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くいかえし  作者: Kot
バーベナと孤独
95/101

4−17 血の土地


体に赤い一線が浮かび上がる。

白いローブ事切られ、倒れた体から漏れ出た血が地面に染み込んで行く。


痛む体で見上げた先には、黒髪と憎たらしい藍色の目。

魔女のくせに、この女は長い剣を持ちそれに幾つ物の文言と陣を描いている。

その奇妙な剣が私を切った。冷徹で冷淡な何の感情もない顔は、淡々と私を糾弾して。


あぁどうして……私はただ……ただ彼の方の側に……お供したいだけなのに……


…………憎い藍色目は、倒れた私を見下ろして冷たい声を発した。



…………………………

………………

…………



西の街タイバンは、古代より魔女の処刑場と言われている。

故にその土地には、魔女の血が染み付きその土地の魔力を歪める。魔獣の派生率が高いのもそれが原因と言われており、それなりに魔力量を持つ王都から来た人々は皆、軽度の魔力酔に似た違和感が西に向かうに連れて現れ始めるらしい。しかしタイバンに馬車で着く頃、あるいは転移術を使う者でもある程度行き来すれば慣れてくるらしい。


故にその魔力の歪みは、その地に生まれ育ったリーブルだからこそ気づけなかったのだろう。


足元から次々と現れる剣山、防御壁壁と風魔術師でそれらを防ぎかわし破壊する。

依然として無傷のリーブルだが、その様子は逆転し、リーブルが魔女を攻撃する為の魔術が届かない状態になっている。

それは足元から魔女を翻弄していた魔術が、現在は魔力を占拠された状態にあるのだとリーブルは推測する。


ならば風魔術、蜃気楼のようにゆらめく弾丸を隙を見ては魔女に放つ、しかし連射をする暇わなく、

魔女に届いても、容易く防がれてしまう。

それなら水、いや雷ならどうか。


魔術陣を方々に浮かび上がらせ魔女を的に直撃するが、土の壁が魔女を囲いそれを防ぐ。


リーブルは、土で自身を覆い身を守った魔女を見て再び足元から魔力を伝せ、魔女が自身が作り上げた土の盾に剣山を出現させて魔女を串刺しにしようとした。


しかしリーブルの魔力は途中で隔たれ、大地を操る権利を得ることができなかった。


魔力の攻防戦、互いに傷一つつけることができない戦いに、隙が生まれてしまったのはリーブルの方だった。


血が舞い散る。


リーブルの血だ。


「あははは、だいぶ体が鈍くなって来たようね!」

魔女は恍惚に笑い右耳を失った男を頭上から笑う。


元来人を浮かせる効力はない空風魔術で重量を軽減しているのか、その女の体は初めから身軽だったが、今はどこからか魔力を得たのか、その効力を引き上げている。


リーブルは回復魔術を使用し、右耳の止血をするが失った物は元には戻らない。


全身に圧迫感を覚える、周囲の魔力がリーブルを狙っている。


足元から這い上がる魔力は総会本部、リーブルが戦っている敷地内に充満しておりリーブルの赤く光る視界を悪くさせた。


そして体に現れた、異変……一度だけ、幼い頃に味わった感覚は、思い出すのに時間を要した。


魔力酔だ……


リーブル自身、こんな初心者まがいな現象がこの歳で現れるとは想像していなかった。

しかし体は正直で、周囲に立ち込める魔力にリーブルの体は拒否反応を起こしている。


そしてそれはかなり重く。体から迫り上がるような吐き気を感じた。


「本当におかしい、赤眼を持って生まれた人間が()()()()()だけで、こんなにも力の差があるのね」


魔女はクスクスと笑い、リーブルを見下ろす。その体から流れ出ていた血は止まり、えぐれた肉は塞がっている。


「準備していたといえ、拍子抜けだわ、やはり魂が離脱しているのね、アシヌスは未練なんて無いでしょうし……」


両手で杖を横に持ち、この世で恐れら、最も身分のあった者達が暮らしていた場所を見つめる。この場所を囲う放物線を描く柱意外、その様相は変わっており、かつては一つの大きな塔だった場所には学園が、広い闘技場には、小さな細長い塔が幾つも建てられている。


「はぁー、時間の流れは残酷ね」


ため息を吐く魔女に氷の刃が襲いかかるが、魔女は杖を一振りして容易くそれを砕いた。


「ねぇ、アシヌス様……」

息が荒く、地面に手を付き冷や汗を流すリーブル。その目は魔女を睨んでいる。

「時間が経つに連れて、侵食は進む…今のあなたのようね」


魔女は語る、その姿は隙だらけだが、リーブルは魔術を放つ素ぶりをしない。


「この()は廃れてしまった。外からの魔術も使えない人間なんて敵ではなかったのに……内戦だの、反乱だのくだらない事で分たれて……」


魔女は柱の向こうを見る。街を守る外壁は昔はもっと高く、かつて聳え立った白い塔の最上階に登らなければ外の光景は見えなかった。


「挙句の果てに、その高貴な血に混じり物まで……その結果、片目しか赤眼を持ち合わせない者が、土地を管理している」


………………本当に嘆かわしい


「アシヌスではなく、デイラス様が治めていれば、何故私にその身を!全てを任せてくれなかったのか!」


突然ヒステリックに叫ぶ魔女、周囲の魔力は濃く、水が蒸発するかのように黒い霧が地中から漏れ出ている。


「挙句の果てにあの女!あの女なんかを側に置いて!名を呼んで!そして……」

魔女は腹部を押さえた、傷はすっかり塞がり、リーブルの攻撃をあれから一度も受けていないのに、魔女の表情は苦痛に歪んでいる。


「全て邪魔された!せっかく用意したのに、私がどれだけ身を売り精神を擦り減らしたか!なのにあの女!まるで私を!」


頭を抱え、叫ぶ女に黒い霧が集まる。暗い霧が魔女を覆い赤眼を通して見れば魔女の姿は見ることが出来ない。


「…………まぁ、今嘆いたところでどうにもならないわよね、過ぎてしまった事だし」

スッと手の力を抜き、だらりと両手を下ろした魔女は、突然人格が変わったかのように、そう言った。


「この場所も取り返したかったけれども、準備不足だわ、まさかあんなに簡単に倒されてしまうなんて……」


魔女は踵を返し、横たわるリーブルの側に降り立つ。

呼吸の荒い男は、重度の魔力酔により、その症状は深刻だ。まるで毒を盛られた様子で倒れ伏し、今にも事切れそうな姿をしている。


息をしているのは、彼の魔力量の多さが過重に襲いかかる魔力の侵食をくいとめているのだろう。

しかし、そんなギリギリの瀬戸際で生きていようと、体の自由が聞かぬ男は魔女にとっては扱いやすい。

これ以上の戦いを避け、せっかく最小限の傷で回収できるのだから。


「耳を失ったのは、悲しいけれど顔は無事で良かったは、傷がついたらグランが可哀想だもの」

憎しみを生む名前を口にして、魔女は手を伸ばした。


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