?!?!?」
人気のなくなった廊下に、私の声が響き渡っていった……。
教室に戻ると、すでに先生は来ていた。
「すみません、遅くなりました……」
私は謝りながら、小さくなって自分の席へと向かう。
椅子に座って短くため息。
ミユは自分の世界の色が強かったからか、これまで恋愛話なんて聞いたことがなかった。
それが、素敵な人って頬を染めて。
あんな表情、初めて見たかもしれない……。
もしミユが金村くんを好きになったのなら……私はその恋を応援したいっ!
決意を込めた手を強く握り締める。
「遅かったな」
そんな私に隣の席のレンがそっとつぶやく。
「腹でも痛くなったのかと思ったけど……その様子じゃ違うみたいだな」
「え、もしかして心配してくれたの?」
「バーカ」
横目でこちらを見てるレン。
その黒い瞳に、少しだけ温かさを感じた。
なんだ、もー。
人を寄せ付けないオーラを放ってクラスから孤立しちゃうとか思ってたけど、意外と優しいとこあるじゃん。
私は、にいーっとイタズラな笑みを浮かべた。
「心配してたなら、素直に心配してたって言っていいんだぞーっ。君はもっと素直になった方が……」
「こらっ、日野原!」
その瞬間、先生の怒号が飛んだ。
「日野原、授業に遅れてきてお喋りとはいい度胸だな。前に出てこの問題をやってみろ!」
黒板に目を向けると、いつの間にかびっしりと問題が書かれていた。
「ええっ、これ全部ですかっ!?」
「当然だ」
「ええぇ~~~……」
がっくりと肩を落として、仕方なく黒板へと向かう。
途中でレンに目を向けたら。
べー、と小さく舌を出された。
コイツは……。
私にそんなことできるなら、他の人ともっと交わっていけばいいのにっ!
なんで私にだけなんだっ!
そんなことを思いながらチョークを手に取った。
その後、先生の出した問題は半分くらいしか正解できなかったけれど、何とか許してもらえました、ふぅ……。
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