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いつも貴方が居てくれるから 二話


あれからお父様とお母様、そして王家の方達が必死に婚約者変更の手続きをした。

姉妹間だとしても、王太子の婚約者変更は大変だ。アーロン様が婚約者を裏切ったという醜聞になってしまう。

だから私は提案した。王妃なんて無理…嫌だって駄々をこね、そしてお姉さまに変わってって我儘を言ったことにしてと。

自分勝手な女は王妃に相応しくないからと王太子妃から外されたことにしてと。

そんなことを言う娘の家の他の子どもなんてどの娘も相応しくないと言われるかもしれないが、セリーナ姉様は優秀だし美しい。

きっと大丈夫だ、それにアーロン様が絶対にセリーナ姉様を手放すはずがないと思ったから。

きっとこの作戦で大丈夫。

お父様たちはそれでは私の名誉が傷つくと反対したけど、それよりもセリーナ姉様と愛し合っているアーロン様のお側にいる方が私には辛かった。


「大丈夫です。私は…私はアーロン様の邪魔者になるくらいなら、自分の名誉なんていりません。あの方には幸せになってほしいのです。好きな人の幸せを願うのは悪いことなのですか?」

「シャノン…」


どうか、セリーナ姉様そしてアーロン様幸せになって下さい。

そうして私の想いを汲み取ってくれたお父様とお母様はそう言って国王様に提案した。

そして私はアーロン様…アーロン王太子殿下の婚約者から降りた。

これで…良かったの。




王妃教育がなくなった私は一気にやる事が無くなってしまった。

毎日暇な時間を過ごす。大好きな刺繍も刺す気が起きない。だって、刺繍をしたとしても誰に贈るの?そう考えてしまうから。

好きに刺せばいいのだけれど、いつも出来た作品をアーロン王太子殿下に贈っていた。

それを思い出してしまうから辛くて針を持つのも辛かった。


今日も部屋で何をするわけでもなくぼーっと過ごしていた私にお客様が来たと、使用人が伝えにきた。

客間に移動するのが億劫で私はここに通してと言った。

使用人は躊躇ったが私がもう一度言うと分かりましたと客人を連れてきた。


「シャノン様…あの…」

「…ルイス。貴方はアーロン王太子殿下の護衛でしょ、どうしてここにいるの?ああ、セリーナ姉様に会いに来たアーロン王太子殿下の護衛できたの?」


客人とはルイスだったのね。でも、どうしてここにいるのか不思議だった。何故か大きなカバンを持っているし。

男性ということで部屋の端に使用人が待機し、部屋の扉も開け放つ。

本当は婚約者でもなんでもない男性を部屋に招き入れるの自体良くないのだろう。


「……」

「ダメじゃない、護衛対象から離れては…」

「違うんです!今日は貴女に会いに来たんです…」


ルイスが少し大きな声を出した。ルイスの方を見ると何故かルイスが泣きそうな顔をしていた。

どうして貴方がそんな表情をするの?と不思議に思ってルイスに近づく。


「…っ!!シャノン様…オレは貴女に…笑ってほしいです」

「…何をしても楽しくないの。大好きだった刺繍も楽しくなくて…」


そう言いながら私は刺しかけの刺繍をするすると解く。

これはアーロン王太子殿下に贈ろうと思って作っていたタペストリー。でも、もういらないから。

タペストリーは糸が解かれてどんどん無になっていく。刺した後は残っているけどそれでもまっさらな布になって。

私もこんな風に真っさらな気持ちになれたらいいのに…。


「シャノン様!!やめてください!」

「だって、これは必要ないもの…だったら…」

「きっとアーロン殿下を想って刺していたものなんですよね。でも貴女のその気持ちをなかったことにしなくてもいいと思うんです」

「?」

「だって、今までの貴女もシャノン様なんです。辛いかもしれません、もう見たくないかもしれません。でも、アーロン殿下の婚約者だった貴女も!大切な貴女なんです!」


ルイスは私に伝えようと必死に言葉を紡ぐ。


「オレは…その時の貴女に…」


何かを言おうとしたルイスはなんでもありませんと言葉を打ち消した。


「何言ってるかわからないですよね…すみません。忘れた方が楽かもしません…でも否定はしないでください」

「!?」

「シャノン様が歩んだ道は無駄じゃないと…オレは思うから…」

「ありがとう…ルイス。私は…怖かった。今までの私のしてきたことは無意味で誰の役にも立ってなくて、むしろお二人の邪魔でしかなかったんじゃないかって…」

「はい」


ルイスは私の言葉に優しく相槌を打ってくれる。


「今は無理でもいつか…また楽しいって笑えたらいいな…」


私の言葉にルイスはズンと机の上にカバンを置く。

そして…


「シャノン様、これ読みませんか!?」

「へ?」


ルイスが突然持っていた大きなカバンを開けて中身を出す。

カバンの中にはたくさんの本が出てきた。

パッと表紙を見ると冒険譚から恋愛小説、ミステリー等様々なジャンルの本が出てきた。

よくこの量の本を持ってきたなって、カバンもよくこの本たちを入れて無事だったなって思った。

でもよく考えたらルイスは騎士だ。それも王太子の護衛が任されるほどの。

カバンはわからないけど。

十六歳という最年少でその地位まで上り詰めたと有名だ。

燃えるように赤い髪に新緑を思わせる綺麗な緑色の瞳。アーモンドアイの瞳がよく合っている。

そんな若葉のように爽やかな瞳に見つめられて私は戸惑う。


「オレ実は読書が趣味で!気に入ればジャンル問わず読むんです!!」

「え、ええ」

「読書仲間が欲しいんです!読んでみませんか?」


ルイスは本を一冊掴んでキラキラした瞳で私に近づく。その熱が少し怖かったけど、私の気分転換にって気遣いもあるのだろうって思ってその一冊を受け取った。





「ねえ!これ続きはどうなるの?」

「へへ、面白かったですか?」

「…だって、こんな終わり方したら…誰だって気になると思うの」

「ふふ、実は今回は一冊完結か最初の一冊しか持ってきてないんです」

「つまり…?」

「続きは今日は持ってきてないです!」

「!!」


ルイスから借りて読んだのは主人公が邪竜に立ち向かうために仲間と旅をする冒険譚。

主人公は平和に暮らしていた普通の村人だったけど、ある日勇者に選ばれて世界の平和を脅かす存在である邪竜を仲間と共に倒すという物語。ルイス曰く王道らしいが私には新鮮でワクワクした。

ちなみに主人公が仲間になったヒロインという立場に当たるらしい女の子が行方不明になってしまい?という感じで終わってしまった。

ヒロインはどうなってしまったのか…主人公はどういう行動をするのか。

一人のために他の仲間を危険に晒すのか、切り捨てて次へ行くのかと私は気になって仕方ない。

そう言うと、ルイスが笑って答える。


「物語ですから…切り捨ては…」

「待って!言わないで…私、自分の目で確かめたいの…」

「ネタバレ厳禁派ですね」


くすくすと笑うレイスにムッとしてしまう。

仕方ないじゃない、結末を知ったらワクワクが減ってしまう。こういうのは初見でないと。


「ふふ、シャノン様って意外とムキになりやすいんですね」

「…だって」

「だって?」

「むぅ…ルイスの意地悪…」


そう言うとルイスが笑い出す。私のことを案外子どもっぽいところもある言いながら笑うものだから、私は怒ってルイスから顔を逸らした。


「もう、知らないんだから…」

「ごめんなさい、シャノン様が可愛くてつい」

「え…そ、そんなことを」


初めて言われた気がする。アーロン王太子殿下は言ってくれなかった…。

もう、それが答えなのね。私は元々愛されてはいなかった。婚約者として尊重はされていたけど。

黙ってしまった私にルイスは慌てたように口を開く。


「ごめんなさい、調子に乗りましたね」

「ううん、そんなことないわ。ありがとう…ルイスは優しいのね」

「そんなこと…」

「だって、元気のない私を励ましてくれた。それに少しでも笑えるようにこんなに本を持ってきてくれた。嬉しい…すぐには無理かもしれないけど、ちゃんと前を向くわ」


今できる最大限の笑顔を向けて。少し引き攣ってしまったかもしれないけど…それは許してルイス。


「オレは…優しくなんてないです………だって、オレは弱っている貴女に付け入るようなことをしているんです…」

「え、なんて?ごめんなさい、聞こえなかったの。もう一度…」

「いえ、なんでもありません!今日はもう遅いので帰りますね。また続き持ってきます!あ、これとか置いていきましょうか?」


そう言ってルイスは数冊の本を机に並べる。

先ほど読んだような冒険譚や恋愛小説だった。

恋愛小説か…とじっと見つめていると。


「これ、悲恋系なんです」

「え、成就しないの?」

「いや、ハッピーエンドものだとシャノン様が妬ましさで爆発しないかなって心配で…」

「……」

「悲恋ものだったら感情移入とか…しやすい…かなって……って冗談ですーー!」

「ふふ、あはは。そうね、確かに。妬ましさで可笑しくなってしまいそうかも」


ルイスのギリギリなのか、完全にダメなのかわからない冗談に私は笑ってしまう。

なんてこと言うのかしら…でも、そうね。


「そうよ…私は幸せを願うと同時に…妬ましかった…私は幸せになれないのかって」

「シャノン様…」

「そんな感情を持つのは嫌で否定していたけど、その気持ちは普通なのね」

「そうですよ。人なら当然です!」

「ありがとう、貴方のおかげで今日は色々気づきを得たわ。少し心が楽になったの」


感謝をこめてもう一度笑う。今度は先ほどより自然に笑えたと思う。

このまま確かに出来た傷が塞がりますように。

完全には無理かもしれない、でもその傷跡がきにならないくらいこれからを精一杯楽しく生きていく。

そう決意した。



ところで続きはいつなのかしら、次の約束を私は忘れずにルイスに取り付けたのでした…。


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