4ー8 血の雨が降る街
人の波をかき分けアルメは進むがその表情は険しくなる。
(完全に見失った!)
ローブ姿の男はそれなりに目につくため、見失なわないと思っていたが。
北部では、丈の長いコート姿の人が多い。その上……
(足早!)
一度目に逃げられた時も思っていたが、足が速い男だ。こちらは重しを置いて走っているにも関わらず。山育ちのアルメは追いつく事ができなかった。
(このまま探してもらちがあかない。一旦戻って…あー!あいつを引っ張り出さないと!)
目先の問題も思い出したアルメ、一度リベルテ達とも合流したい……来た道を戻るため振り返った。
「イテッ!っすみませぇ」
急の振り返ったため誰かにぶつかってしまっい、謝罪を口にしたが、見上げた先には赤い瞳があった。
「お前、出れたのか?なんだ、自力で出れたんじゃ無いか!」
そもそもリベルテに負けず劣らず転移乱用者だ。それもかなりの近距離使用する彼にさてはわざと、挟まった振りでもしたのかと、アルメは目をすがめた。
「はーまぁいいやぁ、今は二人と合流しよう」
リベルテ達がどこにいるかわからないが、二人は魔術師だ。わかりやすい場所にいれば、向こうから見つけくれるだろうと思い、アルメは男の横を通り抜け、一度荷物を回収しに先程の通りに戻ろうとした。
しかし、そんな彼は白い腕を伸ばしてアルメを止めた。
「どうした?二人がいたか?」
男はアルメを見ていた赤眼を魔獣へと向ける。
「魔獣…そうだな、放って置けないけど、防御壁はそう簡単に破れない見たいだお前もさっきの見ただろう?」
男を追っていた時、一度魔獣の咆哮と共に放たれた攻撃魔術を目にした時アルメは息をを止めたが、暗い空に現れたのは、幾つもの魔術語の羅列だった。
「この街は大きいし、それに騎士団もいる……」
旋回し、こちらを見下ろす魔獣に不安を感じるが、この街にはこの街の戦い方があるだろう。一介の冒険者があまりでしゃばるのも気が引けた上に、この魔獣が突然現れたことも気になる、一度リベルテ達と合流したかったのだが……
男は構わず、指先で自分の意思を告げた。
「は?……口?まさか……」
白い指先が示すのは彼の口、少し開いた自分の口元を示す。その意味をアルメはこれまでの彼の行動から、脳が勝手に答えを導き出した。
「食べる気か?」
無言の男、しかし僅かに首を傾ける仕草はまるで……
「何、疑問に思ってるんだ……この状況で」
呆れてしまう、そういえば似た様な事があったと思い出し。アルメは肩の力を抜いた。
本人がやる気ならもう止まる事はないだろう。
アルメの内心を悟ったのか。それともただ自分の赴くままの行動をしたのか。アルメの返答を待たずに男は目の前から姿を消した。
「あいつが転移した瞬間、初めて見たかもしれない」
アルメは唖然と消えた先を見ていると。突然街の空中に魔術陣が現れた。
渦を巻きながら塊を作り球体状のそれが形作られる。そして一拍おかず、一弾、一弾と魔獣に向け放れ、衝撃を街全体に伝えた。
北部唯一の街が持つ防衛を見てアルメは目を見開いた。
(多分、リベルテがよく使う魔術と同じ)
上空の向こう、空を飛べる魔獣を狩るには、拘束魔術で地面に縛りつけるか。制度の高い風魔術で撃ち抜くか。
かつてリベルテが鳥型の魔獣を仕留めた時、アルメに見せた風魔術で作った弾丸を思い出す。
しかし、そのどれも、街の上空に現れた大型の魔獣を相手にするのは、場所も魔術も部が悪かった。
街の上空では引きずり下ろす事はできないし。そして何より……
(きいてない?)
アルメは吹き荒れる風から身を庇いながら、魔獣を見上げた。
街が放った弾丸により霧散した風が雪を舞い上がらせ、空の視界を悪くしたが、黒い翼が開かれると同時に再び暗闇に遮られた。
体がデカいだけじゃない。アルメがそれをわかったとて何ができるわけでは無いが。
白髪の男が何処に転移したのか気になる。まさか頭上の防御壁の向こうに転移したのでは無いだろうか。
(吹き飛ばされたりしていないよな)
寒いのに背中に汗が流れたのは、魔獣が再び攻撃の体制をとったからだろう。
「ギャャャァァァ!!!!」
耳を破く音が街に響く。魔獣の咆哮と共に、先程街を襲った深い紫色の光が降りそそごうとしていた。
しかし、防御壁に直撃したのは、魔獣の体そのものだった。
何が起こったのか、誰にもわからなかった。
だが無駄に増えた後頭部に開いた赤い目は、紫色の防御壁越しに、その白い髪を靡かせる男の赤い瞳と視線が重なった。
伸ばした手のひらの先にいる黒い塊は翼を羽ばたかせようとする。
魔獣の本能に従ってか、すり減るこの身の魔力が、ここにいてはいけないと抗わせている。
終わらない攻撃が魔獣の魔力と、そしてやっと得た自由を奪う。
捕食される、全ての生物が恐れるそれが、多量の魔力を得たこの体にも訪れ様としている……
何かがひび割れる音がする、頭上から聞こえた音は……この身の終わりを刻々と告げた。
余計に増えた、赤い目は否応なくそれを映す。
アルメは目を見開いた。
頭上にある街を守る防御壁、細かな魔術語と陣によって構成されたそれが今…………
魔獣の血で汚され、空を赤く染めた。
(これ……やばくないか、確か……)
過度な血液は魔術陣に誤作動を起こさせる。
特にこの魔獣の魔力は多い……血は行き場を求めて広がり……そして
「やぁぁぁ!」
「血だ!」
「街の、街の防御壁が!」
消えた……魔獣の体と共に、血の雨が降り街の中央を赤く染めた。
「あいつが、やったんだよな……」
押しつぶられた魔獣の様子から、魔獣の頭上に転移したのだろう。
早々に無惨に魔獣を狩った男、帰って来たかアルメは背後、そして周囲を見渡すが、その姿はない。
騎士団や他の冒険者に姿を見られたら騒ぎになるだろう、リベルテやオネットと身の振り方を相談したい。アルメは彼が何処にいるのか探し、再び上空を見た時、一本の半透明な鎖が天へと伸びていた。
アルメがまさかと思い目を凝らしその先を追うと、胴に鎖が巻き付いた白髪の男がいた。
彼はそのまま鎖に引っ張られ街に落ち、街の一角に姿を消した。
「リベルテか!」
呆れか、それとも怒りか、どちらにせよリベルテの小言が待ち受けいるであろうそこに、アルメは駆け出し……「うわぁ!どうすんだこれ!」
駆け出したは良いが…魔獣の血から逃れた服は……道に流れ出した血を勢い良く踏み、盛大にシミを作ってしまった。




