第9羽
神鳥らしき巨大な鳥があちこちの町に配ってまわったチラシは多くの人の注目を集め、バザーは大盛況。孤児院の子供たちはにっこにこの笑顔だし、支援者のナイマン男爵もにっこにこの笑顔。その後も多額の寄付を繰り返ししてくれた。
ちなみにクソ社長とクソお局様もバザーに出店。〝ご利益あるかも! 絶賛逃亡中の聖女のタマゴ直筆退職届〟をぼったくりな値段で売りさばいて一儲けした。
実に商魂たくましい。
聖女のタマゴ様によるアレな一言で恋愛フラグをポッキリと折られたパトリックはしばーらくスン……とした顔のまま過ごしていた。子供たちはにっこにこの笑顔の中、すみっこに座り込み、ひざを抱えてスン……とした顔のまま過ごしていた。
しかし、絶賛逃亡中の聖女のタマゴと思しき少女と神鳥と思しき巨大な鳥が目撃されたと聞いて王都から町にやってきたもう一人の聖女のタマゴ――トリタマでは悪役令嬢ポジションなベアトリスと出会って復活。
「ああ、神鳥の聖女様! 私の運命――!」
今はベアトリスの下僕になるべく付きまとっ……がんばっている。
……という話はすでにあの町を出て基本、野宿な旅を再開している我が愛し子はあずかり知らぬ話だ。
「我が人型となり、背中の羽も隠し、我が愛し子の恋人か夫のフリでもすれば宿に泊まることもできるし、どこかに定住することも容易いのだがな」
木々のすき間から見える夜空と大きな月を見上げて低い声でため息混じりに言う。
しかし――。
「とりあえず、トリで……トリのままで……お願い、しま……す……」
肩に頭を預けて寝言を言う少女に背中から羽を生やした人型イケメンは苦笑いをもらした。
「我が愛し子がそう望むのならばとりあえず、トリのままでいるとしよう」
人型イケメンはずり落ちた毛布を肩まで引き上げてやると――。
「……ぴっ」
再びシマエナガ的まるっとしたフォルムのトリ型に戻ると真っ白な羽を広げ、本来はトリタマのメインヒロインで絶賛逃亡中の聖女のタマゴな〝愛し子〟をふわっふわの羽毛で包み込んだのだった。