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第1羽
この世界はいつだって理不尽にあふれている。
「さあ、聖女のタマゴたちよ。好きなタマゴを選びなさい。そのタマゴが孵り、神鳥へと育て上げた者こそが真の聖女となるのです」
優しそうなおじいちゃん神官さんの言葉を聞いた瞬間、すべてを思い出した。
前世ではしがない会社員だったこと。
この世界が高校時代にドハマりした乙女ゲー『神鳥の聖女 ~あなたと育てる恋のタマゴ~』――略してトリタマの世界であること。
私、パトリシア・ハリスがトリタマのメインヒロインであること。
そして、何より――。
「…………」
私が選んだこのタマゴの行く末。
「パトリシア様が……聖女候補様が行方不明です! 神鳥のタマゴとともに!」
すべてを思い出した私はその日の晩、とりあえずトリタマの舞台となる全寮制の学園を抜け出し、行方をくらませた。
このままではいずれ訪れるだろう、絶望的な瞬間を回避するために。