臍を噛む。
「ねぇ、ゾウモツさんって知ってる?」
「なにそれ?」
「なんだぁ、矢野くん、怖い話大好きなのに知らないんだ。」
俺、矢野才賀は、怖い話が大好きで、みんなに自分の知っている怖い話をよく聞かせていた。いつものように周りの人に聞かせていた昼休み、友達の香織に聞いたことない名前を言われた。高校2年でこの高校に転学して、この香織と伊達と言う隣のクラスの男と仲良くなった。友達を作るきっかけにでもなればと怖い話を話していたら、2人も怖い話が好きらしく、それが縁で仲良くなった。
「知らないの?ゾウモツさん?」
「知らない。有名なのか?」
「うん。昔ね、2人の男の子がこの学校の図書館でゾウモツを撒き散らして死んでたんだって。」
「それが本当なら、何でこの高校廃校になったり大々的にニュースとかにしないんだ?」
「校舎ごと建て替えた上で、色々と隠蔽交錯したりしたらしいよ。」
「臓物撒き散らしてねぇ〜、何か信じらんねぇな」
「その人達はね、そこで、ある本読んだらしいの、そこにはゾウモツさんの事が詳しく書いてあって、最後まで読むとゾウモツさんが現れて殺されるんだって。」
「もしそんな本あるなら、伊達呼んで今から探しに行こうぜ」
「その本は深夜に図書館の机に置いてあるらしいよ。だから今はないらしい。」
「ふーん。俺に今その話したってことは?」
「そう言うことぉ!本当かどうか見に行こうよ!」
俺と香織はニタァと笑った。
その日の午後の休み時間、廊下でもう一人の怖い話好きの、伊達とすれ違ったので、その事を伝えた。
その時に「俺たち3人で行こう」と伝えると、「3人?あぁ、いいぜ。」と伊達は眉を顰めたのが、少々気になった。
3日後の夜、11時半に俺たち3人は校門の前に集まった。
「そんじゃ、いっちょ行きますか」
「おう」
伊達が意気込んだ。2年生だがラグビー部のキャプテンをやっているだけあって、こいつは背が高い上にとてもマッチョだ。ゴリマッチョだ。と言うかもうゴリラだ。なんかあってもマッチョはどうにかしてくれる。とか考えた。
各自で持ってきた懐中電灯をつけて、3階の隅にある図書館に行った。うちの高校は歴史がある伝統的な高校で、立て替えられた後も、なぜか図書館だけは少し改装しただけの昔の面影を残した木造の部屋だった。それが信憑性を増した。
カツカツと階段を登り、ガラガラッと立て付けの悪いドアを開ける。それがまた、深夜の高校と相まって恐怖を掻き立てた。そのゾクゾクは、俺たちにとって最高の刺激だった。
その後しばらく本を探したが、全くそんな見当たらなかった。
「ねぇー、そんな本どこにある?」
「まー、どうせくだらない噂話に過ぎなかった。って事だろ?」
「矢野、肝試しって最高だよな」
伊達はニタァと笑う。ゴリラスマイルだ。
とは言えそんな本は見当たらないので、諦めて帰ろうとした。そんな時に見つけた。カウンターの1番隅においてある、真緑の表紙の本を。
ここでやめておけばよかった。
本を開く。俺はカウンターの椅子に座り、2人は後ろから懐中電灯で照らしてくれた。
白紙のページを少しめくると、ゾウモツさんについていてあった。
ゾウモツさんは人間なんだ
この高校にいるんだよ。
引き寄せられたね。
君達2人は。ね。
さ、始まるよ。
パタン、と本を閉じる。流石に気味が悪い。
「おい、これは気味悪いな。」
「あぁ、帰ろう。」
俺は後ろを振り向く。俺は驚いた。香織はどこに行った?伊達に聞くと、不思議な顔をした。
「ちょっと前から言おうと思ってたんだけどさ、香織って、誰だよ?」
俺の頭は混乱した。1ヶ月前、この高校に転校してきて初めてできた友達。それが香織だった。
「いやいやいや、今日もずっといただろ?」
「は?誰だよそれ。まじでそんな奴いたのかよ?今日だって二人で来たじゃねぇか」
俺の混乱は止まらなかった。その混乱の中冷静に考えると、伊達と香織が二人で俺のところへ来たことも、まして二人が会話しているところを見たことがなかった。
「矢野。まさかさ、その香織って女が。」
「状況から考えて、そうだろうな。俺まんまと引き寄せられたらいし。」
「反省はあとだ!逃げるぞ!」
伊達は俺の手首を掴み、図書館のドア付近まで引っ張って走った。
ドアを開けようとした伊達の動きが止まった。
「伊達?早く開けろよ!」
俺は焦りから少し声を荒げてしまった。だが伊達にはもう、ドアを開ける余裕も、まして声を出す力もなかったのかもしれない。
伊達は吐血していた。そして、腹にはまるで誰かに手を突っ込まれ、無理やり皮膚を破かれたかのような風穴が開いていた。
伊達は口から大量の血を吐き出しながら、ゴボゴボと何かを話していた。
「矢野、早く、逃げろ。ヤツが、ヤツが、来る。」
「おい、伊達!ヤツってなんだよ!お前も一緒に逃げるぞ!おい!」
ブハッと最後に大きく血を吹き、伊達の息は止まった。
「私いじめられててさ、今の校舎になる前にこの図書館で自殺したんだ。」
後ろを振り向くと、そこには血まみれの手に何かを持っている香織が立っていた。いや、ゾウモツさんか。
「だからって何で伊達殺したんだよ!」
「いじめられてたからだよ?建て替えたとして、この高校に来る奴はみんな同罪だよ?定期的に殺して更地にでもやろうと思っての行動なんだよね。」
「ふざけんなよ!そんなイカれた理由で、俺たちを殺すなんてお前なに考…」
その時だった。俺は腹の中の何かを掴まれたような感じと、激痛を感じた。そして口から赤く熱を帯びた液体を吐き出した。
「ねぇ〜見て!これ矢野の胃!あ、因みにさっきから持ってたこれは伊達の肝臓でした!ポッケに伊達の胃も入ってたりして!」
うすらうすら聴こえてくる化け物の女の声、それがうつ伏せに倒れた俺の耳元で囁かれた。
「いじめられてた腹いせにさ、よく鳥とか野良猫のゾウモツ取って殺してたの。つまりね、ゾウモツとって殺すのは、生きてる時からのただの趣味だよ。私の報復の糧になってくれて、どうもありがとう。」
何となく、こいつが何でいじめられてたのかわかった気がした。
「ねぇ、知ってる?先月からなんで図書館に入れないのか。」
「えぇなんで?ちょっと不便なんだけど。」
「三組の矢野くんと、二組の伊達くんさ、ゾウモツ取られて死んでたんだって」
「えぇ〜本当に?だから彼ら休みなの?」
「ほんとだよ!それってあれじゃん?」
「そうだよねぇ!ゾウモツさん。」
「ねぇ、図書館がまた開いたらさ、その噂が本当かどうか、確認しに行こうよ!」
「えぇ、怖いなぁ、けどちょっと面白そうかも」
「じゃあ、決まりね!」
「うん!わかったよ!香織ちゃん。」
END