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くいかえし  作者: Kot
バーベナと孤独
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4−16 因縁が呼ぶ

スタンピード、魔獣が一つの場所を目指して進行する現象は、自然界でごくたまに稀に見る光景だ。

大気中の魔力の流れが原因とされる現象だが、しかしその考察は憶測を出ない物だ。


魔力は常に流れ、巡回を繰り返す、大気中の流れが主な原因ならば、スタンピードの現象は実際はかなりの頻度で起きる事になるだろう。


故に魔術界の有権者は、その現象は人為的な物では無いかと内心思考する者もいる。

だがそれらは思考の段階で議論に出されることはない。人為的な物だとして誰が、何の為に、がまず浮かび上がるのだ。現状事件として扱われない物に対して、いるかもわからない犯人探しは困難だ。

()()()()魔獣の脅威はこの世界ではそう位置付けられ続ける。


今この時までは……


いくつもの黒い手足がタイバン街に向かって伸びている。

通常の魔獣よりも巨体な体は個体によってはおかしな比率になり、肥大した頭を引きずりながら進む魔獣もいる。


呼ばれている……


他の何も見向きもせず、ただ赤い目をまっすぐこちらに向ける姿にそう感じる物は少なくないだろう。


魔術の知識の浅い冒険者の頭にもそう浮かんだ。


一人の冒険者が後方に手を振り合図を送る。

異様な光景、普段は恐れ逃げ出すような光景に冒険者達は冷静に行動していた。

まるで初めからこうなると知っていたかのようだ。


いや、そのために街を囲う高い外壁から出て、その身を武装している。

紛れもない任務は、金銭のやり取りと、街に住む家族を守る為の物だ。

街を囲う外壁には、幾つ物魔術語と陣が描かれている。その文言は街の魔力の流れを正常かし、その地に住まう人々の身分と安定を約束する。


故に守らなければならない。その魔術語に多量の血が付着すれば、途端に崩れ安全は奪われてしまう。


ギルド長のサイモスは常々、いやほんのたまにだが、その守る行為になんとなく疑問を浮かべる事がある。人々を守る魔術を守る。文字にすればおかしな行為だ。しかし誰かがやらねばならないそれに疑問を浮かべることは滑稽、騎士団でそんなことを呑気に言ったならば、集団を相手に訓練が始まるだろう。


用意された安全な場所を出て、武器を持つと言う事に、剣を持つという事に余計な思考はいらない。

特にサイモスの戦闘経験意外を用いた思考や考察は、自他共に認める無価値なものだ。


合図を受けて、足を進める。


眼前に、人一人の姿は無く、黒い魔獣がいるだけで、開けた草原にその姿はわかりやすい的だ。


サイモスは、使い慣れた剣を鞘から引き抜いた。

 

⚡︎


雷鳴が背後で鳴り響いた。


総会本部を囲う防御壁、そのさらに向こうにある、街を守る外壁の向こうに魔女は目を見張り振り向いた。


魔獣の気配が消えたのだ、

何百体この日のために作り上げた魔獣。


それらが放つ黒く美しい魔力が、雷鳴と共に消えてしまった。




「この街のギルドの組織力は高くてね、私から見ても、騎士団のようだと思っているよ」

よそ見をする魔女にリーブルは笑みを浮かべ、いくつもの氷の刃を放つ。

魔女は防御壁で防ぐが、範囲が間に合わずに、一つが頬を掠め血が流れた。



「顔にばかり傷をつけるなんて、女性の扱いが慣れていないようね」

「君はメスの豚に気遣いを示すのかい?」


リーブルの周りに魔術陣が現れる、幾つもの魔術語はアシヌスしか使用しない文言だ。


ズンと魔女の体が重くなる、まるで長時間魔力行使をした後の疲労の感覚にギっとリーブルを睨む。


片目を淡く輝かせるその男からは、殺意と魔力の変動を感じ無い、ゆったりとした流れの渦は、魔女の判断を鈍らせる。


戦いずらい。そして何より、自身が食らった魔術は元来の半分以下の物であろうはずなのに。疲労感に震える手に額から冷や汗が流れた。


「魔力を抜きとったわね」

「僅かながら、使わせてもらうよ」


内側から魔力の熱が這い上がってくる感覚に魔女は咄嗟に体内の魔力循環を高めた。


(体内の一部の魔力の権利を奪って暴発させようとした!)



恐ろしい魔術、アシヌスが使う魔術は古代から変わらない、故に魔力は()()()()()のだが、根本の性質を理解しているわけでわんない。


「だけど、威力は半分以下と言うところかしら片目だけだと、あなた自身の魔力量も劣っているのではなくて」


誰と比べているのかなど、生きる次元の違う者に聞く通りはない。

黙るリーブルに魔女は笑み、そして杖先を向け循環していた魔力の流れを集中した。


「ッ!」

リーブルに魔術攻撃を、そのはずだった、魔女の体は自身が思っていた物とは違い、杖先から放たれるはずだった炎の弾丸は、魔女の口内を焼いた。


(なんで!権利を奪われた一部を吸収し直したのに!)


口から黒い煙が漏れ出てその光景は痛々しい、驚愕に目を見開き、人間の人体同様の体は生理反応で咳込み、涙と唾液を溢れさせた。


「……辛そうだね」

リーブルは頭上に手を上げ、それを振り下ろす。天から地へ、いつのまにか魔女の頭上に現れた氷の刃はその動きに合わせ、振り下された。


魔女の首から下を貫いた衝撃は、魔女を倒れ伏し、地面に赤い水を広がらせた。


「うぅっぅ」

痛みに唸り声を上げた魔女にリーブルは静かに近づく、その顔には同じ笑みを浮かべており、魔女は黒い目を動かして、その姿を写した。


傷一つつける事ができない男。自身を見下ろすの目が赤く、広い肩幅を持つその影で魔女は良かったと思った。


……でなければ、魔女は今理性を忘れてしまっただろう。


防御壁が破壊された音が響く。

足元から突然現れたのは、土魔術でできた剣山。

リーブルが防御壁と同時に咄嗟に背後に避けていなければ、串刺しになっていただろう。


「ふふふ」


魔女が笑っている、先ほどまで魔女自身を翻弄した魔術でリーブルを攻撃したからだろうか。だが深傷を負いその血を地面に滴らせる魔女とリーブルの戦況は圧倒的にリーブルにある、それ故にリーブルは魔女が笑っている理由がわからなかった。


「やっと、気味の悪い笑みが消えた。ねぇ気づいているんでしょ?」


ゆっくりと杖を支えに起き上がる魔女にそう言われ、リーブルは自身の顔から笑みが消えている事に気づく。

そして魔女の発言で、僅かに頭に浮かんだ現状が事実である事にも。


「私が準備したのが、魔獣だけだとは思っていないでしょう、初めから」

魔女の体に回復魔術の陣が浮かび上がり、その傷を塞いで行く。

顔の僅かな切り傷ならすぐに消える物だが、体内の火傷や首元の穴は死に直結する物だ。


しかし魔女はその体で言葉を発し、人間の人体では成り立たない現象をリーブルに見せた。


「私は…………千年も前から準備していたのよ」


歪んだ笑み、その顔に見合わず声は怒りを含んでいる。


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