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第6羽

「さあ、聖女のタマゴたちよ。好きなタマゴを選びなさい。そのタマゴがかえり、神鳥へと育て上げた者こそが真の聖女となるのです」


 優しそうなおじいちゃん神官さんの言葉を聞いた、あの日――。

 私はすべてを思い出した。


 前世ではしがない会社員だった。

 小さい頃からトリのことが好きで好きで仕方がなかったのに、家族の病気が理由でずっと飼うことができなかったしがない会社員。

 社会人になって一人暮らしを始め、長年の夢を叶えるべくトリさんを迎え入れに行くためにスキップでトリ好き・トリ飼いの同僚の元に向かっている途中でトラックに轢かれてこの世界に転生したのだ。


 この世界は高校時代にドハマりした乙女ゲー『神鳥の聖女 ~あなたと育てる恋のタマゴ~』――略してトリタマの世界。

 私がこのゲームをやり始め、ハマった理由は攻略対象キャラのイケメンたちじゃない。ぴーちゃんこと、ピーティー・オーピーこと、神鳥を育てるという点。トリを育てるという点。

 つまるところトリの――ぴーちゃんの可愛さだった。


 だがしかし、この世界はいつだって理不尽にあふれている。

 ゲームをやりにやりこんだ私は突然、目の前に現れた理不尽な運命に絶望する。


 すべての攻略対象キャラのすべてのエンディングを見た結果、シークレットストーリーが解放されたのだ。

 ぴーちゃんを――背中から羽を生やした人型イケメン・ピーティー・オーピーさんを攻略できるというシークレットストーリーが――!


 タマゴから孵って雛になり、成長してシマエナガ的な成鳥の姿になってもビックリするほどかわいかったぴーちゃん。そのぴーちゃんが突然! 真の神鳥の姿はこうなんですとか言って背中から羽を生やした人型イケメンになったのだ!!!


 乙女ゲー的には仕方がなかったのかもしれない。

 イケメンを攻略したい乙女的には大正解だったのかもしれない。


 だが、しかし――。


「ぴーーーちゃぁぁぁあああーーーんーーー!!!」


 私はトリのままでいてほしかったのだ。

 何はともあれ! とりあえず! ぴーちゃんにはトリのままでいてほしかったのだ!


 というわけで――。


「よし! とりあえずシークレットストーリー解放を全力で阻止するべく、攻略対象キャラから全力で距離取っちゃうぞ!」


 前世の記憶とこの世界がトリタマ世界であることを思い出した私は絶望的で理不尽な運命から全力逃避行かますべく、トリタマの舞台である全寮制の学園を抜け出し、行方をくらませた。

 前世で叶えられなかったいつでもトリといっしょ生活を叶えるため。ぴーちゃんのシマエナガ的フォルムを守るため。どの攻略対象キャラとも関わり合わず、どの攻略対象キャラとのエンディングも迎えずにすむようにと全寮制の学園を抜け出し、行方をくらませたのだ。


 とりあえずトリのままでいてくれ!

 とりあえずトリのままでいてくれ!!

 とりあえずトリのままでいてくれ!!!


 トリあえず――!!!!


 ***


「……って、ささやかにして唯一の願いを脅かす絶望の権化! 攻略対象キャラの一人、パトリック・デュ・デヴィッドじゃん! 神父様、パトリックじゃん!」


「私の名前をご存知なんですね! ああ、さすがは神鳥の聖女様! 私の運命――!」


「手を……手を放せ、絶望の権化ーーー!」


「ぴぎゃーーー!!!」


 うっかり肉薄してしまった絶望の運命こと攻略対象キャラなイケメンに私は悲鳴をあげ、巨大ぴーちゃんはと言えば怒りのひと鳴きを再び、響かせたのだった。

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