表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/36

第12話『ピースサイン』

「えっ、それって今日だった!?」


 うちらがお茶してるファーストフード店。

 そのトイレの片隅からアイリの声が響く。


 彼女は今、電話中。

 私が用事があるからとトイレに誘ったところで、スマホに着信があったのだった。


 用事というのは、もちろんミユのこと。

 ミユとユウトくん、二人は絶対お似合いだと思うから。


「……うん、今から帰れば間に合うから。(いつき)は、お姉ちゃんが帰るまで準備してて」


 イツキくんっていうのは、アイリの弟だ。

 確か小学校4年生だったかな。

 でも、なんだろう?

 いつも冷静なアイリが慌ててる気もするし……急用かな?


「えっ、録画!? バカなこと言わないで! 私がこの新作発表会をどれだけ楽しみにしていたか、あなたはしってるでしょ! 私にとって魔法少女シリーズというのは……」


 ……ん?

 魔法少女?


 首を傾げる私。

 ハッとした様子で振り返るアイリと目が合った。


「と、とにかく、お姉ちゃん帰るから! じゃあね!」


 そう言い切って通話を終了する。

 私は、おそるおそる口を開いた。


「ねぇ、アイリ……。今の魔法少女シリーズって、アニメの……?」

「な、なんのこと? ユイの聞き間違いじゃないの?」

「え、だって今……」

「そ、それより、用事ってなに? 話があるんでしょ?」

「あー、そうそう!」


 危ない危ない、本題を忘れるところだった。

 私はキョロキョロと辺りを見回し、トイレに誰も入ってこないことを確認してから小声で話し出す。


「あのね、ミユのことなんだけど……ごにょごにょごにょ」

「えっ、金村くんのことが好きみたいだから、なんとかしてあげたいって!?」

「しーっ! しーっ! 声が大きいってっ!」


 驚きの声を上げるアイリに、私は大慌て。


「あ……ごめん。でも、どういうこと?」

「うん。アイリって、ミユの恋愛話って聞いたことある?」


 アイリは首を横に振る。


「愛情はたっぷりだけど、恋に関しては一番遠いところにいる子だと思っていたから」

「でしょっ! 私もそう思ってた。でもさ、そんなミユがユウトくんの前だと真っ赤になったり、嬉しそうだったり。ああ、彼のことが好きなんだな……って思えてさ」


 私は胸に手を当てた。

 さっきチクリと痛んだ胸の中は、今はミユのことでいっぱいだ。


「だから私、ミユのこの恋を応援するって決めたんだっ!」


 決意表明。

 そんな私をまじまじと見たアイリは——。

 やがて、ため息をついた。


「あなたっていつもそう。ほんと、人のことに一生懸命になって……」

「えへへ。だってミユは親友だもん! それに、あんな恋する乙女みたいな子、ほっとけないじゃん!」

「……まあ、確かに気持ちはわかるわ」

「でしょー?」


 私は、にぃーっと笑う。


「あ、もちろん、アイリのときだって全力で応援するからねっ!」

「わ、私は、まだ好きな人なんていないから! こ、この気持ちは……たぶん、そういうんじゃないから」

「んー?」

「と、とにかく! 今はミユのことを考えるんでしょ!」


 うん。

 なんだかよくわからないけれど、アイリがその気になってくれたのは、とても心強い。


 彼女は腕を組んだ。

 それは、物事を追求するときの癖だ。


「で、具体的にはどうするか考えてあるの?」

「えへへー、それはー……」


 私は頬をかいた。


「……まだっ!」

「だと思った」


 アイリは、がっくりと肩を落とした。


「どうせユイのことだから、『ここは私が一肌脱ごう』とか、『数時間だけど彼氏がいた私に任せて』とか、『きっと後悔はさせないから』とか、根拠のない自信に満ち溢れていたんでしょ」


 ううぅ……。

 カンの鋭い親友は嫌いだってばーっ!


「まったく……。それで思ったんだけど、ミユと金村くんは、まだ二人きりで話をしたことがないんじゃない?」

「あー、そうかも」

「じゃあ、まずそこから。二人で色々な話ができれば、きっと今より距離も縮まるはずよ」


 確かにっ!

 二人きりになったら、ミユも恥ずかしがってる場合じゃないし!

 ……まぁ、恥ずかしがってるミユも可愛いんだけどね。


 ──でもっ!

 もったいないけれど、今はそんなことを言ってる場合じゃない!


「問題は、どうやって二人きりにするか……だよね」

「簡単なのは、ここから私たちがいなくなること。ただし、さりげなくね。幸い、私は弟から電話がかかってきたし……それを理由にできるかな」

「あー、うんうん! えーと、なんだっけ? 確か、魔法少女が……」

「お、思い出さなくていいから!!」


 いつになく大慌てのアイリに、私は声を上げて笑った。




「ただいまー!」


 トイレから戻った私たちを、ミユが笑顔で出迎える。


「おかえりなさーい。二人とも、時間かかったねー」

「ごめん、弟から電話がかかってきちゃって」

「イツキくん?」


 アイリの言葉に目を大きくするミユ。

 何度もアイリ宅に遊びに行ったことがあるミユも、当然イツキくんのことは知っている。


 ミユはレンとユウトくんに向き直った。


「イツキくんって、アイリの弟なんだけどー。アイりんに似て、とーってもイケメンなんだよー!」

「そんなことないって」


 アイリは困ったように笑う。


「まだまだ子供だから。今だって、お姉ちゃんどこにいるの? 早く帰ってきて! って」


 わ!

 アイリ、演技がめっちゃ上手い!!

 この場からいなくなる流れを、とてもさりげなく作ってる!


 よーし、私もアイリのフォローをしなくちゃ……。


「なんかね、魔法少ふぐぅっ!?」


 その瞬間、アイリの肘が私の脇腹に突き刺さる。

 

「というわけだから、私は帰るね。みんなはゆっくりしていって」


 そう言ってカバンを掴んで立ち上がった。

 去り際に——。


「次はユイ。さりげなく、ね」


 と、ささやかれた。


 任せてっ!


 去っていく彼女の背中に、こっそりピースサインを送る。

 別名、勝利のVサインだっ!

 このあとの私の演技力に()うご期待、だよ!


 心の中で役者魂が産声を上げるのを、私はしっかりと感じていた。



 最後までお読み頂きまして、ありがとうございます!


「面白い!」

「続きが読みたい!」

「更新が楽しみ!」


 と、思って頂けましたら、

 ブックマークや、下にある☆☆☆☆☆から作品の応援を頂けたら嬉しいです。


 これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
投稿お疲れ様です 雰囲気作り大事ですよね恋愛とかは ただ根拠が浅い自信は友人からすると失敗する可能性高そうですもんね(汗
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ