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第5羽

 今回の件はぴーちゃんの力を借りれば恐らく一瞬で解決する。

 ただ、ぴーちゃんの力を借りてしまうと、もう、この町にはいられなくなってしまう。


「またお引越しすることになってもいい?」


 この町に引っ越して三か月。

 社長もお局様もクソだったけど、町の人たちはみんな優しかった。王都から遠いというのが特にいい。ようやく落ち着いて暮らせるかと思っていたのに、また、落ち着ける場所を求めて基本、野宿な旅に出ないといけないのだ。

 でも――。


「ぴっ!」


 私の言葉も今の状況もすべて理解しているかのようにぴーちゃんは力強くひと鳴きした。


 ぴーちゃんの力を使えば私の正体がバレてしまう。神鳥のタマゴを持ち逃げした行方不明の聖女だとバレてしまう。そうなったら私を学園なり神殿なりに連れ戻そうと追手が放たれることになる。

 絶望的で理不尽な運命から逃れるために私は絶対に学園にも神殿にも戻るわけにはいかないのに。トリタマのシナリオから死に物狂いで逃げて、距離を取らないといけなのに。


 こんなクソみたいな会社で働いていたのだって身分証を見せなくても働けるからだ。しかも、社長が大家さんだとかで身分証なしで部屋まで借りることができたからだ。身分証を見せたりしたら行方不明で指名手配気味の聖女のタマゴだとバレてしまう。


 そんな感じで必死になって逃亡中の聖女のタマゴという正体を隠してきたけれど――。


「……おねえちゃん?」


 子供たちを悲しそうな顔のままにしておくなんてこともできないのだ。

 そんなわけで――。


「安心して。チラシはちゃーんとオネエチャンが配ってくるから。隣の町にも、そのまた隣の町にも、もーっと遠くの町にまでもね!」


 私はウインクを一つ、子供たちに笑いかけた。


 さてさて――。

 そうとなったら立つ鳥跡を濁さず。身辺整理をしておかないといけない。まずはイスにふんぞり返っているクソ社長とクソお局様に向き直る。自信満々にチラシを配り終えると宣言した私を眺めて二人は不思議そうな顔で首を傾げいてる。


「身元が確かじゃない私を雇ってくださったこと、住むところを用意してくださったことには感謝しています」


 と、言いながら自分の席の足元にいつ、何があってもいいようにと用意しておいた〝緊急脱出用とりあえずこれだけ持っていけば生き延びられるセット〟入りトランクを引きずり出す。

 それから――。


「でも、部下の報連相を完全無視した挙句、全責任をなすりつけるのは控え目に言ってクソです。会社のトップとしてとか先輩としてとか以前にヒトとしてクソ。あと子供を泣かす大人もクソ。なので……」


 理不尽なことを言われたりされたりする度に書いては溜め、書いては溜めを繰り返して大量の退職届が入った段ボール箱を取り出すと――。


「今までクッッッソお世話になりましたーーー!!!」


「ぎゃーーーーー!!!」


「きゃーーーーー!!!」


「よっし、行くぞ、ぴーちゃん!」


「ぴーーー!」


 段ボール箱ごとイスにふんぞり返っているクソ社長とその横に立つクソお局様に向かって投げつけてダッシュで表に出た。

 一応、自分で言っておく。

 いくら前世がしがない会社員だったとは言え、乙女ゲーのメインヒロインで元とは言え聖女のタマゴだった人間がやることじゃないワー。


「わー、紙吹雪ー!」


「紙吹雪、きれいー!」


 まあ、でも――子供たちが笑顔になったみたいだからヨシ!


 なんて言い訳しつつ、私は表へと飛び出した。肩にちょこんと乗っていたぴーちゃんが白くて小さな羽を広げて青空に舞い上がる。


「それじゃあ、ぴーちゃん……お願い!」


「ぴーーー!」


 元気いっぱいにひと鳴き。ぐぐぐいーーーっと伸びをしたぴーちゃんはあっという間に二階建ての一軒家並みの大きさになった。フォルムはまるっとシマエナガ的なまま、だ。


「わっ、大きい!」


「ねえ、神父様。こんなに大きな鳥さんって、もしかして……」


「みんなー、チラシは私がちゃーんと配ってくるから安心してね!」


 事務所の窓から顔を出して巨大ぴーちゃんを見上げる子供たちが核心に迫る前に大急ぎでこの場を離脱しなければ!

 巨大ぴーちゃんの背中に大慌てで飛び乗った私は――。


「よーし、行くぞ! ぴーちゃん……!」


「待ってください!」


「って、うぎゃーーー!」


 事務所の窓から身を乗り出した神父様に腕をつかまれて悲鳴をあげ――。


「あなたが神鳥の聖女様だったのですね! 私の運命――!」


「いや、聖女とかちょっと何、言ってんのかわかんない……って、あーーー! そのセリフーーー!」


 神父様の正体に気が付いて、さらに悲鳴をあげ――。


「ぴっ!? ぴぎゃーーー!!!」


 巨大ぴーちゃんはと言えば怒りのひと鳴きを響かせたのだった。

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